「自己肯定感は幸せに生きるための土台になる」「デキる人は、みんな自己肯定感が高い」。こんなフレーズをよく目にするようになりました。

でも、周囲がキラキラ輝いて見えて落ち込んだり、他人にどう映っているかが気になったりと、自己肯定感が低空飛行ぎみになってしまうことも、ままあるもの……。

本当に自己肯定感って高くないといけないの? 精神科医であり、またミュージシャンとしても活躍する星野概念先生に伺いました。

自分を丸ごと認めるって、実は結構難しい

自己肯定感とは、今の自分を認め、その存在意義を肯定する感覚です。

不安や劣等感にさいなまれることなく、ありのままの私に価値がある、と思える。精神的にも非常に安定している状態です。自己肯定感が高いほうが幸せを感じやすく、ものごとに対して意欲的にチャレンジできる、というのは間違いないと思います。

僕は仕事柄、「この方は自己肯定感が高そうだな」とか「自己肯定ができなくて、不全感が強いみたいだな」といったふうに、相手の心を知るためのひとつの尺度として、自己肯定感についてよく考えます。

ただ、一般的には自分の自己肯定感のレベルを測ろうとしなくてもいいのかな、と思います。なぜなら自己肯定感って、自分でチェックしようにもなかなかわからないものだから。

おそらく自己肯定感の高い人って、「自分を否定はしないかな」くらいの感じじゃないかと思うんです。「自分、最高!」っていう状態をめざすとハードルが高いけれど、「今の自分を否定するほどじゃない」と思える程度だったら、どうですか?

僕たちの毎日には、失敗も反省もいろいろあって当然。そのなかで、「自分を否定しない」という風に思えているなら、それは自己肯定感を持てている証拠だ、と考えていいと思います。

落ち込んだり、まわりと比べてイライラしたりすることもあるかもしれません。でも、そのたびに「自己肯定感が低いせいだ」と不安になることはないように思います。

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自己肯定感は、アイデンティティに関わっている

「いやいや、僕なんてダメですよ」「私はそんな大した人間じゃないですから」 たとえばこんなフレーズ、多くの人が口にした経験があるのではないでしょうか。

相手の期待を下げておけばプレッシャーもかかりにくいし、もし失敗しても傷つきにくい。自分を守ろうとして出てくる言葉ならば、必ずしも自己肯定感の低さが原因とは言えないでしょう。

ただ、もし「どうせ私なんて」という気持ちが心からのものだったとしたら、それは本当に苦しい

僕自身にも、自己肯定感が持てなくてつらい時期がありました。バンド活動に専念していた20代のころのことです。「俺たちは絶対に売れるはずなのに、なんで認められないんだろう」「みんなバカなのかな」って思っていて、……バカは僕ですよね(笑)。

僕が抱いていた「もっと売れるはずだ、俺はこんなもんじゃない」という気持ちは、自己肯定感から生まれたものではなくて、空虚な自信、あるいは自己愛の現れとも言えるかもしれません。口では「いけるっしょ」とか強がりながらも、本当は不安で仕方なかった。

自分が描いているあるべき自分像と、実際の立ち位置がまったくかみあっていないうえに、いつめざす場所にたどり着けるのかもわからない。

こうなると、自分のアイデンティティさえも揺らいできてしまいます

僕の場合だと、「こんな状態でミュージシャンと言えるんだろうか、自分は一体何者なんだ」という不安です。そんなときに、大企業でバリバリ働いている友人になんて会おうものなら、もう最悪。話したくないし、自分の不甲斐なさばかりが身にしみるし、到底、自分を肯定なんてできないし……。

努力しても思い通りにならないこと、挫折や失敗を重ねれば、自己否定的な考えにはまり込んでしまうのも自然なことです。

そういう状態で「自分を認めなきゃ」「もっと自分を褒めてあげなきゃ」と思っても、無理があるんですよね。だって、自分のなかには圧倒的な「私はダメだ」と考える根拠があるから。

頑張って認めようとしてもほめてあげられないとなると、それすらも挫折経験となって、ますます孤独が深まってしまうかもしれません。

僕は、自己肯定感にこだわる必要はない、と思います。その理由は後編で!

いとうせいこうさん、星野概念先生が出演。書店初のフェスイベント「青山多問多答フェス」

出演:いとうせいこう、星野概念、トミヤマユキコ、松本ハウス(二部のみ)
開催日時:2019年6月23日(日)13:00〜21:30(前半:13:00〜17:30/後半:18:00〜21:30)
内容:多問多答(ゆるいお悩み相談)/生活情報の提供/モグモグタイムほか。※500円までのおやつをご持参ください。途中、おやつの時間(モグモグタイム)があります。こぼれにくいものをご持参ください。申し込み・詳細はこちら

星野概念(ほしの がいねん)先生
病院勤務の精神科医。執筆や音楽活動も行う。雑誌やWebでの連載のほか、寄稿も多数。音楽活動はさまざま。著書に、いとうせいこう氏との共著 『ラブという薬』がある。

取材・文/浦上藍子、企画・構成/寺田佳織(マイロハス編集部)、image via shutterstock

RSS情報:https://www.mylohas.net/2019/05/191143sp_mental_hoshinogainen01.html