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「三屋清左衛門残日録(藤沢周平著)」1(概要)

2017/11/28 19:00 投稿

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  • 藤沢周平
  • 時代小説
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  • 隠居
  • 定年

・昔、仲代達矢さん主演でNHKで放送していたことがあった作品。あまり覚えてないけどちょっと見ていた記憶がある。

http://www2.nhk.or.jp/archives/tv60bin/detail/index.cgi?das_id=D0009010404_00000

 今調べると北大路欣哉さん版もあるらしい。そっちは見たことない。

 NHKで見た時に原作も読んだのだがあまりよくわからなかったのだが、再読してみたところ年をとって主人公と同じく隠居というか定年というかが見えて来たせいか、ちょっとだけわかったような気がする。

 主人公三屋清左衛門は49歳で妻を亡くし、それから三年後に家督を息子又四郎に譲って隠居する。

 最終的な役職は用人という、調べるとなかなか幅があってとらえにくい役職だが、主君である藩主の代理として藩の重役などと折衝したりする役目のようで、この小説では身分は高くないが役職上は軽んじることができない立場で、主人公は主君の覚えもめでたく、かといって権力を笠にきて乱用も悪用もせず、だからこそ一層信頼されるという位置にあったみたい。

 だが妻を亡くしてガクッときたところで主君を亡くし、その葬儀と一連の法事をすべて終えたところで新藩主に辞去を申し入れ、それから一年二ヶ月過ぎてようやく隠居できることとなった。長引いたのは新藩主に一年ほどは残務を整理しながら後任者を指導してほしい、と言われたからだがようやくそれも終わった。

 江戸藩邸で勤めていたのを、何藩か具体的に書いてないけど国元に戻り、息子夫婦に屋敷を譲って今は離れの隠居部屋に暮らす。雪国でハタハタも捕れるらしいので海坂藩なのかもしれない。この部屋は藩主が好意で建ててくれた。本来なら用人を退いた所で屋敷も出ないといけないのだが、これも藩主の好意でそのまま住んでよいことになっている。かつてこの藩主とより出来のよい弟のどちらが跡目を継ぐか、ということで先代藩主が迷った時に、主人公が現藩主を推したのが好意として返って来ているのかもしれない。

 だがようやく手に入れた平穏な生活が、寂寥感となって主人公を苦しめる。

江戸藩邸は夜が更けても賑やかなざわめきの中にあったが、国元は五つ(20時)ともなれば家の外を歩く人は絶える。
 悠々自適に城下を散策し、鳥を刺し、魚を釣り、開放感をもって過ごそう、と思っていたのが、世間から隔絶されてしまったような自閉的な感情に襲われてしまう。

 だがその萎縮した感情は数日して自然に消える。これを主人公は、隠居というものは世の中から一歩しりぞくだけと軽く考えていたが、実際には隠居とはそれまでの暮らしと習慣の全てを変える事だったのだと思い当たる。

 自分は世間とは今後も控えめながらまだまだ対等に付き合うつもりだったのが、世間の方は突然主人公を隔ててしまったような。これまでは役職の関係上、公私ともに訪問客の無い日というものはなかったが、隠居後は誰一人訪ねて来ない。

 朝目覚めたら、今日はどの仕事をどうさばくか、ということを寝床の中で考えたものを、今日は何をして過ごそうか、と考えることから一日がはじまる。

 その空白感が自分を奇妙な気分にしているのだな、と思い至って、その空白を埋めねばとまず日記をつけることにする。それが「残日録」。

 息子の妻、つまり嫁の里江がもう少しおにぎやかなお名前でよろしかったのでは、と意見を述べるが、主人公は「日残りて昏ルルニ未だ遠シ」の意味で、残る日を数えるという意味ではない、と答える。

 主人公は父の急死で慌しく、若くして家督を継いだため、一時期は有望と呼ばれた無外流の剣も、学問も、そこで打ち切りとなってしまった。これをやり直してみようと思っている、と嫁に告げる。嫁は自分の父親が隠居したとたんに寝付いてしまい、彼女のすすめで磯釣りをやるようになってから元気を取り戻しました、と言って去る。主人公は、いい嫁だ、と思う。

 そこにかつて同じ道場に通った幼なじみで、今も現役の町奉行として働く男が訪ねてくる。彼の相談に乗り、道場にも顔を出し、藩の学者の塾にも通い始める。こうして主人公の隠居の日々は世間ともそこそこのつながりを保ちながら忙しくなってゆく。

 仕事とは異なる動きをするようになると、これまで自然と遠ざかっていた人々との縁がまたしてもつながるようにもなってゆく。かつては親しかったが、今は零落して主人公をねたむようになってしまった友。やはり道場仲間だったが、中風で動けなくなった友。困難の中にある、かつてあこがれた人の娘。ひめやかに心が通じはじめる料亭の女将。末娘の夫が浮気をしているらしいという噂。

 隠居の身軽さで、人と人の間に立って、役に立ったり余計にこじれたり。

 百姓女を助けたところから、藩のお家騒動にも巻き込まれていく。

昔読んだ時はこの隠居したばかりの主人公の境遇にあまり理解が及ばなかったが、今はいろいろ共感するものを感じる。

 各エピソードについてもう少し続けます。


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