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「白髪鬼(岡本綺堂著)」 後半

2020/04/20 19:00 投稿

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・鐘ヶ淵
 旧幕臣の家に伝わる話として語られる。今から六代前、八代将軍吉宗の時代に起きたという。享保十一年に将軍の隅田川御成があった。つまり吉宗が隅田川に行った。木母寺という寺が将軍の休憩所として整えられていたという。
 吉宗は自分が紀伊育ちで水練が達者なこともあり、将軍に仕える御徒士(おかち)たちが必ずしも水練が得意でない様子を見るとこれを奨励するようになったため、現在の御徒士は水練達者なものばかりになっている。中でも大原右之助、三上治太郎、福井文吾の三人が練達の者として知られている。
 鐘ヶ淵の地名の由来は諸説あるが、何らかの鐘が沈んだのが共通している。だがその鐘の存在を確かめた者はおらず、引き上げを水神が好まないので試みても成功しないともいう。
 吉宗がこの伝説をどこかから聞きこんだらしく水練巧者三人を選んで本当に鐘が沈んでいるのか確かめてこいとの仰せ。年齢の順に最年長の三上、大原が飛び込むが何も見つからず、大原は巨大な鯉を見つけて生け捕りにしようとしたが尾で脾腹を打たれて痣を作る。
 だが最後の福井は鐘を見つけたと報告をする。
 先に潜った二人は何も無かったぞ、と思うのだが藻が深かったので否定もしきれない。福井は殿の覚えめでたく特別に報償も得て一躍話題の人となるが二人には何もない。
 鐘はいずれ準備をして引き揚げとなる予定だが、もし無かったらどうなるか。二人は先行きを案ずる。一度将軍に報告してしまった以上、間違いでしたでは済まされない。
 大原はその後鯉に打たれた傷が痛みだして寝付くが、そこに三上が二人でもう一度鐘が本当にあるのか確かめに行かないか、と誘いに来る。とても潜れる体調ではなくこれを断る。
 すると翌朝、三上の水死体が発見される。福井も一緒に死体で発見される。二人は取っ組み合っていたかのような姿だった。
 何故二人が一緒に見つかったのか、鐘は実際にあったのか無かったのかはわからないが、これが水神のたたりということになって鐘の引き揚げは沙汰やみになったという。
 この話を後世に伝えたのが大原家ということになる。

・指輪一つ
 大正十二年の関東大震災当時、飛騨高山にいたという人の体験談。
 彼は東京から京都に遊びに来て、ふと気まぐれに高山に立ち寄っった。テレビもラジオもない頃なので震災の被害がどの程度のものなのかわかるまで一週間ほどかかる。彼の故郷は中国地方で東京の数少ない親戚は無事らしい。すると今更急いで帰京する必要もないし、惨状を見るのもつらい。そこで九月半ばまで高山に逗留するが次第に落ち着かなくなってやっぱり東京へ向かう。
 汽車はたいへんな混雑で圧し潰されそう。名古屋で東海道線から中央線に乗り換えると隣で同じように圧し潰されている男性と口をきくようになる。男性は本所に店を持っていたが奥さんと娘二人、女中一人に職人4人が店と一緒に消えたという。男性は当日東京を離れていて、店が無いので一縷の望みと思って各地の親戚をまわったが消息がつかめず諦めて帰京するのだという。
 彼は男性を気の毒に思って話し相手になるが、震災の報を聞いて以来ほとんど眠れなかったことや混雑やらで体調が悪化してくる。すると男性は彼と一緒に木曽で途中下車して宿をとるなど世話をしてくれる。一晩眠ると楽になり、風呂へ行く。風呂場に先に誰か入っている気配がして、女性の影が見えたような気がしたので戸を開けるのをためらうが、静まり返っていて気配はない。思い切って戸を開けると誰もいない。気のせいか、まだ疲れているんだなと風呂をすませて出ようとすると足元に指輪がある。部屋に戻って男性に見せると長女のものに間違いない、ここに名前が彫ってあります、と言う。
 宿の者にいろいろ聞くと宝石商のような男が震災後に泊まっており、その落とし物ではないかという。男性は宝石商かどうか怪しい、死人の指を切って指輪を奪ったんだろうと言う。
 真相はともかくこれで娘の形見が手に入りました、貴方と道連れになったおかげです、と男性は感謝を示す。
 東京に戻って一月後、男性は彼に会いに来てくれるが、家族の消息は不明で、戻ってきたのは貴方に見つけていただいた指輪だけだという。

・白髪鬼
 15年ほど前に神田にある法律学校に通っていた語り手は、麹町で下宿生活を営んでいた。
この家は財産家なのだが長男が京都の大学にはいっていて、その長男が卒業して帰ってくるまでの間下宿人を入れることにした素人下宿で奥さんと28、9歳の娘さんと女中一人で7人の下宿人の世話をしてくれる。それだけに商売ではない家庭的な雰囲気がある。
 娘さんは21で一度嫁に行ったが翌年夫と死に別れて実家に戻った気の毒な身の上である。
下宿人の中に三十前後の好男子がいて、娘さんはこの人が好きらしい。優秀な人物で語り手の敬愛する先輩なのだが何故か司法試験には四回失敗している。彼の実力なら悠々受かりそうなのだが。
 ある日その好男子が語り手を食事に誘い、今度駄目なら司法試験はあきらめて郷里に帰るつもりだと切り出す。そして君は幽霊を信じますか、わたしは幽霊のためにそういう決断をしたんですよと語りだす。
 彼が四回も試験に落ちた理由は、試験になると女の幽霊が現れて邪魔をして、すると急に頭の働きが鈍くなる。白く長い髪をした痩せた女の姿。周囲には大勢他の受験生がいるが自分にしか見えないらしい。最初は自分の精神が受験のために平衡を欠いたのだと思ったが毎回これが繰り返されるのでこれは幽霊なのだとしか思えない。この前帰省した時に弁護士の父親と将来の話をして、つい幽霊の話をしたところ父親には何か心あたりがあるらしく、もうあきらめて帰ってこい、お前は弁護士にならない方がいいようだ、私も廃業しようということになってあと一回だけということになったという。
 娘さんは何かを察したのか、語り手のところにやって来て好男子のところに最近郷里からの電報や郵便が頻繁に来る。これはあの人が国元に帰るということかしら。日頃親しいあなたは何かご存じありませんか?と問いただす。口止めされているのでとぼけると娘さんはちょっとヒステリックな感じになって、あの人は私を殺そうとした、などと口走る。好男子が買ってきた土産の鰻を猫が盗み食いしたのだが、その場で死んだのだという。
 その鰻を買うときに彼は一緒にいたのでいや、そんなことはありませんよと否定するが娘さんはもう人の話などきかない状態になっている。
 好男子と相談しないとな、と思うが散歩に出てるという。自分もなんとなく散歩に出る。しばらくして下宿に戻ると娘さんが死んだという。毒を飲んでの自殺だったが、好男子の部屋の中で、「(好男子の名前を書いて)この男に殺されました」などという遺書を残している。

 娘さんが彼に恋心を持っていたのは下宿の誰もが知るところだったが、好男子の方は特に何か言われたことも言ったことも無いという。将来の約束などもしていないと。
 一方的に恋心を募らせた娘さんが、彼が故郷に帰ると知って失恋自殺したのだろう、猫は毒薬の効き目を試すために殺されたのだろう、ということになる。娘さんの髪は死後真っ白になっていたという。

 好男子の帰郷が決まり、語り手は見送りに行く。彼は別れ際、幽霊の顔は娘さんそっくりだった、自分には日頃から娘さんの髪は白く見えていた、と言い残す。

・離魂病
 嘉永の初年ごろ、小石川に住んでいた幕臣が出先で前を歩く娘を見て妹だと思う。何故こんなところに、と思うが声をかけそびれ、顔も見ないまま娘は行ってしまう。
 帰宅すれば妹はずっと家にいたとのことでやはり人違いだったかと忘れてしまう。
 ところがその後も妹のような女の後ろ姿を何度も目撃するようになる。こうなったら何としても顔を見てやろうと心に決める。思いきって呼びかけるが娘は返事をせずに草むらに消えてまう。 
 盂蘭盆の日に妹と寺へ。その時またしても娘の姿。妹は自分の後ろにいるのだから明らかに別人だとわかるが何かふにおちない。妹は自分の後ろ姿など見たことないので聞いてもわからないと答えるのだが、あまりにもそっくりすぎる。

 ある日下女が外出から戻りしなにお嬢さんはどちらへ、と聞いてくる。外ですれ違ったというのだ。近所の叔父も妹を見たという。だが妹は部屋で寝ている様子。おかしなことだと思っているうちに、妹が眠ったまま死んでいるのが発見される。

 幕臣はあの女のせいで妹が死んだのだと決め込んで、見つけ次第斬ってやろうと探し回るが見つからない。ある物知りが自分の姿を見ると数日後に死ぬという家系があるそうだ、などと古書に書いていることを教える。
 幕臣は長く生きたが還暦が過ぎる頃にインフルエンザであっけなく世を去ったという。
死ぬ前に自分の姿を見たのかは定かでない。

・海亀
 ある実業家が30年前の話として明治30年代の経験を話す。
 彼は東京で妹と親戚の家から学校に通っていたが夏休みに妹は帰省する。彼は友人と旅行に出る。これが兄妹の別れとなった。
 旅先に帰省中の妹が死んだと電報が来る。妹と別れる前に盆燈籠の話をしたことなど思い浮かべながら急ぎ帰京する。
 妹には隣に住む親戚の息子といういいなづけがいて、卒業したら結婚することになっていた。彼がさぞや悲しんでいるだろうと思う。
 既に葬儀は終わっていたのですぐ墓参りに行き、墓で婚約者と会う。婚約者は妹は怪物に襲われて、自分の目の前で死んだのだと慟哭する。

 この地域では旧暦の盂蘭盆には海に出ないことになっている。だが婚約者は迷信など信じない方で、妹と毎日のように海に出て遊んでいてその日はおだやかで月が出ている気持ちのいい夜で、二人は小舟で舟遊びに出ようとした。そこを年寄りにとがめられたが余計むきになって舟に乗り込む。
 だが沖に出たあとに妹がやっぱり言い伝えを無視してはいけなかったかしらなどと言い出したこともあって戻ろうとする。その時二人は波間に人魚を見る。だがそれは錯覚で、海亀が首を出していたのだった。だがその海亀が異常に多い。次々に浮いてきて舟を取り囲み、さらに小さな海亀も現れてどんどん舟の中に入り込んでくる。掴んで海に投げ込むがきりがない。そんなことを続けているうちに疲れ果て、動けなくなったところで舟は海亀でいっぱいになる。
 そして舟は沈み、二人は抱き合った。

 引き留めた年寄りが知らせたため捜索の舟が出て、波間に浮き沈みしていた二人を引き上げる。男は息を吹き返したが妹はだめだった。捜索隊は海亀など見なかったという。

 生き残ったことを喜べない彼に、語り手はかけることばがない。

・百物語
 弘化元年、上州のさる大名の城内で起こった話。
 秋の夜に夜詰めをしていた若侍たちに怪談話をしようと言い出すものがいて、準備をして百物語をはじめる。奥の間に燈心百すじを用意して、話がすむたびに暗い廊下を通ってこれを一つずつ消し、そばに置いた鏡をのぞくことにする。
 83番目の話を済ませた若侍が燈心を消しに行くと、天井から女がぶらさがっている。彼は何も言わずに席に戻る。
 百物語が終わってそのことを確かめると75番目以降の男は全員見たが、言えば臆病者と言われると思って黙っていたらしい。そこで全員で正体を見届けようと行ってみると若い女が首をくくっている。妖怪なら明け方になれば消えるであろうとそのまま待っている。
 だが夜明けになっても消えなかったので係の役人に知らせると、奥勤めの中老とわかる。
だが念のためと責任者はその中老の無事をたしかめると生きている。戻ってみると女の死体は大勢が見張る前で消えたという。
 ふた月ほどして、中老は自分の部屋で首を吊ったという。

・妖婆
 嘉永四年の正月十五日、麹町で歌留多会が催される。雪が昨日から降り続けている。若侍たちが会場に集まって来るが、鬼婆横丁という、昔鬼婆が毎夕酒を買いに来て、店の者がある日後をつけるとそれっきり姿を見せなくなったという故事から名のついた狭い道に雪の中うずくまっている老婆がいるということをその鬼婆横丁を通ってやって来た侍三名が話題にする。
 最初の男は声をかけると老婆の姿は消えたと言い、二番目の男は黙って通り過ぎ、三番目の男は小銭を投げ与えたという。伝説の鬼婆ではないかという話になるがその道を通る人間はあと一人いるので彼にも聞こうと待つが現れない。
 門前で乱心したかのように刀を振り回している男がいて、疲れて座り込んだところを見るとこれがその4人目で、介抱して話を聞くと彼はやはり老婆を見て近寄ると姿が消える。そして少し離れたところに現れる、ということを繰り返し、怪しい奴、と斬りかかったのだという。そうやって老婆を追いかけているうちに会場の屋敷前まで来たらしい。
 老婆を見た三人が確認に出ていくがもう老婆の姿は見えない。この騒ぎで加留多会はお流れに。食事と茶を呼ばれて最後の男は先に帰り、三人は少しくつろいでから一緒に帰る。4人とも帰り道は同じである。
 その帰り道、老婆ではなく先に帰ったはずの男が雪の中座っていて、突然斬りかかってくる。どうもまだ老婆を追いかけているつもりらしい。狭い道でよけようもなく一人が斬られる。斬った男は逃げ去る。後に切腹した死体が見つかる。斬られた男も死ぬ。
 斬られたのは老婆に声をかけた男だった。黙って通り過ぎた男と小銭を与えた男は何の怪我もなく、小銭を与えた男はその後出世したという。
 二度と老婆は現れなかったという。

 相変わらず、理由や因果は明らかにならない投げっぱなしみたいな話が多くて、だからこそ本当にそんなことあったかもしれないという気にさせられる。
 淡々とした語り口が、事実の記録みたいに感じられて夜中に思い出したりするとコワイ。


 

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