加齢とともに失われる筋肉を維持するには、運動とタンパク質の摂取が欠かせません。
立命館大学スポーツ科学部の藤田聡教授によると、乳製品由来の「ホエイタンパク質」を摂ることで、筋肉量の低下を効果的に防ぐことができるそう。
なぜホエイプロテインがよいと言えるのか、アメリカ乳製品輸出協会が開催したセミナーでの講義からご紹介します。
「指輪っかテスト」で筋肉量をチェック
image via Shutterstock加齢に伴い全身の筋肉量が減少し、筋力や運動機能が低下する「サルコペニア」。運動生理学を専門とする藤田教授はこの症状に焦点を当て、メカニズムの解明と予防法の確立に取り組んでいます。
藤田聡教授 :
私たちが健康な生活を送るためには、筋肉が不可欠です。
要注意なのは足が細い人。自分の両手の親指と人差し指で輪を作り、ふくらはぎの下から上へ通してみてください。輪っかが途中で止まれば大丈夫。輪っかがスーッと通ってしまったら、将来サルコペニアになる危険があります。
藤田教授いわく、足が太い人は全身の筋肉量が多い人。足が細い人は運動と栄養摂取、とくにタンパク質の摂取を心がけ、筋肉量を増やす必要があると話します。
藤田聡教授 :
太ももが細ければ細いほど糖尿病や心臓病のリスクが高くなる、寿命が短くなるというデータもあります。
痩せた人は太った人より健康と思いがちですが、筋肉が少ないと内臓脂肪が多くなるという男性のデータもある。見た目は細くても内臓脂肪はしっかりついているんです。
筋合成のスイッチを入れるのは「ロイシン」
image via Shutterstock人間の筋肉量は20代から低下していきます。これを防ぐためには、高齢者ほどレジスタンス運動(筋トレ)で筋肉を増やし、タンパク質もたくさん摂らなければいけないと藤田教授。
藤田聡教授 :
筋肉量を増やすためには、筋肉の中にある「エムトール」という酵素を活性化させることが必要です。タンパク質に含まれる「ロイシン」という必須アミノ酸は、エムトール活性化の強力なスイッチになります。
ロイシンは、分岐鎖アミノ酸(BCAA)と呼ばれるバリン、ロイシン、イソロイシンのなかのひとつ。食後の血中ロイシン濃度が高いほど筋合成も進むという、量依存的な関係が成り立つと藤田教授は話します。
藤田聡教授 :
しかし高齢者はロイシンを摂取してもエムトールが活性化されにくいので、若い人よりも量が必要なのです。
高齢者ほどタンパク質を摂るべきだという見解は、いまや世界的な動きになっています。タンパク質を多く摂っていた高齢者は、筋肉減少を40%抑えることができたというエビデンスもあります。
筋肉をつくるなら「ホエイタンパク質」
image via Shutterstockでは、どうすればロイシンを効果的に摂取できるのでしょうか。藤田教授が勧めるのは、牛乳、ヨーグルト、チーズといった乳製品を積極的に摂ること。特に牛乳から抽出されたホエイタンパク質は1g当たりのロイシン含有率が高く、ロイシンの吸収効率も非常によいからです。
藤田聡教授 :
大豆タンパク質と比べたところ、同じグラム数でもホエイタンパク質のほうがロイシン量が多く、その結果として筋合成の速度も違ってくることがわかりました。運動後に筋肉をつくるという目的で選ぶなら、効率的なのはホエイタンパク質だと言えるでしょう。
朝食にプラスするのがおすすめ
左上より時計まわりに、ロメインレタスとベーコンのホエイシーザーサラダ、ホエイと⽩味噌のタラのちゃんちゃん焼き、ホエイクリームソースの秋茄⼦チーズグラタン、鶏ムネ⾁のホエイピカタ、桃のホエイ⽩和え、外側のコップにはりんご、⼈参、ブルーベリーのホエイスムージータンパク質の摂取量は、50kgの女性なら1食あたり20gほどが目安。日本人は朝食のタンパク質摂取量が不足しがちなので、「朝食にホエイタンパク質を加えてみては」と藤田教授は提案します。
藤田聡教授 :
筋肉の効率的な合成には、「レジスタンス運動(筋トレ)+ホエイタンパク質」が最適。朝食に摂れば、筋トレの効果も増大させることができます。
タンパク質の摂取量が不均等だとサルコペニアのリスクが高まるため、毎食しっかり摂らないといけません。私が立命館大学の学生を調査したところ、1食でも必要量を満たしていない場合、まだ若い大学生でも筋肉量が減少していました。これはとても深刻な問題です。
チーズや牛乳、ヨーグルトなどの乳製品は、慌ただしい朝食でも手軽に食べられるというメリットもあります。特にホエイタンパク質はいつもの朝食に加えるだけでタンパク質の摂取量を増やすことができます。 サルコペニアのリスクを減らすためにも、「レジスタンス運動(筋トレ)+ホエイタンパク質」をぜひ取り入れてみてください。
藤田 聡(ふじた・さとし)教授
博士(運動生理学)。1970年生まれ。1993年ノースカロライナ州ファイファー大学スポーツ医学・マネジメント学部卒業。1996年フロリダ州立大学大学院運動科学部運動生理学専攻修士課程修了。2002年南カリフォルニア大学大学院博士号取得。同大学医学部内分泌科ポストドクター。2004年テキサス大学医学部加齢研究所研究員。2006年テキサス大学医学部内科講師。2007年東京大学大学院新領域創成科学研究科人間環境学専攻特任助教を経て、2009年から立命館大学スポーツ科学部教授。長いアメリカ暮らしで極めたテニスを続け、日本テニス協会公認指導者養成委員でもある。