落語の寄席では、お客さんの反応を確認しながら当日の演目を決めることになります。その日のお客さんがどんな笑いを求めているのか、場の空気を読みながら......というと驚かれることも多いのですが、まあ、何も決めずに高座に上がるわけではないですから。前段階として、どんな落語会なのか、落語ファンが多いのか、若い人が多いのか......などで大まかな方向性は決めておきます。
前座や前に出演する人の噺にお客はどんな反応をしているかを伺いながら、候補を2〜3に絞って高座に上がるんです。僕の場合、「○○○を演ろう。ただし、枕を話していてちょっと違うかなと思ったら△△△か□□□で」という程度までは直前に決めますかね。枕という、本題に入る前にする話も、前の出演者のウケの状況で予定とは変えたりもしますが。
枕を話して反応を伺いながら最終的に演目を決定するわけですが、皆さんが驚かれるほど大げさなことではないんですよ。歌って、一度覚えたら何かをしながらでもスラスラと出てくるじゃないですか。枕も歌のようなもので、覚えてしまうことで他のことを考えながらでも大丈夫。これ、特殊な才能ではないと思います。前編でも話しましたが、緊張せずに伝えたいことを伝えるためには、可能な限りの練習をしておくに限ります。枕も、演目も。皆さんのコミュニケーションでも同じだと思います。
自信がなければ不安になるので、自信を持てるようにしておけばいいと思っています。事前の稽古と、高座が終わったときには気づいたことをメモに書き留めるんです。なぜウケたか、なぜウケなかったかなども。読み返してみるとね、「ふざける」ってよく書いてある。「あ、ふざけるって大切なんだな」と再認識するんです。
「ふざける」っていうと誤解されそうですが、肩の力を抜いて、けれど気は抜かない、ジャズのようにアドリブを効かせながら......という状況と考えているんです。覚えた噺を淡々と話すのはダメですね。「こんなの、ただふざけてやってるだけだよ」っていうテーマが僕の中にあるんです。お客さんを笑わせよう、というのではなくて、座布団の上でふざけているのを勝手に笑ってもらうのが理想です。そうしないと力が入ってしまうんですよ、抜くべきなのに。やっぱり「心」の状態が大切なんですよね。
さて。高座へ上がると最も大切なのは最初の30秒です。僕のことを知らない人も多いわけですからね。客席が「あ、なんだか面白そうかな」と食いついてくれたら、それからのノリも違ってきますし。ここ、いちっばん大事にしています。最初だけは決めときます。もしかしたら、本編より重要かもしれません。
最初の30秒は、話す内容もありますが、それよりも態度。何を喋るかよりも、どう振る舞うかです。堂々と振る舞う。堂々とやるために、内容を決めておく。そうすれば気持ちが落ち着いて、そのまま最後までスムーズに行けたりもしますので。
自分の師匠(春風亭昇太)にはもちろん尊敬の念があります。師匠が弟子入りさせてくれなかったら、今の僕はありません。万が一、理不尽なことを言われても、師匠になら「はい」と言って従うでしょうね。まあ、僕は春風亭昇太に弟子入りしたくて、ある意味では師匠を選んだわけですから、会社の上司とはまた少し違います。が、前座修行中は、寄席の楽屋で自分の師匠以外の師匠たちにもお茶を出したりします。あの師匠たちは、言ってみれば"選べない上司"みたいなものかもしれません。
当時は「この人たちの弟子じゃないのに、なんでお茶出さなきゃならないんだ」って実は思ってたんです。けれど、よく考えてみたら、その師匠たちは仕事先でいざとなったら守ってくれる存在だったんです。ちょっと発想を切り替えてみただけですが、師匠方への気持ちが変化しましたね。みんなから敬遠されがちな師匠も中にはいるんですが、僕は苦手じゃなかったりして。懐に飛び込んでみたら結構よくしてくれたりするんですよ。お茶を出すのも苦じゃなくなりました(笑)。今では、いろんな師匠に尊敬の念を持っています。
1. 緊張せずに伝えたいことを伝えるためには、可能な限りの練習をしておくに限る。
2. 最初の30秒、堂々と振る舞う。
3. 苦手と敬遠するのでなく、発想を切り替えて懐に飛び込んでみる。
写真/長島大三郎
春風亭昇々さん
2007年、春風亭昇太に入門。2011年4月、二ツ目に昇進。2015年、2016年とNHK新人落語大賞決勝進出、2016年には第2回渋谷らくご大賞を受賞。「ポンキッキーズ」(BSフジ)のメインMC、「ミライダネ」(テレビ東京)のナレーションも担当するなど幅広く活動。
twitter.com/shoshoa2011