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「ドンレミイの雨(池波正太郎著)」

2019/06/24 19:00 投稿

  • タグ:
  • 池波正太郎
  • フランス
  • 新潮文庫




・ドンレミイの雨
 著者を主人公とした、虚実取り混ぜた小説なのだと思う。

 著者はご夫人とフランス旅行に出かける。仕事を兼ねているらしく、ルポライターとカメラマン兼ドライバーが同行する。
 ジャンヌ・ダルクの生家があるというフランスの上のほうの右より、ドンレミイという寒村で、同行者二人が先ほど立ち寄った店に忘れ物をしたということで夫妻をカフェに残して引き返す。待っている間に雨が降ってくる。妻と他愛のない話をして時間を潰していると、店に一人の客がやって来る。その客を見て著者は驚く。
 著者は数年前パリに行き、旧中央市場跡・通称レアールというところにあった B・O・F(ボン・ウブリエ・フランス 忘れられたる佳きフランス みたいな意味らしい)という居酒屋を知人の紹介で訪れて、フランス滞在中に何度も立ち寄るようになっていた。店の主人はセトル・ジャンという70を超えた老人で、長年連れ添った妻と二人で切り回す小さな店だった。
 店は150年前からここにあり、現主人が経営を引き継いで50年になるという。
 メグレ警部を書いたフランスの作家・シムノンもパリにいた頃はこの店の常連だったという。新刊の表紙に主人の顔写真を使ったこともあるという。
 セトル・ジャンは著者とウマがあったらしく、通訳はいたのだろうけど楽しく語らったらしい。
 翌年著者はパリを再訪するが、店にセトル・ジャンはいない。店はあるが閉まっている。聞けば誰かに店を売ってしまったらしい。レアール周辺は開発が進んで新名所なども出来ているが、著者にはパリの良さが失われたように感じてしまう。もう来ないようにしようと思うが思いがけず翌年もパリに行く仕事ができて、ダメもとでのぞいてみると店が開いている。
 ここで新しく店を買ったネストル青年に出会い、彼の紹介でセトル・ジャンとも会える。これで嬉しくなり翌年も訪ねると、これが今回の夫婦での旅行なのだが開発はさらに進み、飲み込まれたように店はハンバーガー屋に変わってしまっている。ネストル青年の行方もわからず、彼に会えなければセトル・ジャンの連絡先もわからない。アパルトマンを聞いておけばよかったのだが、私生活に踏み込みすぎるのもはばかられてそれはしなかったのだった。

 小説はこのドンレミイのカフェで、著者がネストル君を見かけたが、その表情を見て声をかけるのはやめる。彼の様子が全てを語っていた。ネストル君はビールを飲み、すぐ店を出て行くが泣いていたように見える。
 間もなく忘れ物を持った連れが戻ってきて、著者はカフェを後にする。

 それだけの話だが、このB・O・Fもセトル・ジャンの存在も、池波さんとの交流は実話で何度もその交流を文章にしている。
 ネストル君を見かけたのは創作ではないかと思うけど実際にあったことかもしれない。
 探す手段はそれなりにあったのだと思うけど、あくまでも店で会うというスタイルは通したかったのだろう。

 個人経営の店というのは喫茶店も居酒屋もだんだん減っていく。地方に行けばなおさら。
 経営者と客が一緒になって作り上げるようないい雰囲気の店は、変に紹介されればそこで荒れてしまう。かといって客が来なくなればあっという間に潰れてしまう。
 それでも店を持ちたい人はいなくならない。
 自分でも親しんだいくつかの店の終焉を見てきて、店も客も一期一会だなと思う。

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