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「蜘蛛の夢(岡本綺堂著)」後半

2020/05/18 19:00 投稿

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・慈悲心鳥(じひしんちょう)
 この話は語る予定の人物が来られず、速達で届いた手紙を青蛙堂主人が読み上げるという趣向になっている。

 旅行好きの友人が日光にだけは行こうとしない。問いただすとこの日記に書いてある、と逃げてしまう。読むとこんなことが書いてある。
 友人が日光に長逗留していた時の事、出入りする挽地物屋には老人と目を引く若い娘がいる。挽地物屋というのがよくわからないけど地物は特産品みたいな意味らしいから土産物屋みたいなものかもしれない。
 だが次第にこの娘の元気がなくなり、老人は小鳥をたくさん飼っていたのだがある日これを全部逃がしてしまう。
 この家には友人以外にも出入りする青年紳士がいたのだが、娘の鬱屈はその紳士によるらしい。

 友人はしばらくこの地を離れる用事があり、そこから知人の新聞記者と一緒に戻る途中に汽車の中で刑事と相席になる。どうやらその青年紳士が含満ヶ淵(がんまんがふち)というところで殺されたらしい。彼は資産家の息子で放蕩者だった様子。友人はなんとなく刑事には挽地物屋の娘のことは話さずに別れる。
 定宿に戻ると新聞記者はこの事件を取材するためしばらく同じ宿にいるという。彼から老人が拘引されたと聞く。気になって出かけた友人は含満ヶ淵に身投げしようとしていた娘を見つけ抱きとめて仔細を聞く。
 老人は小鳥の飼育が趣味で、育て方にも一家言を持っていたが、青年があんたでも慈悲心鳥は育てられまいと挑発する。この鳥は霊鳥とも呼ばれて誰も姿を見たことがないという伝説の鳥。だが青年は金で手に入れた見たことのない卵を持ってきてこれが慈悲心鳥の卵だ、孵して育ててみろという。老人は引けなくなって受けるが雛は孵ったものの10日ほどで死んでしまう。青年はその代金として大金を預けていったが、老人の妻が病んだためその治療に使ってすまう。そして他にもいろいろあったけどその代償として娘が手ひどく青年に凌辱され。妾になれと迫られたらしい。老人は飼い鳥を全部逃がして青年を殺しに行った・・・
 と思われたのだが、成年がいつも連れ歩いていた芸者の交友範囲に青年の父親のために資産を奪われ没落した男がいて、この男が老人が青年に抗議しているところに割り込んで青年を殺したらしい。老人は殺害現場に立ち会ったことから恐ろしくなって逃げ、そこにいた物証があることから自分ではないことをうまく説明できなかったものらしい。
 そんなことが新聞に出るが、その新聞記事は娘にとっては生きていけないくらいの恥の記述であり、それを欠いた記者は友人の知人である。つまり娘からは友人が彼女に報道のために近づいた裏切り者に見える。友人は彼女を守りたかっただけなのだが、娘は二度とお会いしませんと書置きを残して姿を消してしまう。
 その後のことは書いていないのでよくわからないが、しばらく後にある親子の新しい墓参りをして日光を去るとある。それが友人が日光に行かず、独身を通した理由だろうと手紙の主は語る。
 
・女侠伝
 中国の西湖のほとりに楼外という飯館があり、語り手はここで友人と昼食をとる。舟遊びをしたが秋で寒く雨も降ってきたので早々に切り上げてのこと。そこで芝居の話になる。 
 友人が言うには芝居と幽霊の話があるという。
 前清の乾隆帝の時代に広東の劇場で包孝粛の芝居がかかる。これは日本でいえば大岡越前みたいな名裁判官兼処刑人みたいな。大岡裁きの元ネタでもあるらしい。
 その芝居の舞台に幽霊が現れる。だが幽霊は包孝粛を演じている俳優にしか見えないらしい。騒ぎになって役人もやってきて俳優を取り調べるが、幽霊は喋らないので俳優も困る。だが俳優を手招きしてどこかに連れてゆこうとするので役人と一緒についていくと、土地の有力者の墓所の前で姿を消す。墓の土盛を掘ると男の死体が出てくる。男は旅人で、たまたま墓堀り職人たちが作業をしているところに通りかかって追いはぎ同様に殺され墓に埋められたのだった。墓堀りたちは包孝粛様でもいなければバレやしない、と笑ったので包孝粛を演じた俳優の前に現れたのだろうということになる。

 悪人たちは処罰され、俳優は犯罪をあばくのに貢献したということで県令から褒美をもらい、先祖の墓地に他人が合葬されたのを見つけてくれたと有力者からも謝礼をもらう。
 彼が包孝粛の芝居をすると大当たりをとるようになり、数年巡業するうちにひと財産を築く。それまでは売れない役者に過ぎなかったらしいのだが。
 ここで終わればめでたしめでたしだが、その後がある。彼はやはり西湖のほとりにある蘇小小という有名な芸妓の墓の前で死体となって発見され、その前に美女と連れ立って歩いていたのを目撃されている。蘇小小は美貌でも有名であり、この美女は彼女の幽霊で、俳優は幽霊に見染められて死んだのだということになる。

 だが役人はそれで納得せず、調べを続けてついに真相を突き止める。俳優には養女がいて一座と一緒に連れ歩いていたのだが、この娘はもともと父娘で旅をしていたところ父親が病み、そこで俳優と知り合って座長である俳優に看病されて死んで礼として娘を下女として使ってくれということになり養女となったが実際は妾同然だった。
 この父親は実は旅人を殺した仲間の一人であり、俳優は彼から聞いた話で狂言をうち自分を売り込んだのだった。
 だが娘は若い役者と慕い合う仲となり、俳優は実は嗜虐的な性格で相手の若者が責め殺されそうになったこともあり悩んだ末に西湖に身を投げようとする。
 そこをある女性に助けられ、事情を聴いた女性が俳優を殺してこの娘と若者を自由の身にしてやったということらしかった。蘇小小の幽霊と思われたのはこの女性だったらしい。
 娘は一度役人に捕まるが、この女性が役人にいつでもお前の命を取れると警告したところから釈放され、恋人と一緒にどこかへ立ち去って行ったという。

 ではこの女性は何者かということになるが、当時の中国には彼女のような女侠とでも呼ばれるような存在の女性が多く存在したらしい。日本の侠客とはちょっと違って忍者や暗殺者みたいな意味も含むらしく、役人がことを構えるのを避けたのもその辺にあるらしい。
 というところで友人の話は終わる。

・馬妖記(ばようき)
 作州津山の人があり、その先祖は小早川隆景や秀秋に仕えた武士だったが秀秋が早死にして家がつぶれると武士を嫌って百姓となったという。その家に代々伝わる馬妖記という記録と、妖馬の毛と呼ばれる一尺ほどの獣の毛がある。記録にはこんなことが書かれている。
 文禄二年三月、小早川隆景は朝鮮に出征中。彼の居城だった筑前の名島で留守を守る兵士たちにも戦意旺盛で、戦地に早く行きたいみたいに逸っている者もいる。彼らは何でもいいから力を示したい。
 近くに多々良川というのがあってここに海馬という怪異が出るという。海から馬のようなものが川筋に沿って上がってくると、飼い馬が騒ぐのだという。だが上ってくるのは月の見えない暗い夜に限られ、啼き声も二三度啼くとそれきりなので正体は見極められないでいる。
 村人は馬が狂い騒ぐのは良くないと、この海馬を捕えようと落とし穴を掘る。だがある日この落とし穴に隣村の若者が落ちていて、穴のそばには村の後家が死んでいる。これが肋骨を踏み砕かれてて、海馬に踏み殺されたものと思われる。若者の証言もこれを裏付ける。二人は逢引中に突然襲われたらしい。これで村人たちは怯えて海馬探しもしなくなっている。
 若侍たちは面白い、俺たちが退治してやろうということになるのだが功名をあまり大勢に分かち合いたくないのも侍の心理で、二人が抜け駆けして海馬退治に出る。だが一人が海馬に蹴られて上下の前歯を失い失敗に終わる。無事だった方は知らせに戻るが断りなしに出たので上役からお叱りを受ける。
 怪我人を収容に人数が出て、うち7人は仇を取ろうとこれまた命令に背いて海馬を追う。百姓家を基地がわりに使わせてもらい、一番若い一人を連絡役に残して二人ずつ三組で探索に出る。この家の後家が海馬に殺されたのだった。残るは彼女の60を過ぎた母親と、16になる孫娘である。だが血は繫がっておらず養女だという。後家と逢引していた男はもともとこの養女の従兄だったらしい。

 だが海馬はその百姓家のそばに現れる。連絡役の若者は夢中で刀を振るが取り逃がす。しかし指の間にその毛が残っていた。
 先に穴に落ちた若者が近くで死んでいる。彼はいまわの際に、死んだ女は海馬に踏み殺されたのではなく自分が殺したのだ、彼女が嫉妬深くて身が持たなくなっていたので海馬のせいに見せかけたのだ、だからバチが当たったと言い残す。
 
 城から100人以上の人間を出して山狩りを行い、鉄砲で海馬らしきものを海に追いやったが生死はわからず、正体もわからぬままに終わったが、それから海馬は出現せず、毛を手にした若侍は一番手柄となって子孫に伝えたという。子孫は毛の分析を専門家数名に見せたが結局どのような獣のものかはわからなかったという。
 
・廿九日の牡丹餅
 安政元年の七月、この年は閏七月もあって残暑が強い。暑気を防ぐには黄粉の牡丹餅がいいという流言が広まる。ばかなと思っても江戸だからたいていの人は縁起をかつぐ。
 そのためもち米も黄粉も出来合いの牡丹餅も売れに売れて、当日にはどこを探しても見つからない。店で買うのはいいのだが、人からもらってはいけないという変なルールがついている。
 清元の師匠をしている女がこれを買いそこなってしまう。当日買えばいいやとたかをくくっていたのがいけなかった。小女を買いにやらせた時にはもう売り切れだったのだ。小女は少し離れた店まで探しに行くことになるが、小料理屋の馬鹿息子と出会う。彼は遊芸ばかりやっている、口ばかり達者な男だが悪人というほどでもない。顔見知りでもあるので立ち話をするうちに、実家に余ってるから持っていけということになる。買うのはいいがよそから貰ってはいけないのだが、馬鹿息子も小女もそこまでは気にしない。馬鹿息子はちょっと師匠に恩をきせて感謝されたいみたいな気持ちもあって師匠を訪ね、そこに小女が牡丹餅貰ってきました、と戻って来て思惑通りとなり、馬鹿息子は満足して帰る。師匠も貰い物が悪いとまでは思わない。
 師匠のパトロンの質屋がやってきて、師匠と一緒に牡丹餅を食べる。で、家に戻って死んでしまう。師匠も寝込んだがこれは助かる。小女も食べたが無事だった。これが質屋を毒で殺したのではないかということになり、馬鹿息子の実家は疑われてしまい迷惑を被る。馬鹿息子は姿をかくしてしまう。噂はいつの間にか師匠と馬鹿息子が結託してやったみたいになっている。小料理屋の女将である馬鹿息子の母親は探しまわるが息子は見つからない。
 そして秋も近付く頃、母親は寺で絞め殺されているのを発見される。息子の行方を案じて夜詣りをしていたのが奇禍に遭ったらしい。母親の葬式に息子は現れるが捕り方に捕まって引き立てられていく。清元の師匠はその頃姿が見えなくなる。
 結局師匠はそのまま現れず、息子の自白から師匠はこのことをきっかけに息子とできてしまってそれをいいことに女将を脅して金を取っていたとわかる。女将は息子が人質になったと思い金を何度か出したが話がこじれて殺された様子。
 すっきりしない幕切れだが、牡丹餅の悲劇として伝わったらしい。

・真鬼偽鬼(しんきぎき)
 文政四年は片降り片照りというやつで、夏までは雨がほとんど降らなかったが夏を境に雨ばかりとなる。
 その秋に南町奉行所の与力が非番の日に碁がたきの老人を訪ねる。存分に打って四つ(22時)近くになって中間が傘を持って迎えに来る。雨の夜道を帰るが、突然後ろから
「旦那の御吟味は違っております。これではわたしが浮かばれません」
 と声がする。振り返っても誰もおらず、一緒にいる中間には聞こえないらしい。
何者だと問うと伊兵衛でございますと答える。与力の担当物件に伊兵衛殺しという事件がある。

 本所柳島村で百姓のせがれ伊兵衛が殺されていて、同じ手習い所に通った甚吉という男が下手人として召し取られている。甚吉の実家は大百姓で家格も違うのだが二人はウマが合ってよく飲み歩いていた。だが二人が料理屋の同じ女に思いを寄せるようになって、ちょっと友情にヒビが入りつつあったらしい。甚吉はそうしたことは正直に話しているが殺しは否定している。
 与力はこれを甚吉の家族の小細工とみる。だが調べると伊兵衛の家族も怪しい。伊兵衛と声がそっくりの弟もいる。料理屋の女は二人のどちらともできていたらしいが今は別の男と遊んでいる。

 結局真犯人は甚吉で、与力に声をかけたのは伊兵衛の弟の伊八。金のある甚吉の実家が伊兵衛の親に働きかけて、甚吉の罪を軽くしようと仕込んだらしいとわかるのだがその伊八が死に、料理屋の女が死に、甚吉が牢内で死んでしまう。伊八を殺したのは料理屋の女らしいのだがこの女にそんな動機は無い。そして女は自殺らしいが男と一緒に歩いていたという証言があり、それは伊兵衛にそっくりだった。似ている伊八が死んだあとである。幽霊としか思えない。
 与力は最初の幽霊は偽物だが、後の幽霊はさて、と決めかねている。

・恨みの蠑螺(さざえ)
 文政四年の四月、江戸から江の島参詣に出た菓子屋の一行が藤沢の茶屋で女に襲われる。サザエを掴んで殴るので菓子屋の主人は顔から出血し、その母親も顔に傷を受ける。さらにとめようとした奉公人も同じように傷を負う。
 女は一行が休んだ茶屋の隣で呼び込みをしていたのだが、隣の茶屋の経営者らしい。菓子屋主人に一生を台無しにされたという。女を土地のものが取り押さえている間に一行は先を急ぐ。江の島で同業の知人と会い、奉公人はこの人を送る時にあの女は昔近所の船宿にいた女だよ、と何やら知っている様子。知人は帰りは藤沢を避けて鎌倉まわりで帰りなさいとアドバイスして去る。だが宿にその女がやって来る。主人は母と奉公人を遠ざけて女と会う。今回は同行していないが主人は四年前に嫁をもらっている。その前にあの女と何か約束をして反故にしたのだろうか。
 主人は顔を腫らして戻ってくると、母と奉公人に仔細を話す。
 主人はお得意様の大名屋敷の留守居役から、あの船宿の女を絵のモデルにしたいので交渉してほしいと頼まれる。留守居役が直接動くと名分も悪く、秘密にしたいのでという事情。
 主人はなんとか交渉を成功させ、女には20両の大金が渡る。これは春画のモデルということで、大名は賄賂に使うのである。
 だが半年ほどして女は金を返すからあの絵を返してくれ、自分のあんな絵が世にあるのは恥ずかしいと言い出す。だが絵は賄賂としてどこに行ったかもうわからない。結局喧嘩別れみたいになって女は船宿を辞めてどこかに行ってしまう。噂で絵を描いた絵師が死んだと聞く。

 そういう事情だった。菓子屋には今更どうしようもない。女はさんざん菓子屋を打擲して宿から引きずり出されたという。
 主人は帰りに牛の背中に乗るが、突然牛が暴れて振り落とされ、頭を打ってなんとか江戸には帰りついたものの高熱を発してそのまま死んでしまう。
 しばらくして留守居役は左遷され、国元で逼塞させられたという。

 女も寝付いたという噂があったが、奉公人にはその後どうなったかはわからなかった。
 

 以上で終わり。
 収録作品は「火薬庫」「穴」「有喜世新聞の話」が「探偵夜話」から、
「蜘蛛の夢」「放し鰻」「平造とお鶴」「慈悲心鳥」「女侠伝」「馬妖記」が「今古探偵十話」から、
「廿九日の牡丹餅」「真鬼偽鬼」「恨みの蠑螺」が「怪獣」から、と3つの本から抜粋して編集したものらしい。

 探偵 と表題がついてホラーというのは変な気がするけど、探偵小説というのは当時はこのようなものも含むロマンチックなミステリイを指したらしい。

 岡本綺堂は自分が実体験して知っている、江戸の名残を残す明治から大正の街の様子や風俗を作品の中におりこんでいるので、今読むと当時の風俗資料としても貴重なものらしい。
 

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