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「パイロット・イン・コマンド(内田幹樹著)」

2018/08/02 19:00 投稿

  • タグ:
  • 内田幹樹
  • 新潮文庫
  • 航空機
  • 飛行機




・(当時)現役のパイロットが書いた航空小説ということで、経験者しか書けないような航空産業の内側の事情がいろいろ盛り込まれているのだと思う。著者は小説5本とエッセイ2冊を残して、退職して専業作家になったばかりくらいで病気で亡くなったとのことだが、もっと長く寿命があればもっと傑作を残したのではと思う。

・冒頭のプロローグは夕暮れのロンドンのヒースロー空港からオランダのアムステルダム、デンマークからバルト海、スカンジナビア半島にヘルシンキ、次いでサンクト・ペテルブルク、シベリアに至る夜間飛行の操縦席からの景色を描写する。今はそういうDVDもあるのかもしれないけど、この時代にこうした情景をきちんと経験に基づいて書ける作家は他にいなかったのでは。映像化されるとしたら、ジェットストリームの映像版みたいになるかもしれない。

 今とは時代も違うのでいろいろ変わっているのだろうけど、発表は1997年なのでまだ同時多発テロも発生していないし、乗客は希望すれば飛行中のコクピットの見学もできるなどある意味牧歌的な時代だったのだろうと思う。

 それでも小説内では、これまではパイロットも客室乗務員も同じ職場の仲間だ、という意識があったのが社長の交代と会社の組織改革でパイロットはパイロット、客室乗務員は客室乗務員と所属部門が分かれてしまい、機長は客室乗務員の上司でもなければ命令をする権限もない、となってしまって、もうすぐ出発前のブリーフィングも廃止される状態でそれに反発するベテラン機長や、逆に何であたしが機長にコーヒーを持って行かないといけないの、みたいな態度をとる若いスチュワーデスが出てぎくしゃくしている様子が描かれている。結果として非常時にお互いがどのような行動を取るかも知らない同士が相乗りしている、みたいになってしまった様子。スチュワーデスという呼称からCA(キャビン・アテンダント)に変わっていくらもたっていない時期みたい。機内は湿気がなく彼女たちの肌は荒れてしまうとも。
当時は格安航空が海外から日本に参入しようとしてきていた時期で、国内のパイロットの給料の高さや待遇の良さが槍玉に上がっていた時期でもあったみたいで、そのあたりに憤っている登場人物もいる。そんな航空業界の内情を紹介しつつ、航空機内で発生するトラブルと、これに対処するスタッフたちの姿を描いている。
 だが、不可抗力とも思える緊急事態に精一杯対応して乗客の命を守ろうとしたCAは責任を問われて退職を強要され、パイロットは業務上の過失を問われ、主人公である副操縦士も当面の間飛行機の操縦を禁じられるという苦い結末になる。一方、地上からパイロット達に不適切な指示を出し続けて緊急時の通信に支障を生じさせた管理スタッフは出世したりする。

 飛行機を襲うトラブルは以下の通り。
①業界で有名なトラブルパッセンジャーの搭乗。些細なことでクレームをつけ続け、客室乗務員の業務を妨害する。そうすることで自分を差別したと賠償を請求したりビジネスクラスやファーストクラスにエコノミー料金で変更させようとするゴネ得常習犯。その結果客室乗務員の命も危険に晒すが、着陸後航空会社を訴える。
②特殊旅客と呼ばれる犯罪者の搭乗。海外で逮捕された犯罪者が、刑事と共に日本に護送される。これが思ったより大物で、この犯罪者の口を塞ぐ、あるいは救出するために飛行機に何か(爆弾?ハイジャック計画?)が仕掛けられた可能性があり、思わぬ結果になる。
③密輸の発覚。飛行機内のある備品を利用した麻薬密輸計画と思われるものが客室乗務員により発見され、主人公はこの犯罪を防ごうと地上に連絡する。だが、地上の管理スタッフはそんな不確かな事を連絡するな、マスコミにバレたら評判が落ちるだろ、と次に説明する事故の対処で手一杯の主人公に文句を言うために通信回線を独占し、事故の対処のために必要な通信を妨害する。
④エンジンの火災。4基あるエンジンのうち1台が突然火災を起こし、推力を失う。この時操縦席には副操縦士の主人公しかいない。彼は必要な措置をするが、そのため高度が下がり、酸素マスクをつけられなかった客室乗務員の半数と、トイレで席を外していた機長、休憩中だったもう一人の機長が共に意識を失ってしまう。(長距離フライトの場合は、機長2人と副操縦士1人で、1人が休憩しながら交代で操縦するらしい。もっと長距離だと4人になる)この飛行機(747)は2名いないと操縦できないため、副操縦士一人で着陸させるのは困難。
⑤燃料漏れ。エンジン火災の際の爆発で燃料が漏れ、成田空港までの燃料がギリギリになる。
⑥急病人の発生。突然苦しみ出した乗客がおり、機内に医者はいない。この対処のため元ナースだった客室乗務員が一人つきっきりになる。緊急着陸のためには彼女は他に多くのことをしなければならないが、目を話すと患者が死ぬかもしれない。

 小説なのでサービス満点という感じでトラブルがてんこ盛り。だがスタッフは最善を尽くそうとする。以下備忘録的な登場人物リスト。ロンドンから成田へ向う、NIA(ニッポン・インターナショナル・エア)202便・ボーイング747ー400が舞台となる。いわゆるスチュワーデスはこの作品ではCA(キャビン・アテンダント)と表記されているが、これは一般名詞でなく会社ごとに異なるらしい。パーサーはその中の責任者で、クラス(エコノミー、ビジネス、ファースト)ごとに1名ずついる。ファーストクラスのパーサーが総責任者という感じでチーフパーサーと呼ばれる。

江波順一・・・202便の副操縦士。
 機長目前だがちょっと自分の技量に自信がない。墜落の夢をよく見る。バツイチ。39歳。
スキューバ・ダイビングとバイクが趣味。山本玲衣子や浅井夏子とは時々一緒に食事をするなど、比較的仲が良い。
砧道雄 ・・・202便のPIC(総指揮を取る機長:パイロット・イン・コマンド)。
 気難しい人物で副操縦士からは一緒に乗務したくないと敬遠されている。元組合の闘士で、うるさいので管理職にして黙らせてしまえ、という感じで出世が早かった。最近の会社の組織変更や賃金3割カットに不満が一杯で、事務屋を敵視している。元自衛官らしい。陰ではタヌキと呼ばれている。
 キャビンのことはコクピットに持ち込むな、が口癖で客室乗務員との会話を好まない。
朝霧誠 ・・・202便のSIC(ナンバー2の機長:セカンド・イン・コマンド)
 温厚な人物。砧より年下だが入社年次では先輩。
山本玲衣子・・202便のチーフパーサー
 パイロットとスチュワーデスが協力し合って飛行機を飛ばしていた時代を知るベテラン。
そのためパイロットとも会話すべきと考えており江波とも仲が良い。妻子ある恋人がいる。
 ちょっと古いタイプの、クルーの和を重んじる性格。だが砧からは余計なことをするな、と目の敵にされる。
浅井夏子・・・202便のエコノミークラスのパーサー
 キャビンクルーの中では山本玲衣子に次ぐ立場で頼りにされている。会社の飛行クラブでセスナを操縦する。タレントの交際相手として週刊誌で騒がれたことがある。アラサー。
一ノ瀬かおり・202便のファーストクラスのパーサー
 清純だけど崩れやすそうな雰囲気と仲間に言われている。砧の受けがいいので山本玲衣子の代わりにコクピットに出入りする。性犯罪に合った過去がある。
吉田淳子・・・202便のビジネスクラスのパーサー
 ベテランでトラブルパッセンジャーの対応をする。ソムリエの資格を持つ。既婚者。
青木佐知子・・202便のエコノミークラス担当。
 路線業務教官の資格を持ち、若手CAの相談相手となっている。
鈴木ひとみ・・202便のアッパーキャビン担当。
 若手CA。指定宿舎に泊まらず外泊が多いなど素行に問題がある。あだ名はトミ。砧機長がエラソーだと文句を言う。地が出るとかなり口が悪い。ある犯罪に加担しているのではないかと疑われる。
山崎リサ・・・202便のエコノミークラス担当。
 元看護婦だったが夜勤ノイローゼになり転職。担当エリアにいる特殊旅客を恐れる。心配性で男性恐怖症。
小泉由香・・・202便のエコノミークラス担当。
 カメラが趣味。
早川さなえ・・202便のエコノミークラス担当。
 トイレ点検中にゴミ箱にライフジャケットが捨てられているのを発見する。
天野照子・・・202便のビジネスクラス担当。
松本みどり・・202便のエコノミークラス担当。

 エンジン火災のため急降下した際に、青木佐和子、一ノ瀬かおりは重傷を負う。他に3名が負傷して動けるのは山本玲衣子、浅井夏子、吉田淳子、小泉由香、早川さなえ、山崎リサ、の6名だけになる。小泉、早川、山崎の3名は配属されたばかりの新人である。

 そのような状態で無事に着陸できるだろうか、させられるだろうか、という話になる。
  
 高空で与圧が失われると、機内で呼吸すると酸素不足に陥り15秒で意識を失う。パイロットは7秒以内にマスクを着け、15秒以内に急降下するよう訓練するらしい。酸素マスクをきちんと自分でつけられる乗客は統計で40%程度だという。つけられなかった乗客は意識を失い、CAがマスクをつけてまわる必要がある。CAの一人はマスクをつけようとした乗客が暴れ、自分のマスクをもぎ取られて倒れてしまう。
 シートベルトのつけ方が悪いとサブマリーニング(身体がベルトの下を潜るように抜けてしまう。身体の前面に怪我を負う。女性の場合乳房にも怪我をする)やジャックナイフ(ベルトを中心に身体が二つ折りになり、内臓に損傷を負う)などの現象が発生する。緊急着陸時はCAは乗客のベルトの装着具合をチェックして回った後に自分も装着する。また車のシートベルトとはずし方が異なるため、パニックにならないよう何度か練習させる。
 CAは着陸時に非常ドアを開ける任務も負うが、会社の合理化でCAの人数は乗客数に比例して削減され、非常口が12箇所あるこの飛行機にCAは11名しか乗っていない。不時着時に火災が発生すれば、5名のCAが乗客が逃げられるようにドアを開けなければならない。

 著者は乗客にシートベルトや救命胴衣のつけ方や衝撃防止姿勢、火災に強い服装、弱い服装などの知識があれば(真面目にCAの説明を聞いていれば)もっと怪我人や死者を減らせるのに、という思いが強く、それもこの作品の執筆動機のひとつらしい。事故分析のような仕事もしていたとのこと。過去の経験から飛行機客室内には乗客が怪我をしないように突起や角は無くなっているとも語られる。著者は新幹線は突起だらけで乗るのが怖い、とエッセイで書いている。

 格安航空機が当たり前になった現在、パイロットやCAの訓練時間や技量、相互連携などどうなっているのか、私はほとんど乗らないけど気になるところ。こんな給料じゃばかばかしい、と思ってる人がいたら技量も低そう。

 続編があって、パイロットやCAの何名かは再登場する。
 

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