漢方薬は飲む人のタイプで合う薬が変わります。うまく選べばインフルエンザにも対応できる漢方薬の新たな魅力を、医師の新見正則先生がKampo Academiaのセミナーで話した内容をもとに紹介します。
西洋医が漢方にハマったわけ
オックスフォード大学で博士号を取得し、元は「サイエンス至上主義者」の外科医だったという新見先生。
それが漢方外来を立ち上げるまでになったのは、臨床の現場で「西洋医学では治らない人がいる」ことを痛感したことがきっかけでした。
「新しい引き出しを探そうと暗中模索していたとき、漢方に出会いました。西洋医学で治らない人に漢方を使うと、7割の患者さんは治療に満足し、納得してくれる。それなら、保険診療ができる漢方を道具として使わない手はないと思ったんです」(新見先生)
また、漢方薬=中国の伝統薬というイメージがあるけれど、日本で流通する漢方薬は「和漢」という日本独自の医学に基づいており、中国の伝統的な医学である中医学とは異なるとのこと。
材料として使われる素材も「食べ物の延長で、ほぼ安全」と新見先生。それでいて体調不良を改善したり、認知症が緩和したりとさまざまなメリットがあるのだから、使わないのはもったいないと話します。
漢方は風邪やインフルエンザにも効く
「漢方薬というと慢性病に有効で、急性の病気には効かないと思っている人が多いけれど、風邪やインフルエンザにも有効」だという新見先生。「風邪をひいたかな?」と思ったら、すぐに飲むことが大切だそう。
「自分の経験でいうと、うまく効くときの典型的例はこんな感じです。
少しぞくぞくして、なんとなく風邪っぽいと感じたら、葛根湯をお湯に溶かして飲んで、布団に入ります。汗が出ないときは、2時間後にもう一服。そうするとなんとなく汗ばんできて(微似汗)、翌日にはスッキリします。
この“微似汗”、少しだけしっとり汗をかく感じが大事です。多量の発汗は体力を奪ってしまい、風邪がスッキリ治りません」(新見先生)
「風邪には葛根湯」だけじゃない
じわーっと汗をかく“微似汗”の状態を作るには、自分の体にあった漢方薬を選ぶことが大切。風邪に効く漢方薬には、主に下記の4種類があります。
麻黄……風邪の初期に汗を出して治療する。インフルエンザのような高熱と関節痛の特効薬。たくさん飲むと胃に障ることがある。 葛根湯……汗が出ない初期の風邪に効く。 麻黄附子細辛湯……華奢な人や元気な高齢者の風邪薬。チクッとする喉の痛みや全身倦怠感を伴うときにも。 香蘇散……高齢者や胃腸虚弱な人の風邪の初期に使用する。「漢方では、飲める・飲めないを『がっちりタイプ(実証)』と『弱々しいタイプ(虚証)』と分けて考えます。麻黄が飲めれば、胃が丈夫ながっちりタイプです。
我が家を例にすると、14歳の娘はがっちりタイプの超実証なので、風邪をひいた当日は麻黄湯を飲ませます。私は実証なので、葛根湯。妻はすこし虚証なので、麻黄附子細辛湯。母は本当の虚証なので、香蘇散が合います」(新見先生)
「風邪には葛根湯」というイメージがありましたが、タイプによって選ぶべき漢方薬が変わってくるとは知りませんでした。
新見先生いわく、漢方薬を上手に使うと、本当に気持ちよく風邪やインフルエンザに対処できるのだそう。自己判断が難しいときは漢方外来の力を借りて、ぜひ自分に合った漢方薬を選んでみてください。
新見正則先生
1959年京都府生まれ。85年、慶應義塾大学医学部卒業。93年から98年まで、英国オックスフォード大学医学部博士課程に留学、移植免疫学の博士号を取得する。98年より帝京大学に勤務し、現在は公益財団法人愛誠病院顧問、帝京大学医学部外科准教授、帝京大学大学院 医学研究科移植免疫学指導教授、帝京大学大学院医学研究科東洋医学指導教授。2002年に本邦初の保険診療によるセカンドオピニオン外来を開設したセカンドオピニオンのパイオニア。2010年より愛誠病院漢方センター長。
取材・文/田邉愛理、image via shutterstock
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