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「キャプテン・フューチャー最初の事件(アレン・スティール著)」第一部

2020/06/29 19:00 投稿

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  • キャプテン・フューチャー
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  • スペースオペラ
  • 創元SF文庫


・SFの古典・キャプテン・フューチャー正典を全て読み直した著者が書いた、21世紀リブート版と銘打って発表されたもの。

 キャプテン・フューチャーの本編が書かれたのは1940年から1951年。太平洋戦争の時期とほぼ重なっている。著者はエドモンド・ハミルトン(他の人の書いたものも数作ある)。冥王星が発見されたのは1930年で、当時は太陽系には9つの惑星があるとされ、木星や土星、海王星の月などもかなり発見されていた。この当時の発見は全て地上からの光学望遠鏡による観測によるもの。
 各惑星が具体的にどのような環境にあるのかはほとんどわからない。そんな時代に主に太陽系を舞台に、想像力だけで作り上げた太陽系の中をヒーローが宇宙船で飛び回って活躍するスペースオペラだけど、基本的には読み捨てされる、いい大人が胸を張って読んでます、とは言いづらい、バカにされるような分野で大部分の作品はそう言われても仕方がない出来だったらしいが、この作品は数少ない例外だったという。

 太平洋戦争終結後に日本に派遣された兵士がこれを読み、戦後大量に処分されて日本の古本屋でも出回って、それを読んだ人たちがこの作品を知り、中でも野田昌宏さんがこの作品にほれ込んで積極的に翻訳をすすめ、エッセイでもさかんに紹介した。
 アメリカではスターウォーズがヒットするまではスペースオペラは骨董品扱いで人気も知名度もイマイチだったらしく、キャプテン・フューチャーの映像化作品もあったのかもしれないけど検索してもヒットしない。少なくともメジャーではない。
 でも日本では野田さんの翻訳が次々に刊行されてSFファンの間での知名度は本国よりも高く、1978年にはNHKでアニメにもなった。この作品はスターウォーズ人気なんかもあって、今更太陽系内でもないだろうと時代に合わせて太陽系外に舞台を移すような改変が行われた。

 原作は太陽系開拓史みたいなものまできっちり作りこんだ背景があるのだけどそんなわけで私もアニメ版を詳しく覚えてないけどあまりその辺は生かされなかったと思う。
 日本語版が最初に出たのは1967年とのことで、アニメ黎明期のSFアニメの放映時にはまだ日本語版は無かったのだけど、こうした番組の脚本には若手SF作家が動員されていて、彼らはSFファンダムを通じて野田さんとも顔見知りだったはずなので作品のエキスのようなものは聞いて知っていたのだろうと思う。
 遊星少年パピイのアジャババとストロングの掛け合いみたいのを見ていると、この元ネタにはこの作品のロボットのグラッグとアンドロイドのオットーが互いに相手の自分に無い能力をうらやましく思いながら、素直にそう言えずに相手の苦手な部分を互いにけなし合う、という様子が取り込まれているように感じてしまう。

 前置きが長くなったけど、記憶と照らし合わせながらリブート版を読んでみようと思う。

・プロローグ
 大雑把な太陽系開拓史が語られる。火星や金星のテラフォーミングはうまくいかず、人類は環境に合わせて遺伝子操作で自分の身体を変えることを選択する。その結果、地球人の亜種とも言えるような各惑星人が火星、金星や木星土星海王星の衛星などに存在するようになる。
 冥王星は監獄として使われている。地球の資源は太陽系内の惑星や衛星、小惑星を頼るようになっており、厳しい環境の中でこうしたところから資源を採掘する開拓者たちは、フロンティア精神を持っている。一方で犯罪者じみた連中も宇宙に出る。これを取り締まる惑星警察機構ができ、今新たな英雄が生まれようとしている。

第一部 <直線壁>での出会い
 月の南半球、雲の海の南東には高さ約800フィートの垂直に切り立った断崖があり、直線壁と呼ばれている。自然にできた断層崖であるというのが月地質学者の定説になっているのだが、これが地球外文明の建造したものだと信じる人も多い。
 そして、この岸壁に幅70フィート×高さ100フィートに及ぶ遺跡が見つかる。白鳥座と思われる星座と、太陽系と思われる同心円が刻まれて、これを刻んだものらしい姿が踊るような様々なポーズをとって何人も描かれている。卵型の胸郭を持ち三角形の頭を持つ彼らは、百万年前に月を訪れたらしい。地球と火星に関心を持ったこともうかがえるが、どちらの星でも似たような遺跡は発見されていない。
 この遺跡はデネブ岩面陰刻と呼ばれるようになり、風化を防止するために保存処置が行われ、この遺跡を見るのに最適な場所が透明なドームで覆われて、観光地となった。
 保存運動をした学者たちが「太陽系モニュメント」としてこの遺跡を指定するよう太陽系連合議会を説得した結果だった。
 今日はその序幕式。月共和国で社会的に地位のある招待客が多く集まっている。他の星からの客人も多い。地球と月にはホモ・サピエンスが住んでいるが、他の惑星にはホモ・コスモスと呼ばれる遺伝子工学の助けで生まれた人類のいとこたちがいる。赤い肌に黒い髪、樽のような胸と細い手足の火星人。黒檀色の肌とプラチナ色の髪を持つ美しい金星人。青白い肌で筋骨たくましく毛深い木星人。ただし彼らが住むのは木星ではなく衛星のガリレオである。地球人と見かけはさほど変わらない土星人(も衛星のどれかに住んでいると思われる)やトリトン人。服装や物腰でそうと知れる。太陽系のさいはてから来たカイパー人はヴェールと頭巾で顔を隠しているが人食いの習慣があると信じられていて避けられている。こうした人々はそれぞれの世界の身分の高い者たちだ。こうした招待客の他に、いろいろな方法でもぐりこんだ一般市民もいる。

 会場警備に派遣されている惑星警察機構(IPF)の第四課(諜報部)所属の三等警視・ジョオン・ランドールは上司のエズラ・ガーニーからアンニと俗称される「オーグメンテッド・ニュートラルネット(強化された神経回路網)インターフェイス」を通じて命令を受ける。体内のインプラントを介した通信システムみたいな。怪しい二人組の男がいるんだが、念のため彼らの身元をチェックしてくれないかというもの。ガーニーの直感によるものらしい。演台に近付きすぎ、ドローンを接近させたとたんにアンニを切ったのだという。
 ガーニーは彼女の直属の上司で恩師でもあり、父親代わりのような存在で逆らえない。
「星界のメッセンジャー」というテロリストがこの時代は暗躍しており、今日は式典に重要人物も参加する。彼女はさっそく二人に近付き、声をかける。 
 一人は痩身で禿頭(とくとう)。真っ白い肌で、月育ちに多いアルビノらしいが目は赤くなく緑。もう一人は長めの赤い髪と灰色の目をした男前。月人らしく高身長だがかなりたくましい。
 会話の間にもドローンが彼らの体温や発汗の様子をモニターしている。つまり嘘発見機にかけているようなものだ。これを監視していたガーニーが、アルビノの体温がやけに低いと警告する。ジョオンは彼らにIDの提示を求める。市民はみんなIDの刻まれたタトゥーを手の甲にほどこしている。男前の方は素直に左手を差し出す。その中指にはプラチナの台座にダイヤがついた指輪がはまっており、よく見ると太陽系の惑星の運行の様子がホログラムで浮かび上がる。ああ、これですか?と男は話し続ける。サイモンという友人にもらったんですよ、実際の惑星の運行とリンクしているそうです・・・
 
 ふと気付くとジョオンは会場の隅っこにいて、隣のガーニーに目を覚ませ、と平手打ちされている。その頃会場ではゲストの月共和国の議員であるヴィクター・コルボが壇上に上がっている。催眠術にかけられたと知ったジョオンはぐぬぬする。
 二人が非武装なのは探査済みだったし、ゲストのスピーチがはじまってしまったので今動くと会場が混乱する。ガーニーが監視要員二人をそばに送っていることもあり、コルボ議員のスピーチが終わるのを待つことにする。その頃、アルビノの男は連れに、コルボ議員があなたの両親を殺した男ですぜ、とささやく。

 ということでこの赤髪の男が主人公のキャプテン・フューチャー。本名カーティス・ニュートン。この作品ではカートと呼ばれることも多い様子。
 彼のお供をしているアルビノの男はオットー。人間をはるかに超える瞬発力やジャンプ力を持ち、薬品を使って自由に顔や姿形を変えることができるアンドロイド。

 コルボのスピーチが終わり、太陽系連合主席のジェイムズ・カシューが壇上に上がると二人は引き揚げる。待ち構えていたガーニーとジョオンにおとなしくIDチェックを受けるが赤髪は地球北アメリカ出身の貨物船乗組員でラブ・ケイン、アルビノはポート・ケプラー在住のヴォル・コットーでフリーの宇宙航法士とわかる。
 催眠術をかけたことはホログラムの副作用とごまかし、二人とも前科は無い。無罪放免となるがカートは去り際にジョオンの手をとると膝をついて彼女の手の甲に口づけをする。ふいをつかれてまたしてもぐぬぬするジョオン。
 ガーニーは疑いを解かずジョオンに尾行させる。だがチコクレーターにある隠れ家に向かう二人はこれを察知してあっさり彼女をまいてしまう。三度目のぐぬぬのジョオン。

 チコクレーターの廃墟となった建物の地下深くにキャプテン・フューチャーの秘密基地がある。地表にあるのは彼の両親が暮らした研究所の残骸である。
 中でロボットのグラッグに岩に偽装した入り口を素早く操作してもらって、タイミングを合わせて中に入ってジョオンの目をごまかしたのだった。
 ここにはオットーとグラッグの他にもう一人メンバーがいる。彼、サイモン・ライトはかつては太陽系屈指のサイバネティクス学者だったが病に倒れ、友人のロジャーによって脳だけが生かされた。現在は空中を移動できるケースに脳だけが収められている、生きている脳とも呼ばれる存在である。グラッグとオットーを作ったのもロジャーとサイモンだ。

 カーティスが乳飲み子の時に両親は悪人に殺され、それからはサイモン・ライト、グラッグ、オットーの三人?が親代わりとなってカーティス・ニュートンを育ててきた。科学知識や技術、宇宙船の操縦や射撃、格闘術などを叩きこまれている。
 そのため22歳になる現在まで、彼は生身の人間と直接接した経験が無い。両親の死についてはこれまで多くを知らされていない。両親の仇はすぐにグラッグが殺したとだけ教えられている。今日はカーティスの人間社会へのデビューみたいなものだったのだ。

 だが人間との付き合い方などは人間ではない三人には教えられない。同年代の女性に対する振る舞いは古い映画で学ぶこととなり、彼は今日その通りにしたのだった。

 これまでは彼の保護が最優先だったのだ。だがもう時は来た。サイモン・ライトは両親の死についての正確なことを話すことにする。

ーーー

 というところまでが第一部。
 ここまででオリジナルとの大きな違いとしては悪役ヴィクター・コルボの存在。
 オリジナルではコルボはギャングみたいなもので、ロジャー博士の発明を奪って悪用しようと追いまわし、月に逃れた夫妻を襲撃する。既に生きている脳になっていたサイモンはグラッグとオットーに命じてコルボを倒すが、夫妻は助からなかった。
 それがこの作品ではグラッグが倒したのはコルボに雇われた殺し屋にすぎず、黒幕のコルボは政治家として巨大な権力を握っていることになっている。

 グラッグはオリジナルではロジャー博士がイチから開発したものだがこちらでは市販品の工業用建設機械を改造したという設定。
 グラッグはこの製造メーカーの名前ということになっている。

 カーティスの母親はオリジナルではあまり出番が無く、ロジャー博士の妻というだけだがこちらでは彼女も科学者で、オットーやグラッグに感情を与え育てた母親のような存在であった様子で存在意義が大きくなっている。
 名前は旧訳のエレーヌからエレインに変更されている。

 生きている脳・サイモンライトはオリジナルでは直方体の水槽のようなケースに入っているるが、こちらでは中華鍋をひっくり返したようなケースに入っているとある。NHK版のサイモンライトに近いのかもしれない。
 オリジナルでは空中に浮かぶことは当初できずにグラッグなりオットーなりに運ばれていて、途中から空中に浮かべるようになったのだがこちらでは最初から宙に浮く。

 カーティス・ニュートンは物心つく前に両親を失い、ロボットとアンドロイドと生きている脳に育てられて成人した。ネットや図書などの教材は豊富だったが生身の人間とはこれまで接触したことは無い。一人の幼馴染も親友も持たない孤独な存在でもある。
 まして女性と口をきいたのはジョオン・ランドールが最初みたいなもの。女性と話すマナーも知らず、古い映画の真似をするしかなかったのだ。

 アンニというニューラルネットワークもオリジナルには出てこない。オリジナルが書かれたのは個人で無線電話を持つなど考えられなかった時代だけど、個人がスマホを持つ現代ではこうしたものが無い方がおかしいだろう。

 オリジナルでは物語開始時点で既にキャプテンフューチャーは太陽系政府に協力する、最後の切り札のような存在で、ジェイムズ・カシュー主席が北極の灯台に灯をともすと出動することになっている。
 ガーニーとジョオンは多くの任務で一緒に活躍する協力者。ジョオンはヒロインだけどこの時代の作品なので今みたいにキャキャウフフなシーンは無い。
 そのへんは21世紀リブート版ではどの程度変わってくるんでしょうかと思いつつ続きはそのうち。

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