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健康のカギを握っているのは、カラダの小さな微生物 [The New York Times]

2018/03/20 23:00 投稿

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人の体内には何兆という微生物がマイクロバイオーム(微生物叢)という集合体を形成している。最近の研究により、そのバランスの乱れが肥満や、精神障害を含む様々な疾患に関係することがわかってきた。この解明が進めば、医療が一変する可能性もある。(以下、2017年11月6日付ニューヨーク・タイムズ記事の抄訳)

微生物の集合体「マイクロバイオーム」

自分の体内の微生物について知りたいと思う人はあまりいないかもしれない。それでも、先端技術によって、人の体に棲む微生物の解析が可能になってきた。研究で情報が得られれば、体の不調を防ぎ、果ては、一命を取り留めることも可能になるかもしれない。

ここでいう微生物とは、細菌、ウイルス、真菌のことだ。かつて無菌と考えられていた細胞組織を含め、人体のほぼ全組織に渡って何兆もの微生物が存在し、マイクロバイオーム(微生物叢)という集合体を形成している。各器官の微生物叢の正常な状態を捉え、乱れが生じた場合にバランスを整える方法を見つける。そんな微生物叢の研究は、現代医療の中で最も有望で、難しい分野かもしれない。

既に原理が証明されている例には、クロストリジウム・ディフィシル腸炎がある。この腸炎は、ディフィシル菌の増殖を抑える正常な細菌類が抗生物質によって腸内から一掃されてしまった場合によく起こる。

他の治療法が効かない再発性クロストリジウム感染症に対して、ディフィシル菌の活動を抑える細菌を持つと考えられる健常者から糞便移植する治療法が米国食品医薬品局によって認可された。その効果は非常に高く、治癒率は90%を超える。

医療が大きく変わる可能性も

米国立衛生研究所の助成の下、大勢の科学者がヒト・マイクロバイオーム・プロジェクトに取り組んでいる。正常な状態にある微生物叢のロードマップを作成するプロジェクトで、対象組織は、胃腸菅、口腔、皮膚、気道、尿管、血液、眼球だ。大規模な遺伝子データを迅速に解析する技術を用いることで、各組織内の微生物群の同定が可能になっている。

組織にもよるが、微生物叢に存在する微生物の20%から60%は培養が不可能で、これまでの旧式技術では同定できなかった。しかし、この5年越しのヒト・マイクロバイオーム・プロジェクトで、疾患と関連した微生物叢の変化を捉え、問題組織のバランスの乱れを正す方法を見つけることができれば、医療が一変する可能性がある。

肥満と微生物叢の関係

また、過去の研究によって、やせ型と肥満型の人では、胃腸内の微生物叢に違いがあることがわかっている。高カロリーで糖分や肉、加工食品が多く含まれる典型的なアメリカの食事は、腸内の微生物群のバランスを乱し、余分なカロリーの抽出、吸収を促す可能性があることを示す証拠もある。逆に、果物や野菜が中心の食事を摂れば、健康に役立つ微生物を多く含む多様性に富んだ微生物叢の形成につながる可能性がある。

ある研究では、典型的なアメリカの食事に基づく微生物叢を持ったマウスに野菜中心の食事を与えても、すぐに健康的な反応は示さなかった。やせたマウスと比べ、肥満のマウスではバクテロイデスと呼ばれる種類の菌が50%も減少し、それに比例してファーミキューテスが増加した。また、肥満のマウスから糞便移植をした後、やせたマウスは太った。人間の場合も同様の変位が見られ、肥満治療手術を受けて減量した人については、バランスが偏よっていた微生物叢に変化が見られた。

腸内環境は体の別の部位にも影響する

腸内の微生物が免疫反応を通じて体の別の部位に影響を与えることを示す証拠もある。この間接作用は、リウマチ性関節炎の原因とも考えられている。マウスを使った実験では、腸内の細菌が関節を襲う免疫体の生成を助長し、リウマチ性関節炎につきものの関節の破壊を引き起こすことがわかった。

同様に、精神分裂症、強迫神経症、注意欠如多動症、自閉症、果ては慢性疲労症候群といった神経精神病の発症に腸内微生物叢が関係することを示す研究もある。遺伝的感受性を持つ人では、腸内の微生物叢の乱れによって血液脳関門が破壊され、正常な脳の発達に悪影響を及ぼす免疫体を生成するようになると考えられている。

腸内を健康に保つにはベジがいい

image via shutterstock

健康と疾患における微生物叢の役割を解明する際に問題となるのが、様々な組織で見られる微生物叢の変化は原因か、もしくは結果か、という判断だ。色々な症状に関連する微生物叢の知識のほとんどは観察に基づく。そのため、病気と微生物叢の乱れのどちらが引き金なのかを判断するのが難しい。

前述の動物実験などは、治療のヒントは与えてくれるが、人間で同様の効果が見られるかを証明するものではない。微生物叢の影響を受けていると考えられる症状を持つ患者は、現在進行中の治療研究が終わるまで、動物実験や初期の臨床試験に基づく治療に頼るしかない。

例えば、過敏性腸症候群、炎症性腸疾患、アレルギー性疾患や薬剤耐性菌の感染については、プロバイオティクスが効く可能性があるが、健康食品店やドラッグストアで売られているプロバイオティクス商品の中には効かないものもある。症状に合わせて、または患者ごとに治療薬をあつらえなければならない可能性もある。

また、健康な腸内微生物叢を望むのであれば、肉や炭水化物、加工食品が多く含まれる食事から野菜中心の食事に切り替えることを検討すべきだ。ワシントン大医学部のゲノム研究の専門家ジェフリー・ゴードン医師が昨年述べた通り、「食物の栄養価は、その食べ物に遭遇する微生物のコミュニティによって幾分影響を受ける」。

© 2017 The New York Times News Service

[原文:Unlocking the Secrets of the Microbiome/執筆:Jane E. Brody]

(翻訳:Ikuyo.W)

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