たとえば、私たちが魅力的なものを前にして、それを得たい、食べたいと思うとき。あるいは、翌日に楽しみなイベント(デートやライブなどでしょうか)があるようなとき。そんなとき、脳内にはドーパミンという物質が放出されます。このドーパミンの作用は行動を起こさせることであって、幸福や満足感をもたらすものではありません。脳は報酬の予感を抱かせることによって、私たちにそれを手にするための行動をさせるのです。
ドーパミンが大量に放出されると、人(動物)は、何が何でもそれを手に入れようとし、手に入れなければ気が済まなくなります。意識はすべてそのことに向けられ、わくわくや興奮を感じ、それを手にするために行動すること以外を考えることができなくなってしまいます。さらに、ドーパミンが放出されると、脳のストレスシステムにも信号が送られ、ストレスホルモンが放出されて不安感も同時に感じさせます。
このとき、私たちは、わくわくするのは、その対象物のせいであり、不安を感じるのはそれを手に入れられないからだ、と思い込みます。この脳の報酬システムのおかげで、太古の昔、私たちは危険をおかしてでも狩りに出かけて食物を得て生きることができたわけです。
でも、今この瞬間に意識を向けるとよくわかるのですが、この時感じているのは、喜びや幸福ではなく、報酬(おいしい食べ物や楽しい時間など)への期待感です。
では、この報酬システムが反応しないとどうなるでしょうか? 欲望がなく、喜びも感じることができない無感動の状態であり、こちらもやはり満足している状態ではありません。大切なのは欲望や期待感と幸福を区別することです。何かを得ようとしているときのワクワク感は、不安まじりの期待感であることを認識し、その上でどう行動するかを自分の意志で決めることです。
着回しのできるジーンズを買いに来たとします。でも、とっても素敵に思えるワンピースが目に入って気づいたらもう買っていた......。そんなことが起きるのはこの報酬システムによるものです。
現代社会においては危険を冒してまで狩りに出る必要はありません。何かが欲しい! 食べたい! そんな衝動が来たら、まず深呼吸。少しの間、呼吸に意識を向けてみます。脳の報酬システムに乗っ取られて反射的に行動しないためには(ワンシーズンに1度しか着られないワンピースではなく、本来買おうとしていた着回しのできるジーンズを買うためには)、そんなふうにして今この瞬間に自分をおくことが役に立ちます。
今日の1枚:
食事中、なにかを噛みながらも、次に何を口に運ぼうかと考えがち。口に入れたら、一度箸を置き口の中に入っているものを全力で味わってみましょう。写真は友人が作っている赤米です。噛むほどにおいしいお米はマインドフルに食べるのにぴったりです。