自分の体をきちんと知ろう! をテーマの連載「カラダケア戦略術」。前回は「生理のある女性に多い貧血」について、お届けしました。今回は、「毛細血管ケアとアンチエイジングの関係」を女性医療ジャーナリストの増田美加がお伝えします。
45歳から急激に老化する毛細血管!
ここ数年、健康、医療業界のメディアで注目されているのが“毛細血管”です。これまで、動脈や静脈などの太い血管は、動脈硬化や脳梗塞、脳出血、心筋梗塞の対策として紹介されてきました。
けれども、髪の毛の10分の1、わずか0.005ミリ程度の太さしかないデリケートな毛細血管については、よく知られていませんでした。ところがさまざまな研究により、この毛細血管の重要性がより明らかになってきたのです。
「全身の血管の9割以上は毛細血管です。毛細血管は、約37兆個ある全身の細胞に血液とともに栄養や酸素を届け、老廃物を回収して静脈に送るという重要な働きをしています」と毛細血管研究の第一人者、高倉伸幸先生(大阪大学微生物病研究所情報伝達分野教授)は言います。
ところがこの毛細血管は、非常に脆く、少しの体内環境の変化で傷つきやすい存在です。
そして、急速に毛細血管の老化が進むのが45歳ころからです。この毛細血管にダメージがあると、大切な栄養や酸素が細胞に届かず、老廃物や水分を回収する機能も低下してしまいます。新陳代謝に欠かせない栄養補給も、デトックスの働きも失われてしまうのです。
45歳を境に毛細血管はモレやすい血管になります!
Journal of Dermatological Science 61(2011)206-207縦軸が高いほど、モレにくい健康な毛細血管です。このグラフを見ると、血管モレは45歳から始まっているのがわかります。30~44歳に比べると、75~89歳では3分の1近く毛細血管が減少しています。
毛細血管ケアは全身の不調だけでなく、肌、髪にも重要
image via shutterstockこの毛細血管の重要性にいち早く気づき、美容と健康のケアにとり入れたのが、FTCクリエイティブディレクターで美容家の君島十和子さんです。
「エイジングによる肌の機能低下、くすみやシミ、シワ、たるみなどにどう対応していくかが数年来の課題でした」と話す君島さん。
「しっかりお手入れをしても以前のような透明感が戻らない……。年齢とともに進む肌悩みを解決するにはどうしたらよいのか……。この問題と向き合って、研究を重ねる中で辿り着いたのが、毛細血管ケアでした」。
毛細血管がダメージを受けると、何が起こるかと言えば、全身の血行不良はもちろん、粘膜、関節、骨、脳、内臓、代謝や免疫にも密接に関係しています。とくに、最近では毛細血管と腸管免疫とのかかわり、腸内細菌との関係もわかってきています。
具体的には、冷え、眼精疲労、ドライアイ、頭痛、肩こり、関節痛、もの忘れ、勃起不全(ED)、メタボリックシンドローム、アレルギーなどを起こしやすくなります。
さらに毛細血管の老化が現れやすいのは、肌や髪です。酸素や栄養分が正常に肌細胞に届かないとターンオーバーがうまくいかず、コラーゲンやエラスチンなどのうるおい成分を作り出す繊維芽細胞が活性化されません。くすみ、シワ、シミ、たるみなど肌老化の原因になります。
また、頭皮の毛根下にも、毛細血管が張り巡らされています。毛細血管の劣化で髪の材料となる栄養分が届かず、髪が細くなり薄毛の原因にもなります。
このように、毛細血管のダメージや老化は、見た目年齢に大きく影響します。
毛細血管のダメージが続くと“ゴースト血管”へ
毛細血管のダメージとは、どのようなものでしょうか?
「毛細血管がダメージを受けると血管の壁が弱くなり、機能不全に陥ります。つまり、毛細血管の“ゴースト化”と言われる状態になります。
健康な毛細血管は、内側の“内皮細胞”を外側の“壁細胞”が覆い、安定した二重構造になっています(下図参照)」と前出の高倉伸幸先生。
血管は、外側の壁細胞と内側の内皮細胞がピタッとくっついて安定した構造をしています。栄養や酸素は必要な場所に運ばれ、リンパ管により老廃物や水分が速やかに回収されます。
ダメージを受けると、壁細胞と内皮細胞がゆるみ、不安定になります。栄養が漏れ出し、老廃物や水分が回収されずに体内に蓄積していきます。この状態が続くと、毛細血管は消滅し“ゴースト血管”になってしまいます。
しかし、加齢(老化)や紫外線、活性酸素、食生活の乱れ、運動不足、ストレスなどが加わると、血管の外側の壁細胞が剥がれやすくなります。
壁細胞が剥がれてしまうと、内側の内皮細胞に影響が及び、不安定な血管になります。内皮細胞にもすき間ができて、大切な栄養分や酸素が毛細血管からモレ出てしまいます。
血管モレが続くと、毛細血管の末端まで血液が届かなくなります。そうなると、毛細血管は無機能血管になります。
周囲の細胞や毛細血管が消滅し、“ゴースト血管”となり、先ほど挙げたようなさまざまな不調を引き起こすことになるのです。
“ゴースト血管”を防ぎ毛細血管をケアする方法は?
「毛細血管の壁細胞と内皮細胞をピッタリくっつけて安定した血管にするには、接着剤の役割をする“タイツー(Tie2)”という体内酵素を活性化させることです。
“タイツー(Tie2)”が活性化すると、内皮細胞同士を接着させて、壁細胞の接着を促します」(高倉伸幸先生)。
接着剤である“タイツー(Tie2)”活性化に重要なのは、壁細胞から分泌される“アンジオポエチン‐1”という物質(下図参照)。
血管の内皮細胞にある“タイツー(Tie2)”を活性化させ、壁細胞をピタッとくっつけ“アンジオポエチン-1”は、壁細胞から分泌します。ふたつの結合で血管モレを防ぐのです。
図1〜5 資料提供:Tie2・リンパ・血管研究会
タイツー(Tie2)を活性化させる植物たち
image via shutterstockタイツー(Tie2)を活性化させ、さまざまな老化現象を改善させる基礎研究結果が次々と報告されています。
“アンジオポエチン‐1”は、加齢によって減少しますが、近年、似た働きをする成分が植物にあることがわかってきました。
ヒハツ、シナモン、月桃葉、ルイボス、ハス胚芽、かりん、スターフルーツなどです。これらをお茶やスパイスとして利用したり、サプリメントで摂ることでタイツーを活性化できます。
タイツーを活性化させ、毛細血管をケアする方法は、ほかにもあります。毛細血管の隅々まで血液をスムーズに流すことで、血管の壁細胞は安定します。
血流を上げて冷やさない習慣が大事
image via shutterstock日常生活の工夫で冷やさない習慣が大切です。手足の指先が冷たいのは、毛細血管に血液が届きにくくなっている証拠です。
冷えている人は、毛細血管に血液が流れにくくなっていることが考えられます。冷えは、大敵。冷えは毛細血管の黄色信号でもあるのです。
入浴は血流アップには、すぐにできる方法です。じっくり湯船に温まることは大事ですね。
運動も大切。全身の血行促進には、有酸素運動が効果的です。また、ふくらはぎを使う運動もおすすめです。例えば、スキップ。ふくらはぎは、心臓から遠くにあって血流を上げにくい下半身の血行促進につなげるポイントです。
デスクワークの合間に簡単にできるのは、かかとを上げ下げして、ふくらはぎの筋肉に力を入れるエクササイズです。むくみ対策にもなります。
もちろん、毛細血管にまで血液を流すには、血液の質(血液サラサラ)も大切です。血液ドロドロにならない、食生活にも気をつけましょう。
増田美加・女性医療ジャーナリスト
予防医療の視点から女性のヘルスケア、エイジングケアの執筆、講演を行う。乳がんサバイバーでもあり、さまざまながん啓発活動を展開。著書に『医者に手抜きされて死なないための 患者力』(講談社)、『女性ホルモンパワー』(だいわ文庫)ほか多数。NPO法人みんなの漢方理事長。NPO法人乳がん画像診断ネットワーク副理事長。NPO法人女性医療ネットワーク理事。NPO法人日本医学ジャーナリスト協会会員。公式ホームページ http://office-mikamasuda.com/