120タイトルを軽く超えるビデオゲームが現役で稼働し、毎日なんらかのゲーム大会が開催される日本のアーケードゲームの聖地のひとつ「高田馬場ゲーセンミカド in オアシスプラザ」。この人気ゲームセンターの経営者兼店長を務めるのが池田稔氏だ。13年に渡ってゲームセンター運営を続けてきた池田氏に『ストリートファイター』シリーズをはじめとした格闘ゲームと、ゲームセンターというビジネスの今について聞いた。
■2D格闘ゲーム再隆盛の時代に築かれたミカドのコミュニティ
OTAQUEST:2009年の高田馬場店オープン当時、格闘ゲーム界の状況にどんな印象を持たれていましたか。
池田:前年の2008年にはカプコンから『ストリートファイターIV』がリリースされ、2D格闘ゲームがふたたび盛り上がりを迎えようとする時期だった記憶があります。アークシステムワークスから新作の『ブレイブルー』が出て、他にもエコールの『MELTY BLOOD』、エクサムの『アルカナハート』といった人気作の続編が出ました。高田馬場ミカドがオープンした2009年にもSNKプレイモアから『THE KING OF FIGHTERS XII』が出て……これはちょっとコケちゃいましたけどね(笑)。
OTAQUEST:当時のゲームセンターで格闘ゲームは主流だったのですか?
池田:ええ。その頃はすでに、ゲームセンターはゲームを置いておくだけで集客できる時代ではなく、ビデオゲームを主力にしていた店は経営がキツくなってきていました。基板の価格が少しずつ高くなり、筐体もブラウン管から16:9の液晶画面に切り替わる時期で設備費もかさみました。そこでミカドではいろいろなゲームで独自のイベントを実施し、お客さんを集めようとしたんです。その中で格闘ゲームは大会などの企画が立てやすく、集客に繋げやすかった。大会の様子をHDレコーダーなどに記録して、後日YouTubeなどにアップロードするといった方法でネットを通じてお客さんにアピールしていましたね。
OTAQUEST:当時のアーケードの格闘ゲームのコミュニティはどんな雰囲気でしたか。
池田:アーケードゲーム専門誌の『アルカディア』が「闘劇」という大規模な格闘ゲーム大会を主催し、それが格闘ゲームのコミュニティで象徴的な存在になっていました。加えて、ゲームスポットアテナ町田店のような人気店で「アテナ杯(現ビートライブカップ)」のような中規模の大会が開かれるムーブメントも定着し、各地のゲームセンターが「聖地」となって、それを中心にしたコミュニティができていました。
OTAQUEST:ミカドも大きなコミュニティを持っていますが、それができた理由はなんだったのでしょう。
池田:やっぱり大会です。最初は週末だけやっていたんですが、売り上げが厳しくなった際にいろいろなゲームを題材にした大会を毎日開いて店のセールスポイントにしたんです。結果、売り上げが上がって続けることになり、それが現在でも続いています。規模は小さくても、大会と聞けばさまざまなゲームセンターからお客さんが集まりますし、その中で通いやすいなどの理由で人が居ついてミカドのコミュニティができていったんです。最初からコミュニティを作りたいという強い意識があったわけでなく、自分たちの居場所を維持するために体を張っていたら、結果的に今のコミュニティができた感じですね。
■『スーパーストリートファイターIIX』と『ストリートファイターIII 3rd STRIKE』は30年後にも残る
OTAQUEST:ミカドで人気のある『ストリートファイター』シリーズ作品は?
池田:『スーパーストリートファイターIIX』と、『ストリートファイターIII 3rd STRIKE』です。『スパIIX』はシンプルな攻撃で大ダメージを与えて勝ちを狙える面があり、初心者でも比較的入りやすい。『3rd』はややマニアックなシステムですが、国内で「クーペレーションカップ」のような大会が継続して行われ、さらに梅原(大吾氏)が2004年の「The Evolution Championship Series」で見せた「背水の逆転劇」の動画がネットで広く知られたことで、カッコよさと奥深さが広まって生き残った。この2タイトルは今もファンが遊び続けていて、新しいプレイヤーも入ってきている。多分30年後も遊んでいる人がいるでしょう。
OTAQUEST:今から新規で始めるプレイヤーもいるんですか?
池田:数は少ないですが、若いプレイヤーは確実に入ってきています。圧倒的に多く、強いと感じるのはかつて『ストリートファイターII』の登場時に遊んでいた40歳前後のプレイヤーの子供たちです。彼らは、親が家で『ストリートファイター』を遊んでいるのを見たり、父親と一緒にゲームセンターに行ったりして、自然に格闘ゲームに触れてきている。格闘ゲームにゼロから触れてきた立場から見ると少々いびつにも感じますが、僕は「ゲームセンターに来てくれるなら入口なんてなんでもいい」と思っています(笑)
OTAQUEST:今、『スパIIX』『3rd』の大会では、どのぐらいの人が集まるのでしょう。
池田:ミカドだと平日の夜の大会でも参加者は20人を超え、週末なら倍の40人くらいは集まります。ミカド以外でも年に1度とかの大きな大会は100人、200人くらい集まるでしょう。ミカドは昨年、池袋に2号店をオープンしましたが、高田馬場店から徒歩で40分ほどしか離れていない。でも『スパIIX』『3rd』はそれぞれの店にコミュニティがあります。これが他のゲームだと2店でコミュニティを支えるだけの人が集まらず、どちらかの店に偏るのが普通です。
OTAQUEST:ここ10年でトッププレイヤーの顔ぶれに変化はありましたか?
池田:『スパIIX』や『3rd』のプレイヤーは30代から40代が中心でトップの顔ぶれも大きくは変わりません。中堅だったプレイヤーが上位に加わることもありますが、本当のトップクラスのプレイヤーがとても強くものすごい壁になっている。トップの交代が起きにくいという状況でもあり、そこはアーケードの格闘ゲームのひとつの問題点といえなくもないですね。
OTAQUEST:eスポーツの流行でプレイヤーの層が増えれば、さらに広がりそうですが?
池田:実際に経営をしていると、eスポーツ人気でゲームセンターの売り上げが上がったかというとそうでもなくて(笑)。むしろ、格闘ゲームのスポーツ化がゲームセンターという存在とは相反する部分もあると感じています。個人的にゲームセンターは「娯楽場」で、毎日トレーニングしていない人でも楽しめる場所だという思いがあって。毎日練習して戦いに行くなら現実の格闘技の世界と同じだし、それもちょっと違うかなと。いい、悪いというのではなく、eスポーツとゲームセンターの盛り上がりは別のもののように思えます。
OTAQUEST:それはちょっと意外ですね。
池田:単純に練習したり、他人とオンライン対戦するだけなら家庭用ゲームで十分に機能は満たされているし、eスポーツ志向の人は別にゲームセンターに行かなくてもいいと考えるんじゃないでしょうか。僕はゲームセンターの楽しさを「場の共有」だと考えていて、そこに価値があると考えています。プロゲーマーなら大会でそうした空気を体験できますが、普通の人はまずリアルの大会に出場するのも難しい。でも、ゲームセンターなら対戦台で100円入れてゲームをプレイするだけで、誰もがフィジカルな楽しさを体感できて、それがいいんですよね。
※後編は明日アップいたします。お楽しみに!
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