メタ坊のブロマガ

「三屋清左衛門残日録(藤沢周平著)」4(11~15)ネタバレ

2017/12/01 19:00 投稿

  • タグ:
  • 藤沢周平
  • 時代小説
  • 隠居
  • 老後
  • 定年


11.霧の夜
 清左衛門は佐伯と酒を飲んでいる。場所は涌井。肴は赤カブの漬物とクチボソ。ハタハタにはまだ早い。話題は例によって、藩内二大派閥の最近の動きである。
 佐伯によれば朝田派が最近おとなしい。どうも、何かを待っているのではないかというのが彼の見立てだが、その何かの内容はわからない。
 以前、清左衛門のところに百姓女・おみよのことで恫喝めいた忠告に来た黒田欣之助という男が、ひと月ほど前に江戸に使いに出てまだ戻らない。おそらくこの男の帰国を待っているのであろうとも佐伯は言い添える。直心流の使い手である村井寅太という男が護衛についてのことだというからには、軽くない任務と思われる。
 話題は変わって、成瀬喜兵衛という男がにわかに耄碌し、呆けたという話になる。成瀬はすでに隠居しているが、かつては清左衛門や佐伯が通っていた無外流・中根道場では師範代をつとめ、鬼と呼ばれていた恐い先輩だった。呆けるような人物ではなかったのだが。佐伯によれば成瀬は朝田派だったという。
 ところが数日して、呆けたはずの成瀬から、内々に会いたいとの知らせが清左衛門に届く。だが待ち合わせに指定された小料理屋に出向いても、成瀬は姿を見せない。
 そこには以前成瀬の家で奉公していたという女中がおり、成瀬は見張られているため来れなくなったと伝えて来る。
 清左衛門は涌井で会えるようにはからい、ようやく現われた成瀬は、遠藤派の重役と会えるよう手引きしてほしいという。どうも朝田派の中に、どなたかの暗殺を計画しているらしい動きがあり、それを知ってしまった成瀬はそれを防ぎたいのだが見張られており、もはや反対派に頼るしかないのだという。だが朝田派として知られた自分がいきなり訪ねても信用されないだろう、だから清左衛門に間に入ってほしいのだという話になる。
 呆けたふりをしたのも見張りを騙すためだったが、あまりうまくいかなかったとも。
 清左衛門は成瀬を間島家老の屋敷に案内する。面談は無事終わり、清左衛門は平松と共に帰りを護衛しようとするが、成瀬は3人の刺客をあっという間に倒してみせる。とんだボケ老人だ、と清左衛門はつぶやく。

12.夢
 小正月が過ぎ、雪が積もる頃。清左衛門は同じような一連の夢を見るようになる。夢にはいつも若い頃の自分と当時の同僚・小木慶三郎が登場する。20代半ば頃の話である。
 ある日、藩主に小木が再婚願いを出しているが、前の妻とはどうして離縁したのか知っているか、と問われたのだ。清左衛門は嫁と姑が合わなかったようです、と無難な答えをした後に、噂としては今回の婚姻を結ぶために離縁したとそしる向きもある、と付け加えてしまった。藩主が気にするほど、妻の実家と小木の実家には家格と石高に差があった。小木は清左衛門のライバルのような位置にあり、出世間違いなしと言われている才人でもあった。
 婚礼は滞りなく行われたが、二年後に小木は突然役目を解かれ、地味な職場に異動となる。具体的な失態があったわけではなく、藩主の意向によってであったという。
 清左衛門は自分が述べたことが影響したのでは、と気になるようになった。いつしか忘れてはいたのだが今回の夢もそれらしく、夢の中で清左衛門は小木に弁明しているのだ。
 清左衛門は小木の左遷の原因を確かめたくなり、彼を訪ねることにする。小木は代官を最後に隠居しており、かつては同僚だった清左衛門にも身分の差を意識した言葉遣いを崩さない。それでも昔話をするうちに、婚姻にまつわる話題になり、小木はもうよいでしょう、とその時の話をする。離縁の理由は前妻の密通であり、再婚はそれを気の毒に思った相手の妻の実家から、憐れまれてのことだっというのだ。
 それを聞いた清左衛門は、やはり小木の左遷は自分の話が藩主に悪印象を与えた結果だったのでは、と思うようになり、やりきれなくなって涌井に足を向ける。
 吹雪となり、冷え切って到着した清左衛門を女将のみさは優しく迎える。悪天候のため早く店を閉めたみさと、二人きりとなる。
 そのあと酔いが回ってしまって寝てしまい、涌井に泊まることになる。夢現の中、寝床にみさが入って来て、冷えた身体を温めてくれたような気がする。
 当時の小木の上司だった金橋弥太夫という男に当時の記録を探してもらっていたが、それが見つかったといって見せにきてくれる。そこには小木が他のものを讒訴したり、越権行為がたびたびあったため配置換えになったと書かれていた。
 清左衛門の胸はようやく軽くなり、みさのことを考えると暖かくもなる。

13.立会い人
 子供の頃からの友人である大塚平八が中風で倒れ、見舞った清左衛門の心は沈んでいる。幸い命に別状はなく話もできるが、右半身が麻痺して歩けぬという。
 中根弥三郎が頼みごとがある、と訪ねてくる。現在清左衛門が通っている、中根道場の主である。かつては一緒に大塚平八や佐伯熊太などと道場に通った仲だった。中根は一番年下だったが、剣の腕は当時から飛び抜けていた。
 中根の用向きは、このたび果し合いに挑む事になったので、その立会人を引き受けてほしいというおだやかならぬものだった。
 相手は納谷甚之丞という男。まだ青年の頃、道場で中根と優劣を競った使い手だったが、その後破門された男だ。
 中根と納谷は、道場の後継者の座を争って勝負をし、中根が勝って道場主の一人娘をめとったのだった。30年前の事である。
 その納谷が、改めて勝負をしたい、と挑戦してきたのだ。それだけ修行してきたということだろう。清左衛門は中根たっての頼みとあって引き受けるが、道場の高弟、たとえば平松与五郎や土橋謙助の方が適任でないかと疑問をぶつけてみる。
 だが中根はここはぜひ清左衛門に、という。相手とも面識があるということかもしれない。
 佐伯に呼び出されて涌井に行った清左衛門は、大塚平八の病気のことを話す。佐伯も俺たちもそういう歳になったか、と暫時沈黙する。
 呼び出したのは黒田と村井が江戸から戻り、朝田派の動きが騒がしくなってきたということで、佐伯まで見張られているという。しかも江戸では藩主の弟、石見守が急死したという。清左衛門の脳裏に、成瀬が言っていた暗殺の話がよぎる。石見守は幕府の直参の立場でもあり、そんなことが事実であったとしてばれたら藩が潰れる。
 中根と納谷の勝負の日がやって来る。木刀の勝負となる。清左衛門のはじめ、の声で対峙する二人。一気に距離を縮めて打ち合い、行きすぎて振り向きまた打ち合う。
納谷の木刀が中根の頭蓋を砕いたかに見えた時に清左衛門は目を閉じてしまうが、次の瞬間、納谷の木刀は折れていた。「負けたな」と呟いた納谷は半分になった木刀を放り出し、そのまま道場を出て行ってしまう。
 中根はあばらにヒビが入っているらしく、頭蓋を打たれそうな時に秘術を使って相手の手首と木刀を砕いたのだという。目を閉じてしまって、何も見えませんでした、と答えながら、中根が高弟でなく自分を立会人に選んだのは、その秘術を見せたくなかったからか、と思い至る。闇に牡丹の花が匂っている。

14.闇の談合
 季節は巡り、また暑い夏になっている。清左衛門は暑さ寒さに以前よりこらえ性がなくなってるように自覚している。
 江戸にいるはずの現在の用人、自分の後任である船越喜四郎がもう寝る時分、という夜遅くに訪ねて来る。
 先の石見守の病死は朝田派による毒殺であると判明し、それを知った現藩主はひそかに調査を命じ、下手人は黒田欣之助と村井寅太と判明する。
 船越喜四郎は腹心の部下を国許に派遣し、真相らしきものを突き止める。朝田派と石見守は密約を結び、病弱な現藩主の息子に代わって石見守の子を養子に入れて時期藩主にすべく暗躍していたが、現藩主に二番目の子が誕生してその試みは無意味になった。だがここで石見守が、なら現藩主の子を毒殺すればよかろう、と言い出したため、さすがにそれはなりませぬ、と説得のため黒田を江戸に派遣し、どうしても説得できなければ逆に石見守を毒殺せよ、ということになったらしい。
 船越は朝田家老にこれ以上の暗躍は止めよ、と殿の言葉を伝えに来たのだが、朝田が開き直って船越を暗殺しないとも限らない。なので、殿はまず清左衛門に相談せよ、と指示したのだという。表ざたにして石見守暗殺の件が幕府に知れれば藩があぶない。かといって朝田をこのままにもしておけない。罪を軽くしてやるからおとなしく引退せよ、というのが殿の意志である。
 二人は朝田との談合に赴き、朝田は処置を受け入れたかに見えたが、帰途、村井寅太が見送りを名目に付いてくる。二人を暗殺するつもりである。
 だが、清左衛門が呼んでおいた平松与五郎がほどなくして追いついて来る。危機は去る。清左衛門は気付くと汗びっしょりになっている。

15.早春の光
 秋深く、藩の執政部がひそやかに交代する。朝田派から遠藤派へ。交代しなかったのは間島家老だけ。交代そのものは滞りなく済んだが、朝田派への処罰はこれから。場合によっては血を見ることになるかもしれない。清左衛門の一族は、末娘奈津の夫、杉村要助がちょっと動いたくらいで、たいしたことはしていないのでどちらにしてもあまり影響は無い。
 佐伯がまたしても呼び出して来たので、今日も二人は涌井で飲んでいる。今回はハタハタがある。佐伯は黒田が大坂に役替えになったという情報を持ってくる。同時期に犬井という、粗暴だが腕の立つ男が江戸に向ったという。朝田の悪事を知る黒田が消されるのではという危惧を清左衛門は感じとる。
 その帰り、送りに出た女将のみさが、故郷に帰ることになったと打ち明ける。
みさははじめて自分の身の上を打ち明ける。それは佐伯などは話していたものとは異なり、みさは酒毒に冒された男をそれと知らずに婿に貰い、そのために長年苦しみ、父の尽力でようやく離縁できて故郷から逃げ出したが父親はその男に半殺しの目に合わされてほどなく世を去った。だが男に見つかるため、父の葬式にも出れなかったという。時が過ぎ、その男が死んで今は故郷に母が独り残って暮らしている。だから母のためにも帰ってやりたいのだという。店は女中頭に譲ってゆくという。
 清左衛門にだけは、そのことを二人きりで話しておきたかったのだという。二人はしばし抱き合う。みさは静かに泣く。
 朝田派への処分が下る。黒田欣之助が大坂で殺される。金井奥之助が病死し、みさが故郷へ帰る。半月ほどの間に、多くのことが続く。
 村井寅太が乱心して人に斬り付け、とある納屋に立てこもったと聞いた清左衛門は現場へ行き、居合わせた佐伯や平松と話して村井に洗いざらい話せば命は取らず、国外追放に済ませるので朝田派の陰謀について全部話せ、と説得させる。
 これが功を奏して遠藤派は朝田派に対して優位に立ち、ようやく朝田派を抑えることに成功する。
 清左衛門は遠藤家老自ら感謝の言葉を聞かされるが、もう若い頃ほどそうしたことに感激しなくなっている。隠居したばかりの頃にはまだいくらか残っていた、藩のために何か、という気持ちがもう無くなっている。今も町奉行を続けている佐伯と一緒に涌井にいっても、以前みさが女将だった頃とはどこか違う。平八や佐伯と、みさのいる店で飲んでいた時間が、得がたい時間であったこと、そうした時はもう永遠に過ぎ去った事を清左衛門は知る。
 百姓女のおみよが野菜を持ってくる。再婚が決まったという。みさにも良縁があれば、と思う。
 どこか過ぎ去った事ばかりに心を捕らわれるようになっていた清左衛門は、中風で倒れた大塚平八が歩く練習を始めているのを目撃する。
 いよいよ死ぬるその時まで、力を尽くして生き抜かねばならぬ、と平八に教えられた気がして、清左衛門にも何か内側から力が沸いてくる。
 
 というわけで、若いときにはぴんとこなかったけど、清左衛門と同じくらいの年頃になって実生活でもリタイア寸前の境遇になってくると、より心に沁みてくる。
 いろいろ今後を考えて手を打ってはいるのだが、その時にならないとわからないこともあるので、力を尽くして生き抜かねばならぬ、と内側から力が沸いてくるといいな、と思う。

 NHKのもう一度見たいけど、もう物を増やしたくないのでわざわざ買ってまで見る気はないな。もう少しお値段も手頃な配信とかあればいいんだけど。


コメント

コメントはまだありません
コメントを書き込むにはログインしてください。

いまブロマガで人気の記事