今年のはじめ、『ジャーナル・オブ・クリニカル・メディシン』誌で発表された研究で睡眠トラッキングアプリの実際の効果が調べられました。多数の症例を調べてトラッキングアプリが睡眠に役立つ可能性は低いと明らかになりました。ほとんどの睡眠をかえって悪化させていたそうです。
「完璧な睡眠を得ようと思うあまり、ドツボにはまってしまう人がいます」とこの研究の筆頭著者でシカゴのラッシュ医科大学行動科学助教授のケリー・グレイザー・バロンさんが話しています。
ある男性は、トラッキングアプリで睡眠が毎晩8時間記録されていないと焦って翌日には身体が動かなくなったそうです。睡眠時間は平均で毎晩7時間45分でしたが、8時間を目標としたことでかえってストレスになって良くなるどころか悪くなってしまった、とバロンさんは言います。「疲れてもいないのにベッドに横たわって、睡眠に無駄なことを続けていたのです」
トラッキングアプリのデータに頼ってよいのでしょうか?
睡眠トラッキングアプリの性能はよりよくなっていて、正確な記録が可能になってきていますが、多くのトラッキングアプリやウエアラブルデバイスでは正しく睡眠を把握することはできない、とバロンさんは注意を促します。
「トラッキングアプリでは眠りが浅いのか深いのか、それはほとんどわかりません。十分に眠れないといってトラッキングアプリのデータを持って相談に来る人がいますが、別に睡眠脳波に基づいて測定されたわけではなく、本当かは分かりません」(脳波は睡眠やてんかんのような病気の状態を調べるために脳の電気的活動を測る検査法です)
トラッキングアプリは手首のちょっとした動きを、眠りが浅いとか目が覚めているとかの証拠として判定するため、睡眠を正確に測るというにはほど遠い、とバロンさんは言います。
「手首の動きでは脳波がどうなっているのかは検出できないのです」。
データが正確だとしても、役に立たない
睡眠トラッキングアプリの使用が睡眠の改善につながるという証拠はこれまで報告されていません。
スリープ誌で2015年に発表された研究によると、「デバイスの機能や利点として宣伝されている特徴は、ほとんどのケースで証明できなかった」といいます。
中でも「寝つけない人」や「睡眠で十分に疲れが取れないと悩んでいる人」が睡眠トラッキングアプリによって不安を悪化させているようだ、とバロンさんは指摘しています。トラッキングアプリについて、「睡眠をめぐる不安を増長したり、睡眠の完璧主義を強いたりしている」と批判的です。
睡眠トラッキングアプリなんて気にしないほうが睡眠パターンは健康に保たれると主張する人もいます。睡眠を考えすぎて、ベッドに入るともっと考えるようになって、その結果、眠りにつくことができなくなってしまうためでです。
「多くの人々がたくさんの睡眠が必要と考えて、睡眠の改善に興味を持ってくれているのは全体としてはよろこばしいことです」とバロンさんは言います。一方、かなりの人が睡眠トラッキングアプリの恩恵が何かを理解できていないと指摘します。
「日々ストレスを感じていて、働きすぎの傾向があって自分の睡眠量もよく分かっていないような人が、気づきのために睡眠トラッキングアプリを使うのはいいかもしれません」とバロンさんは言いますが、「でも、そんなケースであっても効果的かどうかデータはありません」
もっといい、安上がりなオプション
多くの人々にとってもっと睡眠が必要なことに疑いはありません。最新の全米安全評議会の報告によると、アメリカ国民の半数は睡眠不足であると認めています。しかし、睡眠の習慣を事細かに追跡するよりも、「睡眠の質」の改善にもっと注目する必要があります。
「就寝時刻を毎晩同じにして、ベッドに入る前にはテレビなどの画面を見ないようにしましょう」とバロンさんは言います。「就寝の15分から30分前に余計な番組を見ないことがきっと良い効果をもたらしてくれます」
寝る直前に食べたり飲んだり、見たり、読んだりといったベッドタイムの前の習慣を記録する機能が、一部の睡眠トラッキングアプリにはあります。確かに、そうした機能ならば、睡眠を邪魔しているのが何かを見つけるためには役立つかもしれません。
もっと睡眠を取りたいというのを、あなたの夫、または妻、パートナーに話し、ちょっと早めに明かりを消すことも、バロンさんはすすめます。「眠るために別に電子機器は要りませんよ」とも言っています。
Markham Heid/Sleep Tracking: Could It Be Making Your Sleep Worse?
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