メタ坊のブロマガ

「魚たちと眠れ(結城昌治著)」メモ

2017/01/17 19:00 投稿

  • タグ:
  • 魚たちと眠れ
  • 結城昌治
  • ミステリ
  • 読書


・手持ちの結城昌治氏作品はこれで最後。既に読んだ三冊に比べると1.5倍くらいの頁数で一番分厚いのだが、完成度では他のものより落ちる気がする。

 舞台はちょっと面白い。今も同じようなものがあるのか知らないが、洋上大学というものが当時流行り出していたらしく、豪華客船に乗り込む形のカルチャーセンターといったようなもので、毎日2時間だけ同乗した文化人の講義を受けて、あとは客船の催すパーティーなどに参加する、というもの。著者は1970年に講師としてそうした催しに参加したことがあるらしく、その実体験が活かされているらしい。
 
 主人公は週刊誌の若手記者だが、ある化粧品会社が主催する洋上大学に社命で参加することになる。仕事半分、遊び半分の社員に対する慰労のようなもの。講師というわけでもないので、義務もなく気楽。しかも生徒は平均年齢22.5歳の女性ばかり100人。5人の講師や事務局スタッフ、旅行会社スタッフや医師を合わせて114名の大所帯だ。
 船はアメリカの豪華客船で、乗客の約半分が洋上大学関係者。六層あるうちの一つのデッキは貸切になるが、船そのものの貸切ではないので一般客もおり、食事やレセプションでは一緒になる。横浜からハワイまで8泊九日の船旅をし、ホノルルの一流ホテルで二泊してジェット機で帰国する。生徒の費用は全て会社持ちという事で応募が殺到し、25万通ものハガキが来たという。その中から抽選で選ばれた幸運な百名ということになる。旅費はタダでも支度には正装のドレスなども必要で、ある程度裕福でないと参加できない。かといって自前でいけるほど金持ちでもない、という中流家庭の娘が多いようだ。

 講師は男性3名、女性2名。テレビによく出る心理学教授、パッとしない推理作家(実はドタキャンした別の人気作家の代理である)、テレビや映画によく出る中年の二名目俳優が男性陣、ファッションデザイナーと美容学校校長が女性陣。マスコミ関係は主人公の他に週刊誌記者がひとりとカメラマン1名。なんとなくこの3人が一緒にいることが多くなる。推理作家だけは以前連載を担当したことがあり気安いが、あとは面識があってもあまり懇意ではない。
 
 参加する生徒には美人や才女も多い感じで、恋人に振られたばかりの主人公は3人とあれこれ論評するが、誰に言わせても一番の美人とされる娘は一致した。二番手以降はそれぞれの好みでかなり分かれる。

 そして事件が起きる。まず最初の夜にある生徒が財布を盗まれ、翌日の晩餐会の後は一番の美人と評判だった生徒が行方不明になる。さらに盗難事件が続き、二人の生徒が正装用のドレスと和服を盗まれる。さらに推理作家の部屋のシャワー室で、ファッションデザイナーが全裸で死んでいるのが発見される。

 アメリカ国籍の船の中ということで警察が来るわけでもなく、面倒ごとを避けたいという事務局側の消極性もあって、ファッションデザイナーは自室で事故死した、ということになってしまう。もちろん推理作家は自分の潔白を申し立てるが、事故ではなく他殺ではないか、と一番強く主張する。だが司法解剖されることも無く、彼女は水葬にされ、証拠は消える。ここまでで全体の四分の一くらい。

 他の著者だとさらに連続殺人が起こりそうな感じだが、これ以降特に事件は起こらない。講師の一人が死んでも洋上大学はかろうじて続けられ、船の方では一般客もいるので大学の事情には関係無く毎晩パーティーや映画会が開かれる。
 だが生徒の間ではファッションデザイナーは事故死ではなく殺人だった、行方不明になった娘も既に殺されている、その娘は講師の一人の愛人だった、殺された講師も別の講師の愛人だった、などといろいろな噂が乱れとぶようになる。
 一方で風紀の乱れの噂も。一般客と数名の生徒がふしだらなパーティーを開いたとか、講師とある生徒が愛人関係にあるとか、カメラマンとある生徒が恋仲であるとか。主人公も生徒の一人が物陰で外人客とよろしくやっているのを目撃してしまう。

 残りのページがほとんどそうした噂と、それに翻弄される人々の描写で過ぎていってしまい、話が進まない。最初に行方不明になった娘も殺されたのか自殺したのかどこかに生きているのかわからない。残りページわずかなところになって突然あっけなく真相が明らかになるが、かなり唐突な印象を受ける。

 登場人物が多すぎて、誰が誰だっけ、というのがなかなか頭に入らない。講師側、事務局側の主だった人物で10名以上だし、生徒も20名近くが何らかの役割を持って登場する。ある生徒は探偵役、ある生徒は盗難の被害者、ある生徒は気分が悪くなって倒れ、ある生徒は遊びまくる。二番手クラスの美人の生徒同士が張り合って仲が悪いようで、それぞれを支持する主人公達大人側もなんとなく気まずくなったりする。

 大学関係者の医師がちょっと怪しいふるまい(具合の悪くなった生徒の一人とずっと部屋にこもり、出てきたあと何かを海に捨てる)をしたり、講師の何人かはやはり愛人を生徒として紛れ込ませていたり、抽選で選ばれたのは実は90人で、残り10名は講師枠やスポンサー枠で特別扱いで選ばれた生徒だったり、生徒には経歴や本名をごまかしている者がいたり、集団ヒステリーのような症状が生徒間で発生し、次々と気を失う者が出たり。心臓が悪い大学側の事務局長はそれで体調を崩したり。ちょっと固有名詞だけでは覚えきれない。

 ファッションデザイナーの死や盗難事件については解明されるが、最終的に何だったのかきちんと説明されない事柄も多く残った気がしてなんとなく消化不良な気がする。
 
 でもこれは映像で見ると、生徒なんかはすぐ区別がつくし、もう少しきちんとそれぞれのエピソードに説明なり回答なりを与えると広がりも出て面白くなるかもしれない。サスペンスなんとか劇場とか映画とかにはいい題材かもしれない。

 豪華客船のファーストクラスといっても結構設備がショボかったり、ファーストクラス間でもかなり格差があったり、船の中では一日23時間で一日だったり、案内書が英語ばっかりでよく読めなかったり、というのは作者の経験なんだろうと思う。

 私はこうした船旅をしようとは全く思わない。もちろんそんなお金も無いが。

コメント

コメントはまだありません
コメントを書き込むにはログインしてください。

いまブロマガで人気の記事