そこで気になるのが「栄養療法外来」という存在。どんな検査や指導がおこなわれるのでしょうか。
早くより栄養療法外来を立ち上げ、栄養を正しく摂ることの大切さを説いている宮澤医院・宮澤賢史先生にお話をうかがいました。
栄養状態は心身の健康に直結する
不調を訴える患者さんに対し、降圧剤や血糖降下剤、頭痛薬などを処方するだけでなく、根本の原因を探ることの必要性を感じていたという宮澤先生。
宮澤先生が栄養療法を始めた2000年当時は、不調と栄養不足を関連づけて診ることは大学病院でもほとんどなかったそうです。
宮澤先生のクリニックには、がんのような重篤な病、精神疾患、リウマチなど、さまざまな病を患う方が訪れます。もちろん慢性疲労や不眠、貧血といった不調を改善し、健康増進を目的にする女性も少なくありません。
宮澤先生 :
病院で治療を受けているのに不調が改善しない。そんな患者さんを調べてみると、栄養状態が悪い方が多かったんです。
タンパク質、糖質、脂質の三大栄養素は摂れているか、むしろ摂りすぎている人が多い。加工食品や添加物を多く含む食品ばかり食べていて、体を正常に機能させ、健康を維持するために必要なビタミン・ミネラルや食物繊維が極端に不足している。
そんな状態では治るものも治らなくて当然ですし、イライラや落ち込み、さらにはうつ症状といった精神面までも左右しかねません。
大切なのは栄養素だけでなく、腸内環境を整えること。糖質やタンパク質の摂りすぎ、加工食品やグルテンの食べすぎ、消化不良を起こしているのにさらに食べ続けてしまうという食生活では、腸内環境は荒れるばかりです。
宮澤先生 :
幸せホルモンとして知られるセロトニンやドーパミン、オキシトシンといった神経伝達物質は、そのほとんどが腸でつくられています。
ですから、栄養を吸収するためだけでなく、健やかな精神を育み、維持するためにも腸内環境を整えることはとても大切なことなのです。
イライラしたりクヨクヨしたりするのは性格だと思われるかもしれませんが、栄養状態と腸内環境をよくすることで変わってきますよ。
栄養療法外来ではどんな検査をする? 何がわかる?
実際に、栄養療法外来ではどのような検査が受けられるのでしょうか。
宮澤先生のクリニックでは、まずメールで自身の症状などを伝え、栄養療法外来での診察が有用であるかを相談します(相談料は無料)。
そして受診するとなれば、予約を取って診察日を待ちます。ただし、20ページにもわたる問診票への記入と毎日食べた物を書き込んだ食事記録を初診の日までに用意する必要があります。
宮澤先生 :
家族歴や既往歴のほか、自分の性格、睡眠などの生活習慣の状態、疲れやすいといったエネルギー状態について答えてもらいます。
また、花粉症などのアレルギー、音楽が好きといった嗜好、いつも同じような行動をしないと気が済まないといった脳に関わる質問にも答えていただくことで、脳内の化学物質のバランスが推測できます。
初診では、問診票と食事記録をもとに詳細な診察を経て、次におこなう検査を決めます。かかる時間は1時間~1時間半ほど。初診料は30,000円(税別)です。
診察後、その人の症状や悩みに応じた検査をおこないますが、日々の不調の改善や健康増進を目的とするなら、まず受けるといいのが以下の2つの検査。
1. 総合的な栄養状態をみる検査
<血液検査、尿検査、尿中アミノ酸分析検査 60,000円(税別)>
労働基準法で定められた一般定期健康診断では、調べる項目は最大14項目ですが、この検査で調べるのは60以上の多岐にわたる項目。
詳細に調べることで、栄養状態、体を老化させる活性酸素の状態、自律神経の緊張度が推測できるそうです。
通常の健診では、数値が基準値内であれば「問題なし」とされてしまいますが、「病気を調べるのと、健康状態を知るのでは、結果を評価する方法が異なる」と宮澤先生は話します。
2. 腸内環境をみる検査
<総合便検査 CSA 60,000円(税別)>
乳酸菌バランス、消化、免疫、エネルギー状態など、とても多くの情報が得られる検査です。検査キットで便を採取し、郵送すると、腸内環境や食事などを評価してもらえます。
興味深いのは、それだけで腸内細菌の状態がわかること。腸内細菌は多様性が高いほうがよく、添加物や加工食品を多く摂っている人で50種類ぐらい、和食中心の栄養バランスのとれた食事をしている人で100種類ほどだそうです。
ビフィズス菌や乳酸菌、大豆イソフラボンがどのぐらい働くかの目安になるエクオール産生菌、さらに「ヤセ菌・デブ菌の比率もわかりますよ」とのこと。
先生の診察をせずとも検査キットは郵送で取り寄せられますが、それだけでは栄養状態の改善にはつながりません。ぜひカウンセリングや食事指導もあわせて受けたいものです。
摂りたいサプリメントは3種。選び方と飲むタイミングは?
栄養療法外来を受診しないまでも、自分で心がける方法はあるのでしょうか。宮澤先生がすすめるのは、ビタミンC、亜鉛、マグネシウムの摂取です。
ビタミンC
多くの人が不足しているのが「ビタミンC」。摂り方のコツは、回数を分けること。
水溶性で体内に蓄積されないため、理想をいえば1日10回ぐらいに分けると理想的ですが、1回1,000mgを3回に分けて摂れば効果は実感できるそうです。宮澤先生のおすすめは、風邪を引いたときは1時間に1回を目安に摂取すること。
また、疲労やストレスを感じたときはビタミンCと一緒に滋養強壮系のロディオラやアシュワガンダといったハーブを一緒に飲むのが効果的だそうです。「サプリメントとしてでもハーブティーとしてでもいいです。できればストレスを受けそうなシーンの前に飲んだほうがいいですよ」とのこと。
亜鉛・マグネシウム
慢性疲労を感じているなら、亜鉛とマグネシウムの摂取が効果的。飲むタイミングは“食後”がおすすめだそうです。ミネラルは吸収されにくい栄養素なので、胃酸や消化酵素が出ている食後に摂るほうが吸収率を高めることができるからです。
サプリメントに詳しい宮澤先生は、さぞかしいろいろな種類を飲み分けているのかと思いきや、「日常的に摂っているのは、ビタミンCと亜鉛、マグネシウムぐらいですよ」とのこと。
宮澤先生 :
サプリメントは種類も価格帯もさまざまで、どれを選んでいいかわかりにくいですが、目安にしてほしいひとつは“パッケージに気を配っているか”ということ。品質を重視しているということが読み取れるからです。
とくに抗酸化作用の強いビタミンCは酸化しやすいので、タブレットのように個包装してあるものや、ふたをあけるとさらにもうひとつ栓があるような2重構造のパッケージのものがあれば、それを選ぶといいですね。
心得たいのは「サプリメントの値段と質は比例することが多い」ということ。安価すぎるものはかえって添加物を多く摂ることになり逆効果になることもあると宮澤先生は警鐘を鳴らします。
宮澤先生 :
サプリメントが効かないからといって量を増やす人がいますが、それはよくありません。
サプリメントが効かないのは、食事が悪い、ストレスが強い、環境が悪いといった生活習慣に原因があるはず。それがわからないならば、栄養療法外来を受診するというのもひとつの手です。
宮澤先生のお話を聞いていてつくづく痛感するのは「人の心身の健康は、食べているものに左右されている」ということです。
当たり前のことなのですが、忙しかったりストレスにさらされたりしているときに限って、手にとってしまうのは”栄養“の対極にあるものだったりします。
「栄養療法外来でサプリメントの処方や栄養を点滴することはもちろんできますが、大切なのは日々の食事。ご本人がどれだけ本気で取り組めるかということが、体を整えるカギになります」と宮澤先生。
健康はよりよい人生を送るための条件と考えて、一度本腰を入れて取り組む時期があってもいいのではないでしょうか。
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宮澤 賢史(みやざわ・けんし)先生
東京医科大学医学部卒業、同大大学院修了。2000年より栄養療法を開始。宮澤医院(東京都葛飾区)にて問診事項と多くの血液、尿、唾液検査などにより疾患の原因を追究し、その原因に対する根本治療を行っている。がんから糖尿病、リウマチ、精神疾患まで扱う範囲は幅広く、患者数は20,000人を超える。NPO法人高濃度ビタミンC点滴療法学会理事、臨床分子栄養医学研究会代表、分子栄養学実践講座主宰を兼任するほか、校医、産業医も務めている。著書に『医者が教える「あなたのサプリが効かない理由」』(イースト・プレス)などがある。
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