痛みの治療に使われてきた鍼が減量に役立つか
少し奇異に聞こえるかもしれませんが、アメリカ保健福祉省公衆衛生局(PHS)に属する政府機関、アメリカ国立補完統合衛生センター(NCCIH)によると、現代医学でも、この小さな針が神経と筋肉を刺激して、痛みを軽くする効果があると考えられているそう。事実、鍼療法で頭痛や背中の痛み、首の痛み、PMS、骨関節炎などが和らいだとする研究結果がたくさんあります。
鍼療法のさまざまな効果は科学的に理解されはじめたばかり。最近の研究は痛みの緩和以外の利用法を探っていますが、効果がありそうな用途は増え続けていて、なんと「減量」もそのひとつ。
脂肪を減らすための普通の方法とはだいぶ違いますから、小さな針が具体的にどうして体重を減らすことになるのか、鍼療法士と肥満症専門医に話を聞きました。
鍼療法が減量につながる理屈は?
ニューヨークの鍼療法士、ジェニファー・オウさんによると、「鍼療法はさまざまな面から減量を助けます」。なかでも重要な点は、消化、インスリン、ホルモンの調整を助けて、代謝を上げることだそう。
鍼療法の起源、中国医学の考え方では、主要な消化器官が100%機能していないと、代謝が遅くなります。
身体は脂肪を燃やすためにたくさんのエネルギーを使いますが、代謝が順調なら難なくこなせます。でも、「代謝に問題があるとエネルギーが低下して、身体は私が『低パワーモード』と呼ぶ状態になります」(オウさん)。そのため、体重を落とすのが大変に。
オウさんによると、身体のツボを刺激するのは、さまざまなシステムの「小さなオンオフ・スイッチ」を入れるようなもの。スイッチをオンにすれば、エネルギーの流れがよくなって、脂肪を燃やす力がアップするという理屈。
エネルギーが活発に流れるようになると、食欲も抑えられます、とオウさん。「空腹感はエネルギーが低下したというサインなのです」。そのため、エネルギーの流れが安定すれば、それほどひどく空腹にはならないはずだとか。
でも、鍼療法と減量についての科学的な意見は?
鍼療法と減量との関係について、科学者には別の理論があります。
鍼療法は炎症を和らげるかもしれません
2015年に行われた研究では、太った人80人に3〜6カ月間、低カロリー食を取りながら鍼療法を受けてもらいました。その結果、鍼療法は減量を助けるとわかっただけでなく、複数の研究で肥満に関係があるとされている体内の炎症も減らす効果があったそう。
別の研究では、太った人161人を2グループに分けて、一方には本物の鍼療法を、もう一方には偽物の鍼療法を受けてもらい、どちらも低カロリー食を取りました。6〜12週後、どちらのグループも体重が減りましたが、本物の鍼療法を受けたグループでは炎症のマーカー(炎症のレベルを示す標識)も改善。
鍼治療は空腹感を弱めるかもしれません
オーストラリア一般医学会の機関誌『オーストラリアン・ファミリー・フィジシャン』誌で報告された研究によると、体重が標準より多すぎる人60人を2グループに分けて、一方のグループには鍼療法と同じように神経を刺激する電気的な装置を2週間使ってもらいました。すると、食欲が低下して体重が減ったのです(使わなかったグループでは変化なし)。特定のツボを刺激することで、気分をよくする化学物質、セロトニン(食欲の低下に関係があるとされています)が放出されたためではないかと考えられています。
また、有名医学誌BMJのオンライン胃腸病学専門誌『BMJオープン・ガストロエンテロロジー』誌で報告された最近の本調査に先立って行われた予備的な研究によると、わずか1週間の鍼療法で、食欲増進ホルモンである「グレリン」のレベルが低下したそう。この研究は参加者が10人と小規模だったので、鍼療法が食欲増進ホルモンにどのような影響を与えるのか完全に理解するには、さらに研究する必要があります。
鍼療法は気分をよくするかもしれません
「ほかの理論では、やはり体重と食欲に影響するホルモン、コルチゾールとオキシトシンに鍼療法がよい効果を与えるとされています」と、認定肥満専門医のナンシー・ラーナマさん。
ストレスホルモンとしても知られるコルチゾールのレベルが高いと、体重増加に関連することが研究で示されていますが、鍼療法でコルチゾールが低下するかどうかは研究結果がわかれています。
それから、ラーナマさんによると、エンドルフィンに影響を与える可能性も。「鍼療法は神経系を刺激してエンドルフィンの放出を増加させ、そのために食欲が抑えられるとともに気分がよくなると考えられています」。幸福感が強いと、ストレスや感情的な原因によるジャンクフードの食べすぎが少なくなるため、理論的には、鍼療法が減量につながるかも。
それで、鍼療法は本当に減量に有効なの?
「研究の数は少なく、結果はさまざまですが、説得力はあります」とラーナマさん。しかし、それでは鍼療法を肥満のちゃんとした治療法として使えると言うには不十分。
それに、ひとつ大きな注意点があります。鍼療法は、健康的な食事計画や運動のように効果が証明されている従来の減量方法と一緒に使用した場合にのみ、効果があるようなのです。「鍼療法を正しく行えば、食欲の低下、気分の改善、ストレスの減少が感じられますから、減量プログラムの補助としてとても有効です。でも、鍼療法は肥満の『唯一の』治療法にはなりません」(ラーナマさん)
厳密には、体重が減ったのは「プラセボ効果」(実際に効能があるのではなく、効くと思っている心理的な作用で効果が出る現象)のせいだとも言えます。でも、だからといって、鍼療法は試す価値がないということにはなりません。「プラセボ効果であろうとなかろうと、よい効果が出るのであれば何でも役立ちます」(ラーナマさん)。
減量のために鍼療法を試すべき?
体重を減らそうとしているなら、そして針が怖くないなら、鍼療法はやせるための戦略の一部になります。ただ、「鍼療法だけに頼ると進みが遅いので、やる気がなくなるかも」(オウさん)
オウさんがすすめるのは、鍼療法を個人的なトレーニングセッション──ライフスタイルのさまざまな面で減量を助けるヘルシーな取り組みのひとつ──と捉えること。鍼療法だけでなく、定期的に運動して、健康的な食習慣に重点を置き、質のよい睡眠を取って、毎日リラックスする時間を見つけるようにすれば、はるかによい結果が得られます。
「自然で持続可能な減量と健康的な新陳代謝にしていくには、感情、信念、ライフスタイル、エネルギー、食べ物が身体に与える影響を、心と身体と精神で多面的に理解することです」とオウさん。鍼療法に手を出す前に、このような要素すべてに価値を置いて取り組んでいる療法士かどうか(単に万能の治療法と考えているのではなく)、確かめる方がよいかもしれません。
Macaela Mackenzie/ Acupuncture for Weight Loss: Does It Work?
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