前回は、2019年11月に東京・神宮外苑に常設オープンした「ダイアログ・イン・ザ・ダーク:内なる美、ととのう暗闇」に出向き、暗闇の中で自然に瞑想状態が味わえる体験をレポート。今回は、ダイアログ・イン・ザ・ダークの魅力と気づきにせまります。

考えすぎの心をスッキリ解き放つ。「豊かな暗闇」でととのうのはなぜ?

ある朝、突然見えなくなっていた

何も見えない「純度100%」の暗闇は、ダイアログ・イン・ザ・ダークの体験者がみな最初に感じる不安なシチュエーション。それを一気に豊かな体験に変えてくれるのは、視覚障がい者のアテンドスタッフによる力です。

暗闇でオロオロする参加者を絶妙にファシリテートしてくれたのは、神宮外苑の運営セクションのチーフアテンド、石井健介(ニックネーム:イシイシ)さん。終始明るい石井さんですが、視覚を失ったのはつい4年前、しかもある朝起きて突然見えなくなっていたと聞いて、衝撃を受けました。

石井さん :

2016年の4月、朝起きたら突然見えなくなっていたんです。その前々日の打ち合わせ中、喫茶店のメニューの一部が白く抜けて見えた、それが金曜日。土曜日に眼科で検査して、異常なしと言われて帰って来て、日曜日に起きたら見えなかったんです。朝はぼんやり滲んで見えてたんですが、夜には真っ暗になっていた。

診断名は、多発性硬化症という難病。いわゆる自己免疫疾患で免疫機能が暴走して、視神経に炎症がおきてしまったという。今はぼんやり光が見え、何となく人がいる形が分かる状態には回復したそう。

「とにかくパニック状態で、最初は死ぬことしか考えていませんでした」と石井さん。娘さんが一人と息子さんも生まれたばかり。子どもたちの顔がもう見られないと絶望したといいます。

石井さんは2011年頃からクラニオセイクラル(頭蓋仙骨療法)やガイド瞑想のセラピストとして活動。瞑想の経験はあったものの、当時は気が動転し「今にとどまる」ことなど、全くできなかったと言います。それをどんなプロセスで乗り越えていったのでしょうか?

絶望に寄り添い、自分に共感し続ける

石井さん :

まず、感情を出し切る作業をしました。だから毎朝泣いてましたよ。夢はカラーではっきりと見えるのに、目が覚めると真っ暗、光もないという絶望が待っている。毎朝同じことが起こって、そのつど感情を出し切りました。

自分自身に共感することが大切なんです。「泣いてちゃダメ、前を向かなきゃ、ポジティブに考えなきゃ」って感情を無理に押し込めてしまうと、それが心の中で迷路に迷い込んで、トラウマになってしまうのです。

気持ちが落ち着く日も出てきた頃、石井さんは見えなくなる前に体験したダイアログ・イン・ザ・ダークのことを思い出したと言います。そして徐々に手探りで、病室のものに触れたり、歩くようになりました。

石井さん :

暗闇の中でも、“ああ、ここにこれがある、あれがあるな”と確認することで自分を取り戻していったんです。それからずっと病室の中で瞑想していました。

心と深く向き合う中、石井さんは自分が何を一番大切にしてきたかを考えたといいます。それは、家族を含めて自分のまわりにいてくれる人たちでした。彼らが幸せでいると自分も幸福になれる、逆に自分がくよくよしているとまわりも笑顔になれない。笑顔が何よりも大切だと気づいたとき、人生を楽しもうという前向きな気持ちが生まれてきたそうです。

暗闇は心を落ち着けるのに絶好の場所

その後、積極的に外に出るようになり活動も開始。縁があってダイアログ・イン・ザ・ダークの総合プロデューサー・志村季世恵さんとの出会いに繋がり、現在のアテンドの仕事に就くことになったそうです。

石井さん :

視覚を失ってから、これまでマインドフルネスや瞑想でやってきたこと全てが腑に落ちたんです。みなさんも暗闇で何も見えなくなると、他のことを考えられなくなりますよね? 暗闇になった瞬間、「今ここ」にしか意識が集中できない状況になるんです。

たとえば、明るいところでは集中するまでに30分かかるマインドフルネスのワークが、暗闇だと一瞬にして入っていけるといいます。

石井さん :

たとえ「怒り」を感じても、一瞬で終わるようになりました。逆に、「うれしい、楽しい」もそこで感じきっておしまい。

また、見えているときには時間に支配されていたことが、身体の感覚として捉えられるようになります。時間にしばられず、食べたいときに食べて、眠りたいときに眠り、起きたいときに起きる。赤ちゃんってそうですよね。その経験を経て、物事の捉え方が変わりました。

どこでもできる! マインドフルネス2つの練習

石井さんに、マインドフルネスを感じるための簡単なエクササイズを教えてもらいました。

1. 全身を耳にして音を感じるエクササイズ

カフェや電車の中など、どこでもいいのですが、目を軽く閉じて、全身を耳にして音を感じます。一番遠くから聞こえてくる音、近くから聞こえて来る音を耳で拾って、ただ感じていきます。思考ではなく、湧き上がってくる感情が身体のどこで感じるかを観察してください。

2. 水を身体の内側で感じるエクササイズ

水を飲む際、「飲む」のではなく身体の内側へ「注ぐ」。目を閉じて少ない量の水を口に含み、それが広がっていくことを感じてから喉へと流します。水が身体を通り、広がっていく様子を観察します。また、その水がどこから来ているのか、自然と自分の繋がりに想いを馳せてみましょう。

* * *

感覚に意識を向けて思考が先に行かない状態をつくることで、心が波立った状態が落ち着いていく、と石井さんは言います。

石井さん :

マインドフルじゃない状態は、波がすごく立っているんですよ。その波を抑えて穏やかになる方法を作る。僕は今もそれを日常的にやっていますが、とてもおすすめです。

 

音を聞く、水を飲むといったことなら、ちょっとしたスキマ時間に実践できそうです。1日のなかで少しだけ忙しい心を休めて、マインドフルネスのスイッチをオンにする習慣をつける。その小さな時間が心を整え、日常を豊かにし、さらには人生の大波が来ても乗り切る力を得ることができるのかもしれません。

小さなマインドフルネスにトライ

マインドフルネスはシンプルで奥深い。ダライ・ラマ法王の担当医が教えます

ダイアログ・イン・ザ・ダーク ]文・イラストレーション:若山ゆりこ

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