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極黒のブリュンヒルデ 少女達に与えられた絶望の運命

2013/08/08 20:36 投稿

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まず。
極黒(ごくこく)のブリュンヒルデとは、週刊誌「ヤングジャンプ」で絶賛連載中の漫画作品です。
作者はかのエルフェンリートなどで有名な「岡本倫」さん。

私がこの作品の一巻を手に取った時、岡本さんの作品(というよりエルフェンを描いた人)とは知りませんでした。
ネットで定期的に発生する、おすすめの漫画作品を紹介するというスレッドで名前を見て、ふと買ってみたのです。
本当は手に取った時もあまり期待していませんでした。
ここ最近新たに買い始めた漫画は大抵が一巻でもういいや、となるものばかり。
そういう経緯もあり、極黒のブリュンヒルデにも何の期待も抱かず、一巻だけを購入して、自宅へと帰りました。
ですが、やはりそういう期待薄の中で、食指は伸びず、自宅に戻ってもネットサーフィンなどをして時間を持て余していました。ようやく定期的な巡回を終えて、そしてふと、することが無くなって自分は、そっと置かれて居た、その一巻に手を伸ばしました。
……。
その後、一巻の最後のページを捲り終えてから私は、大至急財布をポケットに仕舞って、玄関へ走り出しました。
遠くない本屋へ自転車で向かう間、私の中には久しくなかった物語の興奮が満ちあふれていました。
早々に刊行されている全巻を揃え、しかしそれだけでは飽き足らず、更に先が気になって、漫画喫茶でヤンジャンのバックナンバーも読み切りました。
それほど面白い。引き込まれました。とにかく続きが気になる。
でも正直言うと、これは自分の趣向が作品の雰囲気や傾向とがっちり噛み合っただけ、という気もします。
ですが、それを差し引いても十二分に面白い作品であると、私は胸を張って言うことが出来ます。
そんなこの、ちょっと読みにくいタイトル「極黒のブリュンヒルデ」のレビューを始めたいと思います。

まずは簡単に導入部分を。
主人公、村上良太は幼い頃、事故で幼なじみを失ってしまう。
そして良太は高校生となった現在、その幼なじみの夢を継ぐ形でNASAの職員になることを目指し、天文部として学生としての日々を過ごしていた。
そんな平凡なある日、一人の転校生が良太のクラスに転入してきた。
転校生の少女は名前を黒羽寧子と言い、その容姿は幼少に失った幼なじみにそっくりなものだった。

大ざっぱにシナリオの流れを言うと、このお話は魔法使いと呼ばれる女の子達が、無惨な運命に翻弄されながらも抗う、という感じでしょうか。
この辺りは「まどマギ」によく似ています。まどまぎを気に入った人は、このお話を見てもお気に召すかと。

もう少し掘り下げると、魔法使いは秘密の研究所で生み出され、その存在は秘匿されています。その為、年端もいかぬ若い魔法使いの女の子達は研究所に閉じ込められ続け、様々に惨い実験を繰り返されます。
また一部の、能力が低いと評価を受けた魔法使いは、情も無く殺されます。
劇中で、主人公・良太と出会いを果たし物語の中心となっていくのは、この殺処理前に逃亡した魔法使い達です。
そして魔法使いの秘密を隠しておきたい組織の人間達が、刺客としての魔法使いを派遣し、それと戦う、そんなお話です。

では引き続き、どういうところがこの作品の見所となるのか、を紹介していきます。

見所1「残酷な運命に翻弄される少女達の姿」
まず逃亡をしているという段階で、少女達の生活がかなり厳しいことになってしまうのは必然です。秘密組織に研究対象とされているだけあり、外の世界に身よりもなく、自分たちの力でのみの生活を余儀なくされます。(尚、彼女達が学校に転校出来るのは、仲間内に優秀なハッキング能力者がいるから)
しかしそんなことより何より、その生活を悲惨にしているモノが、「鎮死剤」と呼ばれる薬剤の存在です。
魔法使いの少女達は、この鎮死剤を一日一つ使用しなければ、例外なく死亡します。
ただ使用しなかったからと言ってすぐ死ぬわけでは無く、肉体を崩壊させながら二日ほどの時間で死に至るようです。
つまり、鎮死剤とは魔法使いの少女達にとって、目に見える命の欠片であり、しかし逃亡中の彼女達に満足な量はありません。
日々、目に見えて減っていく命の恐怖、そして逃げ出した魔法使いを殺すために放たれる、強大な能力を持つ刺客達による追撃の恐怖。
様々な恐怖と不安に包まれる中で、一見平凡でありながらも幸せな毎日を過ごす、というそのギャップはとても見応えがあります。
特にそのギャップが故に、登場人物達の感情は容易く昂ぶり、それが普通つまらなくなってしまうだろう日常シーンにドラマが溢れるというのは特筆すべき所でしょうか。

見所2「個性溢れるキャラクター」

なんと言ってもこの作品、登場人物がそれぞれに素晴らしい個性を持っているのです。
とんでもなく優しいがやや天然な部分もあるヒロイン。とんでもなく口が悪いヒロイン。
惚れた主人公にとにかく色んなアタックを繰り返す、それでも本当は奥手なヒロイン。とんでもない天然の癒やし系ヒロイン。無口系のヒロイン。本音をちょっとも隠さず主人公に真っ直ぐアタックを続けるやや腹黒系ヒロイン……などなど。
ヒロイン(女性キャラ)は沢山出てきますが、そのそれぞれが独立した個性を持っていて全くと言って言いほどキャラ被りしていないのです。
彼女達の個性と、そして前述したとおり、登場人物の感情を掻き立てる絶望的な現状が、よりキャラの造形を際立たせています。
重ねて、どのヒロインも何かしら魅力的に描かれていることも素晴らしい。捨てヒロインが殆どいないのです。だからこそどのヒロインにも愛着が湧きます。
ですが、その癖、シナリオは危機的な状況を描いていますので、当然生と死が行き交うわけで。読んでいる間も「あー死なないでぇ!」と内心で叫んでいました。
そういうはらはらする緊張感もまた、この極黒のブリュンヒルデの魅力の一つかも知れないです。
おまけみたいになってしまいましたが、後は男性陣も魅力的ですね。特に主人公と、その主人公に力添えをしてくれる叔父の研究者。この二人はしっかりキャラが立っています。
主人公は物語の顔であり、また読者の欲求を物語の中で代行してくれる存在です。言わずもがな、その人間性、キャラクターは作品の価値を決める大きな要素となります。
それでこのお話の主人公、村上良太君ですが、かなり優秀で性格も格好いいです。
主人公の言動に関しては、殆どストレス無くお話を読み進めていけるのではないでしょうか。
彼は一般人で魔法使いでも何でも無いので、別に特殊な能力も、あるにはありますが、現実的なラインでしかありません。
そういう主人公が、きっちりと物事を考えて、ヒロインに的確にアドバイスをして、危機を乗り越えていく。そしてそれら主人公の行動にヒロイン達が尊敬と愛慕を寄せていく。その様子にはエンタメらしい、しっかりとしたカタルシスがあります。
その主人公の思考はちょっと飛躍があったり、あるいは誰でも分かりそうなこと、というのも含まれているかも知れません。しかし、私自身の主観で言えば、あまり違和感を覚えるということはありませんでした。(そもそも私は物語を読んでいる瞬間にあまり考えを回さないタチなのでそれが影響しているのやも知れませんが……)
主人公の叔父のキャラも、凄まじい偏屈ぶりとしかし頼りがいのある知識と頭脳のギャップに好感を持ってしまいます。
兎にも角にも、主人公やそのヒロイン達の言動は瑞々しく、読者を飽きさせない輝きがあることは間違いないと思います。

見所3「細部の伏線とSF要素」
エヴァンゲリオン、進撃の巨人、ever17、これらはいずれも名作です。そしてこれらに共通するのは、特有の勿体ぶった描写。所謂伏線、あるいは布石でしょうか。
例えば「人類補完計画」
この言葉はエヴァの作った固有名詞ですが、ぱっと聞いただけでは、その意味を全く想像出来ません。だというのに劇中の人物達、しかも訳知り顔の上層部達が何度も使用するので、印象的で、とてもその意味が気になります。
ですが、その意味は最終話間際まで明らかになることはありませんでした。
その他にも、エヴァの存在、生まれ、地下に存在する使徒の意味など……様々な謎があり、しかしそれらの意味は終盤になってからようやく明かされ、あるいは語られなかった謎もあります。
こういう伏線というのは、読者に対して強力な訴求力を持ちます。
この謎が気になるから先が見たい。
単純な真理ですが、単純故に強力です。
しかも、その謎が登場人物達の行く先に密接に関係するのなら尚更です。
これは例えば進撃の巨人でいう、巨人の正体について、というのがわかりやすい例ですね。
巨人達は主人公エレン達人間を、その巨大な体躯と人間に対する害意で殺めていく。
しかしながら、その行動原理、つまりは人間を殺す、というその理由は全く分かりません。
(読者に近い視点を持つ主人公達には)
主人公エレン達は巨人に身内を何人も殺されているのですから、巨人に対して怒り、その上で「何故人を殺すのか?」という疑問も当然抱くでしょう。
重ねて巨人は人を殺すのに、捕食を目的にしているわけでは無いということが明らかになって、エレン達のその疑問も一入になります。
そしてエレンに近い視点を持ち、エレンの感情に同調してしまう我々読者も、エレンと同じ疑問を等しく持ってしまうわけです。
要するに、強く感情移入させてしまうことで、物語に対するリアリティ(=迫真)を増させて、より深く考察を増させる。という仕組みがあるわけなんですが、それがこの極刻のブリュンヒルデにも存在しています。
何故ヒロイン達は魔女と呼ばれ、酷い扱いを受けるのか。
それはメインヒロイン達の艱難を見ている読者にとって、強い疑問となります。
そしてその理不尽な扱いの理由を探し求めて、次のページを捲ってしまうわけです。
しかし答えは無く、ただ思わせぶりなヒントがあって、更に考察を深めてしまい、物語の中へ更に没入してしまう。
そんな具合によく出来たヒキと伏線があるこのお話は、久々に次の一話が気になる作品です。
(故にヤンジャンにまで手を出してしまったと……)
またその伏線要素が、実際に存在する「ニーベルングの指環」という楽劇の引用を多数行っていて、そこからもまた色々連想・妄想したくなります。
現実にある作品や神話などを引用すると、そんな考察の面白さもまた二重、三重に増えていきますね。その良い見本だと思います。

しかし。
こうやって説明させて頂いた後、偉そうにも一言言わせて貰うと、これらのSF伏線要素は、前述のエヴァンゲリオン他とかなり似ています。
これはもう間違いなく影響を受けているでしょう。
例えば「高千穂」(天孫降臨のあった一山の名前で、おそらくは魔法使いの研究所、そのパトロン)はゼーレに酷似していますし(変な場所で座って会談する、というのも。顔が見えないというのも。パトロンであると言うことも)重ねてその目的も似たようなものである様子。
……他にも色々ありましたが確実にネタばれるのでここまでで。
そういう具合で、色々と他作品と似ている要素があるんですが、作品の地の出来が良いため、これと言って気になりもしません。
ですが、そこに目が行ってしまう方もいるかもしれませんので、一応作品紹介の中で言わせて頂きました。

以上で紹介はひとまず終わりです。
本当に面白いお話なので、見てくれる人が沢山増えると嬉しいです。(私の友人はヤンジャン購読者の癖にブリュンヒルデばかりは読んでいないとか言ってました。ぐぬぬ)

けれど、冒頭に述べた通り、この作品はエッジがキツイお話だと言えるでしょう。
言い換えるなら、はまる人ははまるし、駄目な人はとことん駄目、というお話とも言えるのです。
例えばフィクション作品の残酷描写が堪えられないと言う人は、おそらくあまりこの作品も合わないでしょうし、鬱になるようなお話が苦手な人も駄目でしょう。後は、萌えに拒否反応が出てしまう人も厳しいかもしれません。
(このお話の売れ線としてはラノベ購読者層がターゲットになるでしょうか)
けれどこの三要素が嫌いでは無い、むしろ「どんと来い」という人は確実に、もう絶対に気に入ると思います。
もし、書店などでふと目が入ったのであれば、物は試しで一度購入して頂けたらな、と思うばかりです。
それで尚、つまらなかったというなら、こちらのブログに愚痴って頂いても構いません。なので是非是非!
お買い求めを。

この極刻のブリュンヒルデを!!



余談。奈波ちゃんが好きでした。










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