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「あめりか物語(永井荷風著)」2

2020/09/29 19:00 投稿

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  • 永井荷風
  • 講談社文芸文庫


・市俄古の二日
 シカゴ見物に行く。当時住んでいたらしいカラマズウ市というところから汽車で約4時間。イリノイスという停車場に着く。電車でシカゴ大学へ向かう。この近くに住む友人を訪ねるのだ。下宿の場所を電車で隣に座った男性に聞くと、地図を出して親切に教えてくれる。ここに友人が下宿していて、大家の娘と婚約している。その娘が出迎えてくれる。その晩は友人と娘の両親を交えた晩餐を楽しむ。翌日は出勤する友人に同行して街に出る。友人はホテルや劇場、今ならデパートのような大商店を案内してくれる。大商店は20階近くあるという。
 エスカレーターで上り、吹き抜けから1階を見下ろす。
 会社に行く友人と別れて美術館に向かう。

 荷風は文明を破壊者と罵ると同時に畏怖を感じる。夏に冬の寒さを思い、冬に夏の涼しさを慕うようなものかと思う。

・夏の海
 紐育で下宿先の人に誘われて、ニューゼルシー州のアシベリパークという海水浴場へ行く(ニュージャージー州のアズベリーパークのことらしい)。汽船と電車に乗っていく。
 プレザントベーという波止場に着いて、そこから電車でアシベリイパークという海辺の海水浴場に行く。そこは人で賑わっているが遊泳しているものはひとりもいない。日本であれば海の家のような小屋も閉まっている。日曜日だかららしい。宗教的な理由でそうする土地があるとのこと。プレザントベーに戻って木陰で海を眺めて過ごす。

・夜半の酒場
 紐育は西側が成功者の住む所で東側は移民や労働者など未成功者もしくは失敗者が集まってくるところだそうで、暗鬱で猥雑な雰囲気らしい。
 ある冬の夜の十二時過ぎ、芝居帰りの荷風が猶太人街を歩いてふと酒場に入る。微かなピアノの音が聞こえるので奥に進むとさらに扉があり、その向こうには思いがけず大きなホールがあって大男がピアノをひき、痩せた男がバイオリンを弾く中を労働者風の男女が踊っている。
 荷風はこの光景に悲哀を感じる。ここで勝手に荷風のテーブルに二人の女が座り、カクテルを注文して今夜どう?と囁いてくる。荷風が微笑んだまま答えないと別のテーブルに去っていく。伊太利人の音楽師が二人店に入って来て、バンジョーとマンドリンで歌うと店の客は静かにこれを聞く。祝儀が集まると伊太利人はビールを頼む。
 荷風は重い空気に閉じ込められた苦しさに店を出る。

・落葉
 秋の夕暮れ、セントラルパークのベンチに腰掛けて落ち葉を眺め、アメリカに来てからの出来事を回想する。そして未来を思う。

・夜の女
 ブロードウェイ近くの裏町。この一角に個人経営のいかがわしい店があり、太ったマダムの元に国籍も容姿も性格もバラバラな5人の夜の女がいる。他に数名別のところから出張してくる女もいるらしい。荷風はこの女たちの気質や立ち居振る舞いをじっと観察している様子。荷風は一人一人の生い立ちや情夫の存在など家庭の事情にも詳しい。
 まずホールで酒を飲ませている間に客と女たちが個々に交渉し、合意があれば奥の部屋に行くというシステムのようで、上客を取り合う女同士は毎日のように互いの悪口を言い、またすぐ仲良さげになる。酒はマダムの利益のようで、酒を飲ますか奥に行くかでマダムと女たちにも利害の衝突がある様子。荷風はこの店の一晩、夜明けに女たちが商売を終えるまでをずっと観察していたかのようにスケッチしている。

・ちゃいなたうんの記
 荷風は時折り発作的に陰鬱な気持ちに襲われることがあり、そうした時はいかがわしい裏町や貧民窟を歩く。中でもチャイナタウンはいかがわしさで群を抜いているらしく、気持ちが最も沈んだ時に訪れる場所になっている。
 狭い路地にこもる臭気や熱気、人の声の中を荷風は進み、この辺りに吹き溜まっている底辺の人々を見る。荷風はこのような裏町を詩材の宝庫と見るようで、ここにいる人々が社会の慈善活動に助けられることを望んでいるわけではないこと、無理な人道活動がこうした場所を潰してしまいはせぬかと案じている。

・夜あるき
 荷風は自然の中で味わう夜よりも、都会の夜が好きだと書く。そしてニューヨークの夜は素晴らしいと書く。どこの店に行くとかではなくて、燈火の中をそぞろ歩くのがたまらない様子。街を行く人々が何者で何をしようとしているのか、もしかして犯罪ではないかと空想する。いわゆる夜の女の誘いに乗り、どこに連れていかれるのかと期待する。

・六月の夜の夢
 アメリカ滞在を終え、ヨーロッパに向かう汽船に乗る荷風。名残、未練、執着などの様々な思いに襲われている。
 アメリカ滞在は四年に及び、少なからぬ女性との交流も持った様子。中でもロザリンという少女のことを思い出している。
 紐育近郊のスタトン、アイランドという保養地で出会ったとのことで、これまでのアメリカの女性とは自分の趣味に関するような深い話ができず、表面的な会話しかできなかったものが、この少女はオペラを皮切りに荷風と非常に趣味が合い楽しく会話ができる。
 二人は互いの結婚観なども語り合う。二人は毎日荷風の宿の食堂で語り合い、帰りは彼女の家まで荷風が送っていくようになる。ロザリンは少し特殊な育ちで、これといった友人がいないらしい。荷風は彼女のことが気になってたまらなくなり、彼女もこれに応えたらしい。
 だがもうしばらくしたらアメリカを去ってヨーロッパに行かねばならぬ旅人の荷風と、この地に家族がいる彼女が結婚するには埋めねばならないへだたりが大きすぎる。二人は文通の約束をして別れることとなった。

・舎路港の一夜
 まだアメリカにいた時の、舎路(シアトル)の日本人街での余話。近寄らない方がいいと忠告されていたがそう言われると余計行きたくなる。
 シアトルは煌びやかな街だったが、一つ通りをそれると突然暗く寂しくなり、日本人街はその奥にある。日本語の文字ばかりが並ぶ通りに入り、蕎麦屋に入ってみる。
 ここで留学生の成れの果てのような連中を見かけたので、話の種にでもなるかと後をつけてみる。

・夜の霧
 これも余話。シアトルから電気鉄道でタコマの街に帰り、商店街を抜けて自宅に向かうところ、一人の日本人が話しかけて来る。態度も身なりもあまりよくなく、酔っ払っていてさらに怒っているらしい。荷風の袖をつかんで離さず、英語が話せない出稼ぎ人だと話すが日本の文字も書けないらしい。
 この日本人は荷風にわけのわからないことをまくしたて、たまたま通りかかったご婦人に唾を吐きかける。そこで大男の警官につかまって引きずられてゆく。

 荷風は後で、地元の事情通に日本から鉄道工事にやってきて、10年働いて貯めた賃金を預け先の破産で失い、その半額を奇跡的に受け取れたものの突然の大金に我を忘れ、ギャンブルに狂って全財産を失ったものが癲狂院に入っており、そこには同じような日本人が他にもいると聞き、さもあらんと思う。

・夏の海
 先の「夏の海」の異文とある。従兄に誘われてアシベリパークというところに行く。海岸に着くと宗教上の理由から日曜日は遊泳禁止とかで海の家みたいな店が休んでいる。そこでプレザントベーというところに移動して、木陰で過ごす。
 大筋は本編中の「夏の海」と同じだが、一緒に出掛ける相手の説明がちょっと違っているほか、荷風がその時思ったことの描写が若干違う様子。

 これで終了。巻末の年譜によると荷風がアメリカに滞在したのは1903(明治)年の10月から1907年(明治40)年の7月まで、荷風24歳から28歳までとなっている。

 親が名士だったので渡航に関する費用や学費、あちらでの仕事先・宿泊先などはずいぶん面倒をみてもらった様子。荷風のような後ろ盾がないままにアメリカに渡った日本人には、作中で書かれているようなその日暮らして未来への希望も持てない境遇に陥っていた者や、留学生だったのに遊び歩いて没落していくものもいたらしい。

 
 

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