本作に主演したのは、ドラマ『ブラックペアン』(TBS系)、現在放送中の『僕とシッポと神楽坂』(テレビ朝日系)などでさまざまな表情を見せている、女優・趣里さんです。
『生きてるだけで、愛。』では、絶対に寧子を演じたいという熱意を持って臨んだという趣里さん。今回はその想いと、趣里さんが思う人と人とのつながり、自分を愛するということについてお話を伺いました。
エンターテイメントの持っている力を信じて取り組んだ寧子役
――まず、趣里さんは寧子役を絶対演じたいと思ったそうですが、その一番の理由を教えてください。
生きていれば楽しいことだけじゃなくて、つらいこと、どうしようもないこともあります。寧子もそれを分かっているのですが、変わりたいのに変わることができず、前に進みたいのに進むことができません。そんな彼女のもどかしい想いがものすごくよく分かったんです。
以前、私はバレリーナを目指していたのですが、ケガで挫折してしまいました。そんなつらいときにエンターテイメントを見て救われたことがあったので、この役を演じることができたら、観てくださった方に少しでもエンターテイメントの力を感じて頂けるのではないかと思いました。
――寧子はひょんなことから外の世界とつながることになります。彼女の心には、本当は誰かとつながりたいという気持ちがあったと思いますか?
人を求めてというより、このままじゃダメという気持ちだったと思います。人の温かさに触れ、もしかしたら他の人とうまくやっていけるかもしれない、誰かが自分のことを分かってくれているのかもしれないと、だんだんと前向きな想いになっていくのではないかなと思います。
誰かとのつながりを感じられるのは幸せなこと
――感情をうまくコントロールできない寧子ですが、彼女は今の生きづらさを凝縮したようなキャラクターで、見る人が共感できる部分がどこかにあるような気がします。
私もそう思いました。だから原作も脚本も一気に読んで心がワクワクしたというか、高揚感みたいなものを感じました。
――今年10月のレインダンス映画祭(イギリス)で本作が上映された際、「うつ病という問題にも焦点を当てたかったのか」という質問があったようですが、大事なのはそこではなく、寧子と彼女を取り巻く人とのつながりというところなのかなと思いました。
人は人に影響されるし、何をするにもひとりでは生きていけません。人とつながるって難しいですけど、人生で一番大切なことですよね。誰かとつながっているなと思う時ってものすごく幸せですし、そういう時間があるから、生きていくという感覚を味わえるんだと思います。
――世の中に目を向けると、今は人と人とのつながりもネットを通して、というのが当たり前です。それも含めて、現実の世界の人のつながりというところで趣里さん自身が何か感じることはありますか?
確かに人と人との関わりという点では、ネットでも人と人とがつながっているような気分になりますね。今ではスマホがあれば動画も見られるし、連絡も取れるし、何でもできちゃうから便利なんですけど、依存してしまうところもあります。
だからお手紙は好きだし、もらうと嬉しいです。手紙はその人が時間をかけて書いたものだし、温もりを感じますから。でも、実際は直接会って話すのが一番好きなんですけどね。
過去の挫折を思い出しながらも人に寄り添い、未来へ進んでいきたい
――作品の中では人とつながるうえで、まず自分を愛するということも描かれています。寧子はそれに苦労していますが、趣里さん自身は自分を愛することは難しいと思いますか?
はい。なかなか難しいですよね。自分の気持ちや考えていることを100パーセント表現できないし、伝えられてないと思います。なんで自分ってこうなんだろうと思うことも多いし、自信もないし、もうちょっとこうだったらいいのになあと思うタイプなので。完璧な人間なんていないよなと思いつつも、気になるものは気になってしまいます。
――ご自分のどんなところが一番気になりますか?
ひとつ言えば、バレエでケガをしたことについて、なんでそうなっちゃったのかなとか未だに思いますし、ケガしなかったらどうなってたかなとすごく考えちゃいます。その一方で未来に未来に行かなきゃなという気持ちもあります。
――過去と折り合いをつけながら未来に向かっていくということでしょうか?
そうなりたい、と思っています。でも、過去に引っ張られてしまうことって誰にでもあって、そう感じながら今を楽しまないと、とも思っているんじゃないでしょうか。
――最後に伺いたいのですが、この作品をどういう人に見てほしいですか?
いろいろな人に観てほしいですね。観てくださる人のそのときの状況や環境、年齢によって、受け取り方や注目するポイントはまったく違うと思うんです。
ただ、人ってふと孤独を感じる瞬間があるじゃないですか。私自身、人の心に寄り添う人間でいたいと思っていますが、この作品は「人は一人じゃ生きていけない」ということを感じてもらえる映画だと思います。
『生きてるだけで、愛。』 11月9日(金) 新宿ピカデリーほか全国ロードショー
出演:趣里、菅田将暉、田中哲司、西田尚美、松重豊、石橋静河、織田梨沙、仲 里依紗
原作:本谷有希子『生きてるだけで、愛。』(新潮文庫刊)
監督・脚本:関根光才
©2018『生きてるだけで、愛。』製作委員会