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「機長からアナウンス(内田幹樹著)」メモ

2016/03/13 19:00 投稿

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・処分するための読書継続中。この本は、一度読んだはずなのだが内容をよく覚えていないので再読。全日空の国内・国際線の機長も務めた現役のパイロットが書いた航空エッセイ。
 これは著者3冊目の本で、第一作の「パイロット・イン・コマンド」は1997年のサントリーミステリー大賞に応募して優秀作品賞となり、これで現役パイロット兼作家となったみたい(出版までにはちょっと紆余曲折があったらしい)。執筆当時は1940年生まれとあるので56.7歳くらい。当時は操縦教官だったらしい(操縦訓練施設は宮古列島の下地島というところにあるらしい。島なので待機時間に時間を潰す場所がなく、その時間つぶしに書いたらしい)。
 1999年に上記の「パイロット・イン・コマンド」が単行本で出て、以降5冊の小説と、2冊のエッセイを発表するが、受賞後に全日空を退社してフェアリンクという地域航空会社設立に参加、2004年にはそこも退社して専業作家として腰を据えたが、2006年に病気で亡くなったという。66歳というからまだまだ書けたように思う。ご本人は残念だったろう。
 現場を知る人ならではの面白さがあったので、もう少し作品を読みたかったし、飛行機のみならず交通機関の事故についても、あとがきなどでマスコミとは違う視点で発言していたように思う。

 というわけで、小説のほうは航空機トラブルに関わるミステリ仕立ての作品が多いのだが、エッセイのほうはもっととっつきやすい。

 以下章立てに沿って大雑把に。今はスチュワーデスという用語は使いづらくなっているが、著者も書いているが、この仕事を表す共通語は他に適切なものが無い(正式名称は会社によって違い、一般の人はわからない)ということで、著者にならってスチューワーデスと書いています。

・まえがきにあたる、プロローグという部分があって、ちょっと硬い話から始まる。これは出版直前にちょうどニアミスにより乗客が負傷する事故があり、機長が犯罪者のように取り扱われ、弁護士をたてたところ、その事自体がマスコミから強く非難されたということで、他にもいろいろマスコミの報道の仕方はおかしいのではないか、という意見を述べている。
 肩の凝らないエッセイではあるが、これは現役の機長兼作家としては、言わずにおれなかったようだ。

Ⅰ.スチュワーデスとパイロットの気になる関係
・お食事は何になさいますか、とスチュワーデスに聞かれ、何があるの?と聞いたら
ステーキかサーモンのライス添えがありますと答えたのでサーモン(ソテーだと思って)を頼む、と言ったら塩鮭定食を持ってきて、サーモン(ソテー)を頼んだんだけど?と言ったらサーモンです、と頑張る。そういう頑固で気が強い人もいます、という話。彼女(はっきり書いてないけど多分同一人物)はもう一発やらかして、やっぱり頑固に自説を変えない。
・スチュワーデスを束ねるチーフパーサーが優秀じゃないとフライトの顧客満足度は下がるが、優秀な人ほどトラブルが小さいうちに収めてしまうので間近にいる人しかその優秀さがわからなかったりする。そういう役目の人が安い時給で雇える人に置き換わっていって大丈夫だろうか、という話。機内販売の売り上げを上げることばかり考えてちゃ駄目だ、と苦言を呈している。
・クレームの過剰対応について。ある客が経営不振なのにスチュワーデスがロレックスの時計をしていた、と言ったのでその会社はロレックスや金のベルトが禁止になったという。
・パイロットとスチュワーデスは、医者と看護婦みたいにウフフなんだろうとよく言われるが、組み合わせはどんどん変わるし顔を合わせる機会もそれほどないですよ、今誰が乗ってるのかもわからないことが多いです、どちらかというとプロ野球選手みたいなお客さんと結婚する例が多いんじゃない、という話。
・国内線と国際線のスチュワーデス気質の違いの話。国内線だともう別会社か他部署の人がたまたま一緒に乗ってるだけ、みたいな感じになる、時間が長い国際線では多少打ちとけた感じにもなる、スチュワーデスにもいろいろあって、操縦室に愚痴を言いに来たり、泣きに来たり、そこで性格がわかる、みたいな話。ただ、パイロットとスチュワーデスがあまり親しくなる時間が無いのも、イザという時のチームワーク的に問題じゃないか、と著者は書いている。

Ⅱ.パイロットが誕生するまで
・パイロットの経歴について。執筆当時は自衛隊経由と航空大学卒がほとんどだが、著者の時代はパイロット不足で一般採用なんかもやっており、元沖仲仕、元薬剤師、元バレエダンサー、元オートレーサーなんかもいたそうだ。著者自身は書いていないのでわからない。
 著者は航空大学が落第という制度を持たず、入学すれば全員卒業するのはおかしいのでは、と書いている。パイロットには向かない人というのは明らかに存在して、それらをふるいにかけて地上勤務にするのは民間航空会社側がやっている。逆に一般採用時代のように、適性で採用して社内教育でパイロットにすることも出来るのだと。
・パイロットの適性について。
 パイロットが全員英語が得意か、というとそうでもないという。通常は航空管制用語が国際基準でしゃべり方まで決まっているので、これがわかれば用は足りる。だが、海外の管制官は一日中しゃべりっぱなしで忙しく、早口の管制用語ではない普通の言葉でダーっとやられて、聞き返したら「日本のパイロットは管制英語を知らない」という新聞ネタになってしまったことがあるらしい。彼らは忙しいので、一度細かい指示を聞き逃すと「もう空港に入れてやんないよ」状態になってしまうことがあり、著者も慣れるまで苦労したという。
 パイロットの適性は書類ではわからず、実際に飛ばしてみないと判断が難しいという。大胆さと繊細さを使い分けできないと務まらないと著者はいう。また「職人」であるので、組織内の対人関係が下手な人も多いという。
・著者が出会ったパイロットたちにはずいぶん変わった人もいたそうで、実例をあげている。
・飛行機の操縦はバイクに似たところがあると著者は言い、パイロット仲間のツーリングクラブもあるそうだ。自家用機を持つ人もいるとの事。
・「その時副操縦士が操縦していた」と、事故やニアミスなどがあるとマスコミが叩く事があるが、著者はこれはルール違反でもなんでもなく、気象条件が悪い時などに副操縦士が操縦するのはむしろ当たり前なのだと書いている。操縦士は副操縦士に操縦棹をまかせ、自分は一歩後方から全体を広く見ないと、危険を察知できなくなるという。機長が操縦するとこれができなくなり、かえって危険だという。著者もコーパイ(副操縦士)に操縦をまかせていたため故障に気付き、危険を回避した経験があるという。その時操縦していたコーパイは全くその危険に気付いていなかったとも。
・執筆当時でも、ほとんどの訓練は実機ではなく、シュミレーターを使うという。今は良く出来ていて、著者によれば視界に映る景色は、滑走路のコンクリートのつなぎ目まで本物とおなじらしい。シュミレーター訓練を終えてはじめて実機に乗ったパイロットが、「シュミレーターそっくりだ!」みたいに感動しているのを何度も見たそうだ。
 著者の意見としては、実機を使わなくてもシュミレーターだけで訓練はできるのではないか、月着陸もそうだったし、と書いている。
 そんなに良く出来てるのなら、退役した飛行機(例えばジャンボ)なんかのシュミレーターを一般人に有料で使えるようにしてやったら人気が出るかもしれない。すごい金額になりそうだが、今は極端なお金持ちもいるから、それでも客は来るだろう。爆買いされて中国の人に独占されちゃうかもしれないが。
・今はさすがにやらないそうだが、実機を飛ばしてエンジンを絞って、なんて一歩間違えれば墜落してしまうようなエンジン故障時の訓練なんかもしていたそうで、そうしたら絞っていない方のエンジンが本当に故障して危うし、ということもあったそうだ。現在はシュミレーターのみになっているという。
 もし将来実機訓練が廃止されるようなら、ANAが持っている、広大な滑走路を持った訓練場(沖縄県下地島)が余る。この滑走路を基地問題解決にうまく使えないものか。ネットには2014年以降使われていないみたいな事も書いてあるが。
http://shimojishima.com/trainee.html

Ⅲ.飛行場のクセと離着陸の難しさ
・離着陸どちらが難しいか、というと、離陸の方が困難だという。着陸は行き過ぎてやり直しできるが、離陸はV1(臨界速度:時速265キロ)と呼ばれるリミットを越えてしまうと、もう何があっても地上で停まる事はできないので、その速度に達するまではいつでも停めれるようにスロットル(出力レバー)に手をそえて、V1を超えるとようやく手を離すことができる、それまではあらゆる計器に目を配り、異常は無いか、と一瞬の判断が要求される緊張の時間だという。余談だが著者はジェットコースターに乗っても遅く感じてしまって、怖いと思わないという。職業病だろう。
・飛行機の操縦、特に着陸のときは、尻の感覚が重要だという。まず尻で飛行機がズレタな、と感じて、計器を見て数値を確認するのだという。また、ショックが無いのが必ずしもいい着陸とは限らないとも書いている。横風が強い時などは、風に負けないよう強く、風の来る方の足を先に接地させるなどの配慮が必要という。
 執筆当時でも自動操縦装置(オートパイロット)はかなり進化していて、無視界であってもオートで着陸は可能だそうだ。極端に言えば、通常でもパイロットは計器を見ており、外を見ていないとも言う。今はどうなっているかわからないが、当時は離陸はオートではできず、行くか行かないか、の判断は人間でなければ無理だったという。 
 無人運転自動車より、無人運転旅客機の方が技術的にはすすんでいるのかもしれない。
・戦前に帝国海軍が作った空港は、本当にいい場所にあるらしいが、戦後できた空港は気流が悪いなどあまり条件的に恵まれていないという。「三大悪気流」空港は、著者によれば「仙台」「花巻」「松本」だそうだ。

Ⅳ.事故とさまざまな謎について
・著者は新幹線に乗ると落ち着かないという。飛行機に比べてぶつかれば怪我をしそうな車内の突起が多く、頭上の荷物棚には蓋も無く、事故があれば重い鞄が頭にぶつかってくる。
 飛行機は何度も事故があり、新幹線は一度もそうしたことを検討しなければならないような事故が無い、という結果なのだが、それがわかっていても心配してしまうと。
 著者は事故報告書を読む立場だった時期もあり、御巣鷹山の報告書も読んだが、事故原因が納得できなかったという。急減圧が本当に起きたのかが疑問であり、何故海底調査をほとんどしなかったかも不思議だという。
海上に降りればよかったのでは、という批判が当時あったそうだが、それについては、着水というのはコンクリートの壁にぶつかるようなもので、波のうねりに合わせる微妙なコントロールが必要であり、そんな微妙なコントロールが出来る状態なら海に降りる利点は無い、と著者は否定的な意見を述べている。海上でいつ救助が来るかも、疑問だという。
 地上なら救援が早いかというとそんなこともなく、急病人が出て飛行場に緊急着陸した場合でも、救急車が飛行機のところに来るまで20分以上かかるのが普通だという。これは滑走路内を航空局の車の先導無しに救急車が走ってはいけない決まりがあるためで、海外の空港ではそんなことは無いという。
・1999年、ハイジャック犯に機長が刺殺された事件があり、著者はこの事を憂いている。
・ハイジャックに限らず、飛行機を支える安全性と経済性について述べており、それを支えているのは優秀な人的資源であり、彼らは給与や職場環境が良くなければ確保できないとも。当時でも、そうした職場としての魅力が失われつつあり、今後の安全が果たして確保されるのかどうか、と著者は案じている。同じような業界として原子力業界を例にあげている。
 著者は今後ますます旅客機は巨大化し、ジャンボより大きい機体が現われると予想しているが、ここは予測が外れたようだ。

Ⅴ.コクピットのなかでは・・・
・飛行機から見下ろすと、雲にぽっかり穴が開いている部分があり、何かと思うとそこはナイタースキー場だったという。つまりナイター照明の熱で雲が消えるのだろう。スキー場に雪が降らないのも当然だ、という話。
・いわゆるUFOを見たパイロットは多いという。著者も2回見たという。ベテランパイロットの目をしても、何だかわからない動きをする飛行物体を見たという事だ。著者の友人は海の上に一辺が100mもありそうな真っ白な四角い物体が浮かんでいるのを目撃したという。
 だが、パイロットはあまりこうしたことは報告もしないし、よほど親しくなければ同僚同士話題にすることも無いという。結論が出ないことを議論しても仕方ないし、上に聞こえれば精神的になんとかで、飛行機を下ろされるかもしれない。でも、何かあるよね、と思っているパイロットは少なくないだろう、と著者は言う。
・北極圏ルートではオーロラを見ることができるが、宇宙線の影響で身体に悪いという意見もあるという。組合が宇宙線量の測定をしたこともあるそうだ。
・国際線コクピットは、時差もあって必ず睡魔に襲われるという。コーヒーやガムが眠気覚まし対策としては一般的だが、著者は昆布を愛用しているという。外国ではパイロットが全員寝てしまい、着陸予定の空港を通り過ぎてしまったこともあるという。また、マイクロスリープという、自覚無く一瞬意識が無くなってしまう現象もあるとか。時差解消のために、エアロビクスをやるパイロットは多いそうだ。

Ⅵ.いろいろなお客さん
・著者が直接的・間接的に見聞きした困ったお客さん列伝。
 必ず寒暖計を持って乗ってきて、暑い寒いと文句をつける某有名企業の社長夫人。
 シートベルト着用を拒否した元首相秘書。
 きんさん、ぎんさん。ご本人たちが悪いわけではないがパイロットは凄く緊張したらしい。
 必ずトイレでタバコを吸う修学旅行生。
 昭和天皇陛下。これも陛下がお悪いわけではないが、操縦席を突然訪問され、折悪しく
 パイロットはリクライニングポジションだったため、ふんぞり返って対面してしまった。
 陛下に限らず、要人を乗せてフライトする時には、遅れてもいいが、絶対に予定時間よりも
 早く着陸してはならないという。セレモニーの準備の都合上。
 お相撲さんやスポーツ選手などなど体格のよい人の集団。本人たちが悪いわけではないが、
 飛行機の重量バランスが崩れたりするので、特別に重量や燃料計算したりするそうだ。

Ⅶ.なぜかグローバルな内緒話
・国際線パイロットは巡航時間(安定して水平飛行しており、書いてないけどたぶん自動操縦にまかせて問題ない)が長く、時間をもてあます事が多いという。4時間操縦して2時間休憩、みたいなシフトだそうだが、同僚やスチュワーデスに話が合う人がいるとやはり退屈しないという。そんな時の話題はたいてい乗務スケジュールか給料(サラリー)、もう一つよく言われるSがあって3Sだという。
 他社の便に乗客として乗る場合、操縦席に行ってパイロットに挨拶する習慣がある(著者の場合)そうだが、そうした時にふと計器を見ると、発電機やエンジンが(複数あるうちの1台とか)止まっている事が何度かあったそうだ。引き返しても、その空港では修理できないとわかっているのでそのまま飛んで、目的地の大きい空港で修理しよう、ということらしい(例えばナイロビ離陸直後にエンジンが1基停止したが、戻っても直せないのでイギリスまで飛んでしまう)。普段よりも緊張するフライトなわけだが、そんな時でも、給料の話はしてくるそうだ。
・離陸前のブリーフィングについて書いている。
・パイロットの勤務時間について書いている。
・パイロット組合のストについて書いている。必ずマスコミに叩かれるが、著者から見て安全を守るためには必要な場合もあると。

Ⅷ.パイロットは本当に破格の待遇か?
・パイロットの通勤事情について。飛行機のコクピットには、ジャンプシートという余分な椅子が二つくらいついていて、アメリカではこの椅子にパイロットはほぼ自由に座れる、会社が違っても乗れる。つまり通勤に使えるという。客席に座る場合も料金は10%位でよく、ニューヨークからシカゴまで通うキャプテンなどもいるらしい。日本ではそういう制度は無く、場合によっては単身赴任して、空港近辺に住むという。何かというとパイロットは破格の待遇と叩かれるが、このような実例がたくさんあって、日本の待遇がそんなにいいとは言えないと、著者は思っているという。
・パイロットの制約について述べている。機長のライセンスは6ヶ月ごとに更新しなければならない。これを何十年も続ける。技量と健康、どちらが欠けても飛行機には乗れなくなる。
 医者や弁護士は、一生に一回資格を取ればいい。彼らは半年毎にそうした試験があったら、どれだけ合格できるだろうか、と書いている。
・パイロットが飲みに行くのはたいてい羽田や横浜周辺で、銀座や赤坂など行かず、大森とか新橋で飲むのは歓送迎会など特別なイベントのみだという。但し他社はわからないそうだ。

Ⅸ.パイロットを取り巻く環境
 航空管制官について書いている。アメリカやイギリスには航空管制業務を民間会社が請け負うところがあり、こういう場合は飛行機はサービスを受ける立場で、やりやすいという。国家が管制を行う中国などは指示してやる感じで飛びにくいとも。日本も悪く無かったのだが、近年管制官の質が急に落ちてきた、指示がはっきり聞こえない人が増えた、と著者は書いている。仲間から聞いた話として、ヘッドセットを頭につけず、机の上に置いて指示を出している人がおり、理由を聞いたら髪のセットが乱れるから、だったという。日本の航空管制官は、公務員なので一度なってしまえば、パイロットのように半年毎の技量チェックも無いという。
 また、彼ら彼女らも人命を預かる重い責任の仕事をしているのに、手当ては普通の公務員より2万円程度高いだけだという。当時話題になったニアミス事故があったのだが、著者は起きるべくして起きた、管制システムの見直しを考えないと、と書いている。
・著者は関西空港が嫌いらしい。著者の周りは皆そうらしい。関西空港の区域制限は複雑で、空港が見えてから40分以上大回りしなければならない。大阪上空を避けるために。避けるという事は、最短距離を通らずに迂回して他の町の上空を飛ぶという事。その分燃料がかかりコストがかかり、運賃は高くなり排気ガスも余計に出ると。
 日本は空港が混んで来ると、離着陸する間隔を長くするが、ロンドンなどは短くするという。著者の経験で、70機を1時間かからずに離陸させたという。日本は一機離陸した後は2分あけないといけないという基準があり、渋滞はなかなか解消されないみたい。という事は陸にも空にもウンザリした飛行機が長時間貯まるという事。空のは旋回しつつ飛び続けている。何機も。どちらが安全なのだろうか。
・日本は国策会社であるJAL優先で航空行政を進めた(JALしか国際路線を持てなかった)ため、JAL以外の会社は外国の会社が次々に参入するのを黙ってみているしかできず、条件のいい路線は外国に押さえられてしまい、もはや巻き返しも不可能だろう、と著者は言う。
 今は少し変わってきたが、国際線は成田で国内線は羽田というのも利便性が全く感じられず、空域が一番自由に使えるのは横田と成田を交換した場合だろうという。もちろん反対運動で実現は無理と知りつつ。
・執筆当時、羽田の年間発着回数は約11万7千回(当時は滑走路2本+横風用)、成田が約13万5千回、ロンドンは約39万6千回だという。この違いはどこから生まれるのか、と著者は書いている。
 現在はどうなんだろう、と調べたら羽田の発着回数は2014年の資料で年間44万7千回に増えていて、五輪までにあと4万回ほど増やす予定だという。成田も今は30万回くらいになっているそうだ。羽田の滑走路は現在4本になっているが、効率化も進んだということだろうか。今著者がこれを聞けば、ようやく、と思うのか、まだまだ、と思うのか、無理してる、と危惧するのか。
 著者は海を埋め立てる空港には、空港へのアクセスを考えると不便すぎると懐疑的なようだ。当時建設中だった神戸空港と、計画中だった中部国際空港(セントレア空港になった)について、危惧を書いている。
 神戸は近隣に関西と伊丹があることから、航空管制も複雑になり3空港が共倒れになるのではと、名古屋については佐賀空港のようにアクセスが悪く不便ではないか、と。
 今調べるとどちらの空港も利用者が減る一方で低迷しているようだ。神戸はそのため著者が危惧した共倒れではなく、神戸の一人負けみたい。
・日本の空港の新規参入ルールについても疑問だという。アメリカでは乗客の搭乗率が何パーセント以上になったら2番目、二番目の会社の搭乗率がさらに何パーセント以上になったら3番目の会社を参入させるという合理的なルールがある(全ての空港ではないようだ)が、日本は混雑する空港がいつまでも新規参入を許さなかったり、利用者の少ない空港に何本も参入していたり、理解に苦しむという。
 エアドゥやスカイマークが幹線と呼ばれる航路の認可がいきなり許され、それに続く新会社、ジェイエアやフェアリンク(現在はアイベックスエアラインズ)がいつになっても羽田に入れず、入札のチャンスさえないこともフェアではないと書いている。
・航空機の部品というのは、航空会社を超えて貸し借りしているという。
・パイロットの技量の判断基準に総飛行時間がよく使われるが、著者たちは離着陸回数をより重視しているという。

Ⅹ.安ければいい?それとも安全は別?
・格安航空について、どこで料金の違いがおき得るかを著者が考察すると、燃料費も機体価格やその整備にかかる経費も、機種が同じなら同じ、訓練に要する経費も結局同じシュミレーターやモックアップを使うことになるので大差は出ないと著者は言う。自社でそうした設備を持たなければ他社に依頼することになり、かえって高く付くとも。人件費もいちがいに日本が高く、他国が安いとは言えないという。
 著者の経験として、格安航空パイロットの訓練時間は短く、著者の三分の一くらいの期間で終わっていたという。また、スチュワーデスの訓練もほとんどやらず、整備士も全員を訓練にボーイングなりに送るのではなく、一人だけ派遣して後は彼から社内で教わるとも。
 著者は結論を出してるわけではなく、格安航空を批判しているわけでもなく、自分に思いつくのはそのくらいだ、と書いている。日本の航空会社は儲からないのに、アメリカの航空会社は儲かって、パイロットはプール付の豪邸に住んでヨットや自家用機を持っている人が多いのも、どこでその違いが出るのかわからないという。
 乗客に対するサービスというのは、スチュワーデスが一人当たり何人の客を担当できるかによって違うので、同じように訓練を受けた人を安く雇える国があれば、日本は圧倒的にかなわないだろうという。パイロットや整備士も同じだろう。すると日本の航空会社というのは将来残るのだろうか、と著者は言っている。
 日本航空は著者がこれを書いたほぼ10年後に会社更生法の適用を申請することになった。
・運送約款というものが航空チケットの裏に書いてあり、トラブルがあった時にどう対処するかが書いてあるそうで、その中にはどこで裁判をするか、という項目があるという。
 賠償金や見舞金が、どこの国の物価を基準に計算されるか、につながるという。 
 飛行機ではないが、昔中国の列車事故で日本の修学旅行生が巻き込まれ、教師が亡くなった事があった。その際の賠償金などが中国のレートで計算され、日本では考えられないくらい安くて話題になったことがあった。
 著者は、外国の航空会社の飛行機に乗るということは、日本国家の補償水準から外れることなのだ、と書いている。

ⅩⅠ.僕の飛行機列伝
・著者がこれまで乗った飛行機について。著者はフォッカー社のフレンドシップ、ボーイング727、YS-11、737、767、747と乗って、会社が変わってCRJという小型旅客機を、執筆当時は操縦していたという。
 エンジンの取り付け位置によってパワーを出すと機首が下がる飛行機と、機首が上がる飛行機があり、主翼の前にフラップという装置が大型飛行機だとついているが小型飛行機だとついていない。ついていると機首を上げて着陸するようになるが、ついていないと機首を下げて着陸することになる、という違いがあるそうだ。
 航空マニアに人気のYS-11については、著者の評価は低く、パワー不足に苦しめられ、思うように上昇できないとかいろいろあったらしい。コクピットの居住環境も暑すぎたり寒すぎたりして最悪だったという。また国産と宣伝した割には、部品は外国製が多く、ワイパーまでアメリカ製品で、記憶にある国産部品はインターホンと水平器くらいだとも。パイロット仲間でもあまり愛着を持っている人はいなかったとも。SLに人気が出るようなものか、というのが感想らしい。著者は737を高く評価している。

ⅩⅡ.新しい航空会社の可能性
・フェアリンクという航空会社の立ち上げに、著者はA社を退社して参加したとある。経緯や理由はあまり書いていないので詳細はわからないが、認可を得るべく何度も仙台・大阪間を飛んだらしい。飛行機は最初一機だったが、やがて2機になって楽になったという。
 乗客定員は50名でスチュワーデスは1名。規制が強くて立ち上げには苦労したらしく、マイレージの存在が小さな会社には痛手になるという。エアドゥとスカイマークの影響で、各社赤字覚悟の値下げをせざるを得なくなったとも。
・航空会社がお客に提供するサービスとは何だろうという著者の意見。特に快適について、飛行機を降りればフルコースの料理を食べにいける人たちに、機内でフルコース料理を出す意味はあるのだろうか、身動きできない状態で長時間座らされ、スチュワーデスとは30秒と話す時間も無い、エコノミークラスの環境をもっと改善すべきでは、と著者は述べている。

・本文は以上。単行本発行時の2001年2月付、文庫発行時の2004年7月付の2つのあとがきがついており、その間に911が発生した。文庫版あとがきには嫌な時代になったと書かれている。今では毎日にように起きているだろう、乗客による迷惑行為が増え始めたこと、これに対応するため航空法第73条が改正され、乗客が守るべき義務を果たさず、言う事を聞かず迷惑行為を行った場合は罰則を課す事ができるようになったことにも触れている。

・松本葉さんという、編集者らしい人の解説がついているが、肩書きはエッセイストになっている。

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