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リアル「やすらぎの郷」で、感じよすぎるおばあちゃまに遭遇! 『ハロルドとリリアン ハリウッド・ラブストーリー』【さぼうる☆シネマ】

2017/05/27 23:00 投稿

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はじめまして。 カラダもほぐしたいけれど、ココロもじんわりほぐしたい。そんなときは映画館に足を運んでみてほしい、とスタートした「さぼうる☆シネマ」です。 「風味、味わい」のような意味を持つ"savuer"をちょっと和風に発音させていただいての、さぼうる。甘かったり、酸っぱかったり、辛かったり、ほろ苦かったり。映画を味わうことでココロがほぐれますように、という願いを込めて(サボる、ではございませんからw)。雑食系映画紹介人、松本典子がお届けします。

いきなり横道にそれちゃうのですが。ハリウッドにはリアル版「やすらぎの郷(※)」がある、ってご存知でしたか? あの昼ドラではテレビ業界に功績のある人だけが入れるという架空の施設ですが、彼の地には同趣旨の老人ホームが実在するそうなのですも、そこに暮らすことを許されたご夫婦(ハロルドは2007年に他界)。つまりはハリウッド映画界に貢献した製作のプロフェッショナルだったのですが、文字通り、知る人ぞ知る存在で。

その"知る人ぞ知る"っぷりーー彼らが関わった作品といえばヒッチコック、スピルバーグ、コッポラ、キューブリック、リンチと監督も錚々たるものーーで裏話も実に面白く、タイトルにあるように"ハリウッド(映画)の物語"とも言えるのですが、私が強くおすすめしたい理由はですね、同時に"愛の物語"でもあるってところなのであります。

この作品で何よりも惹きつけられるのは、リリアン・マイケルソンのチャーミングっぷり。キャリアを自慢したり、苦労をボヤいたりもせず、ふたりのライフ・ストーリーを語るその姿。老いを感じさせない一方で、若ぶってもいない。もうね、「こんなおばあちゃまになりた〜い! 明るく元気に生きていこう!」って必ずや思えるはず。

チャーミングな我らがリリアン。スピルバーグやコッポラら年下の監督にも慕われて。

キャリア&人柄、どっちも! スピルバーグやコッポラに慕われて

リリアンは、映画のリサーチャーとして大活躍した人です。フィクションである映画にリアリティを持たせるための情報を収集するのが彼女の仕事。"1890年代のユダヤ人女性の下着(『屋根の上のバイオリン弾き』)"の時代考証から、"南米の麻薬取引(『スカーフェイス』)"などという裏社会事情まで幅広く、誰も教えてくれなさそうな写真資料も無さそうなテーマが目白押し。後者では、引退した元麻薬王と現役の麻薬捜査官がお互いと知らずに彼女のライブラリーではからずも鉢合わせしたこともあったとか。生きた情報をとことん追い求めていたリリアンの仕事ぶりには脱帽ですし、巨匠たちが頼りにしたのも納得が行くというものです。

夫ハロルドもまたハリウッドで絵コンテ作家として大活躍した人物。どんなシーンをどんなアングルで撮るかを示す絵コンテは、いわばビジュアル版の台本。監督の名アイデアだと思っていたこのカット割り、あのアングルが少なからずハロルドによるアイデアだったこと、絵コンテと完成シーンを並べながらていねいに見せてくれるので、旧作なんて観たことないという方でも驚きながら楽しめます(にもかかわらず彼らの名前はクレジットされないこと少なくなかったなんて! 監督さんたち、ちょっとズルくない?とか思いながら)。

ハロルドが描いた、ヒッチコック『鳥』の絵コンテ。

『スタートレック』のプロダクションデザイナーとして、ハロルドはアカデミー賞候補にも。

リリアンとハロルド、ずっと一緒にいられた秘訣とは?

ハリウッドの巨匠たちを支え続けたおしどり夫婦、カッコいい!

......とまた少し脱線。ええ、ハロルドも素晴らしいのですが、今回、私がご注目いただきたいのはリリアンですから。孤児として育ち、ハロルドの親族にはとことん反対されながらもハリウッドで結婚。キャリアをスタートさせたばかりの夫は言わずもがな薄給で、彼女も仕事を持ったものの妊娠を理由にクビ......なんていう苦労もあったようですが、とにかく明るい。誰かのせいになんてしないけれど、「もう死んじゃったから少しバラすわね」的に悔しかったことも打ち明けてくれる。負けん気の強さってユーモアで包んでしまうとチャーミング度がますますアップするのね、とか思わずメモしたくなります。

ボランティアで始めたリサーチ・ライブラリーの仕事に嬉々として励んだ話はもちろん、長男は当時なかなか理解されなかった自閉症だった話も、前述の元麻薬王にプライベートジェットを寄こすからボリビアで話そうと言われた話も、ハロルドが不慮のケガでアル中寸前に陥った話も、悲喜こもごものすべてが、とても愛おしいものとして語られる。ハロルドとの人生を、パートナーとしてどう生きてきたかについての話も興味津々。参考になりますわよ。そうそう、ハロルドがリリアンに宛てたメッセージカードの数々も彼女は愛おしそうに紹介してくれます。愛と笑いが散りばめられていて、ここも必見。

作中には、「業界にとっては最強の秘密兵器」「リリアンにアカデミー特別賞を」なんていう関係者のコメントもある一方で、あの(心が繊細なことでも有名な!)トム・ウェイツが、リリアンのライブラリーによく話に来ていたという話もお気に入りです。さあ、みんなで素敵なおばあちゃまを目指しましょうぞ。

オマケで1本! 3女優がそれぞれにめちゃ眩しい『20センチュリー・ウーマン』

トーキング・ヘッズ好きの少年、79年の夏物語『20センチュリー・ウーマン』。

同じくカリフォルニア、70年代の終わり(『スタートレック』のプロダクションデザイナーに大抜擢されたもののSFは興味ないと躊躇するハルロドに「あなたがよく作っているオモチャが作れるのよ!」とリリアンが背中を押した同じ頃......?)。サンタバーバラを舞台にした『20センチュリー・ウーマン』もやっぱり外して欲しくない1本です。

多才なミランダ・ジュライのパートナーっていうだけでも私には相当魅力的なマイク・ミルズが、主人公ジェイミーに自身を投影させたような母と息子の物語。抵当流れの古い屋敷を格安で手に入れて空いた部屋は貸す、といった具合にしっかり者であるシングルマザー、ジェイミーの母ドロシア(アネット・ベニング)、ジェイミーのベッドに毎晩忍び込むくせに、「セックスしたら絶交」宣言でもってシラーッと彼を生殺しにし続ける女子高生ジュリー(エル・ファニング)、ドロシアの屋敷に間借りしながら人生を模索しているパンクな写真家アビー(グレタ・ガーウィグ)。20世紀を生きる彼女たちの三者三様が、ジェイミーとの関わりの中で描かれる。眩しいです。素晴らしきかな青春ってばかりでもない鬱屈や逡巡(しゅんじゅん)も含めて、女優たちがみんな眩しい。ちなみにグレタ・ガーウィグにピンと来たなら、『フランシス・ハ』もぜひチェックしてみてください。

※ テレビ朝日系列の大注目昼ドラマ。倉本聰脚本だからこそ実現できた超濃厚キャストと直球なテレビ批判でも話題に。 Motion Picture & Television Fund がハリウッドに設立した実在のホームをモデルにした......かどうかは不明。

『ハロルドとリリアン ハリウッド・ラブ・ストーリー』
http://www.harold-lillian.com
監督:ダニエル・レイム
2017年5月27日よりYEBISU GARDEN CINEMAほかにて全国ロードショー

『20センチュリー・ウーマン』
http://www.20cw.net
監督:マイク・ミルズ 出演:アネット・ベニング、エル・ファニング、グレタ・ガーウィグほか
2017年6月3日より丸の内ピカデリー、新宿ピカデリーほかにて全国ロードショー

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