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映画+原作「屍者の帝国」メモ3 第一部 Ⅶ、Ⅷ (ネタバレ全開)

2015/10/25 07:44 投稿

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http://ch.nicovideo.jp/metabou/blomaga/ar893173
の続き。

・・一行はファイザバードという町にたどり着き、そこでカラマーゾフの居場所についての
情報を得る。何だが位置関係がわからないとイマイチ感覚がつかめないので、おおざっぱな位置だけでもと思って地図を描いてみた。全然正確じゃありません。
 国名も作品の時代ぴったりの地図が見つからなかったので当時は何と呼ばれていたのかよくわからない。間違ったらゴメンナサイ。
 このファイザバードという町を流れる、コクチャ川を遡った源流に屍者の帝国はあるという。コクチャ川というのは下右の図のようなルートを流れて、国境線でもあるアムダリヤ川と合流するらしい(と書きつつ、どっちからどっちに流れているのか私にはよくわかっていない)。この図は下のページから引用しています。
http://www.ne.jp/asahi/lapis/fluorite/column/lapisfr.html


 この源流あたりは ラピスラズリ(上のHPによれば、ジブリの「耳をすませば」の中でラピスラズリという言葉が登場していたらしい。全然記憶に無い)という鉱物の特産地で、カラマーゾフは屍者にこれを掘らせて資金源にしているらしい。フェルメールの「真珠の耳飾りの少女」などに使われている青い顔料、ウルトラマリンの原料になるという。

 コクチャ川とアムダリア川が合流するあたりにはアイハヌムという遺跡があり、ここはアレキサンダー大王がここらへんを征服したのがきっかけで生まれた、グレコ・バクトリア王国 という国の首都だったという。グレコだから昔はこのへんにギリシャ人が住んでいたという事か。
 クラソートキンは最初からカラーマーゾフがいる正確な位置を知っていたらしいが、素直に教える気が無かった様子。できれば見逃してやりたい、というのがワトソンにはわかっている。だが、バーナビーがこういう奴らは源流にいると決まっている、と何の根拠も無く断言したのがビンゴだったらしく、当てられちゃった以上は仕方ないか、という感じで案内に立つ。

 「ジョン・マンデヴィル卿の旅」という書物が挿話として紹介される。14世紀に書かれたイギリス人による旅行記で、アフガニスタンについての記述もあるというが、内容はクラソートキンによれば嘘っぱちとの事。だがコロンブスなど多くの冒険家が彼の著書に触発されて旅に出たといい、世界史に影響を与えたといえば与えた人物でもあるらしい。日本では東洋文庫に「東方旅行記」として納められているとか。東方つながりで幻想郷入りしてたりして。

 映画ではこの間の会話シーンはやはりほとんど無く、ハダリーに助けられた後はすぐに屍者の王国に着くシーンとなったと思う。川を遡る船を、屍者の集団が迎える。ワトソンは女子供の屍者が多く混ざっている事に衝撃を受ける。ただ一人の生者アレクセイ・フョードロヴィチ・カラマーゾフが中央にいる。
 アレクセイとクラソートキンは互いの親称を呼んで挨拶を交わす。やはりこの地はプレスター・ジョンの王国の跡地らしく、アレクセイとクラソートキンはずっと同じ目的のために連絡を取り合っていたらしいこともわかる。
 どうも、クラソートキンがここに直接来たということは、ロシア官房第三部の最後通牒のような意味を持つらしい。クラソートキンはそれを残念がっている。
 ワトソンは、何故屍者の王国を作ったのか、とアレクセイに聞くが、あなたと話すためです、というのが答えだった。
 ワトソン、バーナビー、クラソトーキン、アレクセイ、の会話の場に、もう一人人物が加わる。記録ではシベリア送りとなっていた、アレクセイの兄、ドミートリイ。彼は屍者だった。
 アレクセイは、とても込み入った話なのです、と断って、「ザ・ワン」の話を始める。

 映画ではワトソンは「ヴィクターの手記」を探す、という任務を与えられているが、原作ではこの時点でまだ「ヴィクターの手記」は話題になっていない。ワトソンはカラマーゾフの様子を見に来ただけ。「ザ・ワン」についても、映画ではこの時点で名前が出ていたと思うが、原作ではここではじめて出て来る。

Ⅷ  映画では豪華な食事が並ぶ晩餐会のようなシーンになって、この人数ではこの分量は持て余すのでは、ということと、誰が作ったんだろう、という事が気になってしまったが、よく考えればバーナビーがいれば持て余すことはないか。女性の屍者が作ったんだろうなあ。素直に考えると。

 原作ではここで 「ザ・ワン」についてカラマーゾフが語る。
 ザ・ワンとはつまり いわゆるフランケンシュタインの怪物の事。お約束の薀蓄だが、フランケンシュタインというのは怪物を作った博士の名前であって、怪物の名前ではない。原作でも ザ・ワン と呼ばれていたのか、私は読んだ事がないのでよく知らない。
 そういえば有名なボリス・カーロフの映画も見てない。読んでも見てもいないけど知っている。そういう、知ってるつもりになってしまっている事って多いなあ。
 おそらく怪物くん(白黒アニメ版)で見たのが最初だと思うけど。それからフランケンロボという海外アニメで見て、フランケンシュタイン対バラゴンを見て(私が見たバージョンだとバラゴンに勝った後大蛸に海中に引きずり込まれてしまうけど、ラストは数パターンあるらしい。今リメイクするならフランケンシュタイン役は実写版怪物君でもキャスティングされたチェ・ホンマン氏か、篠原信一氏か。当時フランケンシュタインを演じた役者さんは、耳がほとんど聞こえなかったそうだが、息災だろうか)、秋田書店のサンデーコミックスの鉄人28号でフランケン博士と人造人間を見て、なんとなくイメージが出来たような。

 作中では 屍者の事をここまで時折 フランケンシュタイン と呼んでいる。軍事用フランケンシュタイン、とか陸軍フランケンシュタイン、みたいな感じ。ゾンビという呼び名は使われていない。

 フランケンシュタイン博士も ザ・ワンもこの世界では実在であり、フランケンシュタインの(読んでないけどたぶん)原作通りの事件が起きた事になっている。そして、ザ・ワンは唯一の 知能があり、言葉を話した屍者であるという。そして カラーマーゾフが所有する記録によれば、ザ・ワン本人は決して醜悪な容貌でもなく、紳士と言っていい存在だったという。

  映画では、敵味方の区別もろくにできない、のろのろとしか動けない屍者は軍事利用するにしても使い道が限られるが、知能が高く、動きが素早い屍者を生み出せれば状況は一変する。この屍者製作技術が手に入れば、戦争を有利にすすめられる、ロシアはどうもそうした技術を開発しつつあるらしく、ヴィクター・フランケンシュタイン博士が残した「ヴィクターの手記」を手に入れれば大英帝国もその技術を手に入れられる、手記を持っているらしいカラマーゾフがロシアに反旗を翻しているらしい、ということでワトソンは派遣されて来るのだが、原作ではここではじめて「ヴィクターの手記」が登場する。ワトソンはもともとカラマーゾフが何をしているのかを確認しに来ただけだった。

 フランケンシュタイン著者のメアリー・シェリー夫人はもちろん実在の人物だが、この作品の中でも実在し、北極探検隊員、ロバート・ウォルトンが残したザ・ワンの記録を元にフランケンシュタインを創作したことになっている。ロバートはメアリーの弟ということになっている(兄説ももあるらしい)がだぶん自信は無いけど創作の人物で、小説フランケンシュタインはこのロバートが北極でフランケンシュタイン博士及びザ・ワンと遭遇し、彼らから聞いた話と彼らが辿る事になった運命を、姉に宛てて書いた手紙、という形式になっているそうだ。知らなかったな。
 シェリー夫人も、彼女にフランケンシュタイン執筆のきっかけを与えたという詩人、バイロン卿も、現代の目からみてもかなり奔放な、型にはまらない行動力のある人物だったようで、夫人の父親も無政府主義者のはしりとして有名らしい。小説のタイトルも「フランケンシュタイン、あるいは現代のプロメテウス」が正式だそうで、突然プロメテウスに言及するのはそういうことか。

  小説原本を読んでいないので間違っているかもだけど、フランケンシュタイン博士はスイス人だけどドイツで研究をしていて、小説では博士号は持っていないらしいけど博士と呼ぶ。
 ドイツの右下の方、ドイツを九州に例えれば宮崎県あたりにあるバイエルン州のインゴルシュタットという都市に博士の研究室があり、ここでザ・ワンは目覚める。小説の中ではザ・ワンの花嫁は9割がた完成するものの、彼らが子孫を残す事を恐れた博士によって葬られ、仕返しにワンは博士の妻を殺害して逃亡し、追跡行は北極圏に至る。ワンの花嫁が造られていた研究室は、イギリスのオークニー諸島というところにあったらしい。オークニー諸島というのはイギリスの右上のほう、日本でいえば北方領土みたいなあたりにあるらしい。何故こんなところに博士が研究室を持っていたかはネットでちょっと見ただけでははわからなかった。
 
 屍者の帝国の中では、このインゴルシュタット、オークニー諸島、二つの研究室から押収された文書が「フランケンシュタイン文献群」と呼ばれ、屍者技術の源となっている。だが、百年近い屍者技術の研鑽を経ても、ザ・ワンのような知能のある屍者は生み出せていない。
 ザ・ワンが持ち出した、博士の研究ノート、つまりヴィクターの手記に、その欠けた技術が記されているに違いない。

 カラマーゾフはさらに、ワトソンにこう語りかかける。フランケンシュタインがどんなに天才であっても、一人で新たな生命の創造などという大事を為しえた筈はない。協力者がいたに違いない。

 インゴルシュタットがあるドイツ・バイエルン州。バイエルンは英語では「Bavaria」(バヴァリア)と呼ばれるみたい。この時代、当地には「バヴァリア啓明結社・通称イルミナテイ」と呼ばれる秘密結社が存在したという。これは実在したらしく、日本では光明会とか啓明結社とかバヴァリア幻想協会とも訳されているらしい。
 ただ、日本語では「光明」とか「啓明(明けの明星、つまり金星のことだそうだ。知らなかった)」は一般名詞みたいなものなので、そうした単語が含まれる宗教団体とか学校とか会社とかがこの秘密結社と必ずしも関係があるというわけではないでしょう。

 このバヴァリア啓明結社を主宰していたのがアダム・ヴァイスハオプトという人物で、ぐぐると何が正しいのかよくわからないくらいいろいろな説が出て来るが、フリーメイソンとも関係があった人らしい。屍者の帝国では、この秘密結社がフランケンシュタイン博士の研究を後押ししており、フランケンシュタイン文献群にもない資料を持っていたらしいことになっていて、散逸したそれらを集めたのがカラマーゾフやクラソートキンの師でもある、前述のニコライ・フョードロヴィチ・フョードロフだという。
 アレクセイの兄、ドミートリイ・カラマーゾフは冤罪でシベリア送りとなったのだが、これも師の指示で北極に消えたザ・ワンの足跡を追ったのが真相であるように示唆される。
 これを察したワトソンに、アレクセイは 見つかったのはザ・ワンのコートとポケットの中身、すなわちヴィクターの手記だけで、ザ・ワンは北極で死なず、トランシルヴァニアに屍者の王国を築こうとしてヘルシング達に阻まれ、このコクチャ川上流の地にやってきた可能性があり、彼らもザ・ワンを追って今この地にある、という事を否定しない。
 フョードロフは唯物史観を持つ神秘主義者であり、最後の審判が成り立つためには、死者をその魂も含めて物理的に甦らせる方法が存在しなければならないと考える。
 そのため彼は屍者技術に興味を持ち、フランケンシュタイン文献群やバヴァリア啓明結社の記録を収集し、最後のピースであるヴィクターの手記に手を伸ばす。

 その結果生み出してしまったのが、新型の屍者。完全な知性は備えていないものの、その片鱗が見え、動きも早い。ロシア当局は当然この軍事利用を考え、最初は協力関係にあったかもしれない当局とカラマーゾフ一行は、同床異夢の関係となったみたい。

 つまりカラマーゾフたちは、ロシア帝国の意図に反してこの新しい屍者技術を葬ろうとしている。新型の屍兵はこのアフガニスタンの地へ集めさせ、戦闘で消耗させる。彼らを生み出した後方の文献類は、フョードロフ師たちが内容を改竄し、役に立たないものに変えていく。クラソートキンも当然、ロシア側に身を置きつつ、カラマーゾフを支援しているのだろう。彼は小説のカラマーゾフの兄弟の中では、アレクセイに心酔している少年、として登場するらしい。

 ワトソンとアレクセイはそんな話をしているうちに、立場の違いを越えて屍者技術者として意気投合する。彼らは夜を徹して語り合う。ワシリー・カラージンの気候制御について(これは元ネタがわからない。ベン・ボーヴァの天候改造オペレーションとかちょっと思い出した)。進化論について(ダーウィンの名前は出ず、ハーバート・スペンサーやアルフレッド・ウォレスという名前が上がる。2人共ウィキペディアに項目があるが、私にはその業績がどのようなものなのかよくわからない。また進化論の番人のような、と評されるハクスリーという人名も出るが、「すばらしい新世界」のオルダス・ハクスリーではなくてトマス・ヘンリー・ハクスリーという生物学者の事らしい)。
 私にはこのあたりの議論が難しくてよくわからないけど、進化には「死」が必要であり、生き物は死があることによって進化する。だが、全ての生き物は死を迎えるのに、魂は何故人間にしか生じないのか(動物は屍者化することができず、それは動物には魂が無いから、ということになっているらしい)みたいな事を語り合っている。
 楽しく語り合った翌朝、アレクセイ・カラマーゾフの遺体が発見される。


 
 

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