一番ベーシックだと言うイチゴジャムに始まり、梅やラズベリーのジャム、また白桃にラベンダーの花で風味をつけた「白桃とラベンダーのジャム」「キウイとミントのジャム」といった、福田さんならではの独創性あふれるレシピには、ただただ驚くばかり。また、おすそ分けするときのラッピングについてもヒントが載っており、料理が得意な人にもそうでない人にも楽しい一冊です。
スイーツ作りだけでなく、ラッピングに関する本を手がけ、さらに食べ物が登場するマンガやアニメ、映画などを通して、独自のアイデア「フード理論」を展開するなど、さまざまな角度から食べ物にアプローチする福田さん。先日行われた『季節の果物でジャムを炊く』のイベント終了後、果物の魅力やジャムづくりの楽しさ、そして「フード理論」などについてうかがいました。
菓子研究家の第一歩は「ママレンジ」ーー福田さんがお菓子に興味を持ったのはいつごろですか?
子どものころですね。当時、「ママレンジ」というホットケーキが焼けるおもちゃがあって、それを使って自分で作ってみたのがきっかけです。
その後、家にオーブンがやってきて、クッキーやパウンドケーキを焼いていましたね。
ーーそれはご家族と一緒に?
いいえ、お菓子作りの本を買ってもらって一人で作ってました。それが高校生ぐらいまで続いたんです。
ーー大学に入ってからは?
上京して美術大学に通うようになり、キッチンが狭かったり、お金も余裕がなかったりして、お菓子作りはなかなかできませんでした。でも、クリスマスなどには友達とお金を出し合って、普段は買えないものを食べながら楽しく過ごしてましたね。果物専門店「新宿高野」や青山の紀ノ國屋、ナショナル麻布などで扱っていた、ちょっと値の張る輸入食材も買いに行きましたよ。
「新宿高野」で知った果物の奥深さーー大学卒業後、新宿高野に就職するわけですが、今、ジャムづくりをしたり、旬の果物を作ったお菓子づくりをしたりするのは、やはり果物専門店で働いたことが関係していますか?
そうですね。その影響は大きいと思います。今回の本で取り上げたジャムは、煮るという行為がとても面白いと思っています。心を整えることにもつながって、気持ちが整理される気がするんですよね。もしかしたら、手芸に打ち込むのと似ているかもしれません。
ーーそんな果物に魅せられた福田さんが、「本を出したい」ということで新宿高野を辞めるわけですが、出したかったのはお菓子の本なんですか?
そうです。ちょうど、大学のクラスメートだった少女小説家・小林深雪さんが、自分の本に出てくるお菓子のレシピ本を出すことになり、声をかけてもらいました。それで、編集とスタイリングを担当したんです。デザイナーも大学のクラスメートの茂木隆行さんで、親友と一緒にデビュー作を出すことができました。
ーー今回の『季節の果物でジャムを炊く』も含め、福田さんが作るものは材料の組み合わせが独特ですね。どういうところからヒントを得るんですか?
過去に食べた記憶や旅行、それにマンガでしょうか。例えば、イチゴジャムは大島弓子さんの『いちご物語』で、主人公が胸のところでイチゴをつぶしてしまうシーンが出てくるんです。そういう、直接メニューが出てくるわけではないけれど、胸のあたりでイチゴがつぶれたときの様子、といったいろいろな作品に登場する様々な場面のイメージが集積され、それが私のレシピにつながっています。
マンガやアニメ、映画の新たな見方「フード理論」ーーそういえば、福田さんはマンガに造詣が深く、コラムも書いてらっしゃいますね。
ずっとマンガを読み続けてきて、40歳になる少し前に「好きなマンガにもなにかでかかわりたい」と思ったんです。2000年からは『装苑』でフードコラムを書いていますが、これがきっかけで好きだったマンガ家さんに直接お話を伺うこともできました。
ーーマンガだけでなく、アニメや映画などの登場人物を「食」の観点から見た「フード理論」も、食べ物に深くかかわる福田さんならではの考え方だと思います。
「善人は、フードをうまそうに食べる」「正体不明者は、フードを食べない」「悪人は、フードを祖末に扱う」という3つの要素を「フード三原則」と呼んでいますが、それはいわゆる食べ物や食べることがメインの作品だけに限った見方ではありません。
単にストーリーを追うのではなく、ちょっとだけ出てくる食事のシーンや食べ物の扱い方を見て感じたことをまとめたのが「フード三原則」です。他にも、食べ物と人物・シーンには独特のつながりがあり、それをまとめて「フード理論」と言っています。
ーーこういう観点からいろいろな作品を見るのも楽しそうですね。そこからイメージを得て、ジャムやお菓子を作ってしまう福田さんの想像力にも驚きです。実は私は料理をあまりしないので、『季節の果物でジャムを炊く』も何度もながめてはニヤニヤするばかりで、作るところまでいけないんです。
別にそれでもいいと思いますよ。料理の本はビジュアルへのこだわりもありますから、見て楽しいということも大事なんです。まずは受け取ってもらうことが重要ですし。
ーーそう言っていただけて安心しました(笑)。今後も食を媒介にした活動を続けていかれるんですか?
そうですね。マンガやアニメ、映画に出てくる「目で食べる」ものと、実際に作ってみる「口で食べる」ものとの区別があまりついていないタイプの人間なので(笑)、摂取したら同じように満たされるものとして、いろいろな形でかかわっていけたらと思っています。
お話を伺った方:福田里香さん
菓子研究家。福岡生まれ。果物専門店「新宿高野」に勤務後、独立。果物を使ったお菓子作りに定評があり、書籍や雑誌、商品開発などを中心に活躍。国産のオーガニック柑橘にこだわったアイスバー「mikaned」のプロデュースを手がける。著書に『フードを包む』(柴田書店)、『一年中おいしいアイスデザート』(主婦と生活社)など多数。