メタ坊のブロマガ

「百万ドルを取り返せ!(ジェフリー・アーチャー著)」

2019/09/30 19:00 投稿

  • タグ:
  • ジェフリー・アーチャー
  • イギリス
  • 新潮文庫



・ひところベストセラーを連発し、政治家兼作家としてユニークな活躍をした著者のデビュー作。投機に失敗して百万ドルを失い、一文無しになって議員の職も続けられなくなって借金を返すために書いた小説がこれで、ベストセラーとなって借金を完済し政治の世界にも復帰。
 閣僚候補にもなるが女性スキャンダルで失脚。政治家としてはそのあたりで活躍が聞かれなくなったけど作家としてはまだ現役の様子。と本人の人生の方が面白いかもしれない。

 百万ドルと言われてもあまりピンとこないけど、六百万ドルあればスティーブ・オースチンをサイボーグにできるわけだからかなりのもの。でも今のレートだと1億円くらいか。ひところは3億円くらいになったんだろうけど。

 14歳で孤児になったポーランド移民の子がニューヨークで株式取引所のメッセンジャーボーイからいくつかの投資チャンスをものにして自分の会社を持ち、さらに銀行の頭取となって財産を増やす。別の銀行の頭取の娘と結婚することによって二つの銀行は合併してさらに大きくなり、彼は名画の収集家としても有名になる。さらに競走馬も多数所有する。蘭のコレクターとしても名をはせる。
 表面だけ見れば立志伝中の人物だが、彼の人生は犯罪や不義理の連続である。最初の仕事は病気になった友人を蹴落として奪ったものだし、最初の投資資金は拾った小切手を勝手に換金して作っている。最初の会社は友人の会社を乗っ取ったようなもの。ただし彼は慎重に穴埋めもして、自分の犯罪が露見しないように細心の注意を払っている。
 真面目な商売よりもスリリングな商売を好む傾向にあり、悪い仲間も多数かかえている。殺人などを平気で行う犯罪組織ではなく、政府を出し抜く脱税や経済犯罪に快感を覚えている。
 捜査当局も怪しいぞ、とマークしてはいるのだが、彼は証拠を残さず手が出せないでいる。

 その一方で家庭的な一面もあり、妻と娘は大切にしており、娘は溺愛と言っていいレベル。娘はモラルの面で必ずしも父親と意見が合わないのだが、嫌いあうほど不仲でもない。娘のやりたいことをやればいい、と達観したところもある様子。
 名画コレクターも見栄ではなく、きちんと絵の良し悪しを評価できる審美眼と専門知識を持っている。非常にエネルギッシュな人物で、自分の人生を楽しむということに長けている。

 年をとってあまり無茶をしなくなった彼が、久々に大型の詐欺を計画する。イギリス政府が北海油田掘削の許可を民間企業相手に募った時、これは金になる、と権利を格安な申請費用だけで獲得する。そのために会社を造り、経営陣にはこれまで知り合っている名士の名を借りて体裁を整える。ボーリング機械をリースしてちょこっとだけ試掘をするが、すぐに止めて、ただし機械のリースだけは継続している。つまり石油を探す気はありますよ、今ちょっと休んでますけど、とポーズを作る。
 この会社の株を公開し、少しずつ自分で買ってじりじりと値を上げ続ける。外から見ると、何か値が上がる理由があるように見える。例えば有望な油田を発見したとか。
 この会社の新入社員を高給で募集する。毛並みがよく学歴があって交際が広く、自分には能力があると思い込んでビジネス的に成功することを願っている学生を採用する。四年制大学を卒業したあとにビジネススクールに通ったりした人物で年齢は30歳くらいらしい。
 彼が正社員として働きはじめるとまだ社外秘だが、と既に有望な油田を掘り当てていて近々発表する、みたいな情報を流し、彼自身が投資をしたければかまわんよ(当時のイギリスにはインサイダーどうこうの法律は無かったらしい)、と暗に投資をすすめる。彼は自分で買ってみて、株が順調に値上がりを続けるのを見ると親しい友人にもここだけの話、みたいに情報を流す。交際の広い彼に話を聞いた友人の中には、全財産に近い金額を投資した者も出る。
 株価はぐんぐん上がる。これは彼らが投資した金がそのまま会社の株購入にまわっているだけの話。社員は内々にいくらまでは上がるだろうと聞いているので売るのはまだ早い、と友人たちに話している。
 そして破局の日が訪れる。彼が出社するとオフィスは閉鎖されている。秘書もひと月分の給料を前払いされて解雇され、事務所も彼が住んでいた社員寮も大家との賃貸契約が円満に終了している。リースされていた掘削機械も同様。つまり金の面ではどこにも迷惑をかけていない。取引先には。
 彼は出社してすぐおかしいぞ、と思ってすぐに株価を調べ、値下がりしているのを知るとすぐに全株を売った。たまたま買値と同価格だったので彼に損は無い。その代わり多くの友人の前に二度と顔を出せなくなってしまい、これを友人たちに連絡することもなく失踪してしまう。彼はそれでいいが、彼の友人たちはそういうわけにはいかない。中でも手ひどい損失を被った4名の損害額は合わせて百万ドル。

 警察の訪問を受けて自分たちが詐欺にあったと気付いた彼らは、連絡を取り合って損害を取り戻そうとする。過不足のないように。

 中心になるのは姿をくらませた男の同級生だった数学者。30歳と若いがオックスフォードの教授となっている。
 そのほかのメンバーは男の健康診断を担当した37歳の医師。彼は金のある老人相手のクリニックを営んでいて、非常に成功している。
 次に35歳の画廊経営者。男が自分は金持ちになると思って高価な絵をここで購入した事から親しくなる。
 最後にナイトクラブで知り合った伯爵家の息子。彼は父親に領地の農園経営をまかされているのだが演劇をやりたくて社交界も好き。利益をあげてみせて演劇の道にすすむことを認めてほしいなどと思っている。
 彼らは男と意気投合してそれぞれがちょっと無理をして投資をし、一挙に奈落の底に突き落とされる。特に貴族の息子は父親に内緒で農園を担保に借金をしていて、ほぼ全財産を失った上に父親にばれれば勘当されかねない。

 数学者は彼らを探して連絡をとり、詐欺師を騙し返して金を取り返そうともくろむ。
 相手は表面的には名士で有名人なので行動はつかみやすい。

 画廊の男は贋作をつかませ、医師は毒を飲ませておいてそこに居合わせ、急病と偽って詐欺師の手術をして命の恩人となり、数学者はオックスフォードのノーベル賞受賞者のふりをして詐欺師から寄付金をせしめる。
 それぞれ一歩間違えば自分がつかまりそうな詐欺で犯罪なのだが、それぞれの専門を生かして他の三人がこれを助けてなんとか成功する。残る金は25万ドルちょっと。

 だが貴族の息子には彼らのような特殊技能が何もない。演劇のメイクなどは他の三人の計画を助けててはいるが、自分自身の計画を思いつけない。
 彼がやったのは、この間にある女性と知り合い、彼女と親しくなって結婚の約束までこぎつけたこと。しかも彼女には自分が詐欺にあって、他の似たような三人の男たちと協力して金を取り戻そうとしていることまで話してしまう。本来話してはいけないのだが。

 この手の話だとこれが失敗の原因になったりしそうなのだが、彼女は本当に貴族の息子を愛してくれているようで、一緒に計画を考えてくれる。そして、全く法にふれることなく、他の三人の誰よりもあっけなく残った金を回収してみせる。ここにはちょっとどんでん返しがある。

 数学者は1ドル24セント取りはぐれた、といって悔しがるのだが、さらに彼の計算を狂わせる出来事がおきる。彼らは取り返しすぎて儲けすぎてしまうのだ。

 著者は実際に百万ドルの財産を失った経験があり、オックスフォードにも在籍したとのこと。この小説を書いたあとみたいだけど、制度がよくわからないけど一代貴族みたいのになったりもしているみたい。
 舞台になるのは一般庶民にはあまり縁が無いウィンブルトンテニスとかアスコット競馬とか高級カジノとかの金持ち向け席だったりでセレブの生活を覗き見するような興味でも売れたのかもしれない。

 結果的に4人を騙した形になって姿をくらました男は損はしてないんだけど、人の信頼は失ったままで何の救済も無いのがちょっと気の毒な気もする。

 BBCでテレビドラマになったことがあるらしく、機会があれば見てもいいかも。

コメント

コメントはまだありません
コメントを書き込むにはログインしてください。

いまブロマガで人気の記事