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「巫女の館の密室(愛川晶著)」

2020/05/21 19:00 投稿

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・少女探偵・根津愛(ねつあい)が登場するシリーズの長編。この作品では愛探偵は高校2年生。作品中では三月後半で、四月からは3年生になる。
 この子は宮城県警随一と言われた名刑事の娘で、高校に入る頃から父親譲りの推理力を発揮して幾多の難事件を解決に導いている。
 父親の信三の方は捜査中に重傷を負って七年前に退職し、現在は料理学校の講師に転身している。娘が三歳の時に妻を失ってから男手ひとつで娘を育て上げた経験が生きたのだ。
 だが名刑事と言われた彼の推理力、洞察力は健在で、元部下の刑事が捜査に行き詰まるとやってきて意見を求め、それが解決につながるみたいなことが恒例になっていて、いつの間にかその相談相手が父親から娘にスライドしてきたという経緯。
この元部下は桐野義太35歳。通称キリン。そしてこの娘にベタ惚れしてしまっている。
娘の方は察しているのかいないのか、脈があるのかないのかよくわからないけど嫌っているわけではない様子。二人で行動することも多い。そんな設定。

 この作品では愛の高校の同級生の奥会津にある別荘に二人が出かけていくことになる。キリンは運転手を頼まれた格好だが行き先の別荘は元温泉宿ということで、憎からず思っている相手とはじめて私的な旅行に行くということで勝手に盛り上がっているが、同行者には愛の同級生もいるので二人きりというわけではない。ていよくアッシー(死語だが)として使われてるような感じ。でも実は行き先では10年前に前代未聞の密室殺人が行われ、犯人は今もわかっていない。愛はこれを知っていてキリンをつれて調査に行く様子だが、キリンは事前には全く知らされていない。

 10年前の密室殺人というのは、これから行く同級生の父親が被害者で彼は画家だったのだが、彼が自ら設計して作らせた「太陽神殿」なる離れの中で死んでいたというもの。
 いわゆる古代インカ帝国の神殿を模したもので、壁には本人が描いた実物と見まごうようなミイラや壁画などが描かれている。画家としての実力はけっこう評価されていたらしい。
入り口も現代のドアとは異なり、丸太を組み合わせて内側から壁に固定するみたいな。つまり外側からは開けることも閉めることもできない。これが閉まった状態で画家が死んでいたのだが、発見するにはこの丸太でできたドアを斧でたたき割る必要があった。
 壁に絵は書いてあるが、家具などは何も置かれておらず発見者は画家の死体とわずかな画材しか目にしていない。首を切られて死んでいたがその凶器も見当たらない。
 だが発見者が知らせに言っている間に床に凶器が出現していて、警察は自殺と判断する。

 この別荘の持ち主は同級生の祖父で、20億近い資産を持つという。本宅は仙台市内にあって大豪邸。先祖代々の金満家のようで、祖父は大学教授をしていたがもう引退している様子。
 今は本宅と別荘を行ったり来たりしながら好きな研究に没頭しているらしい。
 孫である同級生はちょっと不登校気味の子で、普段はおっとりしていて美術の才能もあるのだが、二重人格というのか感情の起伏が激しいというのか、時々すごく荒々しくなって暴力的になり、その間の記憶が全く無いという持病を持っている。心理学でフーグというらしい。
弟がいるがこちらは完全に引きこもりで部屋からほとんど出てこないらしい。
 母親も夫が非業の死をとげたせいか、その頃から体調が悪くほとんど部屋に閉じこもったままらしい。では誰がこの家の家事をやっているかというと使用人の老夫婦がいて、妻が食事など一切の家事をやり、夫は運転手や豪雪地帯なので雪かきなど外回りの仕事をする。

 訪問者は愛とキリンの他に二人いて、一人は愛の同級生。訪問先の子と三人とも美術部員らしい。もう一人は途中で車が故障したとかで強引に乗り込んできた男で、これが愛の学校の美術教師。つまり美術部の顧問らしい。そして彼はこれから訪問する先の親戚でもあるという。

 ということで登場人物を整理するとこんな感じ。

樫村千春・・・画家。大学では歴史専攻だったが美術の道へ進み国際的な賞も受賞。
       28歳で恩師の娘に婿入り。身長190センチ、体重110キロという巨漢。
       感情の起伏が激しく、作品に没頭すると他のことが目に入らなくなる。
       10年前に自ら設計した離れというかアトリエの中で死体で発見される。
       享年36歳。

樫村有希・・・その妻で読みはユキ。千春の恩師の娘だが血の繫がりは薄く遠縁の娘で養女。
       両親は事故で他界。19歳で千春と結婚し子供二人をもうける。
       夫の死後はほとんど人前に出ることなく自室に引きこもっている。
       義兄にあたる藤井によれば、精神を病んで抜け殻のようになっているという。

樫村愉美・・・夫妻の娘で読みはユミ。愛と同級生で美術部員。球体関節人形作りが趣味。
       父親の美術的才能と感情の起伏の激しさを引き継いだ様子。時折記憶が飛ぶ。
       学校を欠席することも多いが愛によればやさしくていいコ。

樫村真二・・・その二歳下の弟で姉に似た美少年。中学卒業後は学校にも行かず自室にいる。

樫村龍造・・・愉美真二の祖父。73歳。私立美術大学の教授だったが引退して悠々自適。
       29歳の時にタミという女性と結婚するが5年で離婚。40歳の時に天涯孤独
       となった有希を引き取り養女にするが世話は使用人夫婦にまかせる。
       弟子の千春を見込んで有希の婿養子にする。
       日本でのタワンティンスーユ、いわゆるインカ帝国研究の第一人者でもある。
       だが愛はこの人物にやたらとつっかかるような態度を示す。

藤井治郎・・・愛の学校の美術教師で美術部顧問。龍造とタミの息子なので愉美・真二姉弟
       とは親戚関係になるものの、有希龍造の養女なのでほとんど交流は無い。
       42歳。独身で見た目はちょっとイケている。プロの画家に挫折して教師に。
       愛によれば美術的才能は芸大卒にしてはいまイチの気の毒な人。

飯岡祐吉・・・樫村家の使用人。有希の父親代わりのような存在で、有希の結婚に伴い実家の
       使用人から別荘の使用人になった。有希のことはお嬢様と呼ぶ。
       もと宮城県警の刑事で実直な印象の人物だが退職理由ははっきりしない。
       74歳。千春の死体の第一発見者。

飯岡志乃・・・その7歳年下の妻。日本料理もペルー料理も得意。夫と二人で有希を我が子の
       ようにいつくしんで育て上げた。人のよさそうな老婆。

樋口里沙・・・愛の高校の同級生。愉美とは美術部が一緒。派手な印象だが自称古風な女。
       おしゃべりが絶えない賑やかな娘。身体改造マニアでボディピアス多数。
       愛によれば明るくて性格がすっごくいい。見た目もかわいくてちょっと
       変わってる。もともとは対人恐怖症がある引っ込みじあんで陰気な性格
       だったが、ピアスをすることで自分に自信が持てるようになったという。

桐野義太・・・宮城県警の刑事。尊敬する先輩であった根津信三の家に通ううちに、25歳の
       時に出会った当時小学生の愛に一目ぼれする。愛が成長して女子高生になると
       一緒に行動していくつかの事件を解決するようになったが、頭の回転が速い
       愛の後塵を拝し続けて頭があがらない。185センチの長身だが痩せていて
       体重は64キロしかない。あだ名はキリン。35歳。

根津信三・・・桐野を鍛えた名刑事。52歳。幾多の難事件を解決して県下一の敏腕刑事と
       言われたが、捜査中に右足に重傷を負って退職。現在は料理学校の人気講師。
       妻を早く失って一人娘の愛を男手ひとつで育て上げた。

根津愛 ・・・信三の娘。博覧強記で記憶力も良く、様々なことに詳しく頭の回転も速い。
       だが時に若い娘にあるまじき猥褻な単語を平気で使うような過激さがある。
       彼女は正確な表現を心掛けていてあいまいな遠回しの表現を使わないだけ。
       TPOはわきまえていてその気になればいくらでも清楚にふるまえる。
       教師の知識不足に突っ込んだりするのでちょっと恐れられている。
       合気道有段者でキリンによれば超Aクラスの美少女。
       父親に持ち込まれた事件を解決したことから美少女代理探偵として桐野と
       組んで難事件に挑むように。来月から高校三年生。

 というような感じで、二泊三日の予定で到着の翌日には同級生二人は藤井の運転で喜多方ラーメンを食べに出る。愛とキリンも一緒に行くはずだったが、愛は仮病でこれをドタキャンし、キリンと一緒に事件現場の見分に出かける。山の急斜面にめり込むような感じで建てられた離れを見て、愛は抜け道と隠し部屋の存在を見抜いた様子だがキリンにはまだ何も言わない。夜は女子高生三人で盛り上がっているようで、事件の話をする余裕もない。
 詳しくは翌朝話す、みたいなことを言って愛は寝るのだが、翌朝キリンはに起こされる。隣で寝ていたはずの愛がどこにもいないのだという。どうもいなくなったのは夜中らしい。さらに使用人の祐吉も姿を消していることがわかる。
 実はこの密室殺人は、第一発見者の祐吉が犯人だと考えると何の問題もなく解決する。実直な男でとてもそうは思えないのだが、キリンは祐吉が愛をどうかしたのではと不安になる。
 それどころか龍造も藤井もいない。志乃が様子を見に行くと愉美はいるようだが、睡眠薬で眠る習慣がありいましばらくは目を覚まさないという。そして真二もいない。有希はいたが狂った頭で習慣の機織りをしている。
 つまりまともに行動できる人間はキリンとと志乃だけ。愛も含めた4人が所在不明である。もともとここは携帯が通じない陸の孤島なのだが、電話線も切られて車のタイヤもパンクさせられている。つまり助けが呼べない。

       
 愛のノートパソコンに残されたメールから、ある事実が浮かび上がる。そして事件は陰惨な方向に。誰が死ぬかは書かないけど、第二、第三の殺人が起きる。

 みたいな作品。

 最初の殺人の密室トリックや動機は作中人物が言うように実際に本邦初なのかはわからないけど、これまでに読んだことないものではあった。
 一応事件現場の離れの図が本には入っているのだが、種明かしの方の図面とかあるといいなとちょっと思った。

 インカ帝国というのは、インカというのは皇帝という意味なので不適切らしく正式にはタワンティンスーユというのだ、とかここで発見される人間の頭蓋骨のほとんどに頭蓋に穴をあけた開頭手術の跡らしいものがあるのは何故か、みたいな考察もあってインカ帝国がかなり作品の中で大きな意味を持っている。

 構成も凝っていて前半は愛とキリンの登場する現代の話の他に、古代インカ帝国でのあるエピソードと、誰が描いたかわからない日記との3つの話が並行して進む。


 根津愛というキャラクターには実在のモデル(著者の知人の娘)がいて、出版社のパーティに出席したり、「根津愛探偵事務所」というHPを持っていたり
したらしいけれどもう無くなっている。

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