こうした心の傾向を持つ人を、スピーチライターの蔭山洋介さんは「気弱さん」と表現しています。「繊細さん」とも呼ばれることの多い“HSP”と似ているようですが、両者には違いがあり、「気弱さん」を克服するためには別の取り組みが必要とのこと。
今回は『「気弱な人」の失敗しない話し方』(WAVE出版)から、「気弱さん」が自分を守るためのコミュニケーションのコツをご紹介します。
常に「相手を優先してしまう」のが「気弱さん」の問題
これまで3,000人以上を指導したプロのスピーチライターであり、経営者や政治家のスピーチ原稿を数多く手がけてきた著者。「気弱さん」に注目するようになったのは、「あがり症」を克服するためのスピーチトレーニングがきっかけでした。
意外に思われるかもしれませんが、あがり症を治すことはそれほど難しいことではありません。(中略)ところが、スピーチトレーニングだけであがり症を克服することが難しい人たちがその頃から増えてきました。それが気弱さんでした。気弱さんは人前で話すことが問題なのではなくて、人とのコミュニケーション全般で相手を優先してしまうことが問題です。
(『「気弱な人」の失敗しない話し方』4ページより引用)
「気弱さん」は自分の意見を人に伝えることが大の苦手。それは、「自分の考えたことなんて、どうせ大したことない」と思ってしまい、自分の意見をなかったことにしてしまうからです。
問題の根本にあるのは、自分に自信が持てないことだと著者はいいます。結果的に言いたいことが言えず、断りたいことも断れず、生きづらさを抱えてしまうのです。
意思を伝えたいときは「数字」を使う
「気弱さん」がコミュニケーションにおいてとくに苦手なのは、「提案を断ること」と「提案すること」。本書には、それらを解決するための具体的な方法や考え方が詳しく紹介されています。
著者によると、「相手の感情を理解しづらい人、気がつきにくい人(空気を読まない人)」は、「気弱さん」にとって対応が難しいタイプのひとつです。「気弱さん」は「建前はイエス、本音はノー」というコミュニケーションを取りがちですが、こうした人たちにはすべてイエスと伝わってしまうからです。
そこで著者が提案するのが、会話に「数字」を使うこと。こうすると「気弱さん」特有の心理的負担が大幅に軽減するのだとか。
基本的に、頼みたいことがあるときは、常に数字を使うようにしましょう。「22時には帰りたい」「午前11時までには書類がほしい」「400字の原稿がほしい」など、すべて数字を使って、コミュニケーションをしてみてください。
(『「気弱な人」の失敗しない話し方』56ページより引用)
ポイントは、できるだけ早いタイミングで「数字」を伝えることです。
例えば仕事帰りに食事をすることになったけれど、早めに帰りたい……という場合。その場の「空気」ができあがる前、可能なら座ってすぐくらいのタイミングで、「22時には出るね」といった意思を伝えておきます。相手の話が盛り上がるほど、「気弱さん」は本音を言えなくなるからです。
みんな、自信がある「フリ」をしているだけ
はじまりの季節に、自己紹介などで人前に立たなければいけないのは、「気弱さん」をとりわけ憂うつにさせる場面です。
「気弱さん」は、正解がわからなかったり、そもそも正解がない問題に直面したりすると、自信をなくしてしまいがち。同じ課題を自信たっぷりにこなしている人を見ると、余計に落ち込んでしまいます。
しかし著者に言わせると、「自信はあるフリで良い」のだとか。
私は、一般的には成功者と呼ばれるような日本のリーダーたちのスピーチを書いています。そんな人たちと接する中でわかることは、どんなに外からは立派に見える人であっても、日々悩み、苦悩し、これで本当にいいのか、こんなことを話して大丈夫かと、不安でいっぱいの中でスピーチをしているということです。自信に溢れて見えるリーダーたちでさえ、実は自信を持って話せていないのです。
(『「気弱な人」の失敗しない話し方』79ページより引用)
自信たっぷりに見える「あの人」も、不安になりながら仮説を立てて、一生懸命その道を信じて走っているだけだと著者はいいます。だから「完璧なアイデアが出せない」と悲観的になる必要はなく、自信をなくす必要もないのだ、と。
「気弱な人」の立場からコミュニケーションを考えるというのは、話し方に悩む多くの人と接してきた著者ならではの視点。「言いたいことが言えない」と感じている多くの人に、ぜひ手に取ってほしい一冊です。
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