人生においては、誰しもが「あまり誇れないようなこと」をしてしまうもの。半月分の食費を新しいコートに使ってしまったとか、息子のサッカーの試合に大幅に遅れた、猫の鳴き声がうるさいので外に出したら、あっという間に車にはねられてしまったとか……。

自分を許すのは大変ですし、自分がしたことの半分でさえ、友だちや家族が知ったら絶対に許してもらえないだろうと思うかもしれません。でも、自分自身は全てを知っています。その厳然たる事実の重みが、あなたを罪悪感で縛り付け、恥ずかしさで打ちのめされそうになります。

どうやって自分を許せばいいのか。それを教えてくれるのが、スタンフォード大学「許しプロジェクト」のディレクターを務める心理学者のフレッド・ラスキンさん。許しに関する研究やワークショップを行い、妻を裏切った男性や両親を捨てた子ども、もっとひどいことをした人たちと一緒に問題に取り組んでいます。

そのラスキンさんは「自分を許すための最大の障害は、罪悪感」だと指摘します。

悔やんでいる間は、自分を許すことができない

「私たちは、間違ったことをしたから悔やむというだけではないのです」とラスキンさんは言います。誰でも間違いはします。でも、中にはまるで毛布にくるまるように、罪悪感や後悔を自分の周りに張り巡らせてしまい、嘆き悲しむのをやめようとしない人もいます

「そんなバカな、と思うかもしれませんが、自分を守るために罪悪感の殻をかぶる人もいるのです」とラスキンさん。身を縮めて「ほら、どれくらい悪いと思っているか見て! 私が苦しんでいるのがわかる!?」と。自分が哀れであると誇示するのです。

「それは歪んだ形の贖罪」とラスキンさんは指摘します。自分がしたことの責任を取るために、傷を治したり、物事を正しい方向に戻したりする代わりに、残りの人生をずっと惨めな気持ちで過ごして、自分を罰しようと無意識に考えてしまうのです。

罪悪感が健康に与える影響とは?

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残念ながら、残りの人生をずっと惨めな気持ちでいようという決心は、悲劇的なもの。しかも、よい結果にもなりません。

ひとつには、惨めな気分になっていると周りを引きずり込んでしまうのです。「自分を責め続けていると、あなたを気遣ってくれる人も犠牲になるのです」とラスキンさん。

罪悪感に浸っている人は、普段よりも引きこもりがちになり、とげとげしくなり、オープンでもなくなります。周りにいる人は、配偶者も、子どもや両親も、友だちも、飼い犬でさえも、あなたと一緒に苦しむ結果になるのです。

さらに、苦しみは周囲への影響だけでは終わりません。心は無数の方法で身体とつながっており、大切な臓器にも悪影響を及ぼす化学物質を作り出してしまうのです。

心拍数が上がり、血圧が上がり、消化が妨げられ、筋肉が緊張し、血液にはコレステロールがたまり、正しく考える力も低下。自分がしたことを思い出して思いわずらうたびに、罪悪感が身体を痛めてしまうのです。

これまでの研究結果に基づいて、自分をなかなか許せない人は心臓発作、高血圧、うつ病などの病気になりやすいのではないかという説が考えられているのも、もっともです。

「自分を許すことで、私たちは過去にしたことに向き合い、間違いを認め、前に進むことができるようになります。それは、起こったことを厳しくとがめずにいる、言い訳する、忘れるということとは違います。苦しみや後悔は必要ですが、終わりがあります。世界は動いているのですから、前に進む必要があるのです」と、ラスキンさんは説明します。

では、何をしたのであれ、自分を許すためのステップを見てみましょう。

1. 自分の罪を分類する

「私たちのほとんどが自分を許せなくなるのは、次の4つのどれかをしてしまったときです」(ラスキンさん)

結婚生活をうまく続けるなどの人生の大事で失敗したとき 自分の行動で誰かを傷つけてしまったとき 飲酒やほかの自己破壊的な行動など、自分の暮らし方で誰かを傷つけてしまったとき 家族のもめごとを仲裁する、子どもが大学に行けるように貯金するなど、しなければならないと思うことをしなかったとき

罪を分類することから、許しのプロセスが始まります。自分が何をしたのか細かく分析し、よく見て、少し距離を置いて、癒しを始めます」(ラスキンさん)

2. 自分の気持ちを知る

「自分がしてしまった具体的な間違い、そしてそのために生じた被害を明確に言葉にしましょう。信頼できる数人に自分がしたことを話して、支援と思いやり、アドバイスをもらいます」と、ラスキンさんは話します。

ほかの人と共有することで、誰でも間違いを犯すと気づくことができます。「苦しんでいるのは自分だけだと思ってしまいがちですが、それでは癒しが難しくなるだけです」と、ラスキンさん。自分がしたことを告白すれば、否定や抑制、抑圧、そして忘却に入り込んでしまうのも予防できます

3. 自分が何を望んでいるかを知る

必ずしも傷つけた人と和解したいと望んでいるとは限りません。

恥ずかしさから逃れたい、罪の意識を解放したい、そして平静な心で自分の中心に全体感を感じたいと思っているだけだったりするのです。

4. 非現実的な期待だと認める

私たちのほとんどは、自分の行動について、内心、意識せずにいろいろなルールを抱えています。でも、そのようなルールの多くは、実際に自分で考えたというよりも子ども時代に吸収したもので、すべてが今の現実に即しているわけではありません

例えば、友人のスーザンは、お母さんが軽い脳梗塞になったとき、一緒に暮らすべきだと感じました。娘なんだから、母親の世話をするのは当然でしょ? でも、スーザンのお母さんは昔からずっとどうしようもなく不愉快に感じるような人物。喜ばせることもできず、口から出る言葉はすべて、批判か悪口、あるいは不平。それも、周りのみんなを侮辱して萎縮させることを意図した、意地の悪い調子で。

スーザンは友だちと夫の支援で、それほど圧倒的な負のエネルギーを持った人物を自分の家に連れてくるのは現実的ではない、あるいは正しいことではないと考えるようになったのです。専門的なヘルパーをいつでも呼び出せる、支援付き住宅に母親が引っ越せるようにしました。

5. 自分の傷を認識する

「実際に自分をつらい気持ちにしているのは、傷ついた気持ち、罪悪感、後悔、おなかが痛くなるようなストレス。それは、自分が犯したことを考えると感じるものですが、2分前、あるいは10年前にしたこと自体ではないのです」と、ラスキンさん。

問題を起こしているのは、今現在のあなたの反応なのです。その習慣は捨てましょう。

6. 「ストップ」ボタンを押す

過去の出来事を頭の中で何度繰り返しても、自分にも、自分が傷つけた人にも何の助けにもなりません。つらくなるだけ。

だから、自分の罪について思い返していると思ったら、いつでも、「ストップ」とそこで止めて、もっとポジティブな何かに注意を集中すること

次回の『Prevention』に続きます。

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