いよいよ人生初のマラソンに挑戦!――そんなとき、青山学院大学駅伝チームをはじめ、数々のアスリートのフィジカルトレーナーを務める中野ジェームズ修一さんがアドバイザーになってくれるとしたら、これほど頼もしいことはありません。
マイロハスではフルマラソン完走を視野にランニングを始めた方のために、中野さんによる「はじめてのラントレ」講座という夢の企画を実現。企画自体は「東京マラソン2020」までの3.5ヶ月の間にできる、フルマラソンを完走できる体をつくるための食事術や、走力アップのためのトレーニング方法を6回の連載でお届けしますが、ほかのレースでも十分に使えるメソッドですので、ぜひお試しください。
ランナーに「糖質抜き」はNG
image via shutterstockフィジカルトレーナーの第一人者である中野ジェームズ修一さんにうかがう「はじめてのラントレ」。第1回は、フルマラソンを完走できる体力を養う食事術がテーマです。
中野ジェームズ修一 :
マラソンとは持久力のスポーツです。長時間続くハードな拍動に耐える心臓と、持久性のある筋肉をつくるには、バランスのよい食生活が一番。逆に、糖質抜き、乳製品抜き、野菜しか食べない、粗食など、極端な食事はNGです。
中野さんいわく、初心者ランナーはダイエットから入りがち。
中野ジェームズ修一 :
「糖質ゼロ」など極端な節制は糖尿病学会も危険視しています。もちろん糖質過剰はよくありませんが、1食あたりお茶碗1杯のごはんは“普通”。スイーツも1日1回ならOKです。
スムージー&サラダ好きは要注意?
image via shutterstock健康志向の人がやりがちな「食の間違い」はほかにもあります。アスリートは健康チェックのために血液検査を行いますが、よくあるのが「野菜の食べ過ぎによる異常」だと中野さん。
中野ジェームズ修一 :
野菜に含まれる食物繊維の過剰摂取で、必要な栄養素まで排出してしまうんです。調べると便の量も異常になっていて、内臓に対して負担になっていることがわかります。
スムージーやサラダボウルなどで3食大量に野菜を摂っているような場合、食べ過ぎになる可能性があります。
タンパク質摂取のよくある誤解
image via shutterstock持久性のある筋肉をつくるためには、タンパク質の摂り方も大切です。
中野ジェームズ修一 :
ランナーの食事内容で気になるのは、走る量が増えているのにタンパク質が足りていないこと。
目安として、最低でも体重1kgに対し1gのタンパク質を、できるだけプロテインではなく食事から摂りましょう。手のひらサイズの魚・肉で約20gのタンパク質が取れるので、これを3回摂れば60gになります。
タンパク質の摂取に関しては、「運動後30分以内」ということもよく耳にします。しかし、30分にこだわる必要はないとのこと。
中野ジェームズ修一 :
最近の研究では、運動後、24時間以内に比較的高タンパクな食事をすれば充分とされています。
むしろポイントは、吸収率の高いアミノ酸スコア100のタンパク質を摂ること。肉、魚、乳製品のアミノ酸スコアは100で、大豆よりも高いです。牛乳コップ1杯、卵1個で約6gのタンパク質が摂れるので、足りないときはうまくプラスしてください。
もちろん大豆由来のタンパク質が悪いわけではなく、いろいろな種類のタンパク質を混ぜて摂ることで効果も高まると中野さん。年齢が上がるほどタンパク質は多めに摂らないと筋合成反応が高まらないため、積極的に食べてほしいと話します。
中野ジェームズ修一 :
ただし、プロテインやサプリでタンパク質を過剰摂取するのは禁物です。脂肪として蓄積されるだけでなく、代謝産物としてアンモニアが出るので、人によっては腎臓に負担がかかる場合もあります。
全ての人ではありませんが、血液検査で尿素窒素の値が非常に高くなることで気づくことができます。
トレーニングしていて、なんとなくだるい、疲れる……ということが続く場合は、もしかしたら練習のせいではなくタンパク質の摂りすぎかもしれません。
この世の中に過剰に摂ってもいい栄養素はない、と中野さん。ビタミンCも筋肉量の低下につながるため、安易に摂りすぎないようにと警鐘を鳴らします。
「14品目摂取方法」のススメ
image via shutterstockそれでは、一体どんな食事なら、フルマラソンを完走できる「バランスのとれた食生活」が叶うのでしょうか?
中野ジェームズ修一 :
イメージとしては「和定食」。糖質、野菜、タンパク質などのバランスは、「和定食」がとても優れていると思います。私がすすめている目安としては、「14品目摂取方法」というものがあります。
「14品目摂取方法」は、手軽に栄養バランスを整えるシンプルな食事法です。
14品目摂取方法
穀物類 豆・豆製品 魚介類 肉類 牛乳・乳製品 卵 果物 海藻類 キノコ類 イモ類 緑黄色野菜 淡色野菜 油脂 嗜好品これらの食品を、1日3回にわけて摂ればOK。ただし、毎食摂ってもよいのは主食の穀物類だけ。1食以上摂ってもよいのは緑黄色・淡色野菜、海藻類、キノコ類だけと定められています。
中野ジェームズ修一 :
甘い物やアルコールなどの嗜好品も1回なら大丈夫。
朝食にハムエッグを食べるとそれ以上肉を摂れないので、ハムはやめて昼か夜にしっかり肉を食べよう、とか。魚介、海藻、キノコ、イモは食べそびれがちなので、それを夕食のメインにしよう……といった感じで調節するとうまくいきます。
フルマラソン前日~当日の食事の注意点
image via shutterstock最後に、フルマラソン前日~当日の食事の注意点を教えていただきました。
中野ジェームズ修一さん :
当日気をつけてほしいのは、食べ慣れないものや生ものを食べないこと。長距離を走ると内臓にダメージを受け、食中毒を起こしやすいので、貝類は特に禁止です。アスリートにはしじみの味噌汁も前日〜当日は避けてもらっています。
ちなみに前日のアルコールは、ほどほどならOKです。
レース中の水分補給はスポーツドリンク、エネルギー補給にはカンロ飴がおすすめ。あまじょっぱいカンロ飴には塩分も糖分も含まれているので、汗で塩分が飛んでしまうのを補給するためにも、ちょうどいいんです。
レース前の朝食は、その人なりに消化しやすいものを選ぶのがおすすめ。ただし、食べて少しすると急激に眠くなる人の場合、注意してほしいことがあると中野さん。
中野ジェームズ修一 :
そういう人は、インスリンショックを起こしやすい低血糖タイプである場合があります。低血糖タイプの人は、レース前の朝食では糖質は控えめの方がいいでしょう。野菜やタンパク質メインにして、果物も果糖なので控えめにします。
中野ジェームズ修一さんに聞く「初めてのラントレ」。次回はひとりでも自宅でできる、走力アップを叶える「レイヤートレーニング」の方法をうかがいます。
中野ジェームズ修一さん
スポーツモチベーションCLUB100最高技術責任者、PTI認定プロフェッショナルフィジカルトレーナー、米国スポーツ医学会認定 運動生理学士(ACSM/EP-C)フィジカルを強化することで競技力向上や怪我予防、ロコモ・生活習慣病対策などを実現する「フィジカルトレーナー」の第一人者。「理論的かつ結果を出すトレーナー」として、卓球の福原愛選手やバドミントンのフジカキペアなど、多くのアスリートから絶大な支持を得ている。2008年の伊達公子選手現役復帰にも貢献した。2014年からは、青山学院大学駅伝チームのフィジカル強化指導も担当。早くから「モチベーション」の大切さに着目し、日本では数少ないメンタルとフィジカルの両面を指導できるトレーナーとしても活躍を続けている。自身が技術責任者を務める東京神楽坂の会員制パーソナルトレーニング施設「CLUB 100」は、「楽しく継続できる運動指導と高いホスピタリティ」が評価され活況を呈している。主な著書に『世界一伸びるストレッチ』(サンマーク出版)、『青トレ』(徳間書店)などベストセラー多数。
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