美魔女に対する“通り魔的”コメントの数々
昨年12月に開催された第10回「国民的美魔女コンテスト」でグランプリを獲得したのは、出場者中「最高齢」の52歳の女性でした。しかも更年期障害と介護を経ての受賞だったため、賞賛と共感のコメントが多いだろうと思いきや、ヤフーニュース(2019年12月6日。配信元はオリコンニュース)に寄せられたコメントには、批判的なものが目立ちました。
その内容は多種多様で、「なんで美魔女なん?? 嫌いや。嫌なタイトル」「そもそも美魔女っていう言葉が嫌い。全く意味がわからない」といった「美魔女」という用語に対する批判から、「普通に52歳」「頑張って努力して厚い化粧してこの程度でしょ」「美婆女」といった、ひと言でバッサリと斬り捨てる、まるで通り魔のようなコメントもありました。
更年期や、介護なんて何のウリにもならない。皆やっていること。介護ったって、自分でみたわけでもなく、自分に散々投資しての作り物の結果でしょ。そこが浅いのがバレてる。美魔女なんてもう古くて、ダサい。まだこんな企画やってんのかとびっくりしたわ。
これなどは、憶測まじりでほとんど八つ当たりです。いったい、なぜこれほどまでに感情的なコメントが寄せられたのでしょうか。前々回、「劣化」について書いた際、「美しさを磨こうとする人が、嫉妬心を持つ人にアラ探しされてしまうんでしょうね」 (※1) という能町みね子さんの意見を紹介しましたが、これは美魔女に対しても当てはまりそうです。
それぞれの美魔女論
“こういう女性が美しい”あるいは“称えられるべき”というコメントをした人たちもいました。
俺の母親は山梨の桃農家で、日焼けしてて、真夏には汗ダラダラ流しながら頬に土付けたまま働いている。人として十分美しい。
金と時間のあるBBAにこの賞あげてなんの意味がある? だったら普段せっせと子育てや家事やってるお母さんも褒められるべきでは。
「美魔女」という価値観は、日焼けして頬に土つけて働いている人や「せっせと子育てや家事やってるお母さん」を否定するものではないと思います。
「意味」については言うまでもありませんが、コンテストの背後には巨大な美容マーケット(美容産業)が控えており、「若さ」や「美しさ」を追求したい女性たちに向けた“宣伝”という面が大きいでしょう。そういうことに関心のある人たちが、エンターテインメントとしてコンテストを楽しめばよいのではないでしょうか。
「年相応」という同調圧力
私の60代の母は、夢は田舎にいるような可愛らしいおばあちゃん!だそうです。おばあちゃん服が似合う優しいおばあちゃんになりたいなーと言ってます。
こうしたコメントからは、「年相応」を良しとする価値観が読み取れます。もっと露骨に、「年相応」でない美魔女を批判するコメントもありました。
「年齢を重ねたなら、つつましくなってほしい」「せめて40まで。それ以上は悲しくなるだけ」「老いたくないという妄執に囚われすぎな人って感じがする」などなど。ここには、「年相応」という同調圧力が感じられます。
また、「魔女」という言葉の響きもアンチコメントを誘引しているのかもしれません。「美魔女」という言葉は、「魔法を使っているとしか思えない」 (※2) ほど美しいというところからきているので、悪い意味合いはありません。
しかし、いくつになっても若さや美しさを追い求めるという点で、『白雪姫』の「魔女」を連想してしまう人もいるでしょう。若く美しい白雪姫に嫉妬し殺そうとする魔女は、世界が認める悪役なので、イメージはよくありません。
とはいえ、アスリートのように美を追求する美魔女は、寝たまま王子が通りかかるのを待つ受け身の白雪姫とは対照的な存在なので、「姫」に対する「魔女」というネーミングは実はぴったりなのです。
※1 「能町みね子氏と辛酸なめ子氏『劣化』と『奇跡』の意味語る」『NEWポストセブン』2015年10月20日配信
※2 『朝日新聞』2011年10月25日朝刊
おばさんて誰のこと?
田中ひかる(たなか・ひかる)さん
歴史社会学者。1970年、東京都生まれ。女性に関するテーマを中心に、執筆・講演活動を行っている。近著『明治を生きた男装の女医―高橋瑞物語』(中央公論新社)ほか、『「オバサン」はなぜ嫌われるか』(集英社新書)、『生理用品の社会史』(角川ソフィア文庫)など著書多数。公式サイト
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美魔女を批判するのは嫉妬ということにしたい