連載2回目となる今回は、ファッション誌編集者からトレーナーへと転身した内田あやさんがゲスト。筋肉フェチな清水さんに投げられた「筋肉が大切だからこそ、"抜く"ことも意識を」という言葉の意味を探ります。 ファッション誌の世界からボディワークへ転身した理由
清水:さん(以下清水:)
今日はありがとうございます。今はトレーナーさんとして大活躍の内田さんですが、実は編集者で、私とごく近いところでお仕事をされていたんですよね。
内田:あやさん(以下内田:)
そうなんです。『25ans』と『Figaro』編集部に合わせて8年ほどいました。
清水さんのこともその頃から存じ上げていましたよ。
清水:
どういうきっかけで、ボディワークの世界に興味をもたれたんですか?
内田:
子どもの頃から体を動かすことが好きで、それに関係した仕事をしたいなという想いはあったんですよ。写真も好きだったので、たまたまファッション誌の世界に飛び込みましたけれど。
清水:
内田さんの中では、ファッションもボディに携わるお仕事の延長戦上にあったということ?
内田:
そうなんです。撮影するときにモデルをどう動かすか、服をどうキレイに見せるかを考えますよね。ムダのない美しい動きを探す作業という意味では、ファッションの世界もボディワークの世界も同じことをやっている感じかな。
清水:
ムダのない美しい動き、絵になる瞬間って、そんな動きと服がマッチした時ですよね。
清水:
内田さんの本『エグゼクティブ・ボディ・チューニング』、すごく興味深く読ませていただきました。
内田:
ありがとうございます!
清水:
その中で印象に残った言葉、、たくさんありますけれども、「ガンダムのような"鎧としての体"ではなく、エヴァンゲリオンのような"しなやかな体"であるべき」というくだりがあって、ハッとさせられました。
内田:
あの本を書いたのは数年前なので、今はもっと内側にも興味があります。体も鎧のようなもので、もっと内側があるはず、と。そうやって考えていくうちに、体の「構造」ではなく「機能」を極めたいと思うようになりました。
清水:
構造でなく、機能、なんか、もっと深化されてますね。ファッションもボディも突き詰めて考えると、だんだん奥まったところに行きますよね。
内田:ファッションってすごく外側のように思われるけれど、実は内側が大事ですよね。内側の身体の表情、動き、そういうものがものを言うんですよね。
清水:特にシンプルな装いになるほどそうですよね。白シャツ一枚でサマになる!って究極のファッションであると思いますが、それこそ、内側がモノをいうわけで。
内田:しかも、ハンガーでないのだから、動く身体の、ムダのない綺麗な動きがモノを言いますよね。それにはしなやかさ、って大事なのです。
清水:しなやかな身体、シンプルな服の映える着こなしのキーはそれですね。
「鍛える」は「ゆるめる」とセットで考えるべし
清水:
そもそも内田さんが最初にトレーナーの資格をとられたのは、ジャイロトニックでしたよね。
内田:
そうです。その後にヨガやタイマッサージなども学び、チューニング®という独自のメソッドを編み出しました。
清水:
チューニング、ってまったく新しい考え方ですよね。
内田:
はい。体を機能的にとらえるようになると、「鍛える」というのが一方向しか見ていないのかな、と感じるようになったんですよ。
清水:
世の中のエクササイズの大半は「鍛える」を目的にしていますよね。
内田:
たとえばアスリートでもモデルでも、トップクラスの方って動きが動物的じゃないですか。
清水:
ランウェイなどを見ていると、まさにその通りだなと思います。トップモデルってただ細いだけじゃなくて、野性的でしなやかな動きをしますよね。
内田:
「鍛える」という言葉には強くする、筋肉を硬くするイメージがありますが、実はキレイなボディって、とてもしなやかなんです。
清水:
それはよくわかります。そういう筋肉こそ、私の理想とする白シャツ筋肉です。凹凸でなく、なだらかで動きの美しい、んー、言ってみればシルキーな筋肉のイメージに近いです。でも、だとしたらトップアスリートはどうしなやかさを「鍛えて」いるんだろう? やはり強い筋肉は必要ですよね。
内田:
たとえば、ポパイのような「二の腕の上側を硬くして見せる」という動きがありますよね。これって上腕二頭筋を縮める動きなんですが、このとき、逆側の上腕三頭筋は伸びているんですよ。どこかを強くしたいなら、別の部分をゆるめる必要が常にあるんです。
清水:
なるほど! 硬くしていると、同時に伸ばしてもいる、と。
内田:
動きには、常にこういう2つの側面があるんです。そして両方が必要なのに、ほとんどの方は縮める動きばかりをしたがってしまう。
清水:
その両方に働きかけるのがチューニング、ということですか?
内田:
もともと、英語圏の人がよく使う「toning」という言葉がヒントになっています。鍛えることもゆるめることも、リラックスも同じ地平にある。そんな動きの面白さを、チューニングで追求していきたいなと思っています。
清水:しなやかで美しいボディは、ガンガン鍛えるだけでは到達しえないということですね。
鍛えたがる日本人こそ、「ゆるめる意識」を
内田:
そうなんです。クライアントさんからよくいただく質問で、「骨盤底筋をどう鍛えたらいいですか?」というのがあるんですよ。
清水:
女性のデリケートゾーンの周辺にある筋肉ですね。確かに、年齢を重ねるとゆるんでしまうイメージがあります。
内田:
そう。日本の女性はとにかく鍛えたがるんですよ。手足でも体幹でも、骨盤底筋でも。
清水:
ははは、それ、私もそうです。ですが、ムキムキが美しいか、というと、それはまた違う方向ですよね。
内田:
例えば、「動かないで同じ姿勢を続ける」というのも体にはものすごい負担がかかるんです。子宮脱(骨盤内にある膀胱や子宮、直腸などが下垂してしまい、膣から外に出てしまう状態)という疾患がありますが、これも動かないことによる過緊張からきている人が少なくない。
清水:
「動かない=ゆるんでいる」というわけじゃないんですね。
内田:
はい。動かない状態でも使われる筋肉はあるんですよ。そして、引っ張り続けたゴムがいつか切れてしまうのと同じように、緊張しっぱなしの筋肉もダメージを受けてしまうんです。緊張が強いのにいきなり鍛えると筋肉を傷めてしまいますから、ワークアウトの歴史を俯瞰すると、今は「ゆるめてから鍛える」という流れになっていますね。私自身、さまざまなエクササイズやトレーニングを学んで、「強くなりたい」「鍛えなくちゃ」というやり方には限界があるなと感じています。
清水:ゆるめるって、発想は、なんだかすごく新鮮です。鍛える分だけゆるめる。それが美筋のキモですね!
しなやかで美しい筋肉は、緊張と弛緩をいったりきたりで育まれる
清水:
でも、「リラックスって何?」という自分がいるのも事実なんです(笑)。ゆるめる って案外難しい
ですよね。
内田:
緊張していることがいけないわけではないんですよ。人間には交感神経優位(アクティブモード)と副交感神経優位(リラックスモード)の2つがあり、その両方を行き来することが大切なんです。
清水:
とはいえ現代人は夜遅くまで起きていたり、暗くなっても光を浴びていたりと、交感神経優位になりがちですよね。
内田:
そうなんです。アクティブになること自体が悪いわけではなく、むしろその振れ幅が大きいほうがいいんですよ。
清水:
話がボディからメンタルになってきましたけれど、身体を司るのは心ですよね。
内田:
そういうしなやかなメンタルを育むと、逆境に強くなれると思いますよ。日中は仕事でテンションを上げて頑張って、でも夜になるとぐうぐう眠れるというのは理想。そうすれば疲れが抜けて翌朝も頑張れますよね。
清水:
要は"切り替えのスイッチ"があればいいですよね。
内田:
クライアントさんにとある女優さんがいるんですが、切り替えが見事でびっくりしますよ。舞台を観にいったら、彼女はすごく悲しい役をやっていたんです。感動して、私は涙を流しながら終演後の楽屋にご挨拶に行ったんですよ。そうしたら、終わった瞬間にザバーッと顔を洗って「さ、ご飯行こう!」って。観ていた私は切り替えられなくて、まださめざめと涙を流しているのに(笑)。
清水:
あはは! でも、そういう切り替えって私たち一般の人間にも必要ですよね。社会にいると、みんな何かしらの役柄を果たしているじゃないですか。でも、その役柄から離れた瞬間にパッと切り替えて、休む方向にもっていける人のほうが強いですよね。
内田:
そういう"切り替えのスイッチ"って、心だけの問題じゃないんですよね。体がメンタルを上げることも、メンタルが体を上げることもある。切り替えられるマインドを育てるためにも、体を整えておかないと。
清水:
本当に、体を鍛えるってメンタルに直結していると思います。私も筋肉フェチになってから、もやもやしたときも「体を動かせばいいや」と思えるようになって。トレーニングすればスッキリして、ポジティブになれる自分を知っているって強いんだな、とよくわかりました。
内田:
そんな清水さんには、ぜひトレーニングのときに「イマイチな日」も意識してほしいなと思います。
清水:
イマイチな日...? そういえば、同じエクササイズをしても、すっごくうまくいくときと、今日はイマイチかなという日があるかも。
内田:
トレーニングをしていると、そんな「イマイチの日」を体が教えてくれるようになるんですよ。自分のアベレージも、調子がいい日や悪い日はこのくらい、というのもわかる。
清水:
そういう予感って、なんとなく感じます。一歩踏み出した瞬間とか。
内田:
そして、体がイマイチな日ってメンタルもイマイチなはずなんです。でも、現代人って頭を使いっぱなしだから、メンタルの疲れに気づきにくいんですよ。でも、体を動かすと「イマイチ動きが悪い...今日の私、調子悪いんだな」というのを自然と納得できたり。そして、自分の体にも心にも優しくできるようになります。
清水:
そんな自分もいるさ、って感じですね。ああ、ついガムシャラになるから気をつけます。
内田:
はい。そもそも、年齢を重ねていっているのにずっと右肩上がりで成長し続けるなんて不自然ですよね(笑)。いい日もあればそうじゃない日もあるととわかるほうが体にも心にも優しくできます。そして、そのほうが絶対に強いと思うんです。
清水:竹のようなしなやかさ、のイメージですね。竹はフシがあるから強いと聞いたことがあります。いまいちだったりする、そんな節目の時期も、よしとする、心の余裕、、ああ、確かに足りないなあ(笑)
それで思い出したのですが、海外の男性デザイナーの理想の女性ってね、たいがい"強い女性"なんです。始めは、パワフルでポジティブで、ブルドーザーみたいな女性!? って思っていたのですが、彼らの真意は、自分の良い面も悪い面も、全部受け入れて堂々と笑っている、そういう、強さなんですよね。それに通じますね。
トレーニングで、自分のトリセツを手に入れる
内田:
自分の欠点を認められるというのは、自分のトリセツを知っているようなもの。私にとってトレーニングというのは、「自分の取り扱い方」を覚えるプロセスみたいなものですね。
清水:それはファッションにもすごく通じますね。パリシックの権化のような、故ソニア・リキエルさんが、おしゃれになるには、どうすればいいか、とインタヴューを受ける度に、何度も何度も「まず鏡を見なさい」っておっしゃる。それはもう、ずっと同じ答えで。鏡って残酷で、いいも悪いも映る、でも、鏡の中で自分の魅力、欠点をみつめて、自分という資材の扱い方を覚える、それがスタイルのあるおしゃれの最短だと、後になるほどわかるんですけれどね。そう、彼女も同じ。自分の取説を鏡の中で作るんです。
内田:
なるほどね。さらにいえば、自分を知っていて、欠点も認められる、 そして、欠点も含めて自分の体を好きな人のほうが、体が上がっていきますね。私のスタジオに「内田さんみたいな体になりたい」と訪れる方がたまにいるんですが、そういう人のボディって、トレーニングをしても変わるまでに時間がかかっちゃうんです。
清水:
今の自分の体を否定しているから?
内田:
「欠点もあるけれど、トータルでみれば悪くない」なんて思っている人のほうが、トレーニングすると、めきめき状態がよくなるんです。
清水:
あ〜、通じるなあ。ファッションでも、コンプレックスを隠そうとするとおかしなことになりますもんね。それより、魅力的なところにフォーカスしたほうが、華やかになるというのと同じですね。
内田:
どれだけ自分の体を好きになれるか、が鍵なんだと思うのです。
清水:
正しい自己肯定感を持つのはすごく大事ですね。
内田:
姿勢も変わるし、着たいファッションも変わります。
清水:それには、まず、ゆるめることから、ですね。
後編では、具体的なゆるめ方などをご紹介します。
※ジャイロトニック:独自のマシーンを使い、円運動を中心としたしなやかな動きを学ぶエクササイズ。NY発祥で、プロのダンサーやアスリートにもファンが多い。
取材写真/ 高村 瑞穂
Photo by Getty Images /Sebastian Kaulitzki @123RF.com
内田 あや(うちだ・あや)さん
as・i・am/apartment代表。ボディチューニング®創設者。
『25ans』『Figaro Japon』で女性誌の編集を手がけているときにジャイロトニックに出会い、パーソナルトレーナーに転身。ヨガ、呼吸法、リストアティブヨガなどを学んだのち、独自のボディチューニングメソッドを考案。やみくもに鍛えるのではなく、心身をしなやかに保つ理論で女優やモデル、俳優、編集者、ファッション関係者にも多くのファンが。著書に『エグゼクティブ・ボディ・チューニング』(講談社刊)。http://bodytuning-assoc.com/
清水久美子(しみずくみこ)さん
スタイリスト、ファッションディレクター。ラグジュアリー雑誌や広告で活躍中。クリエイティブディレクターとして商品企画やファッションにまつわる講演なども多数手がける。エレガントな王道のおしゃれにモダンさを加えたみずみずしいスタイリングには多くのファンが。年齢を重ねても美しく、さらに格好よく過ごすための着こなしを提案し続けているファッション界のパイオニア。
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