ヒトが健康でいるために、たんぱく質は必要不可欠。ところが現代日本では、性別・年齢を問わずたんぱく不足の傾向にあり、専門家が危惧する事態になっているといいます。赤坂ファミリークリニック院長・伊藤明子先生によるレクチャーの内容と、ニューヨークで注目される高たんぱく食材グリークヨーグルトについての最新レポートをお届けします。
あらゆるリスクが増大するたんぱく不足
テレビでも話題の“東大ママドクター”こと、赤坂ファミリークリニック院長・伊藤明子先生。小児科医師・MPH(公衆衛生専門職)として非常に問題視しているという、たんぱく不足について語ってくれました。
伊藤先生が紹介したナカムラらの研究(1989年)によると、今から100年ほど前の明治33年、日本人の平均寿命は35歳だったそう。その理由のひとつとされるのが、たんぱく質摂取量の少なさです。
たんぱく質は、ヒトが健康でいるための3大栄養素(たんぱく質・脂質・炭水化物)のひとつ。日本人の摂取量は戦後順調に上がっていったものの、バブル崩壊後に徐々に下がっており、男女とも、どの年齢でもたんぱく質の摂取量が下がっているのが日本の特徴だと話します。
たんぱく質は、20種類のアミノ酸がつながってできています。アミノ酸のうち、トリプトファンなどの必須アミノ酸は体内で作ることができないため、食品やサプリメント、口から食べられない場合は胃瘻、点滴などで摂らなければなりません。
伊藤先生が挙げていたたんぱく不足による不調・疾患は下記の通り。
筋骨格の脆弱化、筋力の低下 皮ふ・髪の劣化 認知思考力の低下 情緒・精神の不安化 免疫力の低下免疫力の低下トリプトファンひとつをとっても、やる気ホルモンなどの脳内伝達物質の材料として欠かせない栄養素。たんぱく質の機能はありとあらゆるところに作用しているため、ないと健康ではいられないのです。
1日に必要な目安をチェック
ところが朝食を抜いたり、「やせ型志向」の女性が増えたりしているために、日本人女性のたんぱく質摂取量はいまや1950年代と同水準にまで落ち込んでいます。BMI値が18.5を切ると「低栄養」となりますが、20代では30%、30代では15%が痩せすぎの傾向にあり、国が危険視しているほどだそう。
伊藤先生が、ある程度体を動かしながら健康に過ごすために必要な栄養についての先行研究を調べた結果、1日に推奨されるたんぱく質の摂取量は75g。1日で下記の食品をとれば、ほぼクリアできることになります。
肉・魚100gに含まれるたんぱく質……約25g 卵100g(2.5個)に含まれるたんぱく質……約12g 大豆・豆乳100gに含まれるたんぱく質……約5~7gこれに従えば、朝食に卵料理とほかタンパク源を食べ、昼食と夕食に肉か魚を1品ずつ、少なくとも2種類を組み合わせて、副菜・間食・飲料などで大豆製品や乳製品を摂ればOKといえそう。
ニューヨーカーはグリークヨーグルトでたんぱく質を補給
健康な体を作るためのたんぱくの重要性は海外でも高まっており、間食がわりにたんぱく質が豊富なヨーグルトを食べる「トリプルゼロ」のヨーグルト(砂糖ゼロ、人工甘味料ゼロ、脂肪ゼロ)が一般的になりつつあるとのこと。
ニューヨークのおしゃれなトライベッカあたりには、ヨーグルトのみを扱うヨーグルトバーや、より専門性の高いアーティザンショップが続々と登場。日本では珍しい乾燥ヨーグルトや、野菜や肉にトッピングして食べる方法なども広まり、ヨーグルト市場が拡大しています。トリプルゼロの路線の中でも、とりわけニューヨークでブームとなり、北米全体で急成長しているのが、高たんぱくで人気のグリークヨーグルトです。また、手軽にスルッと食べられる(飲める)Yogurt-on-the-goというスタイルも人気です。
プレーンヨーグルトの水分を切ることで、水気が減ってしっかりした重量感をもちつつ濃厚でなめらかな口当たりが生まれます。ギリシャでは昔から、ヨーグルトを素焼きの器に入れて保存する習慣があり、この器が水分を吸収するために、ヨーグルトの水分が抜けたグリークヨーグルトが生まれたのだとか。
グリークヨーグルトに含まれるたんぱく質は、プレーンヨーグルトの約3倍と言われます。ニューヨークでは2006年ごろから売り場に並ぶようになり、いまではアメリカのヨーグルト市場の5割を占めるまでに成長したそうです。
筋肉をつけて健康的に体重を落とすために
健康=美しいと考えるニューヨーカー。ダイエットでも「筋肉をつけて健康的に体重を落とす」という考え方が主流であり、食事をがまんするよりもむしろ、たんぱく質を摂って運動をしようとする人が多いといいます。
日本でも「明治 THE GREEK YOGURT」シリーズなど、脂肪ゼロの本格派グリークヨーグルトが登場しており、健康食材としてますます注目度アップの予感。エクササイズ終わりのたんぱく補給にも、ぴったりのおやつになりそうです。
伊藤明子(いとう・みつこ)先生
小児科医師、公衆衛生専門医。同時通訳者。東京外国語大学イタリア語学科卒業。帝京大学医学部卒業後、東京大学医学部附属病院で臨床研修。同病院小児科入局。東京大学大学院医学系研究科公共健康医学専攻修了。同大学院医学系研究科公衆衛生学/健康医療政策学教室客員研究員。2017年より赤坂ファミリークリニック院長、NPO法人Healthy Children, Healthy Lives代表理事。近著に『小児科医がすすめる最高の子育て食』(講談社)、過去の著書・共著に『天然ヘルシー「調和食」レシピ』『イタリアン・テルメ』など。「林修の今でしょ!講座」「主治医が見つかる診療所」などのテレビ番組に出演。
取材・文/田邉愛理、image via shutterstock