これからの長い人生、自分らしく健康に生き続けるためには、無理なく続けられる「いい習慣」を根付かせることが重要。予防医学研究者・医学博士の石川善樹さんに、そのヒントを聞きました。
ポイントは「土曜の朝」にある
2018年9月、サントリー食品インターナショナル株式会社は「人生100年時代」の生き方を探る「100年ライフ プロジェクト」を始動。2,700人を対象とした意識調査「ウェルビーイングトレンドサーベイ2019」では、約75%の人が「無理なく楽しくできる健康対策」を望んでいることがわかりました。
2019年10月に行われた記者発表には、「人がよりよく生きるとは何か(ウェルビーイング:Well-being)」を研究する石川善樹さんが登壇。「すこやかな生活習慣の作り方~ポイントは土曜の朝にあり~」と題したレクチャーを行いました。
石川善樹さん :
「認知症」のリスクを高めるのは、糖尿病や高血圧などの生活習慣病です。生活習慣が乱れる根本の原因は、睡眠不足。それを改善するポイントが「土曜の朝」にあるのです。
休日の寝だめは逆効果
睡眠不足により疲労感が残ると、体を動かす気になれないため身体活動が不足します。起きている時間が長いと飲食の回数が増えるため、食生活の乱れにも直結すると石川さん。
石川善樹さん :
しかし睡眠不足を解消しようとして、休日に寝だめをするのは逆効果です。
土曜に2~4時間遅く起きるだけで、月曜は朝から調子が悪くなる。平日と休日の起床時間が違うことで起きる「ソーシャルジェットラグ(社会的時差ボケ)」が原因です。
ソーシャルジェットラグの影響は、なんと水曜まで残るのだそう。土曜も平日と同じ時間に起きれば、睡眠リズムが崩れることはありません。
石川善樹さん :
体を目覚めさせるには、光を浴びることと、お腹に食べ物・飲み物を入れること、この2つのスイッチが必要。夜遅くまで飲食すると翌朝の食欲がなくなるので、スイッチを入れることができません。
金曜の夜と土曜の朝はスケジュールをブロックしよう、「花金」はやめて「花木」にしようと言いたいくらいです。」
自分の「キーストーン習慣」を見つけよう
土曜の朝を変えれば、休日の睡眠リズムはキープできると石川さん。加えて自分の「キーストーン習慣」を見つければ、平日の睡眠も改善できるといいます。
石川善樹さん :
「キーストーン習慣(要となる習慣)」とは、ひとつの習慣を変えるだけで、他の行動もドミノ倒しのように好転していく習慣のことです。
以前、知人から「長時間労働のために激太りしてしまった。なんとかやせたい」という相談を受けました。彼は運動も続かなかったし、平日の夜に早く寝ようとしても寝付けなかった。
でも、それまで大盛りにしていた昼食のおかわりをやめたとたん、ポジティブなループができて10kg以上もやせたんです。
知人の男性は「昼食のおかわりをしない」というキーストーン習慣を見つけたことで、午後の眠気がなくなり仕事の能率がアップ。早く帰宅できるようになり、夕食も就寝時間も早くなったことで、朝食をしっかり摂れるようになりました。その結果ダイエットに成功し、午前中の集中力まで上がったのだとか。
石川善樹さん :
私たちは基本的に習慣の生き物。習慣は連鎖していくので、どこが連鎖のスタート地点なのかを考えることが必要です。
人生100年時代は「普通に戻す力」が大事
「人生100年時代」をよりよく生きるには、「普通に戻す力」が大事だと石川さんはいいます。
石川善樹さん :
不調を普通に戻すことはもちろん、好調を普通に戻す力も求められます。寿命が短いときはずっと好調、「24時間闘えますか」でよかったけれど、100年となったら普通の状態をいかに続けるかがポイントになる。その普通をつくるのが、すこやかな生活習慣なのです。
まずはアスリートのように、「自分の普通」を知ることから始めましょう。カレンダーや日記に、飲食・就寝・起床のタイミングと、日中に何を食べ、飲んだのかをメモするといいですよ。
「幸せ」よりも「よい時間を過ごすこと」を目指す
人生の目標は何かと聞かれたら、「幸せになること」をイメージする人も多いかもしれません。しかし、石川さんたち予防医学研究者は「ハッピー(幸福)」という言葉は使わず、「ウェルビーイング(よりよく生きる)」という言葉を使います。
ふわふわした「幸せ」は扱いづらいけれど、1日、1週間、1か月、1年を、よりよい時間にしていくことならできるはず。「ウェルビーイング」のヒントは、案外身近なところにあるのかもしれません。
石川善樹さんの記事はこちら
予防医学博士 石川善樹さんに聞く「未来を考えても不安にならない方法」
6時間未満では心の疲れはとりきれない? 意外とやっている睡眠のNG習慣
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石川善樹(いしかわ・よしき)さん
予防医学研究者、医学博士、株式会社Campus for H共同創業者。1981年、広島県生まれ。東京大学医学部健康科学科卒業、ハーバード大学公衆衛生大学院修了後、自治医科大学で博士(医学)取得。「人がよりよく生きるとは何か(Well-being)」をテーマとして、企業や大学と学際的研究を行う。専門分野は、予防医学、行動科学、計算創造学など。公式サイト
取材・文/田邉愛理、構成/寺田佳織(マイロハス編集部)、image via shutterstock