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「春色天保政談(多岐川恭著)」

2018/07/01 19:00 投稿

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  • 多岐川恭
  • 時代小説


・タイトルの読み方がわからない。「しゅんしょくてんぽうせいだん」でいいのだろうか。
春色というのは

1.春のけしき。春景。
2.なまめかしい様子。
 みたいな意味だそうだ。この小説では2.の方だな。時代はタイトルにあるとおり、江戸の天保年間。天保は「てんぽう」が正しいみたいだけど「てんぽ」と読ませているのも見た気がする。で、政談とあるので政治がらみの話かといえばそういうわけでもない。
 ただ、主人公は政治がらみの勢力争いに巻き込まれて右往左往することになるので、政談と言えばそうかもしれない。


 主人公は御家人の次男坊。ちょっと色男。御家人というのは将軍家の部下である侍の、下半分みたいな感じで、上半分の旗本が将軍様にお目見えできるのに御家人はできない。
 サラリーマンに無理やりたとえれば、社長と直接話したりすることのない平社員もしくは中間管理職あたりかな。会社によっても違うだろうけど経営会議なんかに出席しない課長あたりまでか。
 江戸時代の武士は、長男が家とお役目を継ぐのが基本で、次男以下は長男に何かあったときのスペアだから、次男は普段は何も仕事が無い。実家に食わせてもらってゴロゴロしているだけ。今の人から見るとうらやましい気もするが、それなりに鬱屈するものもあったらしい。学問や剣に天分があれば弟子入り先の跡継ぎになったり仕官できたりもするが、平凡な人はそうはいかない。ということで主人公は女遊びにうつつを抜かしている。そんなことをしているうちに家を継いだ兄からは勘当されてしまったので趣味と実益を兼ねて、あぶな絵を描いて小遣いにしている。現代で言えばエロ漫画家のようなものか。

 だが今相手にしている人妻は、火遊びで済まなかった。厳格な主人にDVまがいの扱いを受けている薄幸の人妻と縁ができていたのだが表御右筆というから幕府の公文書を作る書記のような仕事をする主人は猜疑心が強く嫉妬深い、そのくせ自分のことは大事にしてくれないそうで、年も主人より20歳近く年下の彼女はだんだん本気になって一緒に死んで、とか一緒に逃げて、みたいに思いつめて来る。これは面倒だ、そろそろ潮時だな、と思っていたところに現場に踏み込まれ、刀も衣服も捨てて下帯一つで逃げるはめになる。

 船宿に踏み込まれ、大川に飛び込んで逃げたのだが、なんとか岸に這い上がったところを寒さで気を失い、夜鷹よりワンランク上、という部屋持ちの娼婦に救われる。だがとても遊ぶ気になれず、休ませてもらって住処の様子を見に戻ると、彼の仕事部屋は今で言えば出版社みたいな版元の二階にあったのだが、ここにも追っ手がやってきて家捜しされている。兄の家にも戻れず、宿無しみたいになってしまった。知人の剣術道場に身を寄せるがここも見つかり、知人は道場主だけど追っ手より弱くて結局つかまってしまう。
 だが、ここで通りかかった自称勤番侍が助けてくれる。かなりの腕利きらしい。侍に紹介された大工に厄介になり、その紹介で法華の寺に潜伏することにする。
 相手の人妻は夫に責められ、自殺したと後から聞く。
 
 この寺というのが実は、坊主が参拝客の女性の相手をする、というけしからん場所。この時代、僧門もかなり乱れている様子。客には男がほしい商家の後家や、大名家の女なんかがやってくる。本物の坊主は黙認するだけで、そういう商売は主人公のようにわけありで色男、みたいな人間に頭をまるめさせてニセ坊主を集めてやらせている。

 いざ始めてみると主人公には天職で、上客を捕まえて寺からも目をかけられて、やがて支店から本店みたいな本山にうつる。この寺は大御所様(先代将軍徳川家斉)の後ろ盾もあって、官憲に踏み込まれる心配もない。客には大奥や大名家の偉い女性もいる。何でもこの寺の持ち主が、大御所ご寵愛の側室の父親らしい。

 だが大御所はこのごろ病気がちである。現在の将軍、家慶は改革派の老中水野越前守を取り立てて、こうした乱れたものを取り締まりたい様子で、寺に遊びに来る大奥の偉い女性お付の女中にスパイを紛れ込ませて密かに女中同士殺しあったりしている。水野の下には遠山景元と鳥居耀蔵がおり、この二人は仲が悪く争っている。大御所が死ねば、大奥の勢力図もがらりと変わり、この寺も無事にはすまない。だが主人公は逃げるに逃げられず、結局寺が手入れをくった際に捕まって、牢に入れられてしまう、牢では牢名主とかにさんざんいたぶられる。

 だが同僚だった坊主に救われる。彼は実は鳥居耀蔵のスパイで寺に潜入していたもので、個人的に主人公が気に入った、と助けてくれる。で、仲間になれ、とこうくる。江川太郎左衛門という男を暗殺しろ、ということになる。

 主人公は遠山派、鳥居派、大御所派、将軍派、と様々な立場の女性たちと仲良くなってぐらぐらする政権抗争の中で振り回されるのだが、最終的にどの派閥につくかを決めて、他は全部裏切ることになる。多くの関わりを持った人々が捕まったり殺されたり、失脚したりする。
 その結果、一時的に水野が優勢となるが、今後揺れ戻しもあるだろう、まだまだわからないよ、みたいなところでこれまで仲間と思っていた相手に命を狙われ、必死で逃亡する。こうした闘争のとばっちりを受けて、実直に卑屈に生きてきた兄も失脚する。

 結局主人公が頼るのは、どの派閥とも関係のない、最初に助けてくれた娼婦のところ。彼女はその後いい旦那をつかまえて、その旦那が死んで未亡人となって店を経営する立場になっているのだが、水野改革で店を潰されている。主人公は何度も修羅場をくぐっているうちに、斬り合いにも自信がでてきている。
 めげない娼婦と、何かふっきれた主人公は、こんなご時勢の中でも思い切り楽しんで生きてやるぞ、みたいな感じで話は終わる。

 世の中間違っている、なんてことは一言も言わないで、正直者が損をするこんな世の中であっても生まれた以上は自分のできることを精一杯やろうとする主人公。娼婦をモデルに一世一代のあぶな絵を描こう、などともするのだが、発行前に手入れを受けて夢はついえてしまう。何というかどんな目にあっても前向きな主人公と娼婦にちょっと肩入れしたくなる。

 かなりお色気描写もあるのでそういうのが苦手な人にはあれだけど、真面目すぎて世渡りに苦労している人にはこれでもいいんだ、と思わせてくれるかも。

 

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