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強者じゃないけれど、それが何か? な生き方が素敵『ロスト・イン・パリ』【さぼうる☆シネマ】

2017/08/18 23:00 投稿

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もしかしたら、はじめまして(まだ連載4回め)。
「風味、味わい」のような意味を持つ"savuer"をちょっと和風に発音しての、さぼうる。雑食系映画紹介人、松本典子がお届けします。今回は、一緒に夏のパリを歩き回りたくなる『ロスト・イン・パリ』と、いかなるときも音楽に合わせて行動しちゃう(けれどその理由がちょっと切ない)青春〈犯罪〉ラブストーリーwithカーチェイス『ベイビー・ドライバー』をご紹介いたします。

セーヌ河畔を裸足で散歩したくなる♪ ......『ロスト・イン・パリ』

パリには何だか自由の匂いがします、よね? その匂いにつられたのか、パリへと旅立ったままマイペースな人生を切り開いている......という人、あなたの周りにもいたりしません? 私の周りには多少、います。パリに住もう。住むなら、絵を描いて生きていこう......と本格的な勉強などしたことないのに出掛けてっちゃった女性とか。そんなヤブカラボウ的異邦人も受け入れてくれる懐の深さがどうやらパリにはあって、もちろん彼女に才能があって。今や素敵な作品をどんどん発表しながらパリの自由人♪を謳歌してらっしゃる(※1)。

本作『ロスト・イン・パリ』で、カナダの田舎に住むフィオナにパリからSOSを発信した彼女のおばマーサも、どうやら前述の彼女の大先輩格。絵筆ではなくダンスシューズを相棒に自由を謳歌してきたらしいのだけれど、何十年かぶりの便りで「老人ホームへ入れられてしまう。フィオナ、助けて!」と。幼い頃かわいがってくれた彼女を放っておけるはずもなく、フィオナはいざ初めてのパリへ。おろおろしながら、あろうことかセーヌ川に全財産を落っことしてしまったり、ホームレスのドムにつきまとわれたり、マーサが亡くなったと知らされたり!?

いわばフィオナのパリ珍道中を描く作品なのですが、登場するのは無一文の旅行者(フィオナ)、逃げまわる老人(マーサ)、悠々自適なホームレス(ドム)......と "花の都パリ"にはあまり縁がなさそうな人ばかり。しかし、彼らの表情には未来への多少の不安がよぎることがあっても、他者への羨望や不満は見当たらず。飄々と自由を謳歌しながら、彼らはみな自分ならではの喜びを見つけ味わっている。観ている私たちを(笑わせるだけでなく)元気づけてくれたりもします。

セリフが少ないのは、道化師の研鑽を積みバーレスク・コメディで名を上げたフィオナ・ゴードン&ドミニク・アベルが共同監督と主演を務めているからこそ。登場人物たちの自由を愛する心持ちを、セリフではく身体の滑らかな動きや仕草でもって表現しているのが、この映画の大きな魅力にもなっています。ときにコミカルであり、ときにすこぶる優美でもある(そういう意味ではパリほど似合う場所はないかも?)。マーサが彼女の古くからのボーイフレンドと何気に楽しむ脚ダンス(!)の多幸感たるや、本作で最もキュンとする素敵なシーンです。

タイトルは直訳すると「裸足のパリ(Pais Pieds Nus)」なのだそうですが、なるほど裸足で散歩したくなるような作品で、かつ、トーンとしては『ぼくの伯父さん』などのジャック・タチ作品が好きな方にも楽しめそうです。また、『ロスト・イン・パリ』が気に入ったなら、グンと時代を遡って『アタラント号』(ジャン・ヴィゴ監督)を観るのも一興(※2)。新婚旅行でパリにやって来た若い夫婦のこの旧作から、"セーヌ川に落ちる"、"悶々と過ごす別々の夜"、"大きな花輪"などが何気なく引用されている本作に改めてニヤリ......ってオタク的かしら(笑)。


※1「"不法占拠"アトリエで自由になったアーティスト」(川本有緒著『パリでメシを食う。』内)に詳しいです。オススメ書籍!
※2 少し不安だった『アタラント号』についての連想は、批評家の小柳帝氏も指摘されていたのでホッ(&嬉)。



音楽大好き!アクション楽しい! のベストタッグ、なのにキュート♡『ベイビー・ドライバー』

オフビートなパリから一転、シャウトが小気味よい『ベイビー・ドライバー』。こちらもオススメです。音楽が映像と足並み揃えて、となるとミュージカル映画やミュージックビデオ?となりそうですが、この作品、両者の関わり方が今までにはない新感覚。音楽がきっかけや燃料になって人を動かすのですが......それが言葉では説明しにくいほどに映画的!なのです。

 ベイビーと呼ばれる主人公(アンセル・エルゴート)は、いつ何時も音楽から耳を離さない。音楽に合わせて行動する寡黙な青年。iPodとイヤホンを離せない理由も実はあるのですが、何と! 警察から追われるときでもその流儀を崩しません。ベイビーは、銀行強盗の逃亡を請け負う凄腕ドライバーなのでした。そんな彼が犯罪組織から抜けようという頃に恋をして、未来を見すえ始めて、けれど危機は迫り、立ちはだかる壁を何とか乗り越えようとする......ああ、青春だ!

冒頭からいきなりのカーチェイスで、流れるのはジョン・スペンサー・ブルース・エクスプローションというバンドの「ベルボトムズ」。音楽好きなエドガー・ライト監督が30年も前に「カーチェイスにぴったりだ」と惚れ込んだだけのことはあって、これがドンピシャ。真っ赤なスバル・インプレッサで逃げるの? 目立ちすぎじゃない?と思わせながら、そこを逆手に取っての走りも含めて徹底的にビートに乗せるベイビー。彼のハードなドライビングと少年のようなピンク色の頬のコントラストに、ついクスクスと笑っちゃいながらこの世界観へ突入。

何ごとも音楽に合わせて、という彼の主義は徹底しています。コーヒーを買いに行くときも、オーダーするときもビートに乗って。リズム刻みながらの強盗作戦会議って初めてみましたし。動きに自然と気持ちが出てしまって図らずも自己表現しているベイビー。けれど、この気分は少なからずわかりますよね。我々だって無意識かつ自然な調子で音楽に合わせて闊歩していること、ありますでしょ?

音と動きがバシッと決まるときの痛快な気分、音楽に気持ちを乗せて運びたくなる切なさ。そうしたものを煮詰めて、煮詰めて、昇華させて......ワクワクな青春クライム・サスペンス・ラブストーリーに仕上げたライト監督。思いもつかないアイデアで犯罪と恋愛を並走させながら、ストーリー、アクション、ビート、歌詞などを縦横無尽にリンクさせていきます。その一方で、ダメな奴らの友情と団結を眩しく描くのも、とてもお上手な彼(『ショーン・オブ・ザ・デッド』、『アタック・ザ・ブロック』、『ワールズ・エンド /酔っぱらいが世界を救う!』......超オススメ)。ホッコリしたテイストは、本作ではベイビーと育ての親との交わりでじっくり味わっていただければと思います。育ての親のご老人も、すこぶる魅力的なので!


『ロスト・イン・パリ』
主演&監督:フィオナ・ゴードン、ドミニク・アベル
http://www.senlis.co.jp/lost-in-paris/
渋谷ユーロスペースにて公開中、他全国順次公開予定

『ベイビー・ドライバー』
出演:アンセル・エルゴート、ケヴィン・スペイシー、ジェイミー・フォックスほか
監督:エドガー・ライト
http://www.babydriver.jp/
8月19日(土)より新宿バルト9ほかにて全国公開

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