空飛ぶ車に乗って、謎の武器屋から『究極勇者大会』が開催されるコロシアムへと向かう俺とカイン。コロシアムはビルが浮き並ぶ都会の街から、少し離れた場所にあった。「ドン!」という効果音が付きそうなほど大きいコロシアムは、多少の加工はされているが、俺が元いた世界でも存在していた古代ローマの円形闘技場と同じもののようだ。
思いのほか移動時間がかかったため、コロシアムに辿り着いた頃にはすっかり夜になっていた。ゲームの世界に飛ばされてからまだ一日も経っていないというのに、俺の心はすっかりこの世界になじんでしまったようだ。これもゲーム脳というやつだろうか?
とりあえずコロシアムの入口にある狭そうなカウンターで暇そうに突っ立っている受付嬢を見つけたので、『究極勇者大会』の受付を済ませることにした。未来の世界だけど、こういう手続きはタッチパネルとかじゃないのか……。意外と作り込まれてないなぁと思う。
「すみません、我々二名で究極勇者大会に出場したいのですが、まだ間に合いますか?」
「二名様ですか? 受付はまだ可能ですが、今大会は個人戦になっておりまして、一名様ずつの受付となります」
えっ、個人戦なの!? まぁグランドクロスが一つしかない以上はそうなるか。
「カインよ、どうする? 個人戦ならどちらか一人が伝説の剣と盾を持って出場して、優勝を目指す方が良いかもしれないな」
「それならマコトさん、よろしくお願いします!」
「なるほど! 嫌だね!!!!」
カインが大口を開けて「ええぇ~!?」という顔をしているが、流石になんでもあり、バーリトゥードな闘いとなると、ゲームの中だろうと一人で出たくない! 勇者なら優勝できますと汗をかきながら説得を始めるカインと、腕を組み意地でも頷かない俺。そんな様子を見かねたのか、先ほどの受付嬢が補足するように教えてくれた。
「あの……、本大会はトーナメント式ではなく出場者同士で一斉に戦い、最後に立っていた者が優勝というルールになります。参加者の中にはパーティを組み、人数が減るまでは身内同士で残ろうとしている方々もいらっしゃる様です。しかし本大会で決めるのは、真の勇者様お一人。その方法で勝ち残ったとしても、最終的にはパーティ同士で闘い、優勝者を決めていただかなければなりませんのでその点はご了承ください」
なるほど、チーム戦もありっちゃありってことか。とりあえず二人で出場して、最後まで残ることができれば無事勇者の称号とグランドクロスを獲得できるってわけだ。
「カインよ! 俺は剣、お前は盾を持って参加するぞ!! 異議はないな!?」
「は、はい! 自信はありませんが僕も頑張ってみます!」
よっしゃあ! カインも巻き込んだったぜ! まぁ元々伝説の剣と盾は、カインの親父さんがカインに残してくれていたようなもんだしな。
とりあえず俺とカインは大会の受付を済ませた後、明日に備えて近くの宿屋に泊まることにした。宿泊料はもちろんカインさん持ちで。実際は空飛ぶホテルと言ったほうが正しいのだが、ゲームと言えばやっぱり宿屋という言い方のほうがいい。
「僕はこの部屋ですね。明日の大会ですが、試合が始まるのが朝8時なので、7時頃にロビーへ集合にしましょう。じゃあ、おやすみなさい!」
お、おう。なんだか修学旅行の朝の待ち合わせみたいだな……。なんか一気に現実臭くなった。あと普通にスルーしていたけど、未来でも一日は24時間しかないようだ。現実世界では長く感じたが、この世界に来てからは短いような気持ちになる。それだけ、この世界を楽しんでいるということだろう。
「あ、それとマコトさん。一つお願いがあるんですが……。その、もし僕とマコトさんが最後まで残ったら、全力で勝負をしてもらえませんか? マコトさんの胸をお借りすることになりますが、勇者の強さや戦い方を今後のお手本にしたいんです!」
割り振られた部屋に入ろうとした時、カインが真っ直ぐ俺の目を見て声をかけてきた。
まじかよ! カインめっちゃカッコいいこと言ってる! 俺なんか最後の二人になったら、どちらかが勝った風に、なあなあに済ませようと考えていたぜ……。
「わ、わかった! そのときは勇者たる俺の妙技を見せてやろう!」
……と威勢を張ってはみたものの、今までの人生で本気で勝負なんてしたことはない。よくて自室に入り込んだ、あの真っ黒くてカサカサ動くGぐらいだ。ゲームの世界に入ったことで、ステータス的な補正が入っていることを祈ろう……今のところはフラグ通りだし……。
こうして現実とはかけ離れた、ゲーム内での一日が終わった。思い通りにならない退屈な現実から抜け出した俺に、この先どういうストーリーが待っているのだろうか? 明日は本格的な戦闘が待っているとはいえ、そう考えるとわくわくして眠れなかった。
朝7時……。
身支度を終えてロビーに出ると、すでにカインが伝説の剣と盾を持って待っていた。武器は古風だが格好がSF映画の衣装みたいで、絶妙にアンバランスな感じである。
「おはよう! さぁ、とうとう戦いが始まるんだな。さっそく出かけよう!」
「あ、マコトさんおはようございます! コロシアムに向かう前にこれをどうぞ」
と言ってカインから渡されたのは伝説の剣。そういや俺が剣を持つって、そのときのテンションで言ったんだっけ。まあ、でも俺は勇者だ。伝説のアイテムだってお茶の子さいさいよと、剣を構えてみることにした。
うわっ、重い! 武器屋で手に持ったときはテンションMAXで気付かなかったが、この剣すっごい重い! ずっと垂直に持ってるとやべえ!! 戦いになったらこの重い剣を持って、敵の攻撃を避けることができるのだろうか……。
「カインさん、ちょっと盾を貸してもらえない?」
「え!? あ、はい、どうぞ」
盾も同じぐらい重いが、振り回さなくていい分、こっちの方が楽そうだ……。
「……」
思いついた!
「どうしましたマコトさん?」
「カインよ、良く聞け。お前はまだ未熟な身。だからこそ身を守る盾をと思ったが、こんなときこそ戦闘において攻撃面で自身のレベルアップを考えるべきだと思わんかのぉ?」
とりあえずジジイの師匠風にドスを利かせて喋ってみる。
「そ、そうですね! 僕もMSプラネットを目指す以上、自分の成長は必要だと思います!」
「じゃろう? だからこの伝説の剣を使って参加者を倒し、大会を勝ち抜くが良い! それが今一番のレベルアップに繋がるはずじゃ。俺は盾でも大丈夫。攻撃は任せたぞ!」
「え! ええ~、なんだか強引な気がしますが……わかりました! 伝説の剣は僕が使わせていただきます! 前線は任せてください!」
よっしゃあ! なんだかかなりゲスいが、さっきの感じなら伝説の盾の方がマシだ! まぁいざとなれば交換もできるだろうし、そのときのフラグを見極めようじゃないか。
「よし、じゃあコロシアムに行こう! 大会で勝利してグランドクロスを手に入れるんだ!」
伝説の盾は持っているが、防具を一切まとっていないこの状態は、案外やばいんじゃないかな?という気がしてきたが、所詮はゲームの世界! 恐らく怪我とかも薬草やポーション的な何かを飲めば治るだろうし、気を楽にして行こう。そう自分に言い聞かせながらコロシアムに向かった。
「うわぁ~、たくさんの人がいますね。この大会はいわば、究極プラネットの代表勇者を決める大会ですから、参加者だけではなく見物客が多いのも当たり前でしょうけど」
「問題は大会参加者の数だな。一体何人位参加するんだろうか? 俺たちみたいにパーティで参加しているやつらもいるっぽいし、結構な人数がいそうだな……」
「とりあえず受付を済ませて控え室に行きましょう。参加人数によっては序盤の立ち回りなども考えた方がよさそうですね」
カインの言うとおり作戦は必要だ。とりあえず参加人数を確認するため、控え室に入ってみる。
「うおおお、見ろカイン! こりゃざっと見ても数百人はいるぞ……」
控え室に入るとマッチョメンの大群がいた。しかも皆かなりの武装をしており、中には某アメリカンヒーローみたいな奴や全身重火器の人間兵器みたいな奴までいる。なのに俺たちといえば、貧弱な村人スタイルだし……これはまずいぞ……カインもすっかりビビッてしまっていた。無理もない。
「どうしましょう、マコトさん……。分かってはいましたが、剣と盾だけでは重火器の前ではひとたまりもないような気が……」
確かにこんな古風な盾一つだけで集中攻撃を食らおうもんならひとたまりもないだろう……何か作戦はないものか。そいえばあの受付嬢が言っていたのは……そうだ!
「カイン、俺に良い考えがある。耳を貸せ。ごにょごにょごにょ……」
「ええぇ~!? それって失格になったりするんじゃないですか?」
「何でもありなら大丈夫なはずだろう! もし失格になりそうならちゃんとやれば良い! こういうのは、やったもん勝ちよ!」
控え室に入ってから間もなくして、そろそろ戦闘が始まるという予告のアナウンスが入る。これがゲームの中の話じゃなければ、俺は重火器で微塵も残らず死んでしまうかもしれない。しかし勇者の俺が最初のイベントで死ぬわけがない! ゲーム脳の自分の考えを信じよう。当たって砕けろだ!
「行くぞカイン! さっき話した作戦通りだからな!」
「わ、わかりました! これも試練だと思って頑張ります!」
控え室で緊張している一方、コロシアムの中央部にある闘技場では、審判らしき男性が声を上げていた。
「これより、真の勇者を決める『究極勇者大会』を開催いたします! 鐘の音が鳴ると同時に戦闘開始となりますので、参加される方はご準備の方をお願いいたします!!」
アナウンスの終了後、控え室から闘技場に続く非常に重そうな扉が開いた。参加者が一斉に闘技場へ飛び出すと、全員が思い思いに位置取りを始めた。俺たちは作戦通り、できるだけ隅の方に移動する。移動が終わり、扉が閉まって数分後……
ゴォオオオオオオオオオオオオオン!
コロシアム中に鐘の音が響き渡り、とうとう戦闘が始まる。
「よしカイン、始めるぞ! 俺に続け!!」
そう言うと、頷くカインを見てから大きく息を吸い込んで大声でこう叫んだ。
「うわぁああああ!! やられたああああああぁぁ! もうだめだぁあああ! 内臓爆発した!!」
「僕もだめだああああ! 血が止まらない! まるでケチャップみたいだあああ!!」
そう叫んで二人してバタッと倒れると、周りの数十人がこちらを一瞬振り向いた後、そんな場合じゃないとばかりに立っている者との戦闘を始める。当たり前だ、敗北者に構っている暇はない。
……よっしゃあ、作戦成功だ! これぞ秘儀【死んだフリ】! 脱落したフリをして戦闘を回避するこの技。大会のルールでは〝最後〟に立っていた一人が優勝者だというので、参加者が残り少なくなってきたところで起き上がり、攻撃に移るのだ。我ながらゲスい、ゲスすぎる!
非常にアホな作戦ではあったが、死んだフリ開始から数十分後、参加者たちは見事に減っていた。途中何度か死んだと勘違いした係員に場外に連れてかれそうになったが、「俺たちまだやれるっすよ、休憩っすよ!」と小声で言い張って難を逃れ続けた。
しかし作戦が上手く行っている理由はそれだけではなかった。死んだフリを続けるのは良いものの、狙いがそれた飛び道具や流れ弾が結構飛んでくる。何も持っていなければそれに当たって終わりなのだが、ここで役に立ったのが伝説の盾だ。うつぶせになりながら盾を背負っていたのだが、どうやらこの盾は見えないバリアを張り、一定範囲に対する攻撃を無効化する効力があるらしい。飛んできた攻撃は俺たちの目の前で消滅していった。カインの親父ナイス過ぎる!!!
ゲーム内特有の超絶ご都合主義を駆使しつつ、飛び交う重火器の雨嵐の前にみるみる内に参加者は減っていった。たまに顔を上げて状況を確認していたが、今は中央で数人が戦っているような状況だ。よし、もう少し人数が減ったところで飛び出すぞとカインに目配せしていると、
「おやぁ? てめぇら何故連れて行かれてねぇんだ? もしかしてまだ闘えるってのかあ?」
悪役風の大男がこちらを見ていた。やべぇ、とうとうばれた! ざっざっ、という足音が段々大きくなってくる。こっちに近づいてきているようだ。
思わずカインと顔を合わせる。
「マコトさん! まずいですよ……これはもう立って応戦するしかないんじゃないですか?」
「そうだな……この人数だと流石にそろそろ死んだフリを通しきれないだろうし……」
隅に避難していた俺たちだったが、意を決してそろそろ~っと立ち上がった時、
「待て!」
突然大きな声が前方から聞こえた。声がした方を向いてみると、いかにもRPGに出てくる勇者風の男女が、先ほどの大男の前に立ちふさがっている。
「貴様、傷付き倒れた青年を狙うなんて外道にも程がある! 先ずは僕らの相手になれ!」
正直、ものすごく心が痛いが、これは非常に好都合だ。とりあえず悪役風の大男と勇者的な二人が潰し合ってくれれば、相手をする人数が減り、俺たちの優勝が見えてくる。
「ほぅ、威勢がいいねえ。だが、伝説のアイテム【グランドクロス】がかかってるんだ、俺も容赦はしねぇぞ。そいつを売ればいくらになると思う? 一生遊んで暮らせる額が手に入るんだよ! 俺の金稼ぎを邪魔する奴はゆるさねぇ。まずはてめぇらから潰してやるよ!」
うわーお、絵に描いたような悪党の台詞だ。大男はカインと同じようにピッタリスーツを着ているが、人相やその大きな体も相まって、まるで宇宙版の盗賊のようだ。っていうか、グランドクロスってそんなに高価なものだったのか。まあしかし、こういうときは基本的に正義が勝つのが〝お約束〟だ。恐らく俺たちは勇者風の二人と最終決戦になりそうだな。立ち上がったはいいもの、思わぬ展開になってしまった俺とカインは、成り行きを見守ることにする。
「行くわよ悪党! 私たちが魔王を倒し、世界に平和をもたらしてみせる! そのために……負けられない!」
そう言った刹那、この大会では珍しく剣を持っていた勇者二人組みが大男に飛び掛る! 大男も剣を使うようで、同じく大剣で応戦し始めた。
「す、すげぇ! ものすごい剣捌きだ……速すぎてまったく太刀筋が見えないぞ。音しか聞こえてこない!」
「さすが、この重火器、兵器を使いたい放題の大会の中で残った方々ですね……。少し前の戦いも見ていましたが、普通に銃弾も剣で弾いてましたよ……」
隅で見ている俺たちは、その凄まじい戦闘にただただ唖然としていた。これ……俺達勝った方と戦わなきゃいけないんだよな……。正直、1ミリも勝てる気がしない……。今更言ったところで、絶望しか感じられない。とりあえず「この瞬間に破滅の魔法とか覚えねーかなー」と現実逃避をした。
「なかなかやるようだなぁ。だが俺もお前らみたいな、勇者気取りの青二才に負ける訳にはいかねぇ。そろそろ本気を出させてもらおうか」
そう言った大男は、腰に下げていたもう一本の大剣を取り出し、二刀流になった。取り出した剣は今まで使っていた剣よりも長く、2メートル位はありそうだ。どんな力持ちだお前は!
「ふ、二刀流になったからなんだというんだ! 一気に決着をつけるぞ!」
男勇者がそう叫びながら走ると、女勇者が応えて空高く飛ぶ。天と地からの同時攻撃か! これぞ必殺技って感じだな! 思わず手を強く握って、勇者を応援してしまう。
「「うぉおおおおおおおおおおおお!」」
剣と剣がぶつかり合う音が、一度だけキーーーンと鳴った。そしてそのままのポーズで立ちすくむ大男と勇者風の二人。俺とカインはお金を払って見てもいいくらいの名バトルを、固唾を呑みながら見守っていた。
コロシアム全体が無音となる。ようやく動いたのは、勇者風の二人だった。ぴくりと体を動かした二人は、そのまま前のめりになって倒れていく。
「そ、そんな……世界への平和の夢が……ぐはっ……」
「私たちじゃ……勇者には、なれ、ない……ぐはっ……」
なんてこった! てっきりこの二人が勝つと思ってたが……ってことは……。
「さぁて、後はふざけて死んだフリをしていたてめぇらだけだな。まぐれで残っていたようだが、容赦はしねぇ。そうだ、このままあの世に行ってもらおうか」
うわあああ! 超怖いこと言ってる! 臨戦態勢に入る俺とカイン。改めて闘技場を見回すと、動いている参加者は数名いるが、この大男以外は戦意を喪失しているようだ。事実上、こいつを倒せば優勝は確定する……しかし……。
「ど、どうするカイン! とりあえず攻撃は盾で防いでみるけど、アイツに攻撃できるか?!」
「先ほどの戦いを見た限りでは、自信はありません……。しかし、父が託してくれたこの伝説の剣でやってみます!」
そう話すと勇敢にも走り出すカイン! 大男も二本の剣を振り回しながら突撃してきた! やべぇ、さすがにこれは……
怖い――。
その言葉が頭をよぎると、一瞬恐怖で身体が動かなくなる。そしてはっと気づくと、大男がカインに向けて剣を振り下ろす直前だった。カインも剣を持ち上げて攻撃を受けようとするが、慣れていない剣を使っているためか大男より一足遅い。やばい、ガード役の俺が出遅れてしまった。くっそおお、怖くて動けないなんて、何が勇者だ!
「カイン!!」
カインがやられる!
そう思った瞬間、カインが持っていた伝説の剣が一瞬光り輝いたように見えた。明らかに間に合わないと思っていたカインの剣は、見事に大男の二本の剣を受け止めていたのだ。大男の剣を受け止めるカインは苦しそうだが、その表情は先ほど大男と対峙していた、あの勇者たちのように凛々しい。
そうだ、ここで立ち上がらなきゃ勇者じゃない! 夢にまでみたゲームの世界じゃないか! 俺はこの世界でもただの一般人になってしまうのか?
勇気を奮い立たせ、俺は盾を持って走り出す。
「うぉおおおおおおおおおおお!! 盾アタアアアアアアアアアック!!!!」
よくよく考えたら、盾を持って特攻する意味はない。突進中にそんなことを考えるが、とりあえず当たって砕けろ! もう時間は戻せない!
全速力で大男に近づき、間合いが2メートル程になった瞬間……
ドン!!!!
伝説の盾のバリアが働いたのかもしれない。盾を構えて突進した方向に、ものすごい勢いで吹っ飛ぶ大男……とカイン。
あああああ!!! 明らかにこれ範囲攻撃だ! カインも巻き込んじまった! 想定外の威力によって、20メートルは吹っ飛んだ大男とカインだったが、二人とも辛うじて意識はあるようだ。
しめた! 今の攻撃(?)で大男とカインの間に距離があいた!
「とどめだあああああぁぁぁ! 盾アタアアアアアアアアアックセカンド!!!!」
再び大男に向かって特攻する俺。今度は地面に叩きつけるように、全身で盾を叩き込む。その威力は圧倒的で、闘技場の地面が漫画のように砕けていた。マジこの盾便利すぎるだろ!
二回目の盾アタックによってピクリとも動かなくなる大男。カインも1度目の盾アタックのダメージで、意識はあるが起き上がれないようだ。周りを見回してみると、この闘技場で立っているのは俺だけ。
こ……これは……。
「……勝った!!!!」
思わずガッツポーズをすると、ものすごい声援が沸き起こった。観客席からは紙吹雪や花が降ってきた。そこでやっと実感が沸く。伝説のアイテムやゲスい技も使ったが、『究極勇者大会』で優勝したんだ! 慌ててカインの元へ近づくと、彼の体を支えながら起こし、優勝したことを報告する。
「カイン、優勝したぞ! 大丈夫か? 不可抗力とはいえスマン! ものすごい吹っ飛ばしてしまった!」
「い、いえ……体中が痛いですが大丈夫です! 何より『究極勇者大会』にマコトさんが優勝できて良かったです! さすが勇者ですね!」
「ふっ、何を言ってるんだ! この戦い、〝俺たち〟の勝利だろ?」
お互いニヤリと笑うと、俺はカインに肩を貸して立ち上がった。
数日後…
「『究極勇者大会』で勝ち残ったマコトこそ、真の勇者であることは証明された。勇者には、伝説のアイテム【グランドクロス】を授けよう。改めて勇者よ、魔王の脅威にさらされている究極プラネット……いや、全惑星の平和を頼んだぞ。期待しておる」
誰だかよく分からないが、多分この惑星で一番偉い奴なんだろう。豪華な表彰式とともに、その長老っぽい人物からグランドクロスを受け取る俺。大会へ参加した者たちも、俺に向けて惜しみない拍手を送ってくれている。ずっと死んだフリをしてたから印象ないだろうけど。
「マコトさん、とうとうグランドクロスが手に入りましたね! これで各世界への渡航が可能になりますよ!」
全身打撲から回復したカインが拍手をしながらそう言った。数々のフラグのお陰ではあったが、こうして注目の的になるのは実に気持ちがいいものだ。現実世界で一般人だった俺は、いまや期待の勇者だ。衣装も色あせたジャケットとTシャツ、パンツではなく、オシャンティーなコートっぽい格好になっている。これからすぐに魔王討伐へ旅立つことを話したら、皆が色々と揃えてくれたのだ。
ここまでの数日を振り返って見ると、やはり俺は『M.S.S Planet』のゲームの世界に入ったと考えて間違いはなさそうだ。曖昧だが、大体はシナリオ通り進んでいるような気がする。それも主人公としてだ。このままゲームを進め、クリアを迎えると現実世界に戻れるのだろうか? 唯一の気がかりは『M.S.S Planet』の魔王の倒し方についてだ。なんだか特殊な条件があったような……? まぁラスボスの倒し方を覚えていたら、今後の展開は楽しめないだろう。勇者が悪を倒すことは決まっているのだ、少しずつ思い出していけばいい。
「さてカイン、この究極プラネットに未練はないか? 準備が良ければさっそく、渡航をして他の惑星に行こう!」
カインと俺は、グランドクロスを受け取る今日の表彰式に向けて、すでに出発の準備は整えていた。防具の他に回復薬も手に入れたのだが、生憎、カイン家特製の『バルボルンモンゴスチン』だ。どうやら漢方の一種でもあるようだ。良薬は口に苦し……怪我をしないようにしよう。
「はい、大丈夫です! 渡航ができると言われている、唯一の場所に向かいましょう。車に乗ってください!」
この空飛ぶ車ともお別れか、そう考えると感慨深い。表彰会場を離れ数時間後、近代世界が一変し、廃墟地のような場所に到着した。
「ここです。ここら辺は魔物の第一次攻撃を受けた場所で、今はすっかり廃墟になってしまっています。ただ魔物が通ったと思われるポータルはこうしてまだ残っていますので、渡航はできるはずですよ!」
廃墟の真ん中にカインがポータルと呼んでいる暗闇の空間があった。まるでブラックホールのようで、ここに飛び込むのはなかなか勇気がいる。
「そういやどの惑星に渡航するか決めてなかったな。やっぱり最初は、他の惑星を行き来してレベルアップとかの方が良いよな?」
「それがマコトさん……聞いた話によると各惑星への渡航先は、ポータルに飛び込むまで分からないそうなんです……」
「ええええ!!! マジかよ! ま、まぁ世界が五つあるとしたら魔王がいる『MSプラネット』に辿り着く確立は四分の一だからまず大丈夫だよな……はは……」
「そ、そうですね。ははは……行きましょうか」
半笑いのままポータルへ触れる俺とカイン。それに反応してグランドクロスも光り始める。カインと顔を見合わせた後、そのポータルへ一歩踏み出す。深いことを考えず、これから待ち受ける大冒険に胸を躍らせたのであった。
【第一章 究極プラネット編】完
コメント
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メタ発言しながらFFとかそのへんのゲームをやってる心境になれました!
マコトつええええええ!!
(ID:28170985)
超面白いʬʬʬ
(ID:40774858)
これはやばい・・・買わねばw