メタ坊のブロマガ

「ロケットガール(野尻抱介著)」1巻 女子高生、リフトオフ! 第一章

2020/10/08 19:00 投稿

  • タグ:
  • 野尻抱介
  • SF
  • 宇宙
  • ロケット


・この作品が最初に発表されたのは1994年。ライトノベル雑誌である富士見書房のドラゴンマガジンに連載され、翌年富士見ファンタジア文庫として出版されたと書いてある。
 当時はスペースシャトルが使用されていて、チャレンジャーの事故は経験しているがコロンビアの事故はまだでシャトルが宇宙開発の主役で全盛期だった。ロシアの宇宙ステーション、ミールも健在。ISSはまだ組み立てもはじまっていない。

 日本ではまだJAXAは無く、宇宙開発事業団がHⅡロケットをようやく打ち上げに成功したばかり。固体燃料ロケットのイプシロンはもちろん、その先代のミューファイブロケットもまだ打ち上げられていない。
 今読むと当たり前じゃん、みたいに感じてしまうところもあるのだけど、そういう時代に書かれた作品であることを考えると その後の宇宙開発の動きをけっこう当てている、先見の明があった作品ということになるかもしれない。
 2013年に出た早川文庫版のあとがきでは かつてSFであった現実の宇宙開発シーンが書かれた作品になっていて、現実に勝った部分もあれば現実が勝った部分もあるみたいに書かれている。女子高生宇宙飛行士はいまだに実現していないとも。

第一章 森田ゆかり37kg・きわめて健康
 日本はいろいろあって宇宙開発事業団、宇宙科学研究所に続く第三の宇宙機関としてソロモン宇宙協会を設立。ソロモン諸島アクシオ島(架空の島だと思うけどモデルはあるのかもしれない)に宇宙ロケット基地を建設し、そこで有人飛行を可能にするロケットを開発している。
 日本国内では有人ロケット開発はうるさかろうと、表向きはOECF(海外経済協力資金)でソロモン諸島の住民にインフラとして放送衛星を打ち上げるということになっているが本音は今後の宇宙開発では人間が宇宙に行って衛星などを修理しなければならない局面が増えると考えて、有人ロケット打ち上げのノウハウをなんとしてもモノにしようというもの。
 ロシアはもう資金的に苦しいし、NASAのシャトルはいずれ機体が限界に達して大事故が起きるみたいなことが書いてある(この時代にコロンビア分解事故はまだ起きていない)。

 ソロモン宇宙協会(SSA)はそれなりに実績のある人材をスカウトし、機体開発と並行して宇宙飛行士の訓練も開始。航空自衛隊浜松基地でCCV(Control Configured Vehicle:運動能力向上機)実験機のテストパイロットをしていた人物が、身分が自衛隊員のままでは海外派遣になってまずいという理由で一時除隊した格好で赴任してきている。

 だが主力となるLS-7ブースターの開発が難航。打ち上げ試験は6回連続で失敗している。これが成功しないと人間を宇宙に送り出す推力は得られない。
 実は打ち上げがここまで成功しないのは科学的な理由ではなく、ラノベ的な理由があるのだがSSAのメンバーにはわからない。

 ロケット基地責任者の那須田(ナスダ)所長は思い切ってLS-7の採用をあきらめる。推力はワンランク落ちるが LS-5というブースターであれば実績は十分で、失敗の可能性はほとんど無くなる。ただし、そのためにはパイロットの体重を50kg以下にしなければならない。さらに冗長システムも全て外せば、破壊荷重係数を1.05まで切り詰めてなんとかかんとかでOKになるらしい。
 だが自衛隊からやって来たパイロットは身長170cmだが体格はごつく、骨と皮だけにしても55kgがせいぜいと思われる。所長はちょっとサディスティックなところがある女性医療主任に手段を問わず50kgにするよう命令すると医療主任は喜んで応じ、パイロットは逃亡する。

 このロケット基地はもともと無人だった森林を切り開いて作ったもので、最寄りの街までは直線距離なら15キロだがその間には標高1500mの山がある。
 つまりこの基地内で何をやっても治外法権みたいなもので、ここの職員は滞在が長引くにつれてアウトロー的な何をやってもバレない、バレなきゃ何をやっても許されるみたいな気風に染まっていく。
 基地の保安部などはまさにそんな感じで、そんな連中がHSS-2というアメリカ海軍で正式採用された軍用ヘリコプターでパイロットを追跡する。パイロットはハマーと呼ばれるアメリカ陸軍が使っているでっかいジープみたいな頑丈な車で逃亡している。

 時間を少し巻き戻すと、この島に日本から一人の女子高生がやって来ている。今は夏休み。彼女の父親は新婚旅行でガダルカナル島にやって来た16年前に、ちょっと月を見て来ると妻を置いたまま失踪してしまった。母親は夫を一週間探したものの見つからないのであきらめて帰国。彼女はキャリアウーマンで生活に不自由は無く、初夜に授かった娘を女手ひとつで育ててきたが、娘の方はこの父親がどうなったのかわからない状況が気に入らない。死んだなら死んだでいい。母から逃げたなら逃げたでいい。それがわからないのが嫌なので、一人で外国に出かけられる年頃に達するとさっそく父親を捜しに来たのだった。だが探す当てもない。
 だがこのアクシオ島には日本人がたくさんいるらしいと聞いて、ここで聞けば何かわかるだろうとあまり計画性もなくやってきたのだった。
 だが港町では日本人に出会わない。日本語わかりますという張り紙のある中華料理店に入って、山の向こうに日本人ばかりのロケット基地があると聞いて、15キロなら何とか歩けるかと基地に向かう。ここには電車もバスも無い。

 さらに冒頭のLS-7打ち上げ時点に時間を巻き戻すと、この島にはクラシックな生活スタイルを守っている地元の住民たちがいて、そこには酋長がいる。ここでは一夫多妻制で、この酋長には何十人も妻子がいるのだが、その娘の一人が酋長と一緒にいてそろそろ時間だよ、と父親に教える。この村の人々には日本の基地から打ち上げられるロケットは一種の花火のようなものととらえられていて、打ち上げに合わせてお祭りをしようみたいになっている。
 ロケットは遠くに飛んでいくより適当なところでパッと火の玉になってくれた方が盛り上がるので、見物する村人たちはロケットが飛び上がると花火になれ、火の玉になれ、と願うのである。そして文明に毒されていない(酒やタバコなど部分的には毒されているのだけど、ピュアな心を持っている)この村の人々には、人間が本来持っていたかもしれない呪力があるのだった。

 ということで逃げてきたパイロットと女子高性が出会って、そこに追ってきた保安部の軍用ヘリにミサイル攻撃を受けたりして一緒に逃亡し、結局追っ手につかまってしまうのだけど、やってきた所長が女子高生の体格を見てハッとして、医療主任が彼女の体重を37kgと見積もるとそうか、彼女を宇宙飛行士にすれば全部解決じゃんか、と思いつく。

 所長は彼女が父親を捜しに来たと聞くと、我々のところで猿でもできるようなアルバイトをすればソロモン諸島の日本人事情に詳しい我々が君の父親を見つけてあげよう、みたいに守るつもりのない約束をして、ここに女子高生宇宙飛行士・ロケットガールが誕生したのだった。
 だが女子高生の学校ではアルバイトは禁止されている。

ーーーーーーーーーーーー


 2007年に放送されたアニメ版もある。アニメ版の一話はこの第一章とほぼ対応しているが、冒頭に女子高生の学校や自宅での様子がけっこう長く入っている。原作では彼女の高校や自宅でのシーンは無く、ソロモンにやって来たところから登場する。

 原作では二巻にならないと登場しない第三のロケットガールが既に登場している。原作一巻で登場するロケットガール2号ももちろん登場している。

 数字に微妙な違いがある。女子高生の体重は原作では37キロだがアニメでは38キロ。
ソロモン宇宙協会(原作では特に略称は使われていないけどアニメではSSAというロゴがあちこちに登場する)で働く日本人数は原作では300人だがアニメでは800人。
 基地ができたのは原作では3年前だがアニメでは8年前。元自衛隊パイロットの減量目標は原作では50キロだがアニメでは40キロ。女子高生は原作では16歳、アニメでは17歳。

 中華料理店には原作では主人一人しかいない様子だが、アニメでは若い女性の従業員がいる(原作では少し後に登場し、主人の孫娘だと説明される)。

 アニメでは逃亡したパイロットをヘリが追うシーンが見せ場みたいにけっこう長いが、原作では1ページちょっとでさらっと書かれるだけ。撃ってる弾数もアニメはやたら多い。
 ロケットを撃つよう命令するのはアニメだと所長だが、原作ではこの段階では所長はヘリに乗っていない。保安主任はアニメだとすぐに拳銃を抜く危ない人物っぽいけど原作ではそういう描写は無い。
 パイロットは原作では自衛隊浜松基地出身だがアニメでは千歳基地から来たことになっている。

 アニメでは会議中のホワイトボードや登場人物のノートにけっこう数式らしいものが書かれている。きっとそれなりに考証されたものなんだろうと思う。

コメント

コメントはまだありません
コメントを書き込むにはログインしてください。

いまブロマガで人気の記事