ある日、お誘いをうけて、野草の酵素ドリンクづくりのワークショップに参加しました。作り方を伝授してくれたのは、「酢之宮醸造所」の宮嵜さんご夫妻。ご夫妻は、自然豊かな香取市(千葉県)の風致地区で、柿と空気だけで酵素酢を造っています。
実は私自身、以前に何度か酵素ドリンクを手作りした経験があります。ですが残念なことに、成功体験が一度もありません。果たして今回、手作り酵素ドリンクは成功するのか。そして "野草の酵素ドリンク"とはいかなるものなのでしょうか。
野草摘み~仕込みの工程をお伝えした前編に続き、後編では、醸造・ろ過・完成までをお伝えしたいと思います。
野草の酵素ドリンクの作り方(醸造~ろ過~完成)仕込みを終えた原料は、きちんと手入れをしてあげることで酵素の抽出が促され、酵素ドリンクへと変化していきます。
醸造 仕込んでから数週間が経過した野草の酵素。野草はしんなりして褐色に変化、液体も出現。酵素が抽出されるまで、約1か月半~2か月の期間を要します。この間、数日にいちど確認して、砂糖が底に溜まっているのを見つけたら、清潔な素手でしっかりと混ぜましょう。砂糖は容器の底に溜まりやすく、底の砂糖を持ち上げて、野草と砂糖をしっかり混ぜるのが秘訣。容器のなかを混ぜるときに、野草を握って絞ったり、手で押し潰したりするのは避けます。
「自然の力で発酵させるものは、その環境によって過程が異なります。もちろん、きちんと手入れをしてあげていれば酵素はちゃんと抽出できます」(酢之宮さん)
私は、以前にこの段階で手入れを怠ったことがあります。すると、黒カビが大発生。異臭がひどく、酵素どころではありませんでした。
今回はと言うと、白カビのような白い綿帽子が上部表面に発生。白い綿帽子は麹菌の場合もあるそうで、麹菌であれば取り除く必要はないとのことですが、判断が難しかったので、この部分だけ取り除き、手入れを繰り返しました。
ろ過~完成醸造して約1か月半、ろ過をして、いよいよ完成です。
<ろ過の方法>
1.容器のなかの液を受けるバケツを用意し、バケツの口にザルをセット
2.洗濯ネットや排水ネットなどの細かい網目の布を用意し、ザルに敷く
3.そのなかに、液ごと野草酵素を入れる
4.虫が入らないようにバケツごとビニールなどで覆う
5.3日程そのままにして、液が全て落ち切ったら完了
ろ過の際は、野草を押しつぶしたり、ギュッと絞らないようにします。写真提供/酢之宮醸造所 この状態で3日間、野草から自然に酵素液が落ちるのを待ちます。重石はのせません。そして、バケツに落ちた酵素液を瓶に入れ替えて、酵素ドリンクの完成です。
今回は、500mlのペットボトルに3分の2程度の量の酵素ドリンクが出来上がりました。トロッとした褐色の液体を口に含んでみると、見た目や野草というイメージからはほど遠く、甘い風味。香りはちょっとクセがありますが、あまり気になりません。想像していたより飲みやすい印象です。
常温で保存し(気泡が出現している場合は冷蔵庫に保存)、1日に大さじ1~2杯を目安に摂り入れるといいそう。飲むタイミングは、胃に何もない状態がベストです。
個人的におすすめなのは、酵素ドリンクの炭酸割り。そこにお酢などをプラスすると、爽やで、さらに飲みやすくなります。
酵素ドリンクの炭酸割りが、暑い日には最高。ですが、原液を薄めると酵素の吸収が鈍くなってしまうそうなので、酵素を効率良く摂取するという意味では、"飲みにくい場合は薄める"と考えたほうが良さそうです。
ドリンクの副産物、酵素風呂さて、この酵素ドリンクづくりですが、嬉しい副産物がありました。それが、通称「野草の酵素風呂」です。
「酵素づくりは、原料を余すことなく活用できます。抽出した酵素はドリンクとして、濾して残った野草はお風呂に入れて酵素風呂に。酵素風呂以外では、濾した野草を乾燥させて畑の堆肥としても活用できます」(酢之宮さん)
酵素風呂というキーワードに心惹かれ、さっそく試してみることにしました。
濾過の工程で残った野草。これを目の細かいランジェリーネットなどに入れて、浴槽に浮かすだけで、いつものお風呂が野草の酵素風呂に早変わりです。
胸は高鳴るものの、気持ちは半信半疑。実験も兼ねて酵素風呂に入ってみたところ......肌はしっとりすべすべ、モチモチに。しかもそれが、翌日以降も持続するという素晴らしさ! 私だけでなく、主人もたいそう気に入った様子。酵素風呂は体が芯から温まる、体のコリがほぐれる、という人もいるそうですが、感じ方は千差万別。もちろん、何も感じない人、逆に合わない人もいるでしょう。しかし私は、"この湯に浸かるために、また酵素ドリンクをつくりたい" と猛烈に思うほどでした。
酵素ドリンクづくりのコツは容器のなかのものとじっくり向き合うこと
さて、初めて成功した酵素ドリンク。体験を通して改めて感じたのは、容器のなかのものと向き合い、自分なりに考えて醸造するという大切さです。
醸造する環境や季節、原料に応じて作り方が異なる酵素づくりは、正確なレシピやマニュアルが存在しません。しかし、そんな状況においても、容器のなかの反応を観察して手を施せば、きちんと酵素ドリンクは作れる。
「容器のなかにどれだけエネルギー(手間ひまなど)をかけるか、が酵素ドリンクを上手に完成させるひとつのコツではないでしょうか」(酢之宮さん)
一滴の水も使わず、柿と空気だけで酵素酢を醸造している酢之宮さん。目に見えるものと目に見えぬものの双方と向き合いお酢造りをしているご夫妻のこの言葉に、酵素ドリンクづくりの奥深さと面白さを感じました。
[取材協力/酢之宮醸造所]
[写真撮影/Masa(Yonevanlife)]