つい先日、道でアヒルを拾った。車で夜の県道を走っていたところ、夫が「アヒルだっ!」と、叫んだ。よくもまぁ、ヘッドライトに照らされた一瞬のシルエットで「アヒル」とわかるものだなぁと感心しつつ、そこで娘が「お願い!戻って、戻って〜」と引き返すことを要求してきた。いや、まっとうだ。引き返してほんとに「アヒル」か確認しないと。

Uターンしたら、アヒルはトリ目のせいか、道端にうずくまってじっとしていた。夫が着ていたネルシャツをガバッと脱ぎ、ガバッとアヒルを捕まえた。そんなことをしてもなお、じっとしている。弱っているのだろうか?と心配になったけれど、まずは家に連れて帰ることに

犬のゲージを出して、そのなかに入れた。何を食べるのか、どんな鳴き声なのか。こうしていざ対面してみると、アヒルについて一切の知識がないことを知る。パソコンで「アヒル」を調べ、その結果このアヒルは、バリケン種だということが明らかになった。ためしに米ぬかをあげてみた。食べる。かぶの葉っぱをあげてみた。食べる。小エビ、鰹節、冷やご飯......なんでも食べる。

次の朝、おそるおそる屋上に放ってみた。そうしたら、クエックエッと小さなか細い声で鳴きながら、水かきのある足でペタコンペタコンと歩いた。実に、かわいい。たちまち家族みんな、目がハート。夫はあっという間にアヒル用に新築を建てた。

「名前はどうする?」と子どもたちに聞くと、「やっぱ、ダブダブじゃん!」と即答。そう、「ドリトル先生」に出てくる、アヒルのダブダブから命名。家族の一員となったダブダブは、おとなしくて人のあとをくっついて歩き回る、やたら人懐こいアヒルだった。

そんなダブダブがつい先日、脱走した。たぶん、テーブルの上に載っていたマフィンを盗み食いしたせいで、シュガーハイになったのだろう。近所のおばあが、「あんたんとこ、鳥、養ってないかね」と、息を切らせて訪ねてきた。いないいないと探していた最中だったので、「はい、養っています!」と、そのおばあの経営する美容室に行ったら、なんとダブダブはちゃっかりソファーに座り、ビスケットまでもらっているではないか。「こんな人慣れしてる鳥だから、きっと主がいるだろうと思ってさー」とおじいが言った。別のおばあも、「主が見つからんかたら、警察に届けよう思ってたさー」とホッとしている。そして、猫が3匹もダブダブを狙っていたことや、チョコレートは食べなかったことなどを、アヒルを取り囲んでやいのやいの言っている。

ふと美容室のおばあが思い出したように、「ところで、この鳥の名前はなんね?」と聞いてきた。「はい?えーと、ダブダブと言います。ひとつ、よろしくお願いいたします」と答えると、3人とも妙な表情をしている。「ダブ...ダブ...」と、いぶかしげっている。どうやら、鳥の種類のことを聞かれたらしい、ということは、帰ってから気がついたけど、まぁいいか。

そんなダブダブは、きょうもご機嫌で屋上を散歩している。最近は、鳩まで遊びに来るようになったけれど、当のダブダブは見向きもしない

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