北海道の大自然で共存する鹿と人間の現実
これは、北海道鵡川で鹿肉を手がける「むかわのジビエ」が、行政からの要請を受けて、交通事故で放置された野生のエゾシカを処置しに駆けつけた時の記録です。子どもを身ごもったまま下半身が動かず、痛みに耐えていたお母さんジカは、近隣の住民がかけた毛布やエサなど人の情に囲まれながらも、最期の止めを撃たれます。
まだ息のある時の鹿の情景と、撃つ側の人間の気持ちがストレートに描写された投稿は、1週間足らずで、4,000名以上の「いいね!」と2,000名以上がシェアするほど、多くの人に命について考える機会と衝撃をもたらしました。
北海道では、ちょっと郊外に行くと、悠々と大地を駆けるエゾシカたちの姿を見ることができます。人間を怖れずに、ひょっこり現れる人懐こい姿も。ただその分、食害も深刻です。農林水産省が発表したデータでは、鳥獣害の78%を鹿が占めている一方で、ジビエ流行りで心ない仕留められ方をする動物もいて、ジビエを手がけないことを宣言するシェフも現れています。
女性ハンターが手がける、想いのこもった鹿肉
深い雪をこぐように進んだ、鹿の足跡。厳しい冬を乗り越えるために、北海道の鹿は脂身が多く、肉が締まっている。人と野生動物の共存が課題とされている中で、大きな気づきを投げかけた「むかわのジビエ」の代表・本川哲代さんは、なんと38歳の時に脱OLしてこの世界に飛び込んだという女性ハンターでした。退職当初、農業を学んでいた本川さんは、猟師の高齢化と後継者不足のニュースを見て、狩猟の世界へと転身していきます。最初はベテランの親方に師事しますが、現在は、猟から解体まで地元の有害鳥獣駆除従事者として活動しています。そんな本川さんは、親方ゆずりの“狩猟の流儀”を大切にしているのだそう。
「鹿は本当に可愛いんです。大好きです。生きていた時の姿のままで死なせてあげたいと、せめてもの、動物への尊厳を大切にしています。仕留める時は、一撃で絶命させます。顔が損傷しては可哀想ですので、頭は狙いません。こんなハンターがいるんだという、親方の技と肉を伝えたいという想いでやっています。鹿の行き着く場所、命を食べるということ、鹿と生きる地域の現実など、さまざまな想いが重なって、この処理場は出来上がりました」(本川さん)
食べやすく栄養価も高いジビエ料理
「むかわのジビエ」で小売りしている、鹿肉のロースと肩肉。どちらも300g 1620円。ほか、鹿肉のハンバーグ 150g 650円なども(税込、価格は変わる場合もあり)。※地方発送可ていねいに下処理を施した鹿肉は、扱い方を熟知したお店にしか卸さないという本川さん。そんな鹿肉は、地元の飲食店ほか、本州のミシュランガイドお墨付きのレストランなど、素材にこだわりを持つシェフから熱い支持を得ています。
ジビエ料理のシーズンは11〜2月が主ですが、スライスの鹿肉や、ハンバーグ、ソーセージなどの加工品は年中入手が可能。家庭でいただく場合は、すきやきが調理に使いやすいとのことで、実際にいただいてみると、くさみは一切なく、脂の甘さにビックリ。胃にももたれません。鉄分が多く含まれているそうで、体温が上昇するのが自分でもわかるほどポカポカに。女性には特におすすめなのだそう。
日高・イタリアン「JUN DIVINO」。ワインがすすむ、鹿のサルシッチャ(肉詰め)。 札幌・自然派ワイン食堂「Tipp’s」。甘酸っぱいベリー系のソースが、鹿肉によく合う。 鹿すきやき「私たちは、山の恵みをいただいていますが、それを“命に感謝”という言葉は使いたくないんです。だって、人間の都合で、命を奪っているんですから」という本川さんだからこその、経験に裏付けされた仕事への愛。「命をいただく」ことの意味と想いが、噛み締めるごとにしみじみと伝わってくる鹿肉です。
[むかわのジビエ]
<「むかわのジビエ」の鹿肉が食べられる飲食店>
【北海道】 Bistro wine-ya(旭川・ビストロ), バンケット(札幌・フレンチ), Tepp’s(札幌・自然派ワイン食堂), ヨルコワリ(札幌・焼き鳥), ジェラパタット(倶知安・フレンチ), izakaya –sou-(苫小牧・串焼き), 創作四川料理 廣明 Hiroaki(苫小牧・創作中華), JUN DIVINO(日高・イタリアン)【東京都 】オマージュ(浅草・フレンチ), ベルクオーレ(江戸川区・イタリアン)【大阪府】 ラシーム(瓦町・フレンチ)【愛知県】 Barca(愛知郡・イタリアン)
※仕入れの関係がありますので、ご予約の際にお問い合わせください。
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