体の貯水タンクを増やすには「牛乳」を
谷口先生によると、その栄養素とは「たんぱく質」。熱中症の予防には“たんぱく質リッチ”な飲み物、なかでも牛乳が適しているといいます。
牛乳といえば、3大栄養素とさまざまなビタミン、ミネラルがバランスよく含まれており、いつでも手軽に栄養補給できるドリンクの代表格。運動後にたんぱく質を摂取すると筋たんぱく質の合成が進むため、筋トレ後は牛乳を飲むという人もいるかもしれません。
でもなぜ、熱中症の予防に牛乳がよいのでしょう? 谷口先生いわく、熱中症の予防には、脱水症状を予防することが肝心。そのためにはじつは筋肉量を増やすことが大切だというのです。
「筋肉には水分をとどめておく“貯水庫”のような役割があります。筋肉の量が多ければ、それだけ多くの水分を体内に保持できるため、脱水状態になりにくくなります。そのため、日頃から筋肉を作る材料となる牛乳やたんぱく源となる食品をしっかり摂り、適度な運動をして筋肉を増やすことが熱中症の予防に有効なのです」(谷口先生)
牛乳に含まれるたんぱく質は、筋肉や血液の材料になる必要不可欠な栄養素。また、汗は血液から作られるため、汗をかきすぎると水分だけでなく血液中のミネラルも失われ、さまざまな障害が起こります。水分とミネラルを同時に補給でき、血液や筋肉を増やして脱水症状に強い体を作ってくれる牛乳は、夏の熱中症予防にぴったりのドリンクというわけです。
筋肉のもと“ロイシン”がたっぷり
必須アミノ酸のなかでも、バリン、ロイシン、イソロイシンの3種類(BCAA/分岐鎖アミノ酸)は「筋肉のもと」と谷口先生。筋肉に含まれるたんぱく質の分解を抑えて、筋肉のたんぱく質合成を促進する働きがあります。
牛乳にはこのBCAAが豊富に含まれており、なかでもロイシンの含有量の多さは見逃せません。筋トレの効果を高めると話題になり、サプリメントなども販売されているロイシン。牛乳には100mlあたり320mgものロイシンが含まれているといいます(※1)。
牛乳を飲む谷口先生おすすめのタイミングは「運動後」。牛乳には糖質や脂質といったエネルギーも含まれているので、運動時の疲労もしっかり回復することができるのです。
「牛乳+ビタミン」でさらに効果アップ
谷口先生らの研究グループは、「たんぱく質とビタミンB群を強化した食事」をとることで、熱中症になりにくい体になるかも調査しました。
計7日間、試験用の食事を女子大学生18名にとってもらい、サウナ(=暑熱環境)で深部体温、表面体温などを比較。すると、ビタミンB群を強化した食事をとったグループは、「ビタミンB群を強化した食事を食べた後の方が、サウナを快適に感じられる」と解答したとのこと。たんぱく質とビタミンB群をとったことにより、暑熱環境に順応しやすくなる可能性が示唆されたとしています(※2)。
また、ビタミンCをとることも効果的であると谷口先生。
「ビタミンCをとると、暑さに体が慣れやすくなるため、熱中症の予防に効果があると考えられます。さらに、ビタミンCには抗酸化作用がありますし、たんぱく質と一緒にとることで、細胞同士を結びつけるコラーゲンの生成を助ける働きもあります。牛乳とともに、ビタミンCが豊富な野菜や果物を積極的にとるとよいでしょう」(谷口先生)
体の“貯水タンク”である筋肉を増やし、水分・ミネラルを効率よく補給できる牛乳。牛乳が体質に合う人は、夏のドリンクとして積極的にとり入れてみるのもよさそうです。
牛乳のパワーをもっとチェック!
牛乳と豆乳、結局どっちを摂るべき? 気になる答えが明らかに
見た目も味も似ている牛乳と豆乳。ブレンドして飲むことでそれぞれの栄養素を効果的に吸収できるという管理栄養士の話をご紹介します。 https://www.mylohas.net/2018/06/169097milk2_diet.html?test201808牛乳が内臓脂肪を減らし、貧血を予防するって知ってた?
牛乳に含まれる「ラクトフェリン」に内臓脂肪を防ぎ、貧血を予防するうれしい効果があることが判明。カルシウムだけじゃない牛乳パワーに再注目。 https://www.mylohas.net/2018/03/milk_diet.html?test201808※1 日本食品標準成分表2015年版(七訂)、厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2015年版)」より
※2 「薬理と治療」Vol.44 no.1 2016より「たんぱく質およびビタミンB群強化食による暑熱順化への影響」
谷口英喜先生
医学博士。済生会横浜市東部病院 周術期支援センター長 兼 栄養部部長。「教えて!『隠れ脱水』委員会」副委員長。日本麻酔科学会指導医、日本集中治療学会専門医、日本救急医学会専門医、日本静脈経腸栄養学会指導医、東京医療保健大学大学院客員教授などを務める。著書に『脱水症と経口補水液のすべてがわかる本』(日本医療企画)ほか。
image via shutterstock