前回に引き続き、抗酸化食品や酸化ストレス研究のエキスパートである名古屋大学名誉教授で愛知学院大学心身科学部特任教授・人間総合科学大学教授の大澤俊彦先生に、食べ方のコツをうかがいます。
塩分摂りすぎには「ポリフェノール」が効果的
日本食は、脂肪が少なく食物繊維も豊富なので健康的だと言われますが、気をつけなければならないのは塩分です。
塩分によって酸化が進んだり、ガンが発生したりすることはありませんが、塩はガン細胞を促進させる作用があります。塩分を多く摂取する東北地方の日本海側に、胃ガンが多い(※)のはそのためです。
普段から、塩分を摂りすぎる傾向にある日本人は、どうすればいいのか。そのヒントとなるような調査がいまから10年ほど前、ハーバード大学で行われました。
パナマ諸島に住むクーナ族インディアンは塩分の高い食事をしているのに、血圧は低くガンや糖尿病にかかる割合も低い。
なぜかと調べたら、彼らはカカオの実を生産しているので、毎日5~7杯ものチョコレートドリンクを飲んでいることがわかりました。カカオに含まれる「ポリフェノール」が塩分の摂りすぎによる身体への悪影響を緩和させていたのです。
抗酸化作用が高い、第7の栄養素「フィトケミカル」
私がポリフェノールの研究を始めたのは40年以上前のことですが、当時ポリフェノールは“非栄養素”と呼ばれていました。5大栄養素(炭水化物・タンパク質・脂質・ビタミン・ミネラル)ではないもの、という意味で非常にネガティブな印象を受ける言葉ですよね。
でも、現在は健康な身体を維持するために必要なものだと見直され、第6の栄養素「食物繊維」、そして第7の栄養素「フィトケミカル」として注目されるようになりました。
フィトケミカルとは、植物性食品の色素や香りなどから発見された化学物質のことで、ポリフェノールや、ニンニクに含まれる「アリルイオウ化合物」、わさびに含まれる「イソチオシアナート」などが、これにあたります。
植物の色素や香り、辛み、苦み、渋みなどは、強い紫外線や虫の害などから自らを守るためにつくられたもの。野菜や果物にはもともと活性炭素を取り除くはたらきがあるので、フィトケミカルに抗酸化力が備わっているのは、当然のことと言えるのです。
抗酸化力は、食べてから3~8時間持続する
酸化を防ぐことは、老化や病気を未然に防ぐことにつながります。肉や魚、炭水化物などとともに、抗酸化力の高いフィトケミカルや、ビタミン、ミネラル、食物繊維を食事に摂り入れることで、ガンや生活習慣病の予防にも役立つのではないかと期待されています。
では、具体的にどのような食品を摂ればいいのか、ご紹介しましょう。
老化や病気を防ぐ12の食品群
食品を摂取してから、直接活性酸素を消去する抗酸化力は3~8時間、抗酸化酵素による解毒力は72時間程度持続するといわれています。 おすすめは、これらを3日かけてまんべんなく摂ること。今日摂れなかったら、明日か明後日に摂ればいいのです。
〈セレン〉穀類:玄米、雑穀、大麦など 〈イソフラボン〉豆類:大豆、さやえんどう、納豆、豆腐など 〈β-グルカン〉きのこ類:椎茸、しめじ、マッシュルームなど 〈ヨウ素 / フェノール類〉海藻類:わかめ、昆布、のりなど 〈ポリフェノール〉ウリ科:キュウリ、カボチャ、ゴーヤなど 〈食物繊維〉キク科:ゴボウ、レタス、春菊など 〈イオウ化合物〉ユリ科:玉ねぎ、ニンニク、ニラ、あさつき、ねぎなど 〈アルカロイド / カテロイド〉ナス科:トマト、なす、ピーマン、じゃがいもなど 〈カテロイド / テルペン〉セリ科:にんじん、セロリ、せり、パセリなど 〈イソチオシアナート〉アブラナ科:キャベツ、ブロッコリー、大根、わさびなど 〈ビタミンC / フラボノイド〉柑橘類・ベリー類:みかん、いちご、ブルーベリーなど 〈テルペン / ポリフェノール〉香辛料:ショウガ、ウコン、シソ、バジル、セージ、ゴマなど 〈ポリフェノール〉嗜好品:緑茶、紅茶、コーヒー、ココア、高カカオチョコレートなど「これさえ食べれば大丈夫!」というパーフェクトフードはありません。バランスよく食べることこそが何よりも大切です。
大澤俊彦(おおさわ としひこ)先生
1946年兵庫県生まれ。名古屋大学名誉教授で愛知学院大学心身科学部特任教授・人間総合科学大学教授。農学博士。1974年東京大学大学院農学系研究科博士課程修了後、1977年までオーストラリア国立大学理学部化学科リサーチフェロー。1978年名古屋大学農学部助手、1988年同大学農学部助教授、1995年同大学農学部教授を経て名誉教授に。2010年より愛知学院大学心身科学部教授、学部長を経て現在特任教授。2019年4月より人間総合科学大学教授も兼任。その間、1990年より1年間、カリフォルニア大学デービス校環境毒性学部客員教授。機能性食品研究、とくに抗酸化食品研究の第一人者。食品と生命機能の関わりをテーマとして、食事が要因となる生活習慣病誘発メカニズムの解明・予防に関する研究を行う。食品の抗酸化成分の生体内での作用解明のほか、生体内での酸化障害に関する未病バイオマーカーの研究開発など、その研究対象は多岐にわたる。
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