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「暗闇草紙(多岐川恭著)」

2018/07/03 19:00 投稿

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  • 多岐川恭
  • 時代小説




・「用心棒」「春色天保政談」では主人公はどちらも侍の枠組みから外れた人物だったけど、この「暗闇草紙」ではわりとサムライっぽい主人公。手習いの師匠として暮らす浪人で、剣の腕も確かで時々近所の道場に助っ人に呼ばれる。近所の人からも慕われている。

 湯島妻恋町の裏通りに、貧乏人ばかりが住んでいる暗闇小路というところがあって、主人公の島小平はここで手習い師匠をしている。25、6歳で小柄、色白、童顔とあまり強そうではない。

暗闇小路については
 暗闇小路は南北の道で、南は妻恋坂に出る。坂をのぼると、妻恋稲荷の前に出る。北は行き止まり。
 とある。
 現代の地図ではどのへんかよくわからない。もちろん実在したとは限らず、著者の創作かもしれないが。
http://saka.30maps.com/map/1893

 切絵図を見ると、こんな感じ。現代は神田明神の北、ツマコヒザカの南に大通りができて、妻恋坂の交差点はこちらにあるみたい。著者が切絵図を見て見当をつけたとすると暗闇小路はこのへんだろうか。


 北の突き当たりに島小平の塾があり、妻恋坂から暗闇小路に入る曲り角には貸本屋があり、ここには彼と親しい岡っ引き、常吉が住んでいる。妻のおろくが店をやっている。彼女は元は吉原の女郎である。二十歳の出戻り娘、おとせがいる。おとせはちょっと小平に気がある様子だが、小平は住み込みの常吉の子分、藤吉と似合いと思っている。なんだけどおとせは藤吉には見向きもせず小平ばかりを気にしているので藤吉は小平にはちょっと冷たい。

 小平には女性の友人が二人いて、一人は芳信尼。30少し前の尼僧で、湯島五丁目の円満寺のとなりに庵を結んでいる。主人公と彼女は二年ほど前に知り合った。彼女は孤児をひきとっては育ててやり、親代わりに塾に通わせたりしている。そうした縁で主人公の塾を訪ねたのだった。
 主人公とは色恋抜きの、姉のような妹のような相談相手になっている。何故出家したのかなど過去については聞かないことにしている。おだやかな見かけに似合わず、小太刀の名手でもある。
 子供はしばらくすると子の無い夫婦に引き取られてゆく。現在はお秋という13歳の少女が一緒に暮らしている。

 この円満寺というのは実際にあったみたいだが現在はビルになっている様子。
https://tesshow.jp/bunkyo/temple_yushima_enman.html

 切絵図を見ると暗闇小路(らしい所)からは目と鼻の先にある。


 もう一人はお千。上野東叡山下の火除地に見世物小屋や茶店、料理屋などが立ち並んでいて、岡場所もある。お千はそうした店で働く遊女の一人だが店では部屋持ちで、姐さん扱いされていて客も選べる立場。借金などは無いらしく、いつでも足を洗えるのだが好きで商売を続けているという。主人公はお千の馴染み客だが友人でもあり、店の外でも会っている。
 芳信尼とお千を引き合わせたこともあって、女二人は正反対の境遇でありながら気が合うらしい。お千は洞察力に優れていて、主人公の相談相手にもなっている。

 小平は時々頼まれて道場に師範代として行く。道場主・屋代勝太郎は実は剣の方は全然強くない、経営者タイプの道場主。なので弟子にもたいしたのはおらず、強そうな道場破りが来ると弟子に相手をさせて様子を見ながら、これはまずいとなると小平を呼びにくる。実は勝太郎には若い妾がいて、妻とはうまくいっていない。妻のみさおももう夫には見切りをつけていて、小平に道場を(ついでに妻の私も)引き受けてくれないか、となまめかしく迫ってくる。成熟した人妻の色香があるものの、心の奥底に何があるのか信頼しきれないところもあり、小平はちょっと苦手にしている。

 道場破りを小平が退けたのをきっかけに、その道場破りから知り合いの百姓のせがれを弟子にとってくれないか、と申し込まれてこれを受ける。この若者・新井徳次がすごい腕利きであり、小平は彼を鍛えるのが楽しみにもなり、心強くもなる。

 そんなような日常の中に、異分子が紛れ込んでくる。最近暗闇小路に越してきたのはいかにもわけありの女性二人。十六、七の上品な顔立ちの娘・お春と、その乳母みたいな老女・お鶴。近所の者と交わるではなく、家に引きこもっているので何者だろうと噂になる。時を同じくして、小路近辺をあやしい男たちがうろつきはじめる。どうも若い娘を探しているらしい・・・

 ほどなくして娘の家に強盗が入り、娘は乙女の大切なものと、大理石でできた観音像を奪われたという。観音像は父親の形見で大切なものらしい。だけでなく実はたいへんな秘密が隠されていて、この観音像を巡っていくつもの勢力が命をかけて戦うことになる。

 小平は行きがかり上この小春を守ってやり、観音像を取り戻してやろうともするのだが、複雑な争いに巻き込まれ、彼を取り巻く女たちの争いにも苦悩することになる。

 見かけは清楚で美しく、薄幸そうな少女・小春。昔から知っている、ちょっとがさつだが心根のまっすぐなおとせ。妖気ただよう人妻・みさお。心の友の芳信尼。馴染みの女のお千。
 主人公を好ましく思う女たち同士は比較的良好な仲なのだが、おとせはちょっと他の女性に嫉妬する。小春は他の女たちとはどこか違い、表面上親しげにしつつ何かを隠している様子。芳信尼とお千は互いを認めているが、みさおは道場内にかしこまっていて他の誰とも会う機会があまり無い。たぶん他の女性とはあまり合わない感じがする。おとせとお春は途中から若くてイケメンで剣の腕も立つ徳次を慕い争うようになっていく。

 最終的に主人公はこの中から一人を選ぶわけなのだが、非常に現実的な選択になる。

 なかなか複雑な五つ巴くらいの争いになって、逆転また逆転となり、最後まで真相がなかなかわからない。悪者同士が潰しあったりもして、この人はどこの所属だっけとちょっと確認したりしたけどなかなか楽しめる作品でした。

 今どきこういう本を読んでいる人がどれだけいるかと思いつつ。

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