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「漆黒泉(森福都著)」メモ

2017/09/24 19:00 投稿

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  • 森福都
  • 文春文庫

・この人の作品は数作(長安牡丹花異聞、琥珀枕)しか読んでないんだけど気になる人。それらは古代中国を舞台にした短編あるいは連作短編だったんだけど、これは長編。長編だとどんなもんだろうと読んでみた。

 登場人物の名前がちょっとややこしいので先に主な人をピックアップしてみる。何故ややこしいかというと、姓で呼ばれたり名で呼ばれたり字(あざな)で呼ばれたりするから。
 姓は関、名は羽、字は雲長、みたいなあれですね。さらに雅号で呼ばれる人もいたりする。それに漢字も普通日本では見慣れない漢字が多い。


・晏芳娥(あんほうが)
 一応ヒロイン。非常に背が高く、高姑娘(こうこじょう)とも呼ばれる。拳法や剣の心得があり、なみの男には引けをとらない。8歳の時に33歳の男に見初められ、婚約したつもりになるが彼は半年もしないうちに亡くなってしまう。
 9年が過ぎ17歳になったのを機に、かつての婚約者の家を訪ね、彼の父に仇を取ると誓う。彼女の婚約者は政敵に毒殺されたのだ。

・王雱(おうほう)
 字は元澤(げんたく)。宋の宰相、王安石の長男。24歳で科挙に合格し、父親を陰で助ける秀才。33歳の時に8歳の芳娥を嫁に娶ると約束するが、白茅香(はくぼうこう)という香に練り込まれていたと見られる毒で命を落とす。もともと病弱ではあったが政敵が多く、暗殺されたと芳娥は信じ、自分の手で仇討ちをしようと決意している。

・王安石(おうあんせき)
 宋の宰相で、王雱の父。帝の右腕として市易法という新法を作り、これを国に広めて逼迫する国家経済の建て直しを図るが、帝の死後政治の実権を握った太皇太后に疎まれ王雱の死もあって政治に対する意欲を失い、隠遁生活を送っている。この人も息子の王雱も実在した人物らしい。王公とも呼ばれる。

文少游(ぶんしょうゆう)
 王公の養子同然に遇されている弟子。王雱に瓜二つだが血の繋がりはない。野菜を売り歩いていたときに王公と出会い、そのまま王家で暮らすようになったという、19歳の若者。学問の方はあまり優秀ではない様子。
 おだやかで正直な性質でちょっと直情的で猛々しいところのある芳娥のブレーキ役となる。

沈活(しんかつ)
 字は存中(そんちゅう)。奉元先生という雅号を持つ。どこか蛙を思わせる風体の貧相な中年男。かつては王公の配下でもあった官人で、幼い芳娥を見て将来長身になると予言する。算術から楽律まで博覧強記の人物で、知識欲が強い。雅号は天文官の長として「奉元暦」を手がけたことによる。王公に忠義一徹という性格でもなく、自分がやりたいことをできるなら誰にでも仕えるタイプで、王公とはやがて疎遠になった。だが自分もそねまれて失脚し、今はなんとかして返り咲きたいとあれこれ手立てを考え続けている。
 個人的なイメージとしては頭がいいネズミ男という感じ。

王旁(おうぼう)
 字は仲元。王公の次男で王雱の弟。兄と異なり地味な人物で閑職に就いてつましく暮らしていたが、彼の屋敷に王雱の仇を討とうという者たちが集まることになり困惑する。

司馬光(しばこう)
 司馬公とも。宋の政治家で王公の政敵。王公の新法派に対し旧法派の中心人物。現在は政治の中枢にあり、王公が一生をかけて実現した新法を残らず潰そうとしている。芳娥はこの人物が王雱を殺したのではないかと疑っている。この人も実在の人物で、王公と新法旧法を巡って争ったのも事実らしい。

范宗道(はんそうどう)
 宋国内を流れ歩く煉丹師。白茅香を調合し、ある高官に大金で売り渡したという。既に死亡している。

萬建弘(ばんけんこう)
 生前の范を知る煉丹師。かつては王雱に目をかけられていた。23歳の偉丈夫。本草学にも詳しい。

狄月英(てきげつえい)
 白蘭座という雑劇一座の看板女優で評判の美女。かつて王雱の援助を受ける代わりに巡業先の世情を伝えるという役割を担っていた。

呂公著(りょこうちょ)
 司馬公の盟友で、旧法派の実力者。

李得山(りとくざん)
 司馬公の忠実な部下。三十代半ばで力自慢。坊主頭に短い黒髭。

 話としては宋の帝に信頼されていた王安石が「新法」を作り上げ、これは市易法と呼ばれる豪商の専横を許さず、零細商人を守るなど国家経済を立て直す目的の法体系だったが当然既得権を持つ者の反発を買い、後ろ盾になっていた帝が崩御すると新法を廃し、旧法を復活するという一派が優勢になった。父を助けて働いた王雱が若くして病死すると、その流れは覆せぬものとなり、王公は田舎に引っ込んでしまった。
 だがかつて童女のうちに王雱に大きくなったら嫁に来い、と言われていた芳娥は、未来の夫は毒殺されたのだ、犯人は旧法派の中心人物、司馬公だと決め付けて疑わず、自分の手で司馬公を殺そうと決意して王公のもとを訪ねる。そこで雑用をしていた王雱と瓜二つだか血はつながっていないという少游と出会う。
 少游はちょうど都に出て来ないかと沈活という男に誘われていたため、芳娥と一緒に司馬公のいる都に同行することにする。都には王雱の弟、王旁が今も住んでおり、そこが彼らの拠点となる。沈活はかつては王公とも親しかった学者だが、後に気まずくなって袂を分かっている。沈活はなんとしてももう一度官吏として雇われ、出世したいと思っている。芳娥と王雱が出会うきっかけを作ったのは実は沈活である。
 芳娥は王雱の命を奪ったと思われる白茅香という毒香を調合した范宗道という男の足取りを追うが、彼のもとで仕事をしたことがあるという萬建弘から范は既にこの世を去ったと聞かされる。生前の范は白蘭座の狄月英という女優に熱をあげていたという事で、何かわかればと話を聞いてみるが月英は范の事を覚えていない。だが月英も王雱とは一時期親しかったらしく、彼が毒殺されたと聞くと興味を示す。さらに建弘も彼なりの思惑があるらしく顔を突っ込んで来る。彼もまた王雱を師と慕った時期があったらしい。

 彼らは協力して司馬公を捕え、罪を告白させようとするがいろいろ話が噛み合わず、何故か司馬公が場所を知っているという漆黒泉という所まで彼を人質として案内させることになってしまう。漆黒泉というのは芳娥も王雱から聞いた事があって、興味をそそられる。

 ということで司馬公を殺したい芳娥、彼女に人殺しをさせたくない少游、もう一度出世の手掛かりをつかみたい沈活、王雱と瓜二つの少游が気になるらしい月英、月英に岡惚れしたと言うが他にも何か隠した目的があるらしい建弘、彼らに捕まった司馬公という一行が追っ手を避けつつ(司馬公は政府の高官だから、彼を捕えれば当然追っ手がかかる)、宋の都、開封から宋と紛争を続ける西夏との国境近くまで一緒に旅をすることになる。

 だが旅を続けるうちに、芳娥は本当に司馬公が王雱を殺したのか自信が無くなってきてしまう。月英にも建弘にも、疑えば疑えるところが明らかになってゆき、沈活にも何か怪しいところがある。だいたい彼の目的は出世なのだから、司馬公に取り入るのが一番近道ということにもなる。少游はさすがに違うだろうが、他の旅の仲間は誰が王雱を殺しても不思議ではないと思えて来る。さらに王雱にも、子供の彼女からは見えていなかった陰の部分があったとわかってくる。

 やがて目的地が近づいて来る・・・みたいな内容。

 誰が何のために王雱を殺したか、というもっともらしい説明が次から次に浮かんで消え、だんだん真相がわからなくなってくる。

 登場人物がいろいろな呼ばれ方をするので、うっかりするとこれ誰だっけ?となるのだが、かなりユニークな時代と題材を扱った作品だと思う。漫画なり実写なり、映像で見るともっとわかりやすいかもしれない。あるいは宝塚とか歌舞伎とかにしても面白いかも。
 

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