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【ネタバレ注意】「響け!ユーフォニアム 最終楽章 前編」の感想など その2

2019/06/14 23:14 投稿

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4/17に刊行された小説版の新刊
「響け!ユーフォニアム 北宇治高校吹奏楽部、決意の最終楽章 前編」
を読んで気付いた事などを書き綴った記事、
その2です。
まさか2ヶ月近くかかるとは思いませんでした。気が付けば、後編刊行まであと1週間。その3は間に合うのだろうか…。


最終楽章前編が刊行されてから今まで、色々な方の考察ブログを拝見しました。どれもこれも唸るものばかりで、このブログは「過去に拝見した考察ブログに引っ張られてしまってないだろうか」という不安に常に苛まれながら書きました。もしそういう部分がありましたら、大変申し訳ないです・・・。


因みに、今回のブログは麗奈に対してちょっと厳しい物言いになってる部分が若干あるので(もちろん、麗奈を貶めようという意図はありませんよ!)、麗奈ファンの方は一応ご注意頂けると・・・。










当然ながら、以下ネタバレ注意です!
















  • 今までの作品中で全肯定されてきたカリスマという存在の危うさ

1巻での物語の中心は「堕落した吹奏楽部にカリスマ指導者が現れて劇的変化を起こす」というものでした。この時のカリスマは、まさに滝先生でした。
第二楽章では、優子部長の持ち前のリーダーシップで部員が見事に意思統一されました。この時のカリスマは、実は滝先生より優子部長でした。優子部長の場合、夏紀先輩の手綱さばきもあって、部内の雰囲気は非常に良かったようです。
が、麗奈や久美子を始め、多くの2・3年生部員が、それこそが関西止まりだった原因と考えているようで、先述の通り優子部長も、それが"敗因"だと言っています。
そして最終楽章では、そんな思いを持つ久美子が部長に、麗奈がドラムメジャー(生徒指揮)に就任します。久美子の代でのカリスマは、間違いなく麗奈です。そしてその麗奈は「2年生の時に夢のパート割りを巡って優子部長と意見が対立し、自分の意見を取り下げた結果関西止まりだった」という経験も追加されているので、「甘えを排し、部員一人一人が厳しく自分を追い立て、緊張感を持ち、競争意識の中でより高みを目指す事こそが全国金賞への道である」と考えています。例えば、楽器・パート紹介の時には

「アタシは自分が優しい先輩だとは言えません。厳しいことも言うと思います。ただ、絶対にみんなを上へ連れていくという自信があります。」
麗奈の言葉はまっすぐに芯が通っている。その力強さに心を動かされた一年生部員も少なからずいるようだった。
(一部抜粋)

この時点で、新一年生の中で麗奈のカリスマ性に魅せられた部員がいる事が書かれています。ここが後のすずめのボイコットを示唆するシーンに繋がります。
全国金賞という目標が決まった後にはこのように演説します。

「北宇治の演奏は上手い。けれど、ただ上手いだけでは全国金賞という目標は達成されない。」
「北宇治は、一番を目指しましょう。高校生にしては上手だね、ではアタシは満足できません。北宇治が一番上手いって言われたい。そのために、みんなには高みを目指してほしい。」
「ドラムメジャーとして、アタシも全力で一年間、北宇治を引っ張っていきたいと思っています。全国大会金賞、取りに行きましょう!」
麗奈の言葉に、士気は一気に高まった。そのカリスマ性は闇を裂く鮮烈な光みたいに、強烈に周囲を惹きつける。よくも悪くも。
(一部抜粋)

ここで全シリーズを通して初めて、カリスマという存在に対して「よくも悪くも」というネガティブな言葉が添えられます。
麗奈は、滝先生や優子部長と比べても音楽観が先鋭的かつ排他的で、共感する人にとってはどんどん熱量が上がっていく反面、付いていけない人には全く付いていけません。すずめが、久美子に一年生の集団退部の可能性を告げるシーンで、1年生みんながヤバい空気になっているのかと久美子に聞かれた際に、すずめは以下のように言います。

「全員じゃないですよ?むしろ、経験者の一年生は高坂先輩に同調する声の方が大きいですし」

先述の楽器紹介の時点で書かれていた、麗奈のカリスマ性に引っ張られた少なくない数の1年生が、麗奈をカリスマとして信奉する勢力として多数派となり、初心者を始めとした、麗奈に付いていけない少数派を追いやり始めている様子がうかがえます。
それを感じさせるのが直後の、クラの2年生が久美子に「塾があるからと居残り練習をしない2年生が居る」と不満を口にするシーン。どうやら同じ現象が2年生の間でも起こっているようです。

「私、去年みたいに先輩たちが悔しがる顔は見たくないし、実際そうなったら後悔すると思うんです、絶対。だったらいまのうちに二年生としての自覚を持って頑張ってほしいなって思うんです」
「私はやっぱりみんなと同じ熱量を持ってほしいというか・・・足を引っ張るやつはいらないって思うんですよ」
そう告げる後輩の顔は大真面目だ。
五月になって以降、こうした内容の相談が増えた。下手なやつはいらない。そういう排他的な空気が、部内を支配しつつあるように思える。

このシーンがある2章冒頭の幹部ノートに、麗奈は

滝先生は本気で全国で金賞を取れるって思ってて、そのために行動してくれてる。アタシたちもその期待に応えようとすべきだし、駄々をこねる子に付き合ってられない。北宇治は上を目指してる。その夢のために行動できない子をフォローする必要って、本当にある?

と記しています。この麗奈の考えが、麗奈をカリスマとして信奉する部員に伝播している訳です。そして、カリスマを信奉する者は、カリスマと同等か、場合によってはそれ以上に先鋭化する事が良くあります。麗奈の方針に賛同・酔心した部員が増える事で、「ついてこれない奴は不必要である」という排他的な空気が醸成されきています。第二楽章であれだけ流行った「大好きだよゲーム」は、最終楽章では部員がやっているシーンが一切出てきません。というか、出来るような空気を最終楽章では感じません。
このように、麗奈のカリスマ性は終盤まで不穏なニュアンスで描かれているのですが、オーディション結果発表後に麗奈が「ひと言」を部員に発する場面だけは、前作までのように肯定的なニュアンスで描かれています。

「ここにいる百三名は全員が仲間であり、ライバルです。」
「北宇治の今年の目標は、全国大会金賞。その夢を叶えるためには、生半可な努力では足りません」
「アタシは勝ちたい。立華にも、龍聖にも、どの学校にも。」
「去年の夏の、あの関西大会のときみたいな思いはもう二度としたくない。全員で全力を尽くしましょう」
(一部抜粋)

「競争・勝敗・優劣」というニュアンスが麗奈の言葉から溢れています。ただし、この直後に美玲が久美子にオーディションの結果に物言いを付けるシーンが入れることで、やはりここでもカリスマという存在に不穏な空気を纏わせています。詳しくは後述。
響けユーフォニアムシリーズは、第二楽章まではカリスマという存在が肯定され続けてきました。というか、カリスマのプラスの側面ばかりが表立ってきました。が、今までのカリスマ2人に比べて明らかに先鋭化した考えを持つ麗奈がカリスマの地位に立った途端に、カリスマという存在の危うさを描き出した武田先生。後編でこの辺をどのように爆発させるのでしょうか。






  • 佳穂は練習中の疑問をユーフォの先輩に聞けないでいるのか?

その1で「佳穂の登場回数の少なさが気になる」と書きましたが、佳穂についてもう1つ気になる箇所があります。それは、すずめがさつきからチューナーを見ながらチューニングしているのを注意されるシーン。まだ音感があまりついていないすずめは「高いとか低いとかよく分からない」と言います。それを聞いていた佳穂が割って入ります。

「それ、私も思ってた!」
「合奏のときに、高坂先輩とか滝先生が指摘するじゃないですか。」
「その場で修正して直すのはわかるんですよ。でも、次の演奏時には戻っちゃいません?音の高い低いって自分でコントロールできないと思うんですけど」
普段は聞き役に回る佳穂がここまで饒舌に主張するのは珍しい。前々から疑問をため込んでいたのだろう。
(一部抜粋)

いやいや久美子さん、「ため込んでいたのだろう」じゃないでしょ…。もしかして佳穂は、練習中に聞きたい事があっても久美子や奏や真由に聞けずにいる事があるのでしょうか。だとしたら、佳穂はあまりいい練習環境に居るとは言えない気がしますが・・・。
この直後、縣祭りがあり、久美子・奏・求以外の低音パートがみんなで縣祭りに出かけます。もしかして、ここで久美子と奏が参加していない事で、真由と佳穂の距離が縮まったりという可能性もあるなぁと思ったりします。










  • ようやく部員達に色々委ねるようになった滝先生、滝先生をとにかく絶対視する麗奈、滝先生依存に疑問を持ち始めている秀一、滝先生と麗奈にひたすら追従してきたがここに来て滝先生への疑念を抱き始める久美子

アンコン編の感想でも書いた通り、やはりアンコンでの試みは、滝先生が部員に権限移譲をさせるための前段階だったようで、滝先生は選曲・練習計画・部活運営についてある程度生徒に委ねるようになっています。久美子も、練習計画を練るに当たってその事を感じています。
ただ、肝心の部員側、特に麗奈は事あるごとに滝先生絶対視を断固として主張します。
コンクールの選曲を滝先生が幹部三人に相談する場面。滝先生は「選曲の相談を他の部員にもする場合には全部員に周知するか、それが出来ない場合は周知しないように。多数決でも、私に一存でも構わない」と三人に尋ねた際には、そんな麗奈と、滝先生に対してそこまで絶対視をしていない秀一と意見が対立します。

「アタシは滝先生の判断にすべて任せて構いませんけど。先生が間違った判断をくだすはずがないですし」
「俺は全員で多数決でもええと思うけどなぁ。」
「音楽的な知識が深い子と浅い子の一票が同じ重みってのは怖いでしょ」
「そんなん言うても、それが民主主義やろ」
「飛び抜けていいものを作ろうと思うなら、絶対的な決定権を持つ人間を一人置いておくべきやとアタシは思う。みんなで決めた、は責任の分散にはなるやろうけど、なあなあの判断になる可能性は高い」
「自分が判断に関わることで、人任せでなくみんなで音楽を作るんやって自覚が芽生えるパターンもあると思うけどな。とくに、先輩と後輩に挟まれた二年生部員は宙ぶらりんな立ち位置になることが多いから、できればいろいろと核となる事項には関わらせてやりたい」
「成長を促すチャンスならほかにもあるやろ。コンクールの曲決めは今年一年の活動を左右するねんで。塚本の意見は弱すぎ」
「でも俺は、なんでもかんでも顧問におんぶに抱っこな部活もどうかと思う」
「なんでもかんでも、ではないでしょ。大事なところは滝先生に任せたほうがいいって言うてんの」

一応自由曲の候補を「3曲の中で」とは言っているものの、正直滝先生は十中八九「一年の詩」になるように仕向けてる感は無くはないですが・・・。さておき、先述のカリスマ云々の話とも関連しますが、秀一は滝先生依存に対して弱いながらも危機感を覚えています。が、麗奈は滝先生を妄信に近い形で信じていて、かつ全国金賞が"目的"になっているので全く聞き入れません。その後も、秀一がオーディションで部員全員で決める方法を提案した際にも、強い口調で拒絶します(因みに香織先輩との再オーディションの時には、全員の挙手制にしていたアニメ版と違い、原作では滝先生が判断する事になっていました)。その1でも書きましたが、前編では麗奈と秀一の考えの違いが随所に表面化していて、それは府大会直前の幹部からの一言の時の「険悪なムード」に繋がっていきます。
麗奈の滝先生絶対視は、各大会でオーディションをやる事を発表したシーンが一番ハッキリと描かれます。奏に「最後だからって急に3年生が優遇されたりしないですよね?」と聞かれた麗奈が「そうならないように滝先生に判断を委ねる。滝先生が判断を誤ることは有り得ない」と言い切ります。その後の奏の

「高坂先輩は滝先生を心から信頼されてるんですね」

というセリフは、質問を横取りされた美玲の表情や、後述するオーディション後の美玲の久美子に対する訴えを考えると、麗奈に対する強烈な皮肉の可能性もありますが、それは、麗奈が「滝先生は全国でも最高レベルの指導者だ」と断言した後の

「もちろん、私もそう思います。」

というセリフが額面通りなのかによって大きく違ってきます。奏の心境は、はたしてどちらだったのか・・・。

一方の久美子は、サンフェス終了後に滝先生が他校の顧問と談笑している場面を目撃するシーンと、美玲から直談判を受けた直後のシーンで滝先生への疑念を抱きます。ここが、妄信に近い麗奈との差です。いずれの場面も「本当に単純な実力だけでメンバーを選んでいるのだろうか」という疑念で、特に後者は「自分の演奏技量だけがソリに選ばれた理由なのか」というものなので、その疑念は自分が絡んでくる事なのでモヤモヤが増幅されています。

滝は奏者としての力量のよし悪しで自分をソリストにしたのか、それとも部がまとまることを優先して自分をその位置に置いたのか。
頭ではわかっているのだ。滝がそんなことをするはずがない、と。それなのに、負の思考が脳を渦巻いて消えてくれない。

"真由と久美子の関係"の所で詳しく書きますが、久美子にとって「奏者としての優劣・勝敗」は非常に重要な要素なので、奏者としての純粋な力量でソリストに選ばれたのか否かというのは、久美子にとって極めて重要な事なのです。
ここで思い出されるのは、第二楽章で夏紀先輩がAメンバーに選ばれトロンボーン唯一の3年生が落選したシーン。第二楽章の感想で「同じくらいの力量だった場合は、部員のモチベーションも考えて副部長である夏紀先輩をAに入れた可能性」について書きました。音楽において奏者の精神状態というのは演奏に直結します。その事を滝先生が知らないはずがない。真由と久美子が同程度の力量だった場合、部の空気を優先して、あるいは同じ場面でソリを吹く麗奈との音色の相性を考慮して久美子がソリに選ばれた可能性は充分にあります。久美子が今までその可能性を全く考えていなかった事と、その可能性が脳裏に浮かんでいる事を打ち消そうとしている事の方が個人的には不思議です。それだけ久美子は滝先生に盲目的に追従してきたとも言えます。
その盲目的に追従してきた事は、上記直前の、滝先生に「なぜすずめをAに入れたのか」を問うシーンに表れます。滝は「編成バランスを考えた時に、音量の豊かさを考慮してすずめをAに入れた。演奏技量だけが奏者の能力ではない」と言います。個人的には至極真っ当な返答だと思うのですが、久美子は「隙のない解答」といいつつも、純粋な演奏技量以外の要素が選考に影響しているという事が受け止めきれない様子が描かれています。

自分は本当に、滝に言われるがままに動いていていいのだろうか?

この一文は「今まで滝先生に盲目的に追従してきた」久美子が「純粋な演奏技量以外の要素を選考に反映させた滝先生へ疑念を抱き始めている」という事を端的に表現しています。この直後、久美子は滝先生に尋ねます。

「滝先生は、私たちを全国に連れていってくれるんですよね?」
「その言い方は正しくないですね。正確に言うならば、全国には皆さんの力で行くんです。私だけでは何もできません。音楽を作るには奏者がいなくては」

因みにこの滝先生のセリフは、先述のパート紹介の時に麗奈が言った「絶対にみんなを上へ連れていくという自信があります」というセリフと対になっています。久美子の「連れていってくれるんですよね」というセリフは、滝先生に盲目的に追従してきた事の他に、全国大会に行く事が"目的"になっている事を表しています。
この滝先生の返答に久美子は

滝の頭のなかでは、きっと理想の音楽がすでにできあがっているのだろう。彼の望む音楽を求めて、部員たちはこれまで努力を重ねてきた。

と考えます。第二楽章の感想ブログでも書いたのですが、久美子は吹奏楽部への考えが「コンクールで良い賞を獲りたい」に偏っていて、「やりたい音楽」「目指したい演奏」といった音楽性に対する考えがあまりなく「滝先生の望む演奏をひたすらに追いかけていけば、全国大会で金賞が獲れる」という考えの元に突っ走ってきました。3年生の府大会直前でも、久美子はまだ音楽性の考えが深化していないという事が表れています。全国大会で金賞を獲る為には、部長である久美子が「そもそもどういう音楽をやりたいのか」「どういう演奏を目指したいのか」をハッキリ描く事が不可欠だと思うのですが、どうでしょうか。
その1でも書きましたが、このように、顧問・部長・副部長・生徒指揮の考えが、ゆっくりと、しかし着実にズレ始めています。この歪みは間違いなく後編で火種になるでしょう。








  • 美玲が久美子にオーディション結果の不満を訴えるシーンは、前編の不穏な描写の総決算

先述の通り、麗奈の演説の直後に、美玲が久美子に物申すシーンがあります。美玲の台詞は、作中のあちこちで滲み出ていたカリスマ(=麗奈あるいは滝先生)に向けられる不穏な空気を、「滝先生の判断への不信」という事で久美子に訴えます。

「今回のオーディション結果、先輩は納得していますか?」
「みっちゃんは納得してないの?」
「正直に言えば、あまり。どうしてさつきがBで釜屋さんがAなのか、滝先生の考えが理解できません。」
「北宇治は実力制なんですよね?将来性ではなく、現時点での能力を比べて優れている人間をメンバーに選ぶ。そういうシステムだと私は思っていたんですが」
「滝先生は滝先生なりの考えがあるんだと思う。じゃなきゃ、さっちゃんよりすずめちゃんのほうがいいって判断にならないだろうし」
「それはつまり、黄前先輩も順当に考えたらさつきがAになるべきだって思ってるってことですか?」
彼女は疑っているのだ。この部の絶対の指針である、滝の判断を。
「滝先生は私たちとは違う次元でそれぞれの演奏と向き合ってる。私たちの判断よりも滝先生の判断のほうが結果的には正しくなるはず。」
「黄前先輩は滝先生の判断を支持するということですね?」
こちらを見下ろす眼差しは、ひどく冷静だった。
それから目を離さないまま、久美子はコクリと短く首を縦に振った。
「分かりました。黄前先輩がそう言うなら、いまの滝先生の判断を信用することにします」
(一部抜粋)

滝先生の判断が「絶対の指針」と思っている部員が大半で、だからこそ美玲は表立って言えなかった訳です。そして、先述の"カリスマの危うさ"と"麗奈や久美子の滝先生絶対視"の部分を端的に表現した台詞を美玲は言います。

「先輩たち・・・今の三年生にとって、滝先生は神域なんだと思っています。弱小校を強豪校に導いたカリスマだし、先輩たちは部が強豪校に変貌していくところを実際に目の当たりにしている。でも、一年生、二年生にとって、北宇治は入部した時点で強豪校なんです。私たちは北宇治が弱小だった時代を知らない。滝先生は確かに素晴らしい顧問だと思っていますが、でもきっと、三年生ほど滝先生を絶対視することはできない。それだけは、頭の片隅に留めておいてほしいんです」

ここにきて、ユーフォシリーズを通して初めて「滝先生は絶対なのか」という事が明言されます(サンフェス最後の場面は久美子の脳内の話なので)。そしてこれは、「滝先生への不信=滝先生を絶対視する久美子や麗奈への不信」にもつながっていきます。と同時に、作中でもチラチラと顔を覗かせていた「部員間での考え方の齟齬」も表されています。この部分が、その1で書いた「今までの北宇治に於いて正義・正解とされてきた考え方にメスを入れていきますよ」の部分です。
この場面は、先述した「大会毎にオーディションをする」と発表した際に、美玲の発言を横取りした奏が、麗奈の「滝先生が判断を誤ることは有り得ない」という発言を引き出した場面と繋がっています。その横取りされた美玲が「滝先生の判断を絶対視できない」という所がポイントです。横取りした奏の返答が皮肉だとすれば、奏は美玲に助け舟を出した事になり、2年生の中でも滝先生や麗奈への不信がくすぶっていると解釈できますし、もし額面通り奏も滝先生を絶対視してるとすれば、2年生の中で美玲のように滝先生を絶対視出来ない部員が声を上げる事が出来ない状態になっているとも解釈できます。
また作中を通して流れていた切迫感を、「部内の空気」という事で久美子に訴えます。

「今年は最初から空気が違っていて、ずっと競争をあおられている感じがします。自分の意志で動いているというより…なんというか、駆けっこをしているときに後ろからライオンに追われている、みたいな。危機感に脅されてる気持ちになることが多いような気がして。」

美玲は2年生なので、今年と去年の比較でこのように言います。つまり優子と麗奈、2人のカリスマが作る部活の空気が全く違っていると訴えている訳です。部員たちは「全国大会金賞(を自分が獲得したい・滝先生に獲得させてあげたい)という"目的"、あるいは関西止まりの悔しさを二度と味わいたくないという『ライオン』に追い立てられている麗奈」という「ライオン」に追い立てられているという構図です。麗奈のこの心境に関しては後述します。
美玲は、この場面で前編の不穏な空気を総集編のように語ってくれます。ここまで分かりやすいシーンが組み込まれたという事は、後編で「滝先生(あるいは滝先生を絶対視する麗奈や久美子)に対する不信」と「全国大会金賞というライオンに追い立てられて疲弊する部員達」が大きなカギになるのは間違いないと思います。










  • 求と源ちゃん先生の件は、もしかしたら全てが明らかにならないかも

サンフェス終わりに龍聖の樋口君と何やら揉めていた求。源ちゃん先生が求のおじいさんである事は周知の事実ですが、明らかに何かイザコザがあったような書き方をされています。
そして、求には姉が居ること、お盆には墓参りをする事などが書かれています。分かりやすく「伏線ですよ!」というガッツリとした伏線が張られています。
過去に武田先生は「人間関係に於いて、その人のバックグランドを全て知るという事は現実的でない。だから、続編を想定していなかった1巻においては、敢えて「明らかにならない部分」を残す事でリアリティを出した」と仰っていました。
もしかして・・・、全く触れられないというのは考えにくいですが、全ては詳らかにならない可能性もある気がします。和解するにしても、過去に具体的に何があったかは久美子(読者)は知らされない。とか、あるいは和解せずに終わる可能性もあります。後編ではどの程度詳らかになるでしょうか。







  • トイレでの1年生二人の会話は、読者への当てつけ・・・?
読者の誰もが息をのんだ、トイレでの1年生の会話のシーン。これこそが北宇治のリアルな空気だと久美子に突き付けます。
「ユーフォのソリが誰になるかやなぁ」
「黄前部長でしょ?上手いし」
「それが、今年は黒江先輩が入ってきたからわからんらしい」
「えー、黒江先輩がソリストになったら副部長とドラムメジャーが怒るんとちゃう?あの人ら、部長贔屓なところあるし」
「どうなるかわからへんでー。滝先生、空気読めへんし、」
「ピリつく空気で合奏すんの嫌やわ。どうか部長がソリストに選ばれますように」
「そしたら部のまとまり自体はよくなるしな。黒江先輩って、やっぱ転入生やし」
「あーまだ馴染んでない感じはする」
「見てるこっちも、黄前部長のほうを応援したくなるしなー。」
(一部抜粋)
どんなに実力主義を徹底しようとしても、音楽は人間のする事で、ましてや高校の吹奏楽部となれば、部員の心情を排除する事は不可能に近いです。
気付かれた方も多いと思いますが、「副部長とドラムメジャーが」の部分は、「読者が」に置き換えてもそのまま読む事ができます。そして、この2人の台詞は、まったくそのまま読者の声として読む事もできる文章になっています。

「滝先生(あるいは武田先生?)、空気読めないし」
「どうか久美子がソリストに選ばれますように」
「真由はまだ馴染んでない感じはする」
「読んでるこっちも、久美子を応援したくなる」

自分には、北宇治の後輩の本音が久美子に突き刺さるというシーンであると同時に、武田先生が読者に向けて
「みなさん読者は、こういう事を思って読んでると思いますが、それは麗奈と香織先輩のソロ争いの時に、香織先輩を支持した優子を始めとした香織先輩派の部員と同じですよ」
という事を当てつけに言っているシーンだと感じました。「当てつけ」と言うと言い方は悪いですが、武田先生はユーフォシリーズを通して「正義は、視点や立ち位置を変えれば、別の正義が見えてくる」という事を表現されてきました。特に音楽とは「正解」の定義は非常に曖昧で難しく、だからこそ揉め事も多いのです。
そしてこれは「読者の皆さん、私がこのままスッキリ収まって"めでたしめでたしチャンチャン"な物語を書くと思いますか?そんな訳ないでしょ?」という、武田先生からのある意味宣戦布告とも解釈できなくもないですが、どうでしょうか。






  • ちかおとちえりちゃんがソロに指名されてて何だか和んだ
末永くお幸せに。というか、もしちかおがちえりちゃんを悲しませるような事をしたら許しません。
それにしても、3年生がA編成で出れないというのは、どうしても気持ちのいいものではないです・・・。






  • 久美子の「コンクールで良い賞を取ることが何を賭しても至上である」と「部員全員にとって楽しい部活だと感じてほしい」という両立が至難な2つの考え
これは前編の全体を通して久美子が頭を悩ませ続けます。
第二楽章後編の感想などでも書いた通り、久美子は基本的にコンクール至上主義的な考えを持っています。ただ、アンコン編でも垣間見えたように「音楽を楽しむ・部活を楽しむ。コンクールで良い賞を獲る事が全てではないのではないか」という相反する考えも覗いています。それは恐らく葵先輩の事もあるでしょうし、そもそも久美子のコンクール至上主義は麗奈の影響を受けての事で、部長という立場になった事で部内全体に気を配る必要が出た事で視野が広がったというのもあるでしょう。ともあれ、アンコンでの経験がそういう考えを芽生えさせるきっかけになったのは間違いありません。
新一年生が入って最初のミーティングで、恒例となった「部の方針を多数決で決める」シーン。圧倒的なリーダーシップの元「コンクールで良い賞を獲るぞ!」の空気を部員達に纏わせた優子部長と違い、久美子は1年生だった頃の自分が経験したものと同じ居心地の悪い空気を感じ取ります。
イエスかノーか、その選択を強制するような空気がじわりじわりと足元から忍び寄る
その空気の結果、満場一致で全国金賞を目指す事になった後に、部員に向けて色んな配慮の滲む台詞を言います。
「大変なこともあると思いますが、みんなで頑張っていくのがいちばんだと思っています」
「・・・だからその、いまこうして決めた目標はブレさせないようにしましょう。みんなで頑張って力を合わせたら上手くやれると思うし、苦しいこともつらいことも乗り越えられると思っています。あ、もちろん苦しいとかつらいことばっかりじゃなくて、楽しいこととかうれしいことのほうがたくさんある部活にできたらいいなとは思ってるけど。ただ、どうしても誰かにとって納得のいかないこととかも起こってくると思うから、そういうのも全部上手くやれたらいいなって。」
(一部抜粋)
久美子の部活に対する姿勢は、この一文に集約されていると思います。と同時にこの台詞は「最終楽章では、部員達は苦しいこと・つらいことを乗り越えられないかもしれない。誰かにとって納得いかない事が起こって、上手くやれないかもしれない。そういう爆弾を仕掛けてますよ」という武田先生の予告とも解釈できます。

先述の、クラの2年生の相談を受けた後、久美子はこう思います。
せっかく吹奏楽部に入ってくれたのだから、一人だって退部者を出したくない。全員にとって居心地のいい部活であればいいと思うし、それが理想論であることもわかっている。
これは、こと吹奏楽部にとっては至難の業です。音楽が競技ではない以上、音楽観と言うのは百人百様だからです。秀一も「部員全員の考えをコントロールしようとするのはおこがましい。辞めたい子がいるなら、受け入れるのも大事だ」と諭します。それでも久美子は一年生に北宇治吹奏楽部を好きになって欲しいと願います。
この一文があるという事は、後編において退部騒動が起こるかもしれない、もしかしたら「もうこんな部活続けられません!」と言って、実際に退部者が出る事も充分想定されます。
そして、この部分が「何が何でも全国大会金賞」という麗奈の考えと決定的に違う部分でもあります。最終楽章前編は、読み込めば読み込むほど久美子・秀一・麗奈の吹奏楽部に対する考え方の齟齬が浮き彫りになるように仕組まれているように感じます。







それでは、その3に続きます。
なんとか後編の刊行前に書き終わるように頑張ります!


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