これじゃ冷蔵庫に入らないと、室温に出した途端、菌のバランスに変化が......。糠漬けの経験者はわかるかも知れない。あの、シンナーのようなセメダインのような、なんとも言えない刺激のある嫌な臭いを放ち始めたのだ。こうなると、とことんケアしなければ取り返しのつかないことになる。以来、寝ても覚めても糠漬けのことで頭がいっぱい。日に何度も何度かき混ぜては好気性の菌と嫌気性の菌をご機嫌を取り、粉からしを加え、塩も投入し、できることはなんでもしてみる。でも、やはり完全には消えないセメダイン臭。
そこで、家で培養している豆乳ヨーグルトの乳清(白く凝固しない透明の液体部分)を入れてみた。そしたらなんと!数時間で「糠漬けの臭い」に戻った。きっと、糠床内の乳酸菌が爆発的に増えたのだろう。それにうちの豆乳ヨーグルト菌は5年もの。元種ははるばるカナダから運んできた猛者の菌だけに、それが強力な助っ人となった。
腐るとは、菌のバランスが崩れること。糠漬けはそれこそ手入れを怠らなければ何年も持つと言われている。うちの糠漬けはいつも夏からせいぜい秋までと短命だけれど、それでも毎日手塩にかけなきゃ、あっという間に終わる。
スターターは精米したての糠、塩、水、鷹の爪。そのなかに野菜の端っこを入れて捨て漬けし、これを何度か繰り返し、ようやく漬け始め。途中、昆布を入れたり、乾大豆を入れたりすることもある。基本は植物性のものだけで漬ける。
右手でかき混ぜているからだろう、右手だけつるつるだ。