これまでに1万人以上ものアスリートの心に寄り添い、パフォーマンスを激変させてきたスポーツメンタルコーチ・鈴木颯人さんに、実現できる目標の立て方をうかがいます。
目標を掲げても続かないのはなぜ?
野球、サッカー、水泳、柔道、サーフィンなど、鈴木さんがサポートしてきた数々のアスリートは、次々と目標を達成して夢を叶えています。どうすれば、私たちもやりたいことを実現できるのでしょうか。
「なかなか達成できない目標がある場合、そもそも、その目標は本当にやりたいことなのかを考えなければなりません。たとえば『3ヵ月で5キロ痩せる』という目標の場合、ダイエットの動機は何なのか。その理由を掘り下げていくと、本当は何がしたいのか、その人の“ビジョン”が見えてきます」(鈴木さん、以下同)
「ダイエットが続かない」という人に対し、鈴木さんは次のように質問を繰り返し、答えが出なくなるまでその人が本当に求めていることを突き詰めていきます。
Q:「なぜダイエットをするのか」→ → → A:「見栄えを良くしたい」
Q:「どうしてそんなに見栄えを気にするのか」→ → → A:「注目されたい」
Q:「どうして注目されたいのか」→ → → A:「自分の存在を認めてもらいたい」
Q:「どうして自分の存在を認めてもらいたいのか」→ → → A:「……」
「この場合、心から望んでいることは『自分の存在を認めてもらいたい』ということです。大本のビジョンがしっかりしていれば、手段はいくらでも考えられます。認めてもらうことが目的ならば、もしかしてダイエットはその人にとって必要ないのかもしれませんし……」
それでも痩せたい、ダイエットを成功させたいと思う場合は「ダイエットを目標とするのではなく、ダイエットのその先を目指せばいい」という鈴木さん。「ダイエットのその先」とは、どういうことでしょう?
成功するためのメソッドとは?
01.わくわくすることを目標にする
「本当にやりたいことや楽しいことなら、人は放っておいても進んでやりますよね。反対に苦しいことやつらいことには本能的に避けようとするものです。ダイエットがつらいものと思っている限り続けるのは難しい。だから、『ダイエットのその先』つまりダイエットが成功したときに実現する、わくわくすることを目標として設定し、ダイエットはその手段だと考えればいいのです」
ダイエットなら、痩せたら着られる洋服を飾っておく。資格の取得を目指しているなら、取得できたあとのイメージをふくらませておく、ということですね。でも、イメージングのために理想の体形であるバービー人形を飾っていても、なかなか痩せられないという声もよく聞きます。
「イメージは見るだけより、実際に触れたり体感したりしたほうがより具体的なものとなります。ある野球選手の目標は、将来、日本代表・侍ジャパンに選ばれることでした。私が侍ジャパンの帽子と練習着を持っていたので、その場で着てもらって写真撮影。すると、彼のイメージがより具体的になって、やる気に火がつきました」
「お金持ちになりたい」という目標の場合、飛行機の降り際にファーストクラスの席にちょっとだけ座ってみたり、高級車に試乗したりするだけでも、ただ写真を見るよりずっと強く心に残るそうです。
まず、わくわくすることを目標にする。そして、できれば体感してイメージをより具体的な感覚へと落とし込んだら、あとは実行あるのみ。これが何より難しいのですが、どうすれば続けられるのでしょうか?
「いつか」ではなく「期日」を決める
「続けるためのコツは、習慣化すること。毎日やることが大事です。目標を決めたら、その手段を考えて毎日やるべきことをリストアップし、チェックリストをつくる。そして毎日できたら〇、できなかったら×をつけてください」
毎日続けられれば、やるべきことをきちんとできているという自信になり、さらに続けようという気持ちを生みます。でも×が続いてしまったら、一気にやる気をなくしてしまいそうです。
「リストアップしたなかで、何が続けられて何が続けられないのか。しばらくしたら明らかになってくるでしょう。×が続いたとき、『ああ、やっぱり自分はダメだ』と思うのではなくて、チェックリストの見直しをすればいいのです」
〇が続いていることはそのまま継続する。×ばかりの項目は、何なら毎日できるのかを考えて再設定する。それを繰り返していくうちに、自分がどういうことなら続けられるのかという自己分析にもなりますね。
「続けられない人の多くが、期日を決めず目標を立てています。どんな目標も、一旦期日を決めること。3ヵ月で結果を出そうと思っているなら2ヵ月にしてみてください。毎日やるべきことをきちんとやれば、予定より早く達成できるはずですから」
「いつか痩せられればいいな」「いつかできればいいな」。「いつか」ではなく、具体的な期日を決めることが大事なんですね。
「絶対にやらないこと」を決める
最後に、目標ややりたいことが見つからないという人はどうすればいいのか、鈴木さんに聞きました。
「いま自分が好きなこと、わくわくすることは何なのかを考えてみてください。とくにないという人は、子どもの頃、好きだったことを思い出しているうちに気づくことがあるのではないでしょうか。それでもどうしても見つからないという人は、逆説的ですが『絶対にやらないこと(やりたくないこと)を決める』だけでもいいと思います」
鈴木さんは以前、営業職として結果を出していたけれど、「求めていない人に自分から売り込みに行く」行為がとても苦痛だったそうです。「営業はやらない」と決めたことで、「どうすれば相手に求められる存在になれるのか」を考えるきっかけとなり、やるべきことが明確になったとか。
メンタルは鍛えるものではなく、育てるもの。だから、鈴木さんはメンタルトレーナーではなくて、メンタルコーチと名乗っています。自分の心はどうすればわくわくして、どんなことが苦手なのか。自分を知り、見方を変えることで受け止め方が変わります。その心を育てていくことが、目標達成につながっていくのです。
弱いメンタルに劇的に効く アスリートの言葉――スポーツメンタルコーチが教える“逆境”の乗り越え方
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鈴木颯人(すずき・はやと)
1983年、イギリス生まれの東京育ち。スポーツメンタルコーチ。Re-Departure合同会社代表。日本スポーツメンタルコーチ協会代表理事。7歳から野球を始め、中学ではピッチャーとして活躍し強豪高校にスポーツ推薦で入学するも、結果を出せず挫折。大学卒業後も失敗や挫折を繰り返し、心身のバランスを崩して、うつ病と診断されるが脳と心の仕組みをイチから学び、うつ病を克服。これまでの自身の経験をもとに勝負所で力を発揮させる独自のメソッドを構築し、2013年にスポーツメンタルコーチとして独立。競技の種類やプロアマを問わず、パフォーマンスを激変させるアスリートが続出している。これまでコーチングしたアスリートは1万人以上、15万人を超えるTwitterフォロワーに日々メッセージを発信中。著書は『一流を目指すメンタル術』(三笠書房)、『モチベーションを劇的に引き出す究極のメンタルコーチ術』(KADOKAWA)、『弱いメンタルに劇的に効くアスリートの言葉』(フォレスト出版)、『脳科学×心理学 うちの子のやる気スイッチを押す方法、教えてください!』(かんき出版)。https://re-departure.com
https://twitter.com/HayatoSuzuki11